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[ SF/ファンタジー ]
機巧のイヴ
乾緑郎 出版月: 2014年08月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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新潮社
2014年08月

新潮社
2017年08月

No.2 7点 猫サーカス 2023/01/25 18:00
幕府がある天府には十三層の大遊郭があり、天帝家は女系で継承され、人間と見分けがつかない機巧人形が存在するもう一つの「江戸」。魅惑的な舞台を用意した本書は時代小説、SF、推理小説の要素がすべて詰まった贅沢な連作集である。物語は、凄腕の機巧師・釘宮久蔵と、美しき機巧人形の伊武を狂言回しにして進んでいく。なじみの遊女を身請けして好きな男と添い遂げさせ、自分は遊女の機巧人形と暮らそうとした男が、久蔵に制作を依頼する表題作は、どこで騙されたか分からない仕掛けに圧倒された。伊武が久蔵に、ヤクザに腕を切られた力士に人工の腕を作ってほしいと頼む「箱の中のヘラクレス」は、異形の恋愛譚。久蔵の調査を命じられた隠密が陰謀に巻き込まれる「神代のテセウス」は、壮絶な騙し合いになっているなど、収録作は一作ごとに趣向が凝らされている。微妙なつながりを持っている各章の挿話を、最終話「終天のプシュケー」で収斂させる手法も鮮やかで、最後まで先の読めない展開が楽しめる。驚異的な想像力を使い、人間のように思考する機械が出来たら、何が人と機械を区別するのかや、技術の発達は人類を幸福にするのかという普遍的な問題を掘り下げたのも見事である。

No.1 7点 小原庄助 2019/04/06 09:32
人間と見まがう機巧人形・伊武と、当代随一の機巧師・釘宮久蔵を通して、江戸時代に似ているが根本から何かが違うもうひとつの世界で起こるさまざまな愛憎劇、事件を描く連作短編集だ。
幕府の膝元・天府には13層の大遊郭がそびえ、多彩な遊芸や技巧技術が爛熟していた。なじみの遊女を模した機巧人形に理想の女を求める男を描いた第1話の表題作や、腕を失った刺青力士のために人口の腕を作ろうとする「箱の中のヘラクレス」など、前半には時代小説の市井物の雰囲気が漂う。
それが後半に進むに従い、”世界”の謎の姿を現す。「神代のテセウス」では、久蔵に関する調査を命じられた思い込みの激しい隠密が、陰謀に巻き込まれていく。やがて女系で継承されてきた天帝家の秘密や幕府の思惑も見えてくる。
心を持った「機械」は人間と違いがあるかというデカルト的命題を踏まえたSF的思考をベースに、ミステリや時代小説の楽しみまで満載した贅沢なエンターテインメントだ。


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乾緑郎
2022年06月
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