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[ ハードボイルド ]
第八の地獄
スタンリイ・エリン 出版月: 1959年01月 平均: 7.33点 書評数: 3件

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早川書房
1959年01月

早川書房
1976年01月

No.3 7点 クリスティ再読 2018/05/14 23:16
「鏡よ、鏡」のminiさんの愚痴に評者も同感。エリンっていやあ「特別料理」か本作でしょうよ。それが常識、ってもんです。MWAも獲った本作、一応ハードボイルド、ということにされてはいるんだけども、評者的にはハードボイルドの真逆みたいな私立探偵小説だと思う。だから逆に、今風の私立探偵小説に近いといえばそうかもしれない。
主人公は探偵事務所を旧上司から実力で引き継いだオーナー社長。秘書もいれば社員の捜査員も登場するだけで3人、と極めてリアルな「私立探偵小説」。引き受けた事件も警官の汚職容疑を晴らす、なんだけども主人公もクライアントの無実をあまり信じていないし、警官の婚約者に横恋慕してしまって、汚職容疑を固める方につい力がはいってしまう..とリアルには違いないけど「卑しい街を行く騎士」でもなければ「アメリカの悲劇を見つめる質問者」の柄でもなくって、ヒーロー小説でもアンチヒーローでもない「私たちと似たり寄ったりの人間」な私立探偵を描いた小説である。今になってみれば「私立探偵小説」にハードボイルドとは別な水脈を導入したような意義があるんじゃないかな。
けどね、本作とっても小洒落たセンスがあって、そういう当たり前な人間を描いても、とってもオシャレな小説のうまさがある。ここらが短編の名手エリンらしいあたり。リアリズム、ってクソ真面目ということじゃないんだよ判るかな?

No.2 8点 mini 2016/01/27 09:59
今年も私的読書テーマ”生誕100周年作家を漁る”を続ける
昨年度の生誕100周年作家は大物作家が多く豊作な年回りだった、ジャンル的には警察小説とハードボイルドに特徴が有ったと思う
さて今年は全体的には昨年ほどの大物感は無いが、特定のジャンル限定なら大物作家も居る、少なくとも外れ年ではなさそうだ
今年のジャンル的特徴は、やはりまずは異色短編作家、この分野には大物作家が居る
もう1つはジャンルの性質上とても大物作家とは言い難いが、知られざるB級スパイ小説の当たり年でもある

* 2016年最初の”生誕100周年作家を漁る”、第1弾はスタンリイ・エリンだ
当サイトで空さんも語られておられるように、異色短編作家のイメージの強いエリンだが、意外と長編の数も多く、しかもその中にはMWA受賞作まで有る
エリンを見出したのはエラリイ・クイーンである、短編の多くはEQMM誌に発表されたもので、同誌年次コンテストの常連でもあった
『ニューヨーカー』とか一般高級文芸雑誌などでも活躍した他の異色短編作家に比較して、EQMMをホームグラウンドにしたエリンだけに、他の異色短編作家よりも謎解き要素が強いのが作風と言えるだろう
ただし表面的には本格派風に見えない所が持ち味でもある

短編作家からスタートしたが長編でも非凡さを発揮したエリンの初期の長編代表作がMWA受賞作「第八の地獄」である
これは内容的にはハードボイルドなのだが、短編の分量でも文章の緻密さが特徴のエリンだけに、空さんも御指摘されているようにハードボイルド的な簡潔な文章ではない
言わば緻密な文体で綴ったハードボイルドで、プロットにも紆余曲折が有り、緻密に纏まった名作だと思う
短編作家としてしか認識されていない読者も多いとは思うけど、長編を書いてもエリンはエリンなんだなと再評価する事は必至だ

No.1 7点 2014/01/11 12:28
エリンというと異色短編作家としてのイメージが強いですが、長編も10冊以上あり、特に本作は1959年のエドガー賞を受賞した代表作です。
ニューヨーク現代社会(1958年当時)の腐敗ぶりをダンテの描く第八の地獄になぞらえているわけで、テーマ的にも、主役が私立探偵社の社長であることからしても、正統派ハードボイルド系という感じがします。ただし、エリンの文章は古典文学の素養をちりばめていて、ハメット等の簡潔な文章とはかなり違います。ストーリーは平の巡査が賭博師から賄賂を受け取った事件について、理想主義の弁護士からの依頼で、主人公が冤罪証明調査に乗り出す(冤罪であると信じないまま)というもので、地味な内容ですが、最後まで飽きさせません。
ただし訳文は、小笠原豊樹にしては、同じ人物の会話の調子が丁寧だったりぞんざいだったり統一されていなくて、気になるところもありました。


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スタンリイ・エリン
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