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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
幽霊犯人
甲賀三郎 出版月: 2001年12月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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日本図書センター
2001年12月

No.1 6点 おっさん 2012/02/23 15:18
デビュー当初の江戸川乱歩の好敵手! 通俗のなかに忍ばせた“本格”魂! 衝撃か笑撃か、炸裂する理化学トリック!
シリーズ<甲賀三郎全集>を読む、の開幕です。
たまたま足を伸ばしたさきで、日本図書センターの全10巻(2001年刊)を置いている図書館を見つけてしまい・・・こりゃ俺に読めということだな、と観念しましたw

この叢書は、戦後まもなく湊書房から刊行された同題の全集(<全集>と言う名の、正味、代表作選集)を復刻したものですが、じつは筆者、学生時代(遠い昔)にマニアな先輩に押し付けられて、もといお借りして、もとの湊書房版を通読しているのです。
そういうわけで、誰需要? という気はしますが、個人的にはたまらなく懐かしい作家・作品の再訪ではあります。

第1巻『幽霊犯人』の収録作は――
①幽霊犯人 ②真珠塔の秘密 ③カナリヤの秘密 ④母の秘密

②は、大正十二年(1923)に『新趣味』八月号に懸賞入選作として掲載された、甲賀のデビュー短編(ちなみに乱歩のデビュー作「二銭銅貨」は、同年の『新青年』四月号掲載)。
展覧会で話題を呼んでいた、工芸品の“真珠塔”――そのすり替えをめぐる謎に挑むアマチュア探偵・橋本敏の活躍を、友人の私(岡田)が記録するという、オーソドックスを絵に描いたようなホームズ・スタイルの一品。アイデア自体は面白いのですが、意外性の演出ばかりに気を取られて、ホワイの部分の説得力がありません(アーサー・モリスン「スタンウェイ・カメオの謎」との対比)。

続く③が、檜舞台『新青年』への初登場作(大正十二年の十一月号に、乱歩の「恐ろしき錯誤」とともに掲載)で、化学者の実験室で連続発生した、奇妙な青酸ガス中毒死事件の解明を依頼された、橋本探偵の活躍を、前作同様の形式で描きます。
理系の発想が中核にありますが・・・これはトンデモと紙一重。学者のクレージーさ(研究を優先するあまり・・・)を強調すれば、小説として、もう少し、なんとかなったかなあ。
カナリヤと言うのは、第二の犠牲者である化学者が残したダイイング・メッセージなんですが・・・あの状況では、カナリヤがいても駄目だったと思いますよ、博士w

シリーズ探偵となる木村清の初顔見せである④は、乱歩の「赤い部屋」や大下宇陀児の(デビュー作)「金口の巻煙草」とともに『新青年』大正十四年四月号を飾った、作者の第四短編(出世作にあたる第三短編「琥珀のパイプ」は、本全集では第5巻に収録)。
怪奇テイストを打ち出した異色作で、怪奇現象の説明こそ安易ですが(むしろ、本当に幽霊が出現したことにして、その前提でお話を進めたほうがよい)、読み物としてムードづくりにも留意され、トリック・メーカー、プロット・メーカーにとどまらない、職業作家としての甲賀の適性を感じさせる、人情噺の佳篇になっています。

表題作の①は、昭和四年(乱歩が、『孤島の鬼』と『蜘蛛男』の連載を始めた年)に、『東京朝日新聞』に連載された、初期の代表長編。
三浦海岸の別荘で富豪が射殺され、状況証拠から(動機があり、唯一、犯行が可能であった者として)被害者の長男が逮捕されるという導入部の本作は、戦前の我国にあっては珍しい、ストレートな密室長編です。
伏線の張りかたが不充分で、“証拠”の出しかたに難があるものの、専門知識をいかしたトリックはいかにもこの作者らしく、その謎の解明に的を絞って、中編サイズでまとめていたら、密室テーマの戦前のアンソロジー・ピースとして残ったのではないかと思います。
逆にいえば、長編を支えるにはネタが弱いわけで、作者は長丁場をもたせるために、悪漢を暗躍させ、『月長石』(ウィルキー・コリンズ)と『リーヴェンワース事件』(A・K・グリーン)をちゃんぽんにしたようなメロドラマ状況で引き延ばしを図ります。
結果は、探偵趣味をまぶした、勧善懲悪の大衆小説という感じ。
それでも、意外にキャラクターが生き生きしているので、読み返しは苦になりませんでした。

ずっと、甲賀は小説が下手、という認識でいたのですが、今回の再読の印象では、必ずしもそうじゃないかな、と。
さて、第2巻以降は、どうなるでしょうか?

(付記)表題長編を対象として、「スリラー」に登録しました(2012・11・13)。


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