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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
池水荘綺譚
甲賀三郎 出版月: 1956年01月 平均: 5.00点 書評数: 1件

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No.1 5点 おっさん 2012/03/10 14:16
シリーズ、<甲賀三郎全集>(日本図書センター)を読む、です。
第2巻となる本書の収録作は――

①池水荘綺譚 ②夜の闖入者 ③救われた犯人 ④黒衣の怪人 ⑤惣太の経験 ⑥惣太の幸運 ⑦惣太の喧嘩 ⑧惣太の受難 ⑨惣太の意外 ⑩惣太の求婚 ⑪惣太の嫌疑

元版(湊書房版)をたしかに一読しているのに、この巻はまったく内容を覚えていませんでした。
読み返してみて納得。学生時代、筆者が甲賀に期待していたのは、“戦前本格”とか“理化学トリック”だったはずで、本巻は、そういうウブな読者の予想のナナメウエをいく内容なのですねw

表題作①は、前巻の『幽霊犯人』と同じ昭和4年(1929)に、女性誌『婦女界』に連載された長編。ヒーローが悪漢の陰謀を打ち砕き、見事に汚名を返上し、ヒロインとの恋の成就なるか、を骨子とした波乱万丈のストーリー・・・
でありまして、前巻のレヴューで筆者は、長編『幽霊犯人』を「探偵趣味をまぶした勧善懲悪の大衆小説」と評しましたが、本作はいってみれば、ただの「勧善懲悪の大衆小説」w
しかも、英国の貴族社会を背景にしながら、キャラクターは全員、譲次や瑠璃子といった日本人名で表記される、なつかしの黒岩涙香の翻案小説スタイルの珍作(異国情緒はいいけれど、当時の女性読者には外国人の名前はなじみにくいだろうから・・・という配慮?)でした。甲賀三郎の異色作をつまんでみたい、という物好きなマニア以外には、残念ながらお勧めできません。

②③④は、私欲のためでなく、虐げられている善人を助けるために悪人を懲らす、義賊“暗黒紳士”シリーズ。暗黒紳士の正体は、探偵作家・武井勇夫であり、武井がくだんの怪盗だと確信を持っている、友人の私立探偵・春山誠の執拗な追及の手をくぐり抜けながら、悪漢と対決し、勝利をおさめます。
モーリス・ルブランのアルセーヌ・ルパンものと、ジョンストン・マッカレーの地下鉄サムもの(当時、『新青年』で人気があった、掏摸を主人公とした連作。ちなみにマッカレーは、『快傑ゾロ』の作者でもあります)をちゃんぽんにしたような内容で、ミステリ的にはご都合主義もいいところですが――『冨士』とか『婦人倶楽部』といった発表誌を見ても、『池水荘綺譚』同様、もとよりマニア的読者層は想定していないことがわかります――、このテの連作は、一篇一篇の出来はダメでも積み重ねで味が出るものなので、収録が3作というのは、いかにもサビシイ。
アイナット氏の「甲賀三郎の世界」という濃いサイト(本稿を草するに当たり、書誌的な確認事項では全面的にお世話になりました。有難うございます)によれば、あと2作、このシリーズはあるようなので、復刻版の本叢書では、ボーナス・トラックとして、そちらも収録してほしかったなあ。
サンプルとしてこのシリーズを1作だけ試し読みするなら、クライマックスで二人の“暗黒紳士”が対峙する、マンガチックな展開からの意外性で、④を推しておきます。

⑤~⑪は、不正を憎むw あわて者の泥棒“気早の惣太”シリーズ。
こちらは、大正15年/昭和元年(1926)から昭和9年(’34)まで、おもに雑誌『苦楽』に発表された、全7話が(必ずしも編年体の並びではありませんが)完全収録されており、前述した、短編の“積み重ねによる味わい”を楽しめました。
もっとも、これはミステリではなくユーモア小説(学生時代、甲賀にそんなものを求めていなかった筆者には、猫に小判だったでしょう)。
窮地に陥った惣太を救うのは、“暗黒紳士”的な機転ではなく、基本的に惣太本人の、生一本の性格の良さなんですよね(情けは人のためならず)。大いに笑えて、ときにラストでしんみりできる(人情噺的決着では、⑧と⑪が双璧。めずらしくミステリ的意匠を凝らした⑪の、元祖・楠田匡介的バカトリックには、目をつぶりましょうw)、甲賀の意外な作家的一面を堪能できる連作がこの巻に入っていて、本当に良かった。
終わり良ければすべて良し、で、採点は1点オマケw

(付記)表題長編を対象として、「スリラー」に登録しました(2012・11・13)。


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