海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
拳銃売ります
グレアム・グリーン 出版月: 1952年01月 平均: 8.00点 書評数: 1件

書評を見る | 採点するジャンル投票


早川書房
1952年01月

早川書房
1959年01月

早川書房
1980年09月

No.1 8点 クリスティ再読 2022/03/07 17:59
兎唇に生まれ父は絞首刑、母は自殺と世の中の不幸を一身に背負ったようなギャング、レイヴンは依頼を受けてヨーロッパ某国の大臣を暗殺した...ロンドンに戻ったレイヴンはエージェントから報酬を受けるが、そのカネは金庫破りで紙幣にアシがついた金だった。追われるレイヴンは自分をハメた男チャムリーとその黒幕への復讐を誓って、イギリス北部の町ノトウィッチに赴く。その途中でレイヴンと関わり合った娘アンは、レイヴンを追う刑事マザーの婚約者でありながら、次第にレイヴンの復讐に関わっていく...

グリーンのエンタメテイメントでも、代表的な作品と言えるだろう。実際、この筋立てならば、ホントにノワールらしいギャング小説なんだよね。しかし、グリーンだからこそ、各人物の心理描写が独自であり、それぞれがそれぞれを裏切りる痛みを抱えながら、活劇として結末まで転がっていく小説である。
言い換えると、ギャング小説の中に「罪と許し」といったカトリック的主題が乱入してきているようなもので、実際そういう宗教的要素が逆に「ギャング小説」が備えている「モノガタリの原型」を露呈するような瞬間というのが、確かにある。
だから「ギャング小説」と「宗教的主題」がそれぞれを「裏切り」ながら絡み合って互いに侵食しあう「逆転の小説」とも言える。追う者は追われるものに、裏切りゆえに愛され、ワルモノは聖者に...さらに、そこに社会的なテーマも加わってきて、このレイヴンが依頼された暗殺事件が、戦争をわざと引き起こすためのきっかけに利用されるものだ、というような背景も本書が書かれた第二次大戦直前の緊迫した状況も反映している。

なので、かなり多面的な小説である。筋立てを追うのもよし、悲惨な生い立ちのレイヴンをダークヒーローとして捉えるのもよし、登場人物の相互の裏切りの話として「人間の悪」に思いを寄せるのもよし。それでも、評者は、

彼は自動拳銃を手にして、流しの下にじっと坐ったまま泣きだした。泣き声は立てなかった。涙が蠅のように、自分勝手に、目の隅から流れ落ちるようだった。

こういう表現に打たれる。レイヴンの復讐は意図せず結果として、世界を戦争の瀬戸際から救うのである。
(ひょっとして「蠅」は「縄」の誤植か?まあ、どっちでもナイス)


キーワードから探す
グレアム・グリーン
1981年05月
ジュネーヴのドクター・フィッシャー あるいは爆弾パーティ
平均:6.00 / 書評数:1
1979年12月
ハバナの男
平均:7.00 / 書評数:2
1979年07月
ヒューマン・ファクター
平均:8.50 / 書評数:4
1978年06月
もうひとりの自分
平均:7.00 / 書評数:1
1959年01月
事件の核心
平均:6.00 / 書評数:1
恐怖省
平均:6.00 / 書評数:2
1956年01月
おとなしいアメリカ人
平均:6.00 / 書評数:1
負けた者がみな貰う
平均:6.00 / 書評数:1
1953年01月
スタンブール特急
平均:6.00 / 書評数:1
1952年01月
拳銃売ります
平均:8.00 / 書評数:1
ブライトン・ロック
平均:7.00 / 書評数:1
情事の終り
平均:6.00 / 書評数:1
1951年01月
第三の男
平均:5.67 / 書評数:3
密使
平均:6.50 / 書評数:2