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[ ハードボイルド ]
静かな炎天
葉村晶シリーズ
若竹七海 出版月: 2016年08月 平均: 6.29点 書評数: 7件

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文藝春秋
2016年08月

No.7 6点 パメル 2022/02/02 09:10
仕事はできるが不運すぎる女探偵葉村晶シリーズ第五弾で六編からなる短編集。
「青い影」暴走ダンプの事故現場に居合わせたことがきっかけで窃盗事件を目撃する。
「静かな炎天」書店のご近所さんが次々に葉村に仕事を依頼してくる。
「熱海ブライトン・ロック」三十五年前に失踪した作家の関係者を探す。
「副島さんは言っている」長谷川探偵調査所の同僚が立てこもり事件に巻き込まれる。
「血の凶作」戸籍が他人に使われていた事件を調べる。
「聖夜プラス1」本を取りに行くというだけの簡単なお使いがなぜか妙な方向に転がっていく。
尾行あり人探しあり、電話だけで謎を解く安楽椅子探偵あり、格闘ありとバラエティーに富んでいる。共通するのは、葉村の鋭い洞察力とへこたれない行動力、ニヤリとするツッコミ、それが関わってくるのかという伏線の妙。
常連のサブキャラや新たな登場人物たちも一癖二癖もあり楽しめる。葉村の初登場は「プレゼント」でその時は二十代のフリーターだった。この作品では四十代となり、書店のアルバイト店員にして正規の探偵である。これまで、住むところも仕事の形態も変わってきたが、二十代から一貫として変わらないのが、仕事熱心で頑固で有能でありながら、トラブルを引き寄せる体質、頼まれると断れない性格、それに軽やかなユーモアと毒。
ミステリはもちろん謎解きも大事だが、ヒロインは魅力的であってほしい。その点、葉村晶はカッコよくて共感出来て笑えるなど魅力たっぷりだ。

No.6 6点 まさむね 2020/09/21 11:04
 6編から成る、葉村晶シリーズの短編集。それぞれの短編で葉村の活躍が楽しめます。メインの事件(?)の調査の進展、広がり、転換など、安定的な面白さがありますね。
 一方で、短編の途中で2~3日空いてしまうと、登場人物名や人間関係が分からなくなっちゃたりも。まぁ、自分のせいなのだけれども、本作の収録短編については、通しで一気に読んだ方がより楽しめると思います。それだけ、各短編が「濃い」ということなのかな。

No.5 6点 HORNET 2020/01/14 18:35
 本シリーズは以前長編を読んだのだが、それは登場人物の相関関係が非常にややこしくて読むのが非常に疲れた覚えがあったが、こちらは大変読み易く、作風も長編以上にユーモアたっぷりで気軽に楽しめた。
 今時珍しい「私立探偵」を主人公としている本シリーズだが、葉村晶はインターネット検索を多用していて、特に彼女じゃなくても調べれば誰でも分かるようなことも多い。実際もこんなものなのだろうか。もちろん尾行や周辺への聞き込みなど、探偵ならではの調査もあるが。

 私としては表題作「静かな炎天」と「副島さんは言っている」がよかった。

No.4 7点 2020/01/06 23:17
葉村晶シリーズ久々の短編集、収められた6編、7月から12月までの各月にちなんだ作品になっています。葉村はミステリ専門書店〈MURDER BEAR BOOKSHOP〉でバイトもしていて、ミステリのことがふんだんに語られますので、これはどこかでクイーンの『犯罪カレンダー』が言及されるかとも思っていたのですが、ありませんでした。しかし最後には作中書店の富山店長からということで、出て来るミステリの解説が入れてあります。
長編『悪いうさぎ』はハードでしたが、本作の短編はいずれも軽いノリで、笑えます。これがなんとなくハードボイルドらしいユーモアなのが楽しい。次々に舞い込む依頼があっという間に片付いていき、最後に意外な関連性が浮かび上がる表題作が最も気に入りました。最後の『聖夜プラス1』は、ほとんどミステリじゃないって感じですが、それでもやはりおもしろく、タイトルの意味にも納得。

No.3 5点 makomako 2018/12/07 21:13
 この短編集は評判が良いようです。確かに話の作りがきちんとしているし、短編の中に複雑な内容がぎっしり詰まっているといった感じなのです。
 私は人の名前を覚えるのが苦手で、最近は年のせいでさらにその傾向が強くなり、本作品のように名前だけが出てきて、その人の外見や特徴の描写が少ないと誰がどうなのかがわからなくなってしまうのです。せっかく凝った内容なのに何が何だかわからなくなってしまいました。
 葉村晶についてもなかなか魅力的なキャラクターなのですが、容貌がどんな感じなのか、スタイルはどうなのか(多分あまりすぐれないようなのですが)胸はどうなのか、足の形は良いのだろうかなど男にとってはかなり気になるところが、ほとんど述べられていませんので彼女の具体的なイメージがややわきにくいのです。
 私の記憶力が悪いのが原因と思いますが、せっかくの作品があまり楽しめませんでした。こんなに濃い内容なら長編にして、人物の描写をもっと加えてもらえたらずっと楽しめたと思います。

No.2 7点 E-BANKER 2017/03/04 15:41
文春文庫オリジナルとして2016年に発表。
作品としては「さよならの手口」以来だが、短編集としては「依頼人は死んだ」以来十六年ぶりとなる本作。
今や“プチ・ブレーク”中の葉村晶シリーズの最新作。

①「青い影」=暴走ダンプが引き起こした大事故に偶然遭遇するところから始まる第一編。ひょんなことから、事故現場で起こっていた窃盗事件を調べることになった晶が巻き込まれる騒動その他・・・。まずまず静かな幕開け(??)
②「静かな炎天」=創元文庫版「怪奇小説傑作集Ⅰ」に収録されたW.Fハーヴァー「炎天」がインスピレーションとなった本作。四十肩に苦しむ晶のもとに次から次へと依頼が持ち込まれる・・・。アラアラ大変って思ってると、実は・・・っていう展開。都会の暑さって半端ないもんねぇ。
③「熱海ブライトン・ロック」=時代の寵児となった若き小説家の失踪事件が絡む本作。出版社からの依頼でまたしても奔走することになった晶が巻き込まれる騒動その他・・・。何といっても奥多摩にいる男の住まいが問題!! ○キ○リがぁ!!!!
④「副島さんは言っている」=昔の職場の同僚だった男から急に掛かってきた電話。探ってくれと頼まれたのは昨日殺された女性だった・・・。っていうことで、ネット検索だけで事件に迫ろうとする晶なのだが・・・。ラストは唐突に終わったような。
⑤「血の凶作」=D.ハメットの名作「血の収穫」をもじった本編。戸籍が他人に使われた事件を追って、またしても他の騒動に巻き込まれる晶・・・っていう展開。バブルの狂騒が事件の背景になるんだけど、いろいろあったんだろうなぁ、あの頃は・・・。
⑥「聖夜プラスワン」=当然ながらG.ライアルの「深夜プラスワン」のもじりだろうと推察される本編。そう、まさにそのとおりです。本編中で最も酷い騒動に巻き込まれる晶。クリスマスイブという特別な日に、新宿~多摩間を行ったり来たりさせられるはめに・・・。いやいやお疲れ様でしたと言いたくなった。

以上6編。
ホント、このシリーズはいい。
作者も“葉村晶”というキャラクターが好きなんだろうね。実にイキイキと描かれていると思う。
プロットはやや甘いかなというところがなきにしもあらずだけど、それを補って余りある雰囲気と面白さだ。

次作も当然期待してるし、長らく続けて欲しいシリーズなのだが、第一作目で二十代だったはずの晶が四十代。作中での加齢に関する愚痴はもはやお約束。(では五十代になったらどうなんだろう?)
この辺もシンパシイを感じてしまうところ・・・

No.1 7点 人並由真 2016/10/13 08:52
(ネタバレなし)
 文庫オリジナルで刊行された、作者おなじみの女流私立探偵・葉村晶を主人公とする連作短編集。本書は300頁強の紙幅で、各話がまあ50頁前後の長さだから一本一本は中編と言った方がいいかも。
 全6話の事件簿が、七月から十二月の半年間に月に一件ずつ生じたという流れ・設定で収録されている(もとは順不同で「別冊文芸春秋」に発表された5本の中編を、ものによっては多かれ少なかれ改稿。その5編に新作の正編一本と、おなじみ恒例の読書ガイド部を書き下ろしてまとめている)。

 葉村晶の私立探偵歴としては一昨年の新作長編『さよならの手口』の後の時系列で、ちょっとだけその事件の話題も出てくるが、もちろんそちらを未読でも楽しめる。
 内容的には、例によって一本一本が芳醇なユーモアと適度なサスペンス、そして起伏に富んだ筋運びと魅惑的に攻めてくる謎の提示、忘れちゃならない私立探偵としての矜持、くわえて新旧世代のミステリマニア読者をくすぐるお遊び心に満ちている。これ以上なにを望むことがあろうか。ああ、幸せ。

 収録編は全6本、いずれも粒ぞろいの秀作・傑作だが、個人的なベストは少しだけグルーミィでしかし切ない幕切れを迎える表題作「静かな炎天」(8月・なんか仁木悦子の一部の短編風だ)。それと都会のなかの無常をしみじみ語る「血の凶作」(11月)もいい。「副島さんは言っている」(10月)は、着想と話の転がし方、まとめ方にそれぞれニヤリ。
 まさに眠る前一本ずつ読んで、その週が確実に幸福感で満たされる一冊。

 葉村晶には、またそう遠くない頃にお目にかかりたい。


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