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[ 本格 ]
ニコラス街の鍵
スタンリイ・エリン 出版月: 1957年01月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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早川書房
1957年01月

早川書房
1984年02月

No.2 6点 人並由真 2024/03/01 15:10
(ネタバレなし)
 1951年のアメリカ。NYから離れた位置にあるサットン市の住宅地ニコラス街。そこに暮らす「アイレス家庭用品店」経営の実業家ハリー・アイレス(46歳)の一家4人と妙齢のメイドは2年前、、隣家の新たな転居者に、独身で赤毛の美人イラストレーター、29歳のキャサリン(ケイト)・バルウを迎えた。陽性な性格のケイトと親しい近所づきあいを始めるアイレス家だが、やがてその親交の輪はケイトの仕事先のひとつである雑誌社の青年マシュー(マット)・チェイヴズにも広がる。そして現在、ケイトやマットを加えたアイレス家の状況は、2年前とかなり変化していた。そんななか、ひとりの人物が命を落とす。

 1952年のアメリカ作品。エリンの長編第二弾。
 処女長編『断崖』(や『第八の地獄』そのほかの長編)に心惹かれる身としては、少年時代から読もう読もうと思いながら今日まで来てしまった一作で、ポケミスも古書で二冊も買ってしまっている。
 
 紙幅は短いし(邦訳はポケミスで、本文190ページほど)、登場人物も主要キャラクターはひとけたと少ないが、ミステリの奥にあるヒューマンドラマ的な決着まで相応の密度感を抱かせながらぐいぐい引っ張っていく筆力は、確かに長編版エリン。結局、事件の構造はかなりシンプルなんだけど、登場人物たち個々の顔がくっきり見えるせいで、最後の手ごたえは少なくない。
 こう書いていくと、シムノンのノンシリーズ編の秀作に似通うものもある。 

 あと、これは書いてもいいと思うけど、謎解き・狭義のミステリ要素とは別の文芸の部分で、エリンののちの長編のプロトタイプ的な一面も感じさせた。詳しくは実作を読んで認めてください。

 あー、しかしこれで(評者が)半世紀かけて、邦訳されたエリンの長短編は全部読んじゃったコトになるのか? 実はまだ未訳の作品が数作残っているという日本の翻訳ミステリ界の現実と関係者の対応が、実に腹立たしい。出せばそれなり以上の反響が見込めるだろうに?

 評点は、7点に近いこの点数というところで。数字以上の満足度は高いよ。

No.1 6点 2020/03/21 16:23
エリンの長編第2作は、ジャンル分けに困る作品でした。
殺人が起こって、その事件の犯人が誰かという謎があり、最後にはその謎がそれなりに論理的に解かれるという点では、本格派的と言えなくないかもしれません。しかし作者の狙いは全く別で、隣人の女流画家が殺された事件を中心にして、ニコラス街に住むアイレス家の人間関係を語っていくところにあります。全体は5部に分れ、家族の家で働く家政婦の視点で書かれる第1部から始まり、残りは家族それぞれの視点から、すべて一人称形式で語られます。そして5人の語り手以外の事件関係者は、被害者と、もともと被害者の知り合いで、アイレス家の人々ともつき合うようになった男、この男が相当癖の強い人間です。
作品紹介文を読み、登場人物表を確認した段階で、なんとなく犯人が誰かは見当がついてしまいましたが、それでも全く問題ない作品です。


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スタンリイ・エリン
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最後の一壜
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1957年01月
ニコラス街の鍵
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