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[ SF/ファンタジー ]
華氏451度
レイ・ブラッドベリ 出版月: 1956年06月 平均: 7.00点 書評数: 4件

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元々社
1956年06月

早川書房
1975年01月

早川書房
2008年11月

早川書房
2014年04月

No.4 6点 蟷螂の斧 2024/08/02 23:29
ディストピアを描いているが、やや物足りない感じがした。それは、国民が政府によって洗脳されているという視点・観点が弱いからだと思う。同じディストピアならば「一九八四年」(ジョージ・オーウェル・1949年)に軍配を上げたい。また、なぜ「本」が必要なのかも響いてこなかった。やはり「聖書」なのか?。「世間では過去の人の言葉を有り難がって、書物を大切にしているが、言いたい究極のものは、決して他人に言葉では伝達できないものである」(荘子)これを論破して欲しかった(笑)。まあ、本書は想像力や思考力の欠如を指摘しているので、論点が違うと言えば違うのですが・・・。

No.3 6点 メルカトル 2023/11/04 22:36
華氏451度―この温度で書物の紙は引火し、そして燃える。451と刻印されたヘルメットをかぶり、昇火器の炎で隠匿されていた書物を焼き尽くす男たち。モンターグも自らの仕事に誇りを持つ、そうした昇火士のひとりだった。だがある晩、風変わりな少女とであってから、彼の人生は劇的に変わってゆく…。本が忌むべき禁制品となった未来を舞台に、SF界きっての抒情詩人が現代文明を鋭く風刺した不朽の名作、新訳で登場!
『BOOK』データベースより。

今回は虫暮部さんが「棺に入れて欲しい・・・」で紹介して下さった作品です。実はこれ随分前に中古を購入していまして、いつか読もうと思いながらもなかなか踏ん切りが付かなかった、半分忘れていたものでした。読む切っ掛けを作って下さりありがとうございました、虫暮部さん。

なるほど、おっしゃる通り、「最期のジョーク」ですね。
本作はかなり詩的に書かれており、行間を読むのが苦手な私は、おそらくその魅力の全てを体感する事は叶わなかったと思います。ですので、あらゆる書物を燃やし尽くす焚書官という仕事に就いているモンターグが、何故書籍に興味を惹かれていったのかという、心境の変化がいまひとつ理解出来ませんでした。それ程少女との出会いが劇的だったのかと云うと、そうでもなく、自分でも知らずのうちに焼き尽くす仕事に疑問を持ち始めたような気がします。その辺りをもう少し掘り下げても良かったのではないかと思いましたね。
それにしても、その少女が序盤で呆気なく退場してしまったのは、例えば日本の小説などにはあまり見られないものでした。どう考えても、キーパーソンの一人のはずなのに、そんなに簡単に切り捨てて良いものかと、私などは勿体ないなと感じました。

その後、二人の重要人物との邂逅で更に目覚めた彼は、どのような道を辿ろうとするのか、大変興味が持てます。自分では括目して読んだつもりです。終盤俄かに盛り上がって来て、増々面白くなってきて・・・。後は読んで下さい。先の評者のお二人が8点という高得点を付けておられるのは伊達ではないと思いますので、一読の価値はあるはずです。しかし読者を選ぶ作品であろう事は想像に難くないですね。

No.2 8点 E-BANKER 2020/05/06 14:59
前々から読もうと思っていた本作。ついつい後回しになっていたのだが・・・
「火星年代記」などと並んで作者の代表作と行ってもいい作品。
1953年の発表。

~華氏451度・・・この温度で書物の紙は引火し、そして燃える。451と刻印されたヘルメットを被り、昇火器の炎で隠匿されていた書物を焼き尽くす男たち。モンターグも自らの仕事に誇りを持つ、そうした昇火士(ファイアマン)のひとりだった。だがある晩、風変わりな少女と出会ってから、彼の人生は劇的に変わっていく・・・本が忌むべき禁制品となった未来を舞台に、SF界きっての抒情詩人が現代文明を鋭く風刺した不朽の名作!~

独特の雰囲気、独特の筆致。これがブラッドペリか・・・と唸らされた。
何ていうか、実に映像的なのだ。
あらゆる書物が禁制品となった世界、火を放つホースを持った消防士、じゃなかった昇火士(火をつける職務だからね)、パトロールする凶悪なロボット猟犬・・・
頭の中に幻想的、ファンタジックな映像が自然に浮かんできた。
これって、すごいことだ。

「書物」。本作では「書物」が人間の根源的なものとしてシンボライズされている。
物語の中途、反体制を唱える老博士が主人公モンターグに対して、「こうした書物がなぜ重要なのか、お分かりかな? それは本質が秘められているからだ。<中略>これで必要なもののひとつめが明らかになった。情報の本質、特性だ・・・」と語っている。
体制を維持したい独裁者は、必ず情報をコントロールする方向へ舵を切る。
マスコミが流すあらゆる情報がコロナウィルスに独占された感のある昨今。例えば、今なら、国民全体を情報統制するのは実に簡単なのではないか?
知りたい情報がすぐに得られる現代社会は、知りたくない情報は知らなくていい社会でもある。
何が正解で、何が間違いなのか、その境界が非常に曖昧・・・すべてがスピード最優先、そんな社会に何とも言えない違和感を覚える・・・

いやいや脱線してしまった。1953年の発表かぁ・・・スゴイことだ。

No.1 8点 クリスティ再読 2020/04/14 22:13
トリュフォーの映画ともども有名作。映像文化の発達した未来、本を読むことも所有することも禁止された世界で、禁制の本を焼くファイヤーマンを職業とするモンターグは、クラリスという少女と出会ったことをきっかけに、本に魅せられていくようになる...という話。
「1984年」のブラッドベリ版みたいなところがある。本が禁止されるのは、

人間は、憲法に書いてあるように、自由平等に生れてくるものじゃない。それでいて、けっきょくは平等にさせられてしまう。だれものが、ほかのものとおなじ形をとって、はじめてみんなが幸福になれるのだ。高い山がポツンとひとつそびえていたんでは、大多数の人間がおじけずく。(略)考える人間なんて存在させてはならん。本を読む人間は、いつ、どのようなことを考えだすかわからんじゃないか。

という理由。「1984年」のニヒリズム独裁ではなく、大衆社会の悪平等から来る反知性主義をうまく名指している。イマのポピュリズムの傾向を予言したようなもので、「1984年」の問題よりもアクチュアルなところがあるのが手柄である。しかし、本が禁止される代わりにテレビのショーや、マンガ、

そして、同時に、政府当局は考えだしたんですよ。国民には情熱的な唇とか、拳骨で腹を殴りあう物語とか読ませておくにかぎるとね。

とエンタメに特化した娯楽だけを提供するようにしたわけだ。としてみると、この「華氏451度」という本の存在自体が、かなり両義的な問題を含んでしまう。これが面白い。
実際、ブラッドベリも娯楽本位のパルプ・マガジン出身者のわけだし、この本も典型的な「ジャンル小説」のSFということになる。まあ今評者が書いているのもエンタメの大ジャンルの一つの「ミステリ」の専門書評サイトだ(苦笑)。「エンタメであることを否定するエンタメ」という自己否定的な本、という読み方もできるのだけど、まあそこまで考えなくてもいい。
本というものは、確かに商業的に書かれてビジネスとして書店に並べられ、買われて消費される。そういう意味ではタダの消費財にすぎない。しかしね、本書が指摘するように、「本の背後には人間がいる」。本に「著者」がついている限り、書店でも本というものは「商品のフリ」をしているに過ぎない。人間はそれ自身、売り物にはならない。
同様にSFやミステリといった「ジャンル小説」であっても、そのジャンルのルールに忠実であることがすべてではなく、そのルールに反逆したり、逸脱したりといった作者の創意と自意識によるジャンルとのせめぎあいに、一番の面白味があると評者は思っている。だからこそ、その本固有の面白味があり、その作者の独自の味わいがあり、そういうことを見つけていくのが書評である、と思うんだけどね。
もちろんブラッドベリなんていえば、SFでもジャンルから逸脱気味の作風であることは言うまでもないし、けして読みやすく消費しやすい文章でもなくて、商品としての価値が低いか...というと、そんなことはあるもんか。しかしね、ブラッドベリはさらにもう一つ奥に、両義性を抱え込んでさえもいる。「火星年代記」でも感じることだが、アメリカ特有の野人的価値観というか、もちろん反知性主義ともかなり重なって、本書の焚書を肯定するような感受性に、ブラッドベリのある部分は明白に魅せられている。文化を燃やし尽くす炎は美しい、

およそこの世界に、炎ほどうつくしいものはないだろうな。

トリュフォーの映画はこのポイントをきっちり押さえている。映画では燃やされる本の捲れて燃え上がりながらページを繰っていくさま、紙が褐色になり黒ずみ、黒い印字が逆に白く反転して見えるようになるさま、厚紙の表紙に気泡が膨れ上がるさま..を執拗に撮影している。この側面が否定できないからこそ、実のところ本書のどんな結末も、仮の結末にしかならないのだろうね。


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レイ・ブラッドベリ
1986年06月
死ぬときはひとりぼっち
平均:6.00 / 書評数:1
1985年10月
お菓子の髑髏:ブラッドベリ初期ミステリ短篇集
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1975年01月
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1974年09月
メランコリイの妙薬
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1968年04月
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1965年01月
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1964年09月
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1956年06月
華氏451度
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1956年01月
火星年代記
平均:6.50 / 書評数:2