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[ SF/ファンタジー ]
何かが道をやってくる
レイ・ブラッドベリ 出版月: 1964年09月 平均: 8.00点 書評数: 1件

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東京創元社
1964年09月

東京創元社
2023年07月

No.1 8点 人並由真 2023/09/23 08:19
(ネタバレなし)
 その年の10月。ハロウィーンが近づくイリノイ州の片田舎グリーン・タウン。そこに住む13歳の幼馴染同士の少年ジム・ナイトシェイドとウィル・ハロウェイは、いかがわしい避雷針のセールスマン、トム・ファリーとの出会いを経て、さらに不思議な体験をする。それは深夜に、鉄路の彼方から町にやってきた奇妙なカーニバル巡業団の出現を目撃したことだった。

 1962年のアメリカ作品。
 ブラッドベリの第五長編。少し前に刊行された新訳は評判がいいようだが、評者は先日入手した旧訳の古書で読了。それでも十分に良かった、面白かった。

 評者は初読ながら、本作はブラッドベリの長編代表作のひとつで人気作なのはたぶん間違いないだろうし、そんなメジャー作品ゆえにある程度は設定や趣向(男子主人公コンビに加え、誰が三人目の主人公格になるか、とか)などもすでに見知っていた。
 が、本書の場合、それでネタバレになってつまらなかったということもなく、むしろ賞味の焦点、楽しみどころを見定めながら読み進められてよかった感がある(それでもこのレビュー内では、誰はもうひとりのメインキャラになるのかは、一応ナイショにしておく)。

 内容は、現代(刊行当時)のアメリカ地方を舞台にしたダークファンタジーであり、詩情とヒューマンドラマ的なメッセージをたっぷり盛り込んだホラースリラーアクションである。

 日本の作品でいえば、水木しげるのノンシリーズものの奇譚中編やのちの菊地秀行に繋がるエンターテインメント性もあり、一方で舞台装置のスモールタウンへの魔性の侵食という意味合いにおいて、我らがキングの『呪われた町』あたりへの影響も感じさせる。これでつまらない訳はない。

 前半、男子主人公の担任である初老の女性教師ミス・フォレーがカーニバルのミラーハウスに閉じ込められかけ、そこで何を見たか、というあたりからホラーサスペンスとしてのギアがかかり、中盤の対空戦の辺りなど、うおおお……! というワクワク感であった(笑)。
 でまあ、この調子で、後半の山場に至るまで名場面やインプレッシブなシーンなどは、いくらでも書けるが、その羅列はこの拙いレビューの決して本意ではない。サワリのごく一部を語らせてもらっただけなので、興味をもたれた方はぜひとも実作を読んでほしい。

 クライマックス、衒(てら)いもなく剛速球で、しかしあくまで自然体で、この魔性との戦いの向こうにあるメッセージ性を読者に向けて叩きつけてくる作者の胆力には改めて恐れ入ったが、それ以上にストイックの極致ともいえる主人公たちの最後の決断など大泣きさせられた。

 あえて不満を言えば、作中のリアルとしてこの物語の向こうの明日が見えにくい感もあるが(もしかしたら、その辺は評者の読みが浅いのか?)、一方でそういう方向にこだわるのもヤボ、主人公たちの行動と熱弁で、この物語の主題はちゃんと言い切ってしまっている、といえばそうかもしれない。
 
 もちろん、フレドリック・ブラウンの『三人のこびと』そのほかの50~60年代アメリカンミステリなどの一部に散見される、カーニバルやサーカスなどといった題材をとても魅惑的に、そして十分に妖しく描いた作品なのは言うまでもない。アメリカの読者で肌でその辺の興趣に通じた人とかには、たまらない作品だろうね、これ。

 しかしオレ、昔っからブラッドベリはそれなりに好きなつもりだったが、よく考えると楽しんだ(あるいは胸打たれた、怖がった)のは短編ばっかで、長編を読むのはこれが初めてであった(汗)。
(あ、もしかしたら、後年のハードボイルド三部作のどれかは邦訳の新刊時に読んでいるかもしれないけど、もし読んでいたとしたら、まったくものの見事に内容も印象も忘れてる。)
 でもってブラッドベリの長編といえば、もっと、なんらかの大設定の枠のなかで、短編と短編をつなぎあわせたような構成かとなんとなく思っていたので、ちゃんとしっかり長編っぽい長編だったのはちょっと意外(?)。
 遅ればせながら、少しずつ未読の名作長編群も消化していきましょう。


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レイ・ブラッドベリ
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