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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
犯罪発明者
獅子内俊次
甲賀三郎 出版月: 1955年01月 平均: 5.00点 書評数: 1件

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東方社
1955年01月

No.1 5点 おっさん 2012/06/27 16:33
日本図書センターの<甲賀三郎全集>第7巻です。ラインナップは――

①犯罪発明者 ②眼の動く人形 ③瑠璃王の瑠璃玉 ④傍聴席の女 ⑤ニウルンベルクの名画 ⑥緑色の犯罪 ⑦アラディンのランプ ⑧蛇屋敷の殺人

看板探偵・獅子内俊次が登場する表題長編ほか、怪弁護士(事件の裏で、ちゃっかり金品をかすめ取る)手塚龍太ものの短編七作を収録しています。

本書の前半を占める①は、昭和八年の『日の出』に連載された、短めの長編(現在の感覚からすれば、原稿枚数300枚未満は長編とは見なしがたいでしょうが、そのジェットコースター的なストーリーテリングは、完全に“連載長編”ノリです)で、獅子内ものの発表順としては『姿なき怪盗』と『死頭蛾の恐怖』のあいだに位置するも、作中の時系列は『姿なき怪盗』以前、獅子内が昭和日報に入社して一年目という、若き日の冒険譚です。

世田谷に住む、友人の検事宅で歓談した獅子内は、そこで、女中が無断でいなくなったという話を聞かされる。その帰り道、獅子内が出会ったのは、松澤村(公立の精神病院がある)へ行きたいという不審な男だった。直後、編集長から、収監中の殺人容疑者が脱獄したことを知らされる獅子内。さてはさっきの男が・・・?
友人の検事まで巻き込んで、目まぐるしく展開していく事件。出没する謎の老人。今回の敵は、自在に人を発狂させる、恐るべき“犯罪発明者”だ!

いや~、プロットは支離滅裂、謎解きの辻褄は合わない、お手上げですw
第六感に頼って事件の渦中をうろつき回った獅子内は、結局のところ、“真相”をある人物から教えてもらい、あとはホームズ譚の「瀕死の探偵」の故知にならって犯人を罠にかけるだけ。
まあ犯人の設定自体は面白いものの、化学者でもなんでもない人間が、「極く少量を注射されると忽ち気が違ってしまうと云う恐ろしい薬品」を発明したといわれてもねえ ^_^; 
突っ込みどころをさがして楽しむ、病膏肓の甲賀三郎ファン以外、読む必要はありません。

本書後半、<手塚龍太探偵譚>としてまとめられた諸作を読むと、やはり、甲賀は短編作家であるとの認識を強くします。
②から⑥は、昭和三年の『新青年』に、“連続短編”として掲載されたもの(④と⑤の、雑誌発表順と、本書の収録順が、なぜか入れ替わっていますが)。⑦⑧は、昭和八年と十二年の同誌に、単発的に書かれたものです。
正面切った謎解きではなく、種明かし形式の奇談が中心ではありますし(ディテクションの興味で“本格”といえるのは⑧くらい)、出来不出来の差もあるのですが、一話ごとヴァラエティに富んだ背景の事件に、毎度、主人公をどう絡め、印象づけるか――真相の暴露プラス、ピンハネw――の工夫は軽妙です。

特記すべきは⑥でしょう。その昔、筆者が湊書房版の<甲賀三郎全集>を通読したさい、ことアイデアの面白さでは一番と感じた作です。
いま読み返してみても、緑色に染められたシュールな風景のなかで起こる“事故”の真相、そのチェスタトンばりの奇想は強烈。
ただ、それともうひとつの“事件”の結びつきが弱く、チグハグな印象を受けることと、ストーリー的にはむしろメインなはずのその“事件”のほうの動機、手段が説得力に欠けることで、国産短編の傑作になりそこねました(“甲賀短編の傑作”になったのですw)。
この作の美点としては、語り手が、死に場所を求めて八ケ嶽の山中を行く、印象的な導入部もあげておきます。ぶっちゃけ、描写力に才があるとは言えない甲賀ですが(絵画の盗難をあつかった⑤などは、お話自体はまずまずの出来なのに、肝心の名画を文章で“見せて”くれないのは・・・作家としてどうよ、という感じ)なぜか山を描くと、妙にビシッと気合が入りますね。

なお。
手塚龍太ものは、連続短編の悼尾を飾るこの「緑色の犯罪」のあと、四年の時を隔てて、シリーズ・ベストともいえる「妖光殺人事件」で『新青年』に復活します(以下、⑦⑧と続く)。
なのに、よりによってこの「妖光」だけ本書からオミットされている。責任者、出てこ~いw(ちなみに、国書刊行会の甲賀本『緑色の犯罪』には、表題作ほか、「ニウルンベルクの名画」と「妖光殺人事件」が手塚ものからチョイスされています。これはお薦めの一冊です)

(付記)表題長編を対象として、「スリラー」に登録しました(2012・11・13)。


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