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[ サスペンス ]
死はわが踊り手
コーネル・ウールリッチ 出版月: 1959年01月 平均: 5.00点 書評数: 2件

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早川書房
1959年01月

早川書房
1995年04月

No.2 5点 クリスティ再読 2022/10/13 20:55
晩年のウールリッチって総じて評判が悪いんだけども、じゃあ「何が悪いのか?」というと、なかなか難しい問題をはらんでいる。いや実際、本作はラス2の作品だが、1作前は晩年でも評判のいい「聖アンセルム923号室」で、「アンセルム」が7年ぶりの母の死後の新作、これから毎年続いて本作と「運命の宝石」という順番。う~ん、客観的には「前作よかったのだから、新作大期待!」じゃないのかなあ。

いやそれは、晩年のウールリッチが「形式としてのミステリ」に関心をなくしてしまった、というあたりの問題もあるだろう。「ミステリ」を読者が期待したら....そりゃ肩透かし。ウールリッチよりも、受容する読者の側にも問題があろう。バッドエンドが嫌われる、というのなら 1947年の「暗闇へのワルツ」あたりからバッドエンドが続いているしね。「呪われた結婚」とでもいうべき固執的なテーマは、本作ではそう目立たないけども、相変わらずある。

いやでも、本作あたりだと、読んでいて妙に「芝居がかってる」という印象が強いんだ。もちろんウールリッチ一流の美文、というのはそうなんだが、その技巧性がマンネリ化して飽きが来る。昔は「都市の詩情」とでもいうような良い方向に、この凝った美文が評価されるわけだけども、本作あたりだと随分とわざとらしい。いやそう感じさせるあたりに、ウールリッチの魔術が通用しなくなってきている証拠が顕れているわけである。

本作なんてジャンル的なコダワリなく観るのなら、

見物客が死ぬことがある『死の舞踏』を踊る女と、彼女と形式的な結婚をして連れ出し、女を売り出し話題の人にした男。二人は一躍大人気になるが、舞踏が引き起こす不吉な事件から忌まれるようになる....その経緯と愛憎。

と実にキャッチーな話なのだよ。ホントか嘘か分からない「死の舞踏」というネタは実にいいし、ウールリッチお得意の男女関係の縺れをうまく絡めて作劇しているわけで、超自然を気にしないならとくに「悪い」要素がない作品でもある。さらに中盤のヒロインの拒否っぷりがほぼハードボイルドなくらいだから、そうキャラが悪いわけでもない。
それでも本作は詰まらない。困った。

「気の利いたセリフ」を登場人物が嫌々言っているような、何か心にもないような、言ってみればキャラが「生きていない」ようなヘンな気持ちになるんだ。ウールリッチ、もう書きたくなかったのかなあ....

No.1 5点 人並由真 2017/03/19 11:27
(ネタバレなし)
 1950年代のアメリカ。オランダ人の両親と死別した美しい娘ゲルトルード・マリー(マリア)・ルイターは修道院の施設で養育され、10歳の時から伝説のダンスを学び始めた。そして現在19歳のマリーが習得したダンスはインドのカーリー神に由来する死の舞踏で、その踊りを観覧した者のなかから誰かが命を奪われるという禁忌の踊りだった。だがその舞踏はあまりに魅惑的で、それゆえその魅力を認めたサクソフォン奏者で指揮者でもある若者マクシー(マックス/マックスウェル)・ジョンズは、音楽プロデューサーのJ・モティマー(モート)・レビンと連携し、楽団を組んでマリーの芸を世間に喧伝しようと図る。そのために彼らはマリーの舞踏が「死を呼ぶ踊り」であることさえ危険で刺激的な宣伝の材料とし、踊りの終了とともに死んだ真似を演じるサクラ役の男まで雇うが…。
 
 1959年にウールリッチが執筆した長編。すでに長編『夜は千の目をもつ』『野性の花嫁』や短編『モンテスマの月』などでスーパーナチュラルな要素の実在や暗示を扱っていた作者だが、これもその路線で、しかもかなりその辺の比重の高い内容。
 狭義のミステリの枠を超えたホラーまたはファンタジー的な<広義のミステリ>であり、ほぼ常に観客の誰かを急死へと導く死の舞踏の呪いは(随時登場人物から、そんなことが本当にあるのか? と疑惑を向けられながらも)作中に厳然と存在する。
 死の舞踏の危険さと背徳性を充分に承知しながらも踊り続けるマリー、その呪いさえ商魂たくましく客寄せのネタにしようとするマックスやレビンたち。しかしその思惑は、死の舞踏の呪いの恐怖が世界中に広まっていくなかで、次第に少しずつ歯車を狂わせていく…。
 いや、68年に他界するウールリッチのほぼ晩年の長編だから、筆も疲れ、かなり破綻した内容だろうと予期しながら読み出したが、そう覚悟しながらページを捲るなら、これはそれなりに楽しめない事も無い一冊であった。
 恋人(のちに夫)となるマックスの愛情に揺らぎを感じるマリーの焦燥、死の舞踏の呪いが真実と認めざるを得なくなっていくなかで離れていくバンド仲間、次第に場末の演芸場に追いやられていく主人公夫婦の辛酸…。これらの叙述がそれぞれなかなか心に滲みる(ただし総じて、荒っぽい描写ではある)。
 さらに終盤、死の舞踏を前にきわめて悪趣味な思惑を抱くギャンブラー、ハーフ・フォンティンのキャラクターなどは実に往年のウールリッチらしい。

 まあ黄金期のウールリッチのブラックシリーズの上位作あたりと比べたらどうしようもない作品なのは確かだが、ファンとして一回くらいは読んでおきたい一冊。 


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