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[ クライム/倒叙 ] 光媒の花 『花』シリーズ |
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道尾秀介 | 出版月: 2010年03月 | 平均: 5.38点 | 書評数: 8件 |
集英社 2010年03月 |
集英社 2012年10月 |
No.8 | 7点 | パメル | 2024/05/22 19:30 |
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第33回山本周五郎賞受賞作の6編からなる連作短編集。
「隠れ鬼」印章店を営む主人公は、認知症を患った母親と二人で暮らしている。ある日、母親が画用紙に絵を描いている。笹の花の絵に思えた。まさか母親が描いているのは、あの光景なのか。このオチには驚かされた。 「虫送り」主人公の少年は、妹と川辺で虫を取る習慣があった。二人が川辺にいると、いつも川向うで懐中電灯の光を見かけた。今日も光が見えたのだが、すぐに消えてしまった。しばらくすると、おじさんが声をかけてきた。意表を突く展開が素晴らしい。 「冬の蝶」かつて昆虫学者になろうと夢見ていた男は、少年時代のことを回想していた。ある日、川辺でサチというクラスメイトと話すことになり、毎日サチに会いに行くため川辺に向かった。ふとした偶然が重なりサチの家に行くことになったのだが。偶然、覗き見してしまった好きな女性の生々しくも悲しい物語。 「春の蝶」隣の部屋に警察がやってきていた。その時は、「何か物音を聞きませんでしたか」と警察に聞かれただけだったが、後で聞くと大金を盗まれたとのことだった。隣に住んでいる女の子を見かけ、声をかけたが反応がなかった。どうやら心理的な理由で耳が聞こえなくなってしまったらしい。心温まるラストに感動。 「風蝶花」トラックの運転手をしている主人公は、入院することになった姉を見舞うべく病院へ向かった。そこで母親の姿を見かけ、咄嗟に姿を隠してしまう。父親の癌の症状に回復の見込みがないと知るや、性格まで一変したかのような母親の態度が許せなかったのだ。姉の策略でハッピーエンド。微笑ましい話。 「遠い光」小学四年生のクラス担任である主人公は、再婚によって名字が変わるクラスメイトを気にかけていた。その女の子がテレビで紹介された猫に石を投げて殺そうとしたらしいので現場に向かってくれと教頭から連絡が入る。ラストの大団円の意味が分からない。 連作短編集だが、作品同士の繋がりはそれほどない。ただ、前の物語の脇役だった人物が、次の物語では主人公になっているという構成になっている。 主人公たちは、それぞれ狭い世界の中で、大小あれど失望している。その一瞬一瞬の心情の変化の描写力が緻密で素晴らしい。それぞれの「狭い世界」。しかしそれが主人公にとっては世界の全て。外の世界の価値判断からすれば異常な物事を、狭い世界を濃密に描くことで「正しい」という価値観に転化させているような印象。主人公たちは、それぞれ悩み、苦しみながら生きている。そんな哀しい物語ではあるが、心に傷を抱えながらも生きる希望の光を与えるような描き方が抜群に上手い。 |
No.7 | 5点 | 風桜青紫 | 2015/12/29 02:22 |
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直木賞狙いが露骨になってきたあたりの作品なのであまり期待していなかったんだが、まあまあ楽しめた。『冬の蝶』は単体ではベタな話だが、『虫送り』と『春の超』によって人物のその後が描かれることで、思春期の青年の全能感(米澤みたいで嫌な表現だが)が挫折する様子が浮き彫りになっている。趣向としては悪くない。親子の意思疏通のむずかしさを描いた『風媒花』も悪くないんだが、やはり同じテーマでは『龍神の雨』のほうが優れていたように思う。どれも悪くないけど、やっぱ小手先で描いた感があるかなあ……。 |
No.6 | 5点 | mohicant | 2013/08/03 22:12 |
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短編集なら「鬼の跫音」の方がおもしろかった。 |
No.5 | 7点 | E-BANKER | 2013/04/01 00:00 |
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2007~2009年の間で「小説すばる」誌に順次発表された作品をつなぐ連作短編集。
第23回山本周五郎賞受賞作。 ①「隠れ鬼」=ある印章店を舞台とした一話。父親に自殺され、年老いた母親と二人で暮らす主人公の中年男。昔、何度も訪れた別荘で知り合った美貌の女性は父親と関係があった。そして、その女性が殺された事件を思い起こす主人公は・・・? ②「虫送り」=①とは一転し、ある幼い兄妹を軸に展開されるのが本編。ある日、虫取りのために訪れた河原でホームレスの男と遭遇した二人に悲劇が・・・。幼女が出てくるとこんな展開になる場合がよくあるよなぁ。 ③「冬の蝶」=②に登場したもう一人のホームレスの男が本編の主役。中学生時代、不幸な家庭で育つ同級生の女生徒との甘酸っぱい関係と、不幸な故に起こる悲しい事件・・・。よくある手かもしれないが、胸を打つ何かは感じる作品だろう。 ④「春の蝶」=冬の次は「春」。本編は③で登場した不幸な女生徒が成長した姿で登場。アパートの隣人である老人と孫娘。そして、この孫娘は耳が聞こえなかった・・・。 ⑤「風媒花」=若くして父を亡くし、母と姉との三人でひっそりと暮らす男・亮が主役。病気で入院した姉と父親が死んで以降不仲になった母・・・。そんななか、姉の病状が徐々に悪化して・・・。 ⑥「遠い光」=⑤で登場した姉が主人公。小学校で初の受け持ちをもった教師の主人公が一人の問題児との関係の中で成長していくというのが本編の筋なのだが・・・。「遠い光」というのはなかなか深いね。 以上6編。 もはや「さすが」という気がする。 とにかく「うまい」。それぞれの編で、視点人物となる主人公を次々と入れ替えながらも、共通した作品世界を有する作品たち。 確かにミステリーとしては「どうなのか?」という気がしないでもないが、そういうレベルを超越した面白さ、深さを感じた作品だった。 心のどこかに傷や影を持った登場人物たちと、彼ら(彼女ら)を包み込むように小説を紡ぎ出す作者・・・。 読み終わったあと、しばらく感慨に耽ってしまった。 (特に③→④がいいね) |
No.4 | 6点 | まさむね | 2011/06/20 21:15 |
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道尾作品の中でどのような順でこの作品を読んだのか,それで評価は分かれるような気がします。
まず,ラットマン周辺を既読の方にとっては,この作品に物足りなさを感じると思いますね。作品にとって良いか悪いかは別として,彼のこれまでの特長が見受けられません。 しかし,直木賞受賞作品「月と蟹」の流れで(触発されて),この作品を手にした方にとっては,評価は結構高いのかもしれません。読み進めさせる技量でいえば間違いなくトップクラスの作家が,決して生ぬるくはなく,かつ,絶望的でもない複数の人生の心の分岐点を描くのですから,ミステリ要素を除けば,まぁ,一定の評価は当然と言えましょう。その点はやっぱり上手いし,個人的には「月と蟹」よりは相当に良かったです。 で,道尾反転ミステリをほぼ読破しつつ,(図書館予約の関係で)「月と蟹」を先読している私にとっては,上記の両方の印象が混在して,どう評価してよいものか・・・。道尾ミステリに期待する人は無理に読む必要なし。「月と蟹」を素直に読めた方は,一読する価値があるかも。 |
No.3 | 4点 | 江守森江 | 2010/07/24 22:22 |
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昨今、テレビのバラエティー番組では「川柳」や「謎かけ」がブームで、取り分けダブルミーニングは、その主流にある。
ブームを先取りする反転ミステリ作家として道尾秀介を支持してきたミステリ・ファンには、一般文芸方向で直木賞狙いにシフトした事は残念極まりない。 それでも、連続で直木賞候補になり、そろそろ受賞か?と思っていたが、某・林選考委員に「年々上手くなっているが、この作品は何か一つ物足りない」云々(この手の発言で正確ではない)と曰われ落選した。 「年々上手く」って、この作品以前の作品の方がミステリとして断然上手いだろ!と猛然と反論したくなるが、この作品に対するもう一つ物足りないの選評には納得出来る。 一応纏まった群像小説集だが、ポツリ・ポツリと期間を置いて発表したせいか、作者の作家としての方向性の変化に連れてミステリ離れして文芸方向に向かう過程を読まされるだけで楽しめない。 作者にミステリを期待する読者なら、わざわざ読まなくても問題ない。 ミステリ・ファンは道尾秀介に一般文芸作家としての大成など望んでいない! ※ボヤキ でも、直木賞の金看板で売上や印税が跳ね上がるのも厳然たる事実だから・・・・・。 ※追記(8月8日) 昨夜NHK「トップランナー」にゲスト出演していた。 常々「自分の読みたい作品を書く」と言っているが、近作の様な作品を本人が読みたいと思って書いているのだろうか? 「賞を狙って書くと制約され面白い作品は書けない」的な発言もあったが、その通りで直木賞狙いな近作は面白くない!(堂々と「狙って書いたが落選しました」と発言すればまだ潔いのに!) |
No.2 | 5点 | kanamori | 2010/05/09 12:13 |
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ロンド形式の連作短編集。
第1話の脇役格の登場人物が第2話の視点人物となるような形で6つの物語が語られます(トラックの運転手はちょっと苦しいですが)。テイストは「龍神の雨」風ですが、親子間の暗い関係とか昭和の清貧な家族小説を読んでいる気分になりました。 ラストで救われる話もありますが、全体的に暗いトーンの話が多いので読後感はあまりいいものではありません。 |
No.1 | 4点 | こう | 2010/04/14 01:31 |
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帯に書かれている通りの「連作群像劇」です。所々ミスリードを誘うような描写があったとしても本筋ではなく各章の人物のストーリーがメインでミステリとは言えない気がします。
読みやすいことは読みやすいのですが読んで楽しくなる小説ではありません。 特に第2章の虫送りの展開は正直言って不満です。やったことはどちらにしろ取り消さないにしてもトラウマになるようなことを「お前が言うな」という感じでした。 「カラスの親指」までの様な作品とは明らかに違っており「群像劇」そのものに圧倒されて楽しめる方もいると思いますが個人的には道尾秀介氏の作品というだけで読む前から展開、作風を勝手に期待しまっていたので期待したものとは違ったというのが正直な感想です。 今後も作風は変化してゆくのでしょうがこれまでのイメージの「道尾作品」を次は期待したいです。 |