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[ 本格/新本格 ]
琥珀のパイプ
甲賀三郎 出版月: 2001年12月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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日本図書センター
2001年12月

No.1 6点 おっさん 2012/05/26 20:31
日本図書センターの<甲賀三郎全集>第5巻です。収録作は――

①荒野の秘密 ②死頭蛾の恐怖 ③悪戯 ④古名刺奇譚 ⑤琥珀のパイプ ⑥ニッケルの文鎮

短めの長編(というか、原稿枚数300枚未満ですから、長めの中編というか)ふたつのあとに、初期短編を配していますが、この配列にあまり意味は無いのでw 発表順にコメントしていきます。

表題作⑤(『新青年』大正十三年六月号、掲載)は、理化学トリックと複数のプロットが、嵐の夜の放火&殺人事件のかげに交錯する、作者のスタンダードナンバー。類型を脱したストーリー構成――甲賀自身の“定石”の創造――は、本格短編というより、本格風味を利かせた奇談として成功しています。
ただし、以下の二つの理由から、この「琥珀のパイプ」を読むテクストとして、この<全集>版は推薦できません(>_<)

 1.「表形法」の暗号文を形成する、肝心の符号が載っていない!
 
 2.導入部が改変されている!
 今回、オヤッと思い、創元推理文庫『日本探偵小説全集1』所収の「琥珀のパイプ」と照合してみると――同文庫p.204の8行目~p.205の12行目までにあたる文章が削られ、前後の文章に修正が加えられていました。
登場人物の一人が軍備拡張論をとなえる個所なので、本書の定本となった湊書房版(昭和二十三年の刊行。日本がまだ、GHQの占領下にあったことに留意)の編集部が、作者の遺族と相談のうえ自粛したものと愚考しますが、そのために、削除部分で言及されていた、ある人物の家の紹介が唐突なものになっています。

さて、気を取りなおしてw
大正十五年/昭和元年の『新青年』一月号に発表された⑥は、⑤の延長線上の、理化学トリック+錯綜したプロットによる奇談路線。突っ込みどころは多々ありますが、小間使い(メイドです)の一人称を採用し、軽妙な語り口で複雑なストーリーを一気に読ませる、そのストーリーテリングは上々。筆者のお気に入りです。できれば本篇を読む前に、「母の秘密」(本全集第1巻、収録)に目を通しておければ吉ですね。

この「ニッケルの文鎮」とか、やはり同年の『新青年』四月号に載った、オチのある犯罪心理小説の③などをあらためて読むと、甲賀を人気作家に押し上げた原動力は、トリック云々ではなく、語り部としての才であったことが理解できます。
ただ、それこそ松本清張から島田荘司まで、ストーリーテラー型のミステリ作家にありがちな欠点として、ときに信じがたい、ご都合主義的“偶然”を駆使するのですね。
おかげで、シリアスな悲劇のはずの④(『大衆文芸』大正十五年六月号)などは、たび重なる運命のいたずらが、ただ作者の恣意にしか見えず失敗しています。

巻頭作の①は、昭和六年から七年にかけて、『料理の友』なる、おそらく女性誌に連載された(書誌データは、おなじみアイナット氏の好サイト「甲賀三郎の世界」によります)犯罪メロドラマ。○○が埋まっているはずの“荒野の秘密”(ヒーローとヒロインの恋の障害となる)をめぐって、最後にミステリ的どんでん返しはありますが、その真相と決着はあまりにイージー。ハッピーエンドならいいというものではありません。

昭和日報の熱血バカ、もといエース記者・獅子内俊次が、赤死病で帝都を震撼させる、殺人魔と対決する②(『日の出』昭和十年一月号~同年六月号)は、いちおう作者のスリラー系の代表作のひとつ・・・かな?
またぞろタイトルはピンボケだし(“死頭蛾”は事件と関係ないです、ハイ)、理化学トリックはトンデモの領域だし(有毒生物が巨大化すると、毒も「その割合で増」して致命的になるって・・・本当ですかw)するわけですが、獅子内ものには、全体に天然ボケの笑いどころがあり、出来はさておき、その点、筆者は嫌いにはなれません。バカミス愛好家は是非どうぞ。
ひとつだけ、マジなコメントをするなら――ラストがもったいない!
獅子内の活躍で、犯人は逮捕・起訴され、舞台を法廷に移すのですが、じつは物証が乏しく、この犯人、逃げ切ることに成功しかけます。それが、たったひとつのミスから・・・
という、その展開こそ、本作をミステリとして印象づける最大のポイントたりえたはずなのに、そこを駆け足でササッと流しているんだよなあ。
掲載誌が『新青年』だったら、そこに注力したかも。いや、檜舞台の『新青年』には、そもそもこんな話を載せようとは思わないか ^_^;

(付記)表題短編を対象として、基準を緩めて「本格」に登録しました(2012・11・13)。


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