home

ミステリの祭典

login
シーマスターさんの登録情報
平均点:5.94点 書評数:278件

プロフィール| 書評

No.198 6点 よもつひらさか
今邑彩
(2011/05/10 22:15登録)
今邑節全開のホラー&ミステリー12編からなる短編集。

この人の他の短編集と同様に実に読みやすい、というか一気に読まされてしまう。
ただしネタは驚くほど古いものが多く、読みながら「まさかアレじゃないよな」と思わせられて結局アレだったりする話が少なくないが、そのこと自体はさほど大きな欠点にはなっていないと思う。
加工が上手いし、構成が巧みで、とにかく語り口で読ませてくれる。

本書の中で個人的に最も印象に残ったのは「ささやく鏡」。
純然たるホラーだが引き込まれるストーリーで捻りも効いている。
そして何よりラスト・・・・・「それだけは勘弁してくれー!!」と叫びたくなる絶望感。


No.197 6点 つきまとわれて
今邑彩
(2011/05/02 22:40登録)
ホラーが得意でミステリにもホラーを絡めることが多い作者だが、本作はほぼノン・ホラーのミステリ短編集。(皆無ではない。ホラー度数2%ぐらい)

本作の中で1番面白いと感じたのは第1話の「お前が犯人だ」。
次が「吾子の肖像」。

最後から2番目(並び順で。面白さでは最下位)の「逢ふを待つ間に」は場違いと言ふか、この短編集に入っている意味がよくわからない。

ホラー風味より反転ミステリが好きな自分は、少し前に読んだ作者の短編集『鬼』よりこちらの方が好み。


No.196 6点 オロロ畑でつかまえて
荻原浩
(2011/04/27 21:08登録)
基本的にユーモア系といわれる長編小説って、所々の表現には笑えてもトータルの物語として「面白い」と思えたことが殆どないんだよね。(考えてみれば殆ど読んだこともないが)

それでもこの作者なら・・・・・と期待して本書を手にする。

しかし、 第1章を読み始めてすぐ「しまった、ド田舎のドタバタコメディか、完全に守備範囲外じゃないか」と眼前暗黒感に襲われる。
しかし、第2~4章は東京の広告代理店が舞台となり気を取り直すが、第5~9章の「準備活動」は個人的には面白いと思えるものではなかった。
しかし、「事」が起こり始めてからの第10~最終章はエキサイティングで意外性もある展開で一気に読了させられる。

物語の構成(特に「成功、転落、逆転」)、まとまりもよかったと思う。
安っぽいっちゃあ安っぽいかもしれないが、正直グッときたところもあり読み終わってみれば楽しめた一冊。


No.195 6点
今邑彩
(2011/04/26 20:15登録)
今邑氏らしい「毒」のあるミステリー&ホラー10編が収録された短編集。

今まで読んだ氏の短編集の中ではこれが個人的にベスト。(ていうかこれ以外の短編集は読んでいない)

正直、各々の「ネタ」に関してはさほど斬新さを感じず、むしろ「昔懐かしい風味のタブー小説」という感じを受けたが、麻薬のようなストーリーテリングで読み止まらない話ばかり・・・おっと自分は麻薬なんかやったことなかった。(当たり前だろっ)

言いかえれば、子供の頃、親に内緒で、縁日のあやしげな屋台で食べたギトギトの焼きそばや駄菓子屋で買い食いしたドギつく染色された色とりどりの小さな揚げせんべい等々を思い出させる食感・・・といったところが個人的な感想に近いかなぁ


No.194 6点 家日和
奥田英朗
(2011/04/16 21:38登録)
アラフォー(流行語になったのは2009年でしたっけ)の男女6人(34歳が1人いたかな?)に訪れた「ちょっとした日常の変化」を描いた6つの物語。

・「サニーデイ」・・ネットオークションにはまっていく主婦。
・「ここが青山」・・家事にはまっていく新主夫。
・「家へおいでよ」・・部屋作りにはまっていく別居男。
・「グレープフルーツ・モンスター」・・夢での快楽にはまってイク主婦。
・「夫とカーテン」・・職を転々とする猪突猛進型の夫がベイエリアの新築マンション街を見込んでカーテン屋を始めるという。
・「妻と玄米御飯」・・N木賞受賞を機に生活に余裕が出てきた作家の妻が裕福な主婦グループに仲間入りし「ロハス(健康と地球のためのライフスタイル)」にのめり込んでいくが、夫はあまり面白くない。 これって御自分がモデル?奥田さん。

奥田さんの今までの短編は(「ララピポ」を除いて)「起・承・転・結・爽」が水戸黄門にかなわぬまでもパターン化されていた印象だったが、本書の収録作は、最後の2話以外は、既作と異なり何とも表現しづらい読後感を残す話だった。それが斬新さを感じさせる。


No.193 6点 ガール
奥田英朗
(2011/04/08 23:45登録)
30代のワーキング・ウーマン5人がそれぞれ主人公の、5つの「同世代の女性が多少なりとも身につまされるであろう」物語。

仕事と私生活、生き方に迷い悩む女性達のストーリーが、作者らしいズバ抜けたリーダビリティでユーモラスに描かれている。
ただ結末は全て安易で読後感も同じような話ばかりだが、まぁ、そういう短編集ということで。

解説の吉田伸子さん(何の人か知らないがファッションに詳しいらしい)が本作に登場する女性達のファッションとキャラクターの描写を大絶賛しているが、奥田サン、アンタは一体どんだけ女を観察しとるんや。


No.192 6点 真夜中のマーチ
奥田英朗
(2011/04/04 23:26登録)
前半は実に面白い。
好みの問題だろうが、設定、流れがキャッチーだし、「どうなっていくんだ?」とワクワクを催す「先の見えない感」がいい。

半ばで物語の方向が見えてくると、ややありがちな冒険活劇を予感させられてくる。

そして終盤の長―いドタバタは、よく計算されているし、捻りもあるし、決して三文ドタバタ劇ではないんだけど、こういうのはもう少し短い方が個人的には嬉しいなー

なんか奥田さん、長編のドタバタ部になると持ち前の「読みやすさ」より「ドタバタの完成度」を追ってしまい、クドさやダラダラ感を醸し出してしまう・・・・と感じてしまうのは単に自分が流し読みタイプであるからなのだろう。


No.191 6点 東京物語
奥田英朗
(2011/03/28 22:00登録)
明らかに作者自身が主人公のモデルになっている自伝的連作短編集。

時は1978~89年。バブル経済の麓から絶頂へ登り詰めていくディケイドと言っていいだろうか。
この期間に当たる、主人公の上京から三十路目前までの「青春時代」の中の「ある一日」の物語が6編、その時々の時事ニュース、社会背景を彩りに添えた作品群になっている。

大体年代どおりに並んでいるが、本来なら3番目になる話をトップに置いたのは作者なりの自分自身へのこだわりによるものなのだろう。

何にせよ奥田英朗という人がかなりよく分かってくる一冊。
ドキドキハラハラとは無縁だが、読みやすさにおいても奥田作品の名に恥じない一冊。


No.190 6点 ララピポ
奥田英朗
(2011/03/19 21:57登録)
【今回の大震災において一刻も早い被災者の方々の救済と被災地の復興を祈念申し上げます。】
私宅は本棚が倒れた程度の被害で済みましたが、これを機会に大幅に書籍を処分しようと思っています。


本作は、震災でできた妙な空き時間に読んだ一冊。

りんちゃみ先輩さんが仰るように、愚かしくも哀しい下劣な人間群像。
今まで読んだ奥田作品の中では最も低俗な連作短編集だった。
・・・といいながら最も短時間に一気に読まされてしまったのだから作者には頭が上がらない。
このダメ人間達の落ちこぼれ話を反面として、結局、どう転んでも人間は人間なんだ、俗欲から逃れることはできないし、どん底にいようと災害にみまわれようと現況の中で一生懸命生きていくしかない・・・という的外れとも思えるメッセージを感じてしまったのは「今」だからだろうか。

タイトルの意味は最終話で分かります。そして「今」だからこそララピポを信じたい。


No.189 5点 サウスバウンド
奥田英朗
(2011/03/08 23:14登録)
う~ん、奥田作品としては初めて「長さ」を感じてしまった。

小6男子の主人公の目線で語られる自分と破天荒な親父を中心としたライトタッチの(たぶん)社会派小説。

東京での前半は家庭問題と、親父とその仲間の反体制姿勢の問題と、不良中学生の問題がメインだと思うが、いずれも全く緊迫感が感じられず、凸凹凸凹話が進む感じ。
また、リアリティが持ち味の奥田さんにしてはチョットという点も・・・例えば、親父の暴行傷害が無罪放免になるか?息子も札付き後ろ楯付きの不良を相手にソレで済むか?(ていうかその不良がショボすぎ)・・・等々

八重山での後半もいろいろ起こるわけだが、ちょっと島の情景描写がダラダラ多すぎ。私自身、国内外問わず南国は大好きだし何度でも訪れたいとは思うが、その感覚的な思い入れや情感は残念ながら文章で堪能するのは難しい。最後の方のドタバタもシリアスには感じられず寧ろアクション映画型ステレオタイプの反逆一匹狼、という印象はどうにもならない。

それと伊良部シリーズなどでは見事にベールでくるみ抑えてきた教訓臭さが醸し出されてしまっている印象も少なからず受けてしまった。
やっぱり奥田さんは短編か、長編なら「最悪」「邪魔」のようなグイグイサスペンスがいいんじゃないかな、と。


No.188 6点 町長選挙
奥田英朗
(2011/03/08 23:05登録)
伊良部シリーズ第三弾。
4つの短編が収録されているが、本書の特徴は表題作以外の3編の主人公が(露骨に)現実の著名人をモデルにしているところ。そして各編に微妙な繋がりがある。またマユミが少し能動性を見せるところも今までとチョット違う。

・【オーナー】・・・日本一の発行部数を誇る新聞社の代表取締役会長にして日本一の人気プロ野球球団のオーナーである田辺満雄、通称「ナベマン」の老境を襲う不安神経症。

・【アンポンマン】・・・ITベンチャー企業「ライブファスト」を立ち上げ、破竹の勢いで事業拡大し「時代の寵児」ともてはやされる安保貴明32歳に取りついた「ひらがな失認症」。もちろん「あの事件」以前の作品。

・【カリスマ稼業】・・・40代にして美貌と若さを誇る遅咲き女優、黒・・いや、白木カオルの必死のアンチエイジング、アンチカロリー。いろいろな実在芸能人モドキが出てきて笑える。

・【町長選挙】・・・前半は大いに笑えたが、後半、らしくない伊良部がイマイチだし、ちょっと奥田さん、テーマを大きくしすぎて苦しかったか。

前作「空中ブランコ」に比べると、趣向を若干変えたとは言え「笑いと爽快な読後感」の質はややレベルダウンの印象。
ところで、先日初めてテレビ朝日で放映中の「Dr.伊良部一郎」を見たけど・・・・・・いやはや・・・これはないわ(まぁ、伊良部の容姿が原作と正反対なのは脚本家の故意だろうけど)・・・・・日曜の深夜、暇で暇でしょうがない人だけにおススメ。ていうかもうすぐ終わりかな?


No.187 5点 新本格もどき
霧舎巧
(2011/02/23 23:15登録)
個人的な感想を一言でいえば「凝り過ぎ」。

パロディ短編集という作品の性格上、当然ライトタッチの文体なわけだが、全体をとおして話の向きがコロコロ変わるので決して読みやすくはなかっただよ。

本当によく作り込んだ作品だとは思うが、ダジャレも含めて全て「技巧のための技巧」という感じでしたね。

各話の「寸断されたあとがき」からも窺えるように作者の本作に対する思い入れ、というか本心は恐らく「一応、謙虚にパスティーシュの体裁をとっているけど中身は、どうだ、斬新なアイデアに満ち溢れているだろう」というところだろうし、絶賛するミステリーファンがいてもおかしくはないと思うが、自分的には先述のとおり「感心はするが読み疲れた」


登場人物たちが「ミステリーの書評」について議論する場面で印象に残った一節・・・・・・・・
『よく面白いけれど好みではない、という感想を述べる人がいますが・・(中略)・・自分は評価しないけど、あなたたちは面白いと思うだろうから、否定はしませんよ、という意味ですからね。一見、理解あるふうを装って、その実、自分のほうが読み巧者だと驕っている姿が透けて見えてしまって、よりタチが悪いといえるでしょう』


No.186 6点 マドンナ
奥田英朗
(2011/02/16 19:45登録)
割といい企業で出世コースに乗り、都内に一戸建てと妻一人と子供二人を所有している40代の課長5人の5つの小さな物語。

仕事、人間関係、家庭、恋・・・・不惑の男たちが大いに戸惑うさまがユーモラスに描かれています。

何と言っても、この人の作品は決して薄っぺらな内容ではないのに殆どマンガを読むエネルギーで読めるのが嬉しい。


No.185 6点 イン・ザ・プール
奥田英朗
(2011/02/09 20:47登録)
やっぱり面白いね、伊良部シリーズは。

一作目の本短編集より先に二作目の「空中ブランコ」を読んだけれど、そちらに比べると全体的にストーリーテリングのキメが若干粗いかな、と。(このエラそうなコメントが本当なら段々良くなっているのだからいいことだよね)

本書の中では、個人的には「コンパニオン」と「フレンズ」が読み止まらない面白さでしたね。

ところでこのシリーズ、テレビで放映中のようだが、以前から映像化するなら伊良部役は伊良部(そう、元プロ野球の)が最適だと思っていたんだけどな。(やるわけないけどね)


No.184 5点 果断
今野敏
(2011/02/05 23:58登録)
世評は随分高いようだが、どうもよくわからない。

そもそも、「小料理屋で口論が聞こえた」「その後そこにいくら電話しても誰も出んわ」「2発の銃声音が聞こえた」・・・これだけで【人質、立てこもり】事件と決めつけ、刑事達のほかに早々にSITやらSATやらまでもがゾロゾロ出てくるのはあまりにも大袈裟というか警察側の独り相撲に感じられるのは事情知らずというものだろうか。
また、そこまでしてせっかく使ったファイバースコープでもっと真相に迫る情報を得られたはずではないか?

そして最初に突入した隊員達は犯人が生きてたか死んでたか全くわからなかったってこと?
相手が立ってたか倒れてたかもわからなかったってこと?
相手が撃ってきたかどうかもわからないって?
目をつぶって突入、狙撃したのか?

その後ゴチャゴチャあってから、終盤一気に盛り上がる捜査は緊急性もない(心配なら見張りをつけておけばいいだけ)のに自分達の意気高揚にまかせて夜中だろうが何だろうが多数の非番の警察官、科捜研の職員のみならず一般市民すら平気で叩き起こすフルスロットルぶり。

最終的に判明した事実も、「事件の際にそんなことも調べないで【人質、立てこもり】と大騒ぎしてたのか」と思わせられるところが大だし、例の隊長の後出し証言もありえんだろう。

「主人公のキャラクターで読ませる小説」というのも分かるが、その点では前作を越えるものは何もなく忌憚なく言えば、このカッコよくも非現実的なキャラ描写にも「少々飽きてきた」。
こういうのは新しい要素が盛り込まれているのでなければ、一度だけの物語だから感動するのではないかとすら思えてくるんだよね。
そこでふと気づいたのだが、自分が前作を「かなり楽しめた」のはこの「キャラへの感動」によるところ以外に、ハッピーエンドかどうかも知らなかった、つまり「もしかしたら悲惨な結末が待っているのかもしれない」と思いながら読めた、それほど作品に対して無知で臨めたところが大きかったようだ。


No.183 7点 幽霊人命救助隊
高野和明
(2011/01/26 23:28登録)
自殺して幽霊になった4人の男女が、神様から天国行きの条件として7週間以内に100人の自殺志願者を救助することを命じられる・・・という御伽話以外の何ものでもない設定で始まり、彼らの救助活動がシリアス、コミカル混交で延々と語られていく。

純粋に胸を打たれる話もあるが、「んなんで助かるか」とか「その後どうすんだ?」といいたくなるエピソードもあるし、お涙頂戴っぽく感じられるものもある。(もちろん100人分のストーリーが語られるわけではないが)ちょっと話が多すぎるし、読みやすいとは言え段々「長さ」を感じてくる。

しかし、最終章とエピローグは素晴らしい。それもそこまでの多大な物語があったからこそ得られる感動であり文庫で600ページも伊達ではなかった、と読後感は清爽そのもの。

ところで読後に、かなり昔に見た「オールウェイズ」という洋画(「3丁目の夕日」とは関係ない)を思い出してしまいました。よくは憶えていないが前半はこんな感じだったような・・・・・ 
・・・・・同僚でもある恋人をいつも心配させながら無謀な救助活動を続ける消火隊パイロットの主人公がついには殉職、なぜか成仏(のわけないよね)できずに幽霊となり彼女を見守ることになる・・・失意の彼女は、しかし徐々に故カレの誠実な部下と惹かれ合っていく。彼女の幸せを願いながらも恋情も拭いきれないカレのジレンマは、やがてある晩、彼女と部下がチークダンス(懐かしっ)を始めるシーンでピークに達し、カレは頭を抱える。二人の踊りながらの笑顔とカレの苦悩と祈りの表情が重なる。そこに流れてくるバックミュージックが「Smoke gets in your eyes」・・・・・そこで自分の幼若な涙腺はひとたまりもなかったことだけは鮮明に憶えている・・・
本書の最終章のラストシーンで脳内になぜかこの曲が浮かんできたので、なぜだろうと考えて思い当たった次第。


No.182 6点 K・Nの悲劇
高野和明
(2011/01/18 23:57登録)
一発ベストセラー作家とその妻の予定外妊娠と中絶の悶着から、異様な展開を呈するマタニティー系ホラータッチ・サイコサスペンス。(・・・・)

「13階段」の作者らしく、重い内容ながらグイグイ読まされるリーダビリティは流石。
ラストはちょっとストレートすぎる嫌いはあるが、結局、心因疾患なのか憑依なのか、精神医学と霊魂のギリギリの鬩ぎ合いを描き切った作者の筆力、そして執筆にあたっての勉強量と取材の入念さを想像すると脱帽の念を禁じえない。

誰にでも勧められる作品ではないとは思うが、母性や生命の尊厳を考えさせられる話でもあり、できれば高校生~大学生あたりを中心に幅広く読んでもらいたい一冊。


No.181 6点 グレイヴディッガー
高野和明
(2011/01/11 23:09登録)
ドタバタ逃走劇と連続猟奇殺人の協奏曲。
前者は古(いにしえ)より小説、映画等でボロ雑巾のように使い古されているパターンなので、これだけで新鮮味やスリルを味わえるのは少数派だろうが、「Why?」をカナメとして後者と合わせて纏まりのいいサスペンスになっていると思う。

コケオドシかとも思われた「グレイヴディッガー」も最終段階でその必然と本領を発揮する。(細かいことは気にしない)

この物語の発端はある種のタイガーマスクであり、最後もタイガーマスクで幕を閉じる・・・と評述したら「タイムリー狙いすぎ」と一笑に付されるだろうか。


No.180 7点 6時間後に君は死ぬ
高野和明
(2010/12/20 23:58登録)
(以下の感想も含めて、全く予備知識なしで読んだ方が楽しめると思います)


いい歳こいた大人が非現実的なエンタメ短編などで感動するわけがない、と長らく思っていたが奥田英朗の「空中ブランコ」と本作でその読書観が少し変わったような気がする。

表題作
・「6時間後に君は死ぬ」・・全く斬新とは言えないが(予備知識なしで読めれば)サスペンスフルなミステリとして楽しめる。

以下の三作は三様に生きる女性達が遭遇する「世にも奇妙な物語」
・「時の魔法使い」・・苦境の中、懸命に脚本家を目指す女性に訪れるメルヘン。ミステリ要素はないが、こういうのにはホント弱いんですよ。
・「恋をしてはいけない日」・・恋愛遊びに呆けた女子大生に訪れる純心な恋。ミステリ的にも面白いと思うがこのパターンを経験していれば分かっちゃうよね。
・「ドールハウスのダンサー」・・「時の~」と同様、必死に夢を追う女性に絡んでくるファンタジー。成功のためには仲間も蹴落とすか・・

そして最後に表題作への呼応作
・「3時間後に僕は死ぬ」・・人は運命を変えることができるのか?それとも蟻地獄に落ちながら足掻く蟻にすぎないのか?
・「エピローグ 未来の日記帳」・・本短編集で言いたかったことのまとめなのだろう。特に最後の段落で。

非現実的であろうとも、現代感覚に溢れた実力派作家の真価を実感させてくれる一冊。
この時期に読めた自分には作者からのクリスマス・プレゼントになったように思う。


No.179 6点 殺しへの招待
天藤真
(2010/12/20 23:48登録)
書かれた時代の割りには現代的なミステリーだと思う。(日本語変?)

第一部(ほぼ前半)での次々送られてくる「手紙」が誘うサスペンス感と、それに翻弄される男達と彼らの夫婦実態などはそれなりに面白い。
第二部(ほぼ後半)に入るとミステリーの焦点が一転するが、それまでの勿体ぶりからするとトーンダウンの印象は否めず話の展開も全体に回りくどく感じられ、最後は平凡作の様相を呈してくれる。
しかし第三部まである。

読みやすいとは思うが、中途半端に昔の作品(しょうがねえだろ)で世俗描写が多い小説なので「そんな話し方する奴いねぇよ」とか「そうはならねぇよ」とツッコミ心が頭をもたげる場面が少なからずあったのみならず、本作の特徴である軽いタッチの文体も自分にはどうにもノリにくいものだった。

278中の書評を表示しています 81 - 100