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[ クライム/倒叙 ]
殺人のためのバッジ
ウィリアム・P・マッギヴァーン 出版月: 1960年01月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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早川書房
1960年01月

早川書房
1973年01月

早川書房
1976年01月

No.2 9点 クリスティ再読 2017/08/30 21:21
評者今までマッギヴァーンってそれほどハードボイルドを感じたことがなかったのだが、久々に再読して、いや、本作ある意味マッギヴァーン流のハードボイルドなんだ、ということを強く感じた。マッギヴァーンって心理描写をツッコむ傾向が強いから、「行動・会話主体」というハードボイルド文体からズレ気味なんだが、本作ではとくに「ささくれたような非情さ」という面が強く感じられて、これがまさにハードボイルド、という感覚なのだ。その「非情さ」というのは、「即物的なほどのリアリズム」という、本作のもう一つのテーマとも強く結びついている。
本作くらい、「シンプル・アート・オブ・マーダー」を極めた作品はないんだな。悪い意図を疑われるような警官の「職務上の殺人」なんて、今どきでもアメリカではかなり起きているわけで、本作の刑事によるノミ屋殺しくらい現実的な話はない。手段はとっても簡単。作品中でも証拠はほぼない上に、事なかれ主義の上司は現実に目をつぶってもみ消す「警察一家」な仲間仁義の世界にいるわけだ...これは小説だから犯人は破滅するが、それが小説の「ご都合」にしか感じられないような「非情の世界」はまさにこの現実である。
あともう一つ見逃せないのは、主人公ノーランの造形。下層の白人でマチズムの権化のようなマウンティング男。ゆがんだルサンチマンを発散させるための殺人、というイヤな感じが漂う...もうすでに何人も粗暴さから殺しているから、殺しは手慣れたものだったのかもしれない。しかし自己の欲のために計画的に「殺人」をしてしまい、妙な達成感から身にそぐわない野心を抱くようになる。そうなったらもうお終いで、人間性がボロボロと崩壊していくさまを、本作は丁寧に描写していく。一番悲しいことは、自身の人間の崩壊を、万能感で舞い上がった本人こそがまったく把握できないことだ。この殺人からくる昂揚と妙な万能感を、マッギヴァーンは見事に突き放して描いている。これが凄い。
「そうねえ、ただそれだけねえ。悲劇的でさえないわねえ」。ノーランの「夢の女」として動機の一部になっているリンダにさえ、ノーランの愚劣さは隠すことはできなかったのだ。それが一番情けないことなのだ...
(原題は「Shield for Murder」だから、「殺人の盾」というタイトルでもおかしくはなかった。警官の徽章は盾のデザインだからね。そのノーランの盾ってのが、警官仲間仁義なんだから、ダブルミーニングのいいタイトルだと思うよ)

No.1 3点 mini 2010/07/03 09:44
50年代に入るとハードボイルド派は質的変化を起こし、それまでの私立探偵が主役のものから警官を主役に据えたものが登場してくるが、そんな一人がマッギヴァーンである

社会派ハードボイルドの雄マッギヴァーンは前期は悪徳警官もので存在感を確立した
しかしハードボイルドという感じはあまりしなくて、トンプスン「おれの中の殺し屋」みたいなノワール小説をイメージしてしまう
もっともトンプスンやエルロイみたいな歪んだ性格の登場人物像ではなくて、普通に”悪徳”なので、その辺がノワールとは一線を画し社会派と呼ばれる所以か
ただ悪徳警官ものの出世作「殺人のためのバッジ」は描き方がストレート過ぎて物足りない
社会派としての要素にも乏しく、ノワール特有の屈折感にも欠ける
シンプル・イズ・ベストとは言うけど、この手の小説にはシンプルさは似合わない
もっとゴテゴテと飾り立てた方が良かったと思う


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ウィリアム・P・マッギヴァーン
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