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[ サスペンス ]
黒い天使
別題『黒衣の天使』
コーネル・ウールリッチ 出版月: 1950年01月 平均: 7.00点 書評数: 7件

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新樹社
1950年01月

早川書房
1957年01月

早川書房
1986年12月

早川書房
2005年02月

No.7 6点 2020/01/05 11:32
 あの人はいつもわたしを、"天使の顔(エンジェル・フェイス)"と呼んだ。
 それはふたりだけの時の、呼び方だった。

 夫カークの不自然な行為の積み重ねから、裏切りの匂いを嗅ぎ取った二十二歳の若妻アルバータ・マレー。演劇女優ミアとの駆け落ちの企みに気付いた彼女は、遂に行動を決意した。夫の荷造りは済んでいる、もはや一刻の猶予も無い。
 アルバータはミアと対決するため高級住宅地サットン・プレイスのマンションへと向かうが、そこで発見したのは舌を突き出し、顔をゆがめたミア・マーサーの亡骸だった。寝室の床に横たわったミアはネグリジェに包まれ、珊瑚色のサテンカバーがかかった枕で窒息死させられていた。
 混乱するアルバータ。だがそこにカークからの電話が掛かってくる。「もしもし?」「もしもし、ミア?」
 受話器を置き、部屋を出ようとするアルバータ。だがドアの蝶番のすきまに、Mの頭文字のついた紙マッチを見つける。このマッチがスイングドアに挟まっていたから、鍵がかからなかったのだ。彼女は夫の名前と電話番号が書かれた住所録に加え、紙マッチをハンドバッグに突っ込むとそのままマンションを去る。
 家に帰ったアルバータは電話でマンションに向かう夫を引き止めようとするが、時既に遅く彼は会社を出た後だった。カークは殺人現場で逮捕され、数ヵ月後裁判ののち死刑を宣告された。
 執行は五月十六日、三ヵ月後。その日彼は電気椅子に座らされる。必死に事件のことを考え続けるアルバータの頭に、小さなことが浮かんだ。
 掌にあるあの女の紙マッチ。でもドアのすきまにあったマッチは色は青で、Mの字がついているけど、これとそっくり同じではない。トルコ石色ではなく、もっと濃い色だった。あれは別の誰かのイニシャルだ。その別の誰かが、彼女を殺したのだ。
 彼女は手元にあるミアの住所録の、Mのページを開く。そこには四人の男の住所と名前が記されていた――
 「幻の女」と「暁の視線」の合間に刊行された最盛期の作品。1943年発表。前回黒い黒いと連呼したので、この際連想から黒のシリーズ未読作にアタック。テキストは黒原敏行の文庫新訳。ウールリッチを読むのはン十年振りだが、さてどうなるか?
 うーむ、少々勝手が違うような。都会臭漂う甘いムードと独特の文章で、ハッタリの効いたストーリーをかますのがこの人の美点だと思うのですが、本書は個々のエピソードが辛気臭く地味め。お得意の巡礼形式もある程度展開が読める。そうこうするうちに早くもターゲットは最後の一人に。「幻の女」や「喪服のランデヴー」は面白かったのに、読み手がスレちゃうとこういうのはダメなのか。
 と焦りつつ読んでいくとそこはサスペンスの巨匠。最後のツイストにやられちゃいました。けど知名度の高いやつと比べると、捻りが少ない分若干落ちますね。効果を最大限に生かすよう、わざとシンプルに作ってあるんだと思いますけど。
 そういう意味で6点ジャスト。フランシス・M・ネヴィンズJrの「"黒のシリーズ最高傑作"」との評価には、やや異論アリ。ただ冒頭の文章の意味が、ラストで反転するのは切なく辛いものがあります。

No.6 6点 E-BANKER 2017/10/08 21:15
「黒衣の花嫁」「黒のカーテン」「黒いアリバイ」に続く、いわゆる“黒のシリーズ”四作目。
前年にはアイリッシュ名義の名作「幻の女」が、翌年には「暁の死線」が刊行されるなど、作者の黄金期とも言える時期に発表されたのが本作。
1943年の発表。

~夫はいつも彼女を“天使の顔”と呼んでいた。彼女を誰より愛していたのだ。ある日、彼女は夫の服がないことに気付く。夫は別の女性のもとに走ろうとしていた。裏切られた彼女は狂おしい思いを抱いて夫の愛人宅を訪ねる。しかし、愛人はすでに何者かに殺されており、夫に殺害容疑がかかる! 無実を信じる彼女は真犯人を探して危険な探偵行に身を投じる・・・~

ポケミスの旧約版で解説者の都筑道夫氏が、ウールリッチという作家の特徴が一番よく出ているのが本作ではないかとの指摘を行っていて、理由のひとつとして、『~女を書くのがうまい。ことに窮地に立った若い女性を書かせては比類がない』ことを挙げているとのこと。
う~ん。確かに。
何しろ、「天使の顔」などと呼ばれる女性なんて、どんだけ可愛い顔してるだろ?
って思いながら読みすすめていた。
しかも、浮気までされた夫なのに、無実を信じて自ら危険も顧みず、果敢に行動するなんて・・・
アンビリーバブル!!

ゲス不倫やら、W不倫やら、不適切な関係やら、まさに風紀の乱れ切った現代社会に比して一服の清涼剤のような女性・・・
って思ってたら、オイオイ! やっぱり他の男に行ってるじゃないか!!
まぁでもそうだよねぇ・・・浮気されてんだもんね・・・
いくら七十年以上前の話だとしても、普通はその時点で「コイツ許せん!!」ってなるよなぁ。
ということで、最後は納得してしまった。

で、一体どんな作品なのかって?
他の皆さんが書かれてるとおりです。(オイオイ!)
確かに「黒衣の花嫁」とはプロットが似てるし、「幻の女」ともどことなく被ってるように感じます。
でも、そこはアイリッシュ=ウールリッチ好きの人にとっては気にならないのでしょう。
私は・・・結構気になりました。

No.5 7点 測量ボ-イ 2014/02/28 20:15
ウ-ルリッチ名義の作品は初めて読みましたが、この作品も
アイリッシュ節は全開です。サスペンス性は秀逸ですね。
確かに展開が御都合主義などツッコミどころはありますが、
この作家にそういう目線は要らないでしょう。
というか、そういうところが気になる方は、ウ-ルリッチ
(アイリッシュ)は不向きなんでしょうね。
ウ-ルリッチ名義の他の作品もまた読んでみましょう。

No.4 6点 蟷螂の斧 2013/06/16 14:42
(ネタバレありです。)「黒衣の花嫁」の逆バージョンです。「黒い天使」の意味を自分勝手に解釈をしてみました。1人目のM(失業者)を実質的な死に至らしめたこと?。2人目のM(医者)では、犯罪に手を染めたこと?。3人目のM(資産家の青年)ではMを愛してしまったこと?。4人目のM(クラブオーナー)には「天使の顔」から「黒い天使」と言わしめている・・・。1人目のMの物語が、ブラックな味わいで好きですね。女性心理を描くのはうまいと思いますが、夫が浮気したにも拘わらず、愛しているということが、どうしてもピンときませんでした・・・。

No.3 6点 2010/09/28 11:20
若妻が、殺人容疑をかけられた夫を救うために素人探偵になって、危険に立ち向かいながら冒険小説の主人公のごとく動き回ります。容疑者男性ごとに章立てし、連作短篇らしく各短篇をほどよく独立させ、それぞれをサスペンスフルに仕立てています。でも、長編全体としてみればちょっと物足りない感があります。それに解説にもあるように、ご都合主義的だし、論理性も欠如しています。また、ラヴストーリーとしても不十分なのではという気がします。
いろいろと欠点ばかりを並べ立てましたが、でもなぜか魅力的な作品であることもたしかです。それは、サスペンス感たっぷりの文体によるものなのか、ちょっと寂しげな現代都会風味が感じられるからなのか、それとも女性主人公が魅力的に描かれているせいなのでしょうか。
「黒衣の花嫁」とくらべると構成は同じなのですが、あくまでも本書は若妻の視点で描いてあり、そのためストレートに女性主人公に感情移入できるようになっています。そこが「黒衣の花嫁」とはちがうところです。そのへんの作り分けは本当にうまいなぁと感心します。

No.2 8点 ロビン 2009/01/12 18:18
とにかく描写が素敵。特に終盤に向かっての主人公の女性の姿は強く胸を打つ。

展開自体は正直マンネリ感を抱かないこともなかったが、彼女という人間を描くために全てがラストに収束されていく。
体面上はハッピーエンドなのだけど、悲劇ですねぇ。

No.1 10点 Tetchy 2008/10/25 00:19
泣けた。静かに泣けた。夜の切なさに包まれたかのようだ。

夫の浮気相手に怒鳴り込んでいったところ、その女性は死体となっており、夫にその容疑がかかり、妻が無罪を証明するため、浮気相手の女性にまつわる4人の男性を調べるという、ウールリッチならではの設定。

この中で3人目の男との話がいい。多くは語るまい。とにかく切ないのだ。

誰もがロマンティストになる小説だと思った。本当にウールリッチは素晴らしい。


コーネル・ウールリッチ
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タイムズ・スクェア
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