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[ ハードボイルド ]
猫は夜中に散歩する
バーサ・クール
A・A・フェア 出版月: 1961年08月 平均: 5.50点 書評数: 2件

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1961年08月

早川書房
1981年08月

No.2 6点 人並由真 2020/07/21 18:41
(ネタバレなし)
 その年の4月のロスアンジェルス。バーサ・クール&ドナルド・ラム探偵事務所を、独立営業セールスマンのエヴレット・G・ベルダーが訪ねた。以前の共同経営者ジョージ・ナンリーと金銭上の揉め事を抱えたベルダーは、知人に紹介されたやり手のトラブルコンサルタントとしてラムに相談を求めに来たが、あいにくラムは欧州に旅行中だった。ベルダーから事情を聞いたバーサはそこにもうけ話の匂いをかぎつけた。だが、この案件が済まないうちに、匿名の密告者からベルダーの妻メーブル宛に、ベルダーと女中サリー・ブレントナーが密通しているという手紙が送られてきた。その手紙は妻が見る前にベルダーが抑えたが、実はべルダーの全財産は差し押さえをのがれる為に妻メーブルの名義になっており、メーブルを怒らせたらベルダーは一文無しで放り出される弱い立場だったのだ。話が面倒になっていくと思いながらも依頼人のため、匿名の密告者を探し始めるバーサだが、そんな折、予期しない殺人事件が発生して。

 1943年のアメリカ作品。ポケミス版で読んだので、訳者あとがきの類はなかったのがちょっと残念。

 バーサひとりで活躍する「ラム&クール」シリーズ変化球路線の一本だが、これがなかなか快調。
 とにかく登場人物の大半が、バーサやベルダーを筆頭に「カネ・カネ」の論理で動き回り、儲けたい一方で無駄な金はわずかなりとも出したくない。その徹底ぶりは、ものの見事に清々しい(笑)。
 おなじみの秘書エルシー・ブランドの支援を受け、フランク・セラーズ部長刑事との協力と軋轢を重ねながら「なにがなんでもカネにしてやる」の精神で突き進んでいくバーサ。そんな彼女が今回はラム不在ゆえに自ら前線に出た分、思わぬ形で足をすくわれ、(財政的に)大ピンチになりかける趣向も面白い(ここではあまり詳しくは書かないが)。
 
 ミステリとしては確かに錯綜した事件だが、人物リストを作りながら読むとそれほどフクザツという訳でもない。とあるキーパーソンの正体をぎりぎりまで読者に明かさないのはちょっと……という感じがしないでもないが、これはたぶんセラーズがバーサの視界から隠していたんだろうね。まあしょうがない。
 最後、いっきに、バーサからのラムへの私信の形で事件の真相をドバッと語ってしまう作劇はいささか豪快すぎるが、あれよあれよといううちに色んな情報を託されるジェットコースター的な感覚が楽しくもあった。殺人トリックも小技ながら、ちょっと印象的。

 しかしこの終盤の描写には、かなり驚いた(!)。フェア(ガードナー)先生、この時点ではこのシリーズで<こんな展開>をしようかと、考えていたんですな。結局は、マトモに次の作品には続けなかった文芸みたいだけれど(笑)。

No.1 5点 弾十六 2018/11/09 05:02
クール&ラム第8話。1943年8月出版。ハヤカワ文庫で読了。
実は第7話や第9話と繋がりが悪い本作。ラム君は「休暇でヨーロッパ(He's in Europe, on vacation)」で不在、バーサはラムが帰って来るまで頑張ろう、と殊勝なんですが、第7話と第9話では明確に「軍務で不在だった」となっています… そしてセラーズ刑事が再び登場しますが、バーサとの関係性も変なんです。(第9話以降、本作が無かったような感じになっています)
バーサひとりの探偵家業が前作に引き続き始まります。コウモリ事件への言及があり、すぐあとの事件であることがわかります。日付は「19--年4月8日」とボカされてますが… (この日は木曜日と書かれてるので該当は1943年なんですけどね) 「8:45って表示してるけど実際は7:45のくせに」とぼやくバーサのセリフを翻訳ではUSA標準時が4つあるためのジョーク?として注釈していますが、これは戦時時間(1942年2月から実施、時計を1時間早める省エネ策)のことだと思います。筋立てはいつものように起伏が多く、解決は結構複雑です。(大ネタを割っているのでコミさんの訳者解説は先に読まない方が良いですね)


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