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[ ハードボイルド ] さらば愛しき女よ フィリップ・マーロウ/別邦題『さよなら、愛しい人』 |
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レイモンド・チャンドラー | 出版月: 1956年03月 | 平均: 5.77点 | 書評数: 22件 |
早川書房 1956年03月 |
早川書房 1972年01月 |
早川書房 1976年04月 |
早川書房 2009年04月 |
早川書房 2011年06月 |
No.2 | 9点 | Tetchy | 2009/03/18 00:27 |
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私がこの作品と出逢ったことの最大の不幸は先に『長いお別れ』を読んでしまったことにある。もしあの頃の私がフィリップ・マーロウの人生の歩みに少しでも配慮しておけば、そんな愚行は起こさなかったに違いない。あれ以来、私は新しい作者の作品に着手する時は愚直なまでに刊行順を踏襲するようになった。
そんなわけでチャンドラー作品の中で「永遠の№2」が私の中で付せられるようになってしまったのだが、全編を覆うペシミズムはなんとも云いようがないほど胸に染みていく。上質のブランデーが1滴も無駄に出来ないように、本書もまた一言一句無駄に出来ない上質の文章だ。 とにかく大鹿マロイの愚かなまでの純真に本書は尽きる。昔の愛を信じ、かつての恋人を人を殺してまで探し求める彼は手負いの鹿ならぬ熊のようだ。そして往々にしてこういう物語は悲劇で閉じられるのがセオリーで、本書も例外ではない。 本書でもマーロウは損な役回りだ。だけど彼は自分の信条のために生きているから仕方がない。自分に関わった人間に納得の行く折り合いをつけたい、それだけのために自ら危険を冒す。 本書の原形となった短編は「トライ・ザ・ガール(女を試せ)」だが、チャンドラーはそれ以後も大男をマーロウの道連れにした短編を書いているから、よっぽどこの設定が気に入ったのだろう。そしてそのどれもが面白く、そして哀しい。 そしてマーロウのトリビュートアンソロジーである『フィリップ・マーロウの事件』でも他の作家が大鹿マロイを思わせる大男とマーロウを組ませた作品を著しているから、アメリカの作家の間でもかなり評価が高く、また好まれている作品となっている。 本作の感想はいつになく饒舌になってしまった。そうさせる魅力が本書には確かに、ある。 |
No.1 | 8点 | 空 | 2009/01/24 23:06 |
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ハードボイルドは香りだ。「やまよもぎの強い匂い」やインディアンの「異臭」。さらに、煙草、酒、香水、潮…この作品からはさまざまな香りが感じられる。
…等と、普段とは違った感じの文章を書きたくなってしまうほど、影響力のある作品です。上に書いたこととは違ってしまいますが、ハードボイルドはやはり文章だと思います。人間や社会を独特の香りをもって描き出す文体と言えばいいでしょうか。 殺人事件そのものの構造はすっきりしているのですが、読後冷静に考えてみると、マーロウの捜査の過程にはかなりとんでもない偶然があります。特に半分ちょっと過ぎで大鹿マロイを見かけるところがそうですし、市の黒幕との会見の段取りも、クライマックスの邂逅も偶然です。今回久々に再読してみて、ハメットと違い内容の記憶が全くなかったことに驚いたのですが、このプロットの偶発性が覚えられない原因の一つかもしれません。 しかし、チャンドラーは本書でもファイロ・ヴァンスの名前を出してきたりして、意外に従来のミステリを意識しているところが感じられます。 |