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[ 本格 ]
おめかけはやめられない
バーサ・クール&ドナルド・ラム
A・A・フェア 出版月: 1962年01月 平均: 5.00点 書評数: 3件

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早川書房
1962年01月

早川書房
1986年05月

No.3 6点 人並由真 2020/10/19 05:52
(ネタバレなし)
 ロスアンジェルスのとあるドライブインの周辺で、現金輸送の武装トラックから10万ドル(1000ドル紙幣が100枚)奪われる事件が発生した。容疑者の前科者ハーバート・バクスリィは証拠不十分なまま警察の監視下で泳がされるが、一方で盗んで隠匿されていた金は一応、発見される。だが見つかった現金は半額しかなく、未回収の5万ドルは捜査に関わったフランク・セラーズ部長刑事が横領したのでは? との嫌疑が生じる。バクスリィは事件の前後に若い娘ヘイゼル・ダウナーに電話連絡をしており、セラーズは自分の潔白を晴らす手がかりを求めてそのヘイゼルをマークする。だが当のヘイゼルは「ぼく」こと私立探偵ドナルド・ラムとそのパートナー、バーサ・クールの探偵事務所に接触してきた。

 1960年のアメリカ作品。クール&ラムシリーズの第20弾で、今回はおなじみセラーズ部長刑事が窮地に陥るのが最大の特色。
(とはいえ物語の上ではセラーズの逆境はさほどダイレクトには描写されない。ほぼ普段通りに、くだんの事件の捜査も続けている。)

 主人公ラムは事務所に現れた美女ヘイゼルの依頼を受けて、大金を持ち去ったという彼女の夫スタンドリイの行方を追う。ラムは、ヘイゼルが先の現金奪取事件にも関係するか確認しようとも考えている。だがそのうち、事態は殺人事件にまで発展してゆく。
 
 ハイテンポな筋運びはいつものこのシリーズらしくてよいのだが、関係者から芋づる式に得た情報が次々と、ちゃんと何かしら事件がらみの手応えに繋がり、それがほぼ100%ヒット。さすがにこの話の流れは、少しウソくさい(汗)。

 とはいえその辺は作者フェア=ガードナーもわかってやっているみたいで、作中で登場人物たちがテレビドラマの探偵ものを話題にして「向こうは番組によっては30分で事件が起きて捜査があって解決までしてるんだ」とうそぶく。つまり、少なくともこっち(小説のラム&クールシリーズやメイスンシリーズなど)は同じくストレスも淀みもなくストーリーが進行するにせよ、もうちょっと手の込んだことを毎回やっているんだぞ、というメタ的なアピールにも思えてくる(笑)。

 それでラム君が調査の対象を広げていくなかで、自宅でそんな探偵もののテレビドラマばかり観ていて、本物の探偵(ラム)に出会って目を輝かせる冴えないOL、アーネスティン・ハミルトンが後半に登場。
 この娘は物語のポジション的にはたまたま調査の上で出会ったサブヒロインだが、なぜか事件の流れにグイグイ引き込まれ、最後には主人公のラムから一種の社会リハビリ的な後見まで受けかける。
 この辺もなんか、テレビドラマの探偵ものがはやりだした時代? ならではの作者の含みっぽい(テレビのお手軽な探偵ものばっか熱中してちゃダメだよ、と暗に言っているような)。

 それで終盤、殺人の真相は、かなり斜めの方向から明かされる。まあそういう謎解きの感触はガードナー作品にはよくあることながら、今回は凶器の趣向というか素性もふくめて、ちょっとひときわ妙な印象のものであった。

 登場人物では、セラーズとは別の足場からラムと渡り合うサンフランシスコの警部ギャドセン(ビル)・ホバートの老獪なキャラクターがなかなか印象的。終盤にいきなり見せ場を用意されるバーサの扱いもなかなかのインパクト。作戦のためにラムと夫婦の真似事を演じ、その最中にあれこれと余計なことを考えてぼやく秘書のエルシーは可愛い(笑)。
 
 ちなみにタイトルは、ラムから「結婚して落ち着いた生活をしたら」という主旨の進言を受けた某ヒロインが「あたしは囲い者が辞められない女だから」とうそぶく場面から。邦訳の題名だけだとスレッカラシめいた強気な物言いっぽいが、実際には、そこはかとないペーソスがにじむ一言だ。

 シリーズのなかでは、中の中~中の上くらいの面白さだと思うよ。

No.2 5点 弾十六 2020/01/31 00:20
クール&ラム第20話。1960年9月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
セラーズ部長刑事にトラブル発生ですが、私立探偵の介入を断ります。ラム君は依頼人のために事件に首を突っ込み、エルシーとハネムーン。警察から虐められながらも、カンと推理と素早い行動で事件を解決。探偵趣味の簿記係が活躍します。カメラ店支配人は日本人タカハシ・キサラズ。クール&ラム事務所の事務員の名前がもう一人判明、受付係ドリス・フィッシャー。
(2017年7月15日記載)

No.1 4点 nukkam 2016/12/03 08:40
(ネタバレなしです) 1960年発表のバーサ・クール&ドナルド・ラムシリーズ第20作です。ドナルドの活躍ばかりが目立つことも多いシリーズ作品ですが本書ではバーサも結構活躍しています。10万ドルの大金が盗まれ、5万ドルは取り返したが残りの5万ドルがまだ見つからない事件を扱います。ドナルドは見事に金を発見するのですが何者かの小細工でその金が消えてしまうのです。殺人事件まで起こり警察からの横槍をかいくぐりながらの捜査が続きます。容疑者は結構多いのですが登場場面の少ない人物が多くて誰が誰だかなかなか把握しきれず、散漫な印象のプロットです。推理による謎解き伏線の回収もほとんどなく、結果のみの真相説明に近いのも本格派推理小説好きの私には物足りませんでした。


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