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[ クライム/倒叙 ]
犯罪
フェルディナント・フォン・シーラッハ 出版月: 2011年06月 平均: 7.27点 書評数: 11件

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東京創元社
2011年06月

東京創元社
2015年04月

No.11 8点 ◇・・ 2023/12/20 19:17
罪を犯す人が辿る11の数奇な運命を、語り手の弁護士が一歩引いたところから淡々と描き出す。
超現実的な出来事こそ起きないが、登場人物の心象風景はいずれも極めてシュールで、奇妙な味わいが濃縮されている。切り詰めた簡潔で禁欲句的な文体が、かえって豊かなエモーションを引き出しているのも上手い。

No.10 8点 八二一 2022/08/22 20:24
現役の刑事弁護士である作者が、実際に関わったり、見聞きした事件にヒントを得て書いたと伝えられるが、収録作の十一編は「事実は小説より奇なり」という域を超えて読み手の胸に迫ってくる。
語り口はシンプルで力強いが、人間描写は濃やか。ユーモア、残酷さ、奇妙な味といった使い方も絶妙。

No.9 6点 2021/05/26 12:06
弁護士でもある著者が扱った事件がモデルになっている短編小説集。
「このミス」で上位にランクインしているのを記憶していた。
だから当然、どんでん返しやオチがあるものと期待していたが、2,3話読んでまったくなしなので、愕然とした。こういう事前の読書姿勢は失敗だった。
もちろんトリックも、推理も、ロジックもなし。明るさもない。
ジェフリー・アーチャーの実話にもとづく短編とは、面白さの次元がまったく異なっていた。

読み進むうちに、端正な文章も手伝って、ドキュメンタリータッチの犯罪小説群に慣れてきた。
「エチオピアの男」がベストか。ちょっとほっこりする。ある意味俗っぽいかな。
「正当防衛」も気になる。いくつかリドルっぽいのもあり、それらは再読が必要かも。

No.8 7点 猫サーカス 2020/05/13 18:52
あるとき臨界点に達する恐妻家、空き巣に入って裏社会の闇を垣間見る若者、ゴロを巻く二人のスキンヘッドを瞬殺した身元不明の男、恋人を救うため死体を解体する若者などなど。そこにカニバリズムをめぐる猟奇殺人や、法廷相手に「能ある鷹は爪を隠す」を地で行くトンチ話なども加わり、合計十一の事件が刑事弁護士である語り手によって語られる。複雑極まりない犯罪の顛末が抑制の効いた文章で淡々と綴られているのが本書の魅力。鉈で割ったような飾り気のない単文の連続。それでいて行間から万感の思いがあふれ出す。「紛れもない犯罪者。ただの人、だったのに」本書の帯の惹句が、ある意味この短篇集のすべてを物語っている。

No.7 7点 小原庄助 2018/01/05 09:57
どの話も淡々とした語り口で、一瞬ドキュメンタリーを読んでいるような錯覚に陥る。おそらく実体験に基づいているのだろうが、まさに事実は小説より奇なり。しかも描かれている11の犯罪が本当に「犯罪」と呼べるのか戸惑う。
作者の視点が弁護側だという事も大きい。シュールレアリスム画家マグリットの絵のタイトル「これはリンゴではない」が最後に付記されているように、犯罪も人生も見かけ通りではないと作者は主張しているのだ。
11の犯罪と、犯罪に至る11の人生を驚嘆と共に堪能できるでしょう。

No.6 8点 斎藤警部 2017/07/03 17:20
「タナタ氏の茶盌」この味わい深さ、最高よ。

「某作」ここまで醪深い殺人シーン、無かったぜ俺のミステリ半生に。。二時間後。。。。。。。。さらなる七時間。。。 激しい、重い、最後の最後は強過ぎる。

なんて頑丈な、絶壁四方対峙型の作者だ!!!!!!!!

ミステリ興味は幻の楼閣ながら、最後の台詞まで表題の存在を忘れさせる技倆が激マブな「某作」。
奇妙な味の真髄を更に研磨せんとする「棘」に「愛情」。

我が愛するクリスチアナ・ブランドの精妙ないやらしさを凌駕しそうで思わず抹殺したくなる作者との邂逅、有り難く受け取りたい。冷静になった頃あらためて愛してやりたい。

暗黒の出生から始まった曲折の末、◯◯で〆るに至る「某作」の◯◯さも格別。

嗚呼、何だか清張とクリスチアナの合わせ技みたいなシーンに出くわすたび、体の芯が波動を繰り返しますよ。

No.5 9点 風桜青紫 2016/11/22 02:52
淡白ながらゾッとさせられる筆致。短いながら強烈なインパクトを残すストーリーの数々。これぞ「奇妙な味」でしょう。「フェーナー氏」と「タナタ氏」で一気に持っていかれました。こんな結末でいいのか?というような話が続いた後の「エチオピアの男」もグッときます。と、いうことで8点。しかしもう少しこの作者が日本で読まれるようになってもいい気もするので、おまけで9点。

No.4 7点 tider-tiger 2016/11/17 07:38
お詫び 最初の書評をいったん削除して、再アップさせて頂きました。
「なあ『幸運』ってそんな話だったか? ○○犯ってなんだよ意味がわかんねえ」こんなようなことを本サイトをROMしている友人に言われました。誤読しておりました。かなり大きな誤読ですので、お詫びと訂正をさせて頂きたく思います。申し訳ありませんでした。

本作既読の方は私の書評を読んで、「こいつはなにを言ってるんだ?」と訝しく思われたことでしょう。誤読していた作品は『幸運』です。不能犯を扱った作品だと思い込んでおりました。「刑罰から免れたのは幸運だったのに過ぎず、本人の主観では故意に他者を殺害していた、これは犯罪ではないのだろうか」こういう疑義を呈した作品だと思い込んでいたのです。記憶違いではなく、完全な誤読です。書評を書く際はできるだけ再読、少なくとも流し読みはするようにしているのですが、本作に関しては幾つかの作品にまったく目を通しておりませんでした。ごめんなさい。
※不能犯 就寝中の妻を殺害するため胸に包丁を突き刺したが、その前にこの妻は病死しており、事実上犯罪は不可能な状況であった場合などを不能犯といいます。無罪です。
 
刑法の入門知識ですが、犯罪が成立するには構成要件に該当し、違法性あり、なおかつ有責であることが必要とされています。これら三条件のうち一つでも満たすことできなければ犯罪ではありません。
構成要件該当性の問題(幸運)、違法性の問題(正当防衛)、有責の問題(棘、緑、愛情)などにバランス良く触れることによって、法的な面と人情の面と双方から犯罪の輪郭を浮かび上がらせようとした、いかにも法律家らしいアプローチだと私は考えておりました。
犯罪だとされている行為はいわゆる悪事なのか、疑義を呈す。
犯罪の成立する要件を満たしていないから悪事ではない、に疑義を呈す。
※定説では不能犯は構成要件に該当しないとされています。
※正当防衛は違法性阻却事由といって、違法とはされません。
※有責の問題に関して昨今では精神障碍者であろうと人を殺したら罪を償うべきだという論調が強いように感じられますが、これは刑法の重要概念に触れる問題であり、慎重な論議が必要だと思います。

以下に最初の書評はそのまま残します。
しつこいようですが、『幸運』については誤読しており、見当違いのことを述べております。ご注意下さい。

さまざまな犯罪が並べられた短編集。
一作目『フェーナー氏』を読み始める。
すぐに湧く疑問。これは小説なのか?
事実のみを簡潔に記載した報告文のように見える。無駄口は叩かない。なのに扇風機については二度も触れている。『くるくる回る天井の扇風機を見た』~えろえろあって~『停電になって、扇風機が止まっていた』もしこれが報告文であれば、扇風機など事件とはまったく関わりないのだから無意味だ。うむ、これはやはり小説だ。だから、扇風機には狙いがある。こういう不自然な文章に気をつけながら読んでいこう。
最初の三篇は調子よく心地よく読めたが、『ハリネズミ』で最初の戸惑いが……ミステリ度が高いのは『ハリネズミ』と『サマータイム』なんですが。

以下、簡単に評価(基準は自分の好み)
フェーナー氏○ タナタ氏の茶碗(ワンは「怨」の心を皿)○ チェロ○ ハリネズミ×
幸運×(ただし重要作) サマータイム△ 正当防衛△(ただし重要作) 緑◎ 棘○ 愛情△ エチオピアの男◎

次の疑問。これらはミステリなのか?
フーダニット、ハウダニットともに疑問の余地なしのものがほとんどで、途中で視点人物が入れ替わったりはしない。どこに謎があるのか。ホワイダニット? さまざまな興味深い犯罪を並べてみせただけ? 
思うに、本作品集には一つの問題提起が存在する。
すなわち「この事件は犯罪だと思いますか」
つまるところ作者は「犯罪とは一体なんでしょう?」と読者へ問いかけているのだと感じた。そういう意味では社会派ともいえるかも。いかにも法律家らしい作品だった。意味深い作品。小説としては上記評価のとおり、難あり作品がけっこうあるので7点とします。

本作の「この事件は犯罪だと思いますか」には三つのパターンがあります。
分類してみました。
ややネタバレあります。
1「犯罪ではあるが、罪に問うのは忍びないもの」
『フェーナー氏』『チェロ』『エチオピアの男』
2「犯罪ではないのかもしれないが、許してしまっていいのか疑問なもの」
『幸運』『正当防衛』両者とも最後の一文で作者が無罪に疑義を呈していると考えられる。
この二作は元ネタなしの完全オリジナルではないかと推測。特に幸運については、○○犯は滅多にないケース。重要作としたのは、この短編集全体のテーマにこの二篇は必須だと思われるため。
3「責任能力の問題が絡むもの(精神鑑定が必要)」
『緑』『棘』『愛情』この三篇は多少目先を変えてある。ほとんどの先進国で無罪となるであろうもの(私見――無罪とすべきだと思うが、日本にも保安処分の制度が必要ではないかと思う)、減刑はあっても無罪にはなりそうにないもの(最も問題ありなケース)、無罪にはなりそうもないが被害者側にも過失が存在するもの。
その他の三篇
『サマータイム』『ハリネズミ』はもしかすると刑事訴訟法を問題にしているのか?
『タナタ氏の茶碗(ワンは「怨」の心を皿)』は加害者被害者の逆転現象? 

No.3 7点 mini 2012/04/30 09:47
HORNETさんへ
実はこの作品、丁度書評upしようと思っていたのですが、全くの偶然でタイミングが被ってしまって申し訳ありません(お詫びと苦笑)

さて昨年の”このミス”のベスト10を眺めた時、妙に気になってたのがこれ
ドキュメンタリー風なのが嫌いじゃないもので、以前にこのミス1位を獲ったドラモンド「あなたに不利な証拠として」みたいなのかなと期待して読んだわけ
ところがちょっと方向性が違ってて、個人的な好みから言うとエッセイ風に感性に直接訴えてくる「あなたに不利な証拠として」の方が好きだ
しかし期待した方向性とは違っていたが、これはこれでまた別の意味で面白かった、話題をさらったのも当然と言える
最初の「フェーナー氏」だけ読んだ段階では、あぁこんな話が続くのかなと思ったが、2話目の「タナタ氏の茶碗」で全くタイプの違う犯罪小説風なのに目が点(作者はタナカ氏と勘違いしているのかな、それとも棚田氏なのか?)
とにかく短篇集全体を通して言えるのは、kanamoriさんも御指摘されていたようにヴァリエーションが豊富な事で、各話にそれぞれ持ち味が異なっていて最後まで飽きさせない
ただ弱点も有って、まぁ実話が元ネタなんだろうが、実話を特定されない為という理由は理解出来るものの、ちょっと脚色も度が過ぎている感じがするのが不満
特に「ハリネズミ」「サマータイム」といった謎解き色の強い作などは創り過ぎな印象を持った
「正当防衛」は、何となく北斗の拳を連想してしまった(笑)
個人的に好きな作は、犯罪自体は軽犯罪だがちょっとした事務手続き上のミスが狂気を生み出す異色作「棘」、それとkanamoriさんも挙げられた感動編の「エチオピアの男」かな
ところで収録作の何割かには、アラブ系の人種がよく登場してくるけど、ドイツも移民大国って事なのかな

No.2 6点 HORNET 2012/04/30 08:49
 いわゆるミステリの短編集とはちょっと違う毛色。多様な犯罪事例を、いろんな立場から描いた小噺集といった趣。無駄な装飾がなく、淡々と事実が描かれている文章展開がリーダビリティを高めている。肩に力を入れず読みはじめ、そして引き込まれて読んでしまう。時間を置いて再読しても、また楽しめそうな作品集。

No.1 7点 kanamori 2012/02/27 22:43
刑事弁護士の「私」が関わった様々な犯罪者たちを描いたドイツ製の連作ミステリ短編集。

狂言廻しの「私」が淡々と語る犯罪と、その主人公である犯罪者たちの人生は実に多様で、物語のテイストもそれぞれ異なり、11編続けて読んでも飽きることがなかった。ノワール、グロテスクな話、奇妙な味、トリッキィな騙り、不条理な愛、ハートウォーミングな感動物語など、あらゆるタイプのミステリを取り揃えた感じ。
なかには、”日本のミステリや劇画からヒントを得ているのでは?”と妄想させる作品があった。アレとアレは、どうしても「ゴルゴ13」と「殺しの双曲線」を連想してしまう(笑)。
個人的な好みで、ベスト3は「ハリネズミ」「正当防衛」「エチオピアの男」を選ぶが、再読したらガラリと変わるかも。


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