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[ 本格 ] 虚栄の女 |
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ウィリアム・P・マッギヴァーン | 出版月: 1962年01月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
東京創元新社 1962年01月 |
No.1 | 7点 | クリスティ再読 | 2018/05/03 11:03 |
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作家コンプ中心に読んでいくと、最後の方ってどうしても入手困難作が多くなるし、入手困難=不人気、ってことが多いから、あまり面白さをアテにできない...のが覚悟の上なんだけども、逆に面白かったりすると「わ、世の中に知られてない儲けモノみっけ!」と気分が高揚するのがご褒美みたいなものだ。
さて、マッギヴァーンも大詰め「虚栄の女」。儲けモノの部類である。好きな作家なればこそ、うれしい。第二次大戦中のシカゴ社交界の花形だった女性、メイ(ま要するにクルチザンヌである)。彼女が戦時中の政財界の裏面暴露の日記を出版しようとしている、という噂がたち、シカゴの政財界に静かなパニックが走った。身に覚えのある実業家ライアダンは、同時に戦時中の不正を暴く上院の委員会の標的となって、調査団を迎えることになった。調査団とメイ、この両面からの脅威を押し戻すため、ライアダンは広告代理店と契約した。主人公はその担当者となって、ライアダンと対策を協議しつつ、主人公旧知のメイとの交渉にあたるのだが....がその最中メイが殺害されて戦時中の日記が消え失せた! 企業などの不祥事、というと謝罪会見で会社幹部が妙に尊大な態度をとって炎上しまくる...というのがこのところ続いていて「危機管理がなってない」とか評されるわけだけど、とくに日本は「アドバタイジング」と「パブリック・リレーションズ」が混同されるきらいがあって、正しい意味での「PR(パブリック・リレーションズ=社会との関係)」が定着していない風土であるから、「なんで広告代理店?」となる読者も多かろうが、本作の広告代理店と主人公の仕事は、まさにこの「PR」である。ライアダンの記者会見を主人公は見事に仕切ってみせる。評者とか真似したいくらいにナイスな設定だと思うのだが、いかがだろうか。 でまあ、この実業家は実のところ絵に描いたような悪党で、仕事とは言いながら主人公は葛藤する。別居中の妻も同僚で、主人公を見守って離婚するかどうかを考慮中だったりする。 きみの忠誠心は、売りに出ていたものなのだ。それをわたしが買ったのだ。粉骨砕身、きみに働いてもらうつもりである。たとえわたしが詐欺師であろうと、正直な人間であろうと、それには何のかかわりもないことなのだ。これだけいえば満足してもらえるかな? いやあ、マッギヴァーンらしさ全開だね。道徳的トラブルを抱えながら、事件の真相を追いかけて、自らの道徳的葛藤にも決着をつける。犯人もうまく隠せているし、手がかりは会話の中の齟齬みたいなものだから、かなり難度が高いけど、まあフェアかな、くらい...と若干パズラー的興味もある。 父親は粗悪な小銃を政府に納入して儲けるが、その息子は戦争で手柄を立てて「英雄」なんだけども、戦争神経症を患って戦後は無為徒食のまま父親に反抗しつづけるし、主人公の妻は仕事で主人公が成功すればするほど「嫌な奴」になってくるのに耐えれなくて別居→離婚を考えているなど、サブキャラもなかなかうまく書けている。あっけなく殺される影のヒロイン、メイの存在感というか、「なぜ暴露本を出そうとしたか?」はミステリ的な謎というよりも、キャラの性格から説明されるとか、小説的な厚みがあって、これはいい小説である。先行する「囁く死体」「最後の審判」は今一つだったのと比較すると、マッギヴァーンらしさが本作で早々と開花している印象だ。次作はもう「殺人のためのバッジ」だもんなあ。 マッギヴァーンのコンプ記念でベスト5を選ぼうか。「殺人のためのバッジ」「最悪のとき」「明日に賭ける」「ファイル7」「けものの街」...まあこの人の場合ベスト5選びはほぼ定番に落ち着いて全然面白みがない。 |