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[ クライム/倒叙 ]
血ぬられた報酬
ニコラス・ブレイク 出版月: 1960年01月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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早川書房
1960年01月

早川書房
1983年10月

No.2 6点 人並由真 2020/04/22 02:56
(ネタバレなし)
 40歳の妻帯者で脚本家&劇作家のネッド・ストウは、27歳の大柄な赤毛の娘ローラ・キャムパーソンと不倫。邪魔な妻ミリアムを始末したがっていた。そんなネッドの秘めた思いに気づいた38歳の独身男チャールズ・ハンマーは、相手に接触。チャールズはかねてより、自分の70歳の叔父ハーバート・ベヴァリーを殺して叔父の所有する中堅企業「ベヴァリー商会」の全権の相続を目論んでいた。チャールズは言葉巧みにネッドを洋上のヨットに誘い、海難ぎりぎりの操舵を試させて相手の度胸をはかる。チャールズがネッドを巻き込んで考えていた計画。それは互いのアリバイを完璧に確保した上での、殺人者と被害者の間に何の接点もない交換殺人のプランだった。

 1958年の英国作品。ブレイクのノンシリーズものの倒叙クライムサスペンス。
 当時ではまだ新鮮だと作者ブレイクが思っていた「交換殺人」というメインアイデアが、実はすでにハイスミスの『見知らぬ乗客』という形で前例があり、ブレイクがハイスミスに「すみません、原作も映画も知りませんでした」と素直に謝って許してもらったという逸話でも有名。なんか微笑ましい。とはいえこの数年後にアメリカじゃフレドリック・ブラウンが『交換殺人』書いてるけど、そっちはお断りを交わしたとかいう話はきいたことない。
(ツヅキさーん。タイムマシンじゃないけど「二番目の作家はおそるおそる、三番目以降は知らん顔」という実例が、SFじゃなくってミステリジャンルの中にここにありますヨ。)

 それでまあ、ストーリーだけれど、もう少し長めに厚めに書き込んでおいてもいいんでないの? というところまでホイホイとハイテンポに進み、読みやすさったら、この上ない。
 その上で私見ながら、作家の資質でブレイクとハイスミスを分類するなら、
・ハイスミス……かなり黒いが、ポイント的に一部白い
 (クリスチアナ・ブランドも似たような感じだが、あっちはさらに黒い)
・ブレイク……根は白い。ただししょっちゅう、人間の黒さに憧れている

……的な見識があるので、今回も決着は<そういう仕上げになるだろう>と思いながら読んでいくと……(中略)。
 
 なんか1970年代以降の、劇画ブームの影響を受けた手塚マンガの読み切り中編作品100ページという感じだけど、これはこれでイイです。こういう余韻嫌いじゃないし。
 ただまあ、もし万が一ブレイクが本作の上梓後に改めて同世代の作家ハイスミスを意識して『見知らぬ乗客』やらリプリーシリーズやら読んだなら、きっとすんごくコンプレックス抱いたろうね。だってハイスミスの方がずっと精神的にオトナだもん(そのこと自体イコール作家の魅力や技量では必ずしもないとは思うが)。
 ブレイクの看板キャラであるナイジェル・ストレンジウェイズのシリーズって、60年代になるとあんなことをしたりアレな描写を盛り込んだり、妙に黒くなっていくのだけど、その辺の背景には本作『血ぬられた報酬』の刊行を経ての同時代作家ハイスミスたちを今一度意識したこととかもあるんじゃないかって、勝手に妄想しております(笑)。

 あと、ポケミス版の171ページで、登場人物のひとりが我が身を振り返って題名をあげずにシムノンの作品のある場面を連想するが、具体的にどの作品であろう。すぐわかる人がいたら調べてみてください。

No.1 6点 kanamori 2012/04/28 18:48
”交換殺人”を扱ったノン・シリーズのクライム・サスペンス。
本書の数年前に出版されたパトリシア・ハイスミスの「見知らぬ乗客」について、作者は、その存在を知った時”わが目を疑った”と巻末の「追記」に記していますが、確かにプロットの相似性だけでなく、被害者となる妻の名前がミリアムというところまで同じ(バーバラというもうひとりの女性名も共通)なので、焦ったのは間違いないでしょうね。
物語は、犯罪がどのように明らかになっていくのかというサスペンスの方向には向かわず、ミリアムの夫ネッドの犯行後の葛藤・心情描写を中心に展開しているのがやや冗長に感じましたが、終盤のヨット船上の決着シーンは緊迫感がありよかった。


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