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[ SF/ファンタジー ]
完全なる首長竜の日
乾緑郎 出版月: 2011年01月 平均: 5.43点 書評数: 14件

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宝島社
2011年01月

宝島社
2012年01月

No.14 7点 メルカトル 2023/09/12 22:36
第9回『このミス』大賞受賞作品。植物状態になった患者とコミュニケートできる医療器具「SCインターフェース」が開発された。少女漫画家の淳美は、自殺未遂により意識不明の弟の浩市と対話を続ける。「なぜ自殺を図ったのか」という淳美の問いに、浩市は答えることなく月日は過ぎていた。弟の記憶を探るうち、淳美の周囲で不可思議な出来事が起こり―。衝撃の結末と静謐な余韻が胸を打つ。
『BOOK』データベースより。

読みやすいのは良いですが、淡々と起こった出来事だけを描いていて、面白味も何もあったものじゃありません。そして人間が描かれていない、もう少し何とかならなかったものかと思います。こういうのは綾辻行人に任せておけば、かなりの名作になったのになあとか思いながら読んでいました。
たまに起こる不可解で不自然な出来事にあれ?そして同じ事柄を何度も繰り返し念押しするしつこさに、何だかなあと感じてしまいました。

終盤まではこんな感じで、作者は一体何がやりたいのかが私には理解できませんでした。しかし、最後でばら撒かれたピースの一つ一つが収まるべきところに収まる快感に溺れることになろうとは、まさか思ってもみませんでした。まんまと作者の目論見に嵌められた私は、狙い通りの理想の読者だったと言えるでしょう。こんなに簡単に騙された私がボンクラだったのが、却って私的には良かったのだと言えましょう。
評価が割れるのも分かる気がします。

No.13 7点 斎藤警部 2023/06/24 19:49
 「ほら、やっぱりあれは嘘だった。●●●●●●●じゃないか。少年はそう思いました。だけど……」  
 
予断は油断に繋がる。 不意に襲い掛かり、見せつける様に安定増幅する違和感の正体さえ懐疑の対象。 確かに、この幻想旋回には読者意識への侵食性がある。

 "言いながら、私の目から大粒の涙が零れ落ち、テーブルの上にいくつもの斑点を描くのが見えた。"

自殺未遂の結果長期に渉って昏睡状態の「弟」と、"センシング" 技術の力を借りて彼と意思疎通を図ろうと試みる「姉」とを主軸に回る、ドラマチックSFサスペンス。

 「だけど?」

まさかの◯◯テーマ(そしてそれに付随する・・)が実は中心に在る事を巧みに劇的に隠蔽し続けたのが、この小説の表層のような本質のような、ある大トリックの企て。

文章、構成共に良し。冒頭、主人公の故郷である南の島の描写、この質感が早々に期待を持たせてくれる。 性格破綻していそうな●●の言動に何らの裏も無かったのは、ミステリ的に多少物足りなかった。 ラストシーンは、色んな意味で、果たしてどうかな。。 

しかし、さびしいぜ。。。。。。。。。。。。

No.12 7点 モグラの対義語はモゲラ 2021/12/15 06:11
読んだのは単行本版。
はっきり言って「センシング」の設定が出たあたりで大オチは看破できた…というとちょっと盛っているが、少なくとも選択肢の一つとして浮上し、それが最も有力なまま、結局そのオチが待っていた。恐らく読書家を自認する大概の人間が、設定が出た時点で推測できただろう。特にSFにはこの手のオチの作品が多く存在している。また、「どーせこいつらできてるんだろう」と思った人物が本当に身体の関係を持っていたりと、それらの脇の隠された真実もありきたりな物だった。とにかくいろいろな面に既視感がある。誰しも一度は出会っているであろうと思うくらいには、私にとってベタな作品だった。近々で似たような作品を読んだというのもあるが。
その割に点数が高いのは、文章が非常に綺麗であることと、徹底的に読者である私を翻弄してくれたからだ。綺麗というか、透明感のある文章がかなり私に合っていて、すっかり惹きこまれてしまった。そしてセンジングの起床が時に入れ子のように描写されることで、この手の虚構と現実を行き来する作品によくある、酩酊感のようなものを覚えることができた。どこまでが真実でどこまでが非現実で、どこまでが「ストーリー」として厳然に存在している必要な小道具で物でどこまでがただの心象描写なのか、それらが分からなくなっていく感覚に、あまりストレスを感じずに浸られたのだ。これは個人的に非常にポイントが高い。そういう作品は妙に作り物地味過ぎていて入り込めなかったり、逆に引き込まれ過ぎて脂汗をかくほど疲労してしまう事もある。これはそのどちらも無く軽くサッと酔えたのである。微アル飲料のような小説だと思う。
あとは、ちゃんと主人公がオチに気付くきっかけが隠れているのも良かった。いや、隠れてはいなかったのだが素通りしてしまった。自分もまだまだだなあホント。ただの描写の不自然さでオチに持っていくのではなく、ミステリらしい比較的ロジカルな手がかりで主人公をこのオチに導くのはまあまあ珍しい気がする。まあミステリ小説という触れ込みなので、それくらいしてくれないとがっかりではあるのだが。
文章面とフェチに合うというだけで加点しすぎたかもしれない。先述の通りベタベタなので、ミステリやSFというジャンルの側面だけで見るなら、もっと低い点でも良いだろう。

No.11 3点 いいちこ 2019/11/03 20:08
「SCインタフェース」を体験したことにより、それを使用していない時にも「憑依」、つまり意図せざる「センシング」が発生するという設定は、さすがに許容できない、あり得ない。
つまるところ、一人称の叙述で進行する本作の内容がまるごと信頼できないということではないか。
こんな設定なら、いかようにでも着地できるのは当然だろう。
荘子の「胡蝶の夢」、サリンジャーの作品から着想を借りてみたが、著者自身が考案した「SCインタフェース」のご都合主義が構成を破綻させた。
着想は似ているが、傑作「クラインの壺」の足元にも及ばない作品

No.10 8点 虫暮部 2017/11/01 10:09
 情感を程好く伝える的確な文章とどっちへ進むのか予測が付かないストーリーに乗せられているうちに世界が溶け出してしまった。なんでもアリなシチュエーションも、そのこと込みで面白ければアリだと私は思う。
 難点を挙げるなら、サリンジャーの短編について内容をかなりバラした上で自作品とリンクさせていること。あそこまでバラさないと成立しないレヴェルの引用は控えるべきだと考える。

No.9 6点 パンやん 2016/07/16 10:23
昏睡状態の弟との交信から、現実と意識空間が交錯し、これは現実か思考か読み解く楽しみに溢れ、姉の孤独感や日常をリアルに描く事により盛り上げる手腕はお見事。予想通りと思わせてからの、強烈な卓袱台返しは痛々しく、別物とはいえ映画化は完全なる失敗作であった。

No.8 5点 itokin 2015/03/04 20:31
このミス大賞というので読まなければと思い飛びついたんだが、こんな何でもありのミステリーの王道から外れている作品が大賞をとれたとなるとこの年は随分不作だったんかなと思えてくる。まあ、文章力と読み易さは評価できると思うが・・・。

No.7 5点 白い風 2013/10/07 21:59
映画「リアル」のCMを見て、興味を持って借りてきました。
映画は見てないけど、いきなり主人公の設定が違っていたのでビックリ!
後でネットで調べたら、映画と原作ではかなり違っていたみたいだね。
SF的な世界なので本より、映像の方が楽しめるかもね。

No.6 4点 HORNET 2013/08/30 20:34
 着想は確かに面白い。だが、物語の前半で仕掛けが分かると、要は「あとはどこまでこれが続くか」、逆に言えば「どこで切られるか」だけの話。そもそも弟の自殺未遂の真相が作中で明らかにされない時点で、そのへんの真相は何となく見当がついていた。正確に推理できていたとはいえないが、真相がわかっても「ああ、やっぱりそういうことね」という感があったことは否めない。
 ただ、センシングなどの虚構の近未来設定はよく考えてあったと思う。まぁそいういう意味でもSF要素が濃い作品。

No.5 4点 まさむね 2013/07/09 22:36
 現実か否か混然とした進行に頭がクラクラ。余韻もあるし,印象には残りそうです。これも確かな文章力があってこそで,その点は評価いたします。
 一方で,「なんでもできちゃう」設定や,混然としつつもある意味淡々とした進行ぶりから,終盤の肝は比較的想像しやすかったかも。
 個人的にあまり好まない作風であったこともあり,作者の力量は一定認めつつも,この点数とします。

No.4 5点 makomako 2012/05/03 08:45
 どちらかというとあまり好まない作品だが、読みやすい文体で最後まで読むのに苦痛は感じさせなかったのは立派というべきでしょう。
 本格者で作者に混乱させられることは好むが、こういった幻想的な要素で読者を巻き込んで混乱させられるのはどうも好みではない。こんな作風が好みの人にとっては相当面白いのかもしれないが、私にはずっとまじめな話をしていて今のは全部夢でしたなんていわれているような感じ。
 こんな話ならそりゃあどんな風にでもできるでしょう。安易だなあ。結末もすっきりしない。不完全燃焼のような感じでした。

No.3 6点 ボンボン 2012/05/02 22:56
鮮明な描写で軽く面白いエピソードもありながら、途中から悪い夢を見たように、こちらまでだんだん気分がおかしくなってくる。結局、救われない悲しい話だった。
ガジュマルの木の下で、曾祖母がマブイ(生きている人の魂)に話しかけるシーンがあるが、この部分だけが、つじつまの合う現実な気がして、一番ホッとした。
ラストは、一応「えっ?」と驚きはしたが、なにか投げやりなような、ただ安易にオチを付けたいだけのような感じで、少し残念。
それでも全体に読みやすい文章で、しっかりと構成されている良い作品だと思う。

No.2 2点 蟷螂の斧 2012/01/20 17:38
第9回「このミス」大賞受賞作品。解説に「まったく意見の合わない四人が満場一致した傑作!」とありますが???。ミステリー・サスペンス感は、ほとんどなくラストへ。自分的には、好きな荘子の「胡蝶の夢」をテーマとしている点で若干救いがあった程度でした。本文中「マグリットの絵は、ダリやピカソとは趣が違い、作中に描かれているもの一つ一つは写実的だが、・・・」とありますが、マグリットとダリはシュールリアリズムの代表格で趣は同じはずですし、ダリも写実的なのですが・・・と難癖をつけたくなりました。

No.1 7点 2011/05/20 18:17
第9回『このミス!』大賞受賞。
終盤までは、主人公の女性がSCインターフェースなる医療技術を用いて、自殺未遂を図り意識不明となった弟と対話をするという非現実でSF的な話と、読者がすぐにでも話の中に入っていけそうなリアリティのある描写との乖離に違和感を感じながら読み進めていきました。意外な真相に到達して、なるほどと納得しました。
この真相は比較的予想がつきそうですが(アマゾンのレビューではそんな意見が多かった)、僕は完全にはたどり着けず騙されてしまったので、心地よい満足感が得られました。しかも、かつて観た、同種のテクニックを用いた、女性の近視眼的視点の洋画(タイトルを忘れましたが)のラストの興奮がよみがえり、読後しばらく余韻に浸ることができました。
殺人などの事件もなく、さほどのサスペンスもなく、中盤は淡白すぎる嫌いもあり、現実と夢とが入り乱れ読者を混乱に導くような描写もあるから、おそらく好き嫌いの分かれる作品だろうと思いますが、僕はこの作品のアイデアと文章力を高く評価しています。ただし、最後の1ページは僕自身の本来の嗜好からいえば○、本作に限れば△です(感動的に結んでほしかった!)。


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