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ミステリの祭典

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Tetchyさんの登録情報
平均点:6.73点 書評数:1626件

プロフィール| 書評

No.386 1点 血に飢えた悪鬼
ジョン・ディクスン・カー
(2008/11/12 19:40登録)
あまりにも題名から想起される内容とはかけ離れていて呆気に取られてしまった。
時代ミステリであるがため、当時の世俗背景を甦らすのに腐心しているようだが、登場人物が全く活写されていない。

メイントリックはルブランでお馴染みの使い古された手法。
コレクターズ・アイテムですな。


No.385 9点 死刑判決
スコット・トゥロー
(2008/11/11 23:04登録)
死刑囚が執行間際になって無実を訴える。果たして彼の云う事は真実なのか?
再調査に挑むのは公選弁護人アーサー・レイヴン。

原題は“Reversible Errors”。これは法律用語で「破棄事由となる誤り」という意味で控訴審で一審判決を大いに覆すような重大な誤りを指す。
またさらにアーサー、ジリアン、ミュリエル、ラリーら主人公四人の現在における過去の、元に戻すことが出来る過ちを指している。

上巻の半ばで早くも真犯人がわかるのに、それからさらに二転三転四転五転の展開を見せ、新たなる真相をも準備してくれている。
もう満腹ですわ!

しかし邦題のショボさはどうにかならないか。
トゥロー=四字熟語邦題に拘っているから、こんな題名になったのか?
一番食指を誘わない題名だな。勿体無い。


No.384 8点 有罪答弁
スコット・トゥロー
(2008/11/10 23:57登録)
最後の最後で+1点。
久々にカタルシスを感じた。
しかし、この主人公、とことん情けないなぁ。
実の息子や警察にオナニーを見られるなんて・・・。
それが、まさかこんな結末になろうとは・・・。
う~ん、トゥローはやっぱすごいわ。


No.383 6点 立証責任
スコット・トゥロー
(2008/11/09 17:24登録)
前作『推定無罪』で主人公サビッチの弁護人として快刀乱麻の活躍ぶりを見せたスターンが今回の主人公だが、前作とは打って変わって妻の自殺で始まる冒頭から肉欲に溺れていく凋落ぶり、はたまた長男ピーターに鼻で笑われるダメ親父ぶりをこれでもかこれでもかと見せつけ、結局スターンも“人”に過ぎないのだなと思わせる。
人間ドラマとして本書は最高の部類に入るだろう。

しかし、私は今回求めたのは“切れ味”だった。
スターンの、弁護士としてのそれ、物語としてのそれである。

しかし上にも述べたように人間ドラマとしては比類なき傑作だと思う。
スターンと同じ年齢に達して読み返すと、それは否応にも増す事だろう。


No.382 8点 解体諸因
西澤保彦
(2008/11/09 00:23登録)
ありゃ、けっこうみなさん、点数が低い。
私は案外楽しめました。
というのも各短編が昔の推理クイズ『私だけが知っている』を思い起こさせるような作りになっており、読者でも謎が解けるようになっているからです。
そして私は1編1編作者の謎解きに挑戦しました。
結果、ほとんど犯人は解りましたが、バラバラにする動機が2編しか解りませんでした。でも、この動機がちょっと不十分かなと思いましたね。

だから最後の1編で各編が繋がっていくときはけっこう驚きました。
上述のように力入れて読んでたので、登場人物も頭に入っていたし。

しかし、けっこうこの作者、エロが好きですね♪


No.381 9点 推定無罪
スコット・トゥロー
(2008/11/07 23:34登録)
これは掛け値なしの本物である。
上手く云えないが、登場人物全てに嘘が無い。
要するに、作り物めいた感じがしないのだ。
特に現職検事補であった作者の最大の長所を存分に活かした法廷劇は史上最高の知的ゲームであり、正に圧巻である。

ただ惜しむらくは、ストーリー全体に通底する過度なまでのペシミズム、重厚というより陰鬱である。
私はどうも苦手だった。


No.380 7点 網走発遙かなり
島田荘司
(2008/11/06 20:57登録)
連作短編集と思いきや、最後にそれらが有機的に関係しあって1つの長編になる、一種独特の味わいのある作品。
内容は後の『奇想、天を動かす』を想起させる物もある。
元々初期の島田氏は各作品において登場人物がカメオ出演する、作品世界を形成していたのだが、これはそれを1冊の本で実践したということか。


No.379 8点 囮弁護士
スコット・トゥロー
(2008/11/05 14:57登録)
今回はキンドル郡の法曹界に蔓延る贈収賄事件の一斉摘発がテーマ。
贈収賄に関わる判事ら、特に首席裁判官であるブレンダン・トゥーイを摘発せんとセネット判事はその中心人物の一人、ロビー・フェヴァー弁護士を囮としてFBI捜査官と共に手練手管を使って証拠を掴み、容疑者の連鎖の綱からトゥーイを捕まえようと企む。

主人公は題名にもあるとおり、囮となる弁護士ロビー。プレイボーイで口達者な一筋縄でいかない曲者弁護士として描かれるが、彼の根底にあるのはルー・ゲーリック病に冒され、日々衰弱していく妻ロレインへの愛だった。

各登場人物がそれぞれの相手に抱く愛情が濃厚に物語を彩り、単なるリーガル・サスペンス以上の読み応えを感じさせる。
登場人物一人一人の人生や信条が非常に色濃く描かれ、読後しばし陶然となった。

本作にちらっとしか出てこないジリアン・サリヴァンという人物が次回作では主人公の1人となり、トゥローのキンドル郡サーガは巻を増すごとにどんどん人物相関が充実してくる。一度シリーズを読み終えたら最新作から第1作へ遡って読むとさらにキンドル郡を愉しく歩けるのかもしれない。


No.378 5点 われらが父たちの掟
スコット・トゥロー
(2008/11/04 23:29登録)
本作の主題は裁判そのものになく、起きた事件そのものは過去友人同士だった者たちが再び邂逅する単なる舞台設定に過ぎない(とは云え、裁判の丁々発止のやり取りが非常に面白いのも事実。本作が星3つなのはそこに起因する)。
筆者の焦点は世代間の軋轢と異人種であることのアイデンティティの模索にあると云える。

ただ扱う材料1つ1つが濃密で読者に疲労を強いるのは確か。
しかも今回のような中年世代を描いた世代小説はまだ私自身には早すぎたようだ。
本作に豊富に盛り込まれた心理描写、特に子が親を思う気持ち、親が子を思う気持ちなどは同世代には切実に響くものであろうが若輩の身にとってはまだ頭で判っても心では実感できない代物でそれもまた残念だった。


No.377 8点 密林の骨
アーロン・エルキンズ
(2008/11/03 22:47登録)
まさに安定した面白さ!
今回の舞台は最後の秘境とも云われるアマゾン河。
普通我々が暮らしている世界からは想像のできない気候、自然が次々と登場し、読み手を退屈させない。

私自身、南米のある国に出張で行った事があり、その時のこととダブる内容が多々あり、いつも以上に楽しめた。
乱暴な云い方をすれば、事件など起こらず、このままギデオン一行のアマゾン河クルージングの様子をずっと語って欲しいくらいだった。

このシリーズの売りである骨の鑑定も出てくるが、全体の7割を終えたところで、ようやくの登場で、今回はあまりインパクトはない。
またある人物が遠く離れたところに現れるトリックは、はっきりいって小学生の頃に本に出てきたクイズそのままだった。

でもそんなミステリの部分よりも物語としてこのシリーズは実に面白い。次作も必ず読むぞ!


No.376 9点 聖林輪舞-セルロイドのアメリカ近代史
島田荘司
(2008/11/02 22:08登録)
ノンフィクション物だが、作品一覧にノミネートされていたので遠慮なく感想を書こう。

これはアメリカを彩った伝説のスター、政治家、大富豪、凶悪犯罪者の島田流伝記。タイトルの「聖林」とは「ハリウッド」の漢字表記。
これがやたらと面白い。
島田の練達の筆の冴えもその要因だが、やはり何といっても現在の世にも名を轟かせている希代の著名人たちの、一般人とはかけ離れた人生劇場が物凄く面白いのだ。

恐らくこの作品は『ハリウッド・サーティフィケイト』を書くための基礎になったことだろう。

ハリウッド、この特殊な街、いや特殊な世界が訪れるものを狂わせる。人生の半ばはそれが与える栄光で金銭的、性的幸福を得られるかもしれない。しかし、末路は皆一様に人の数倍も不幸である。今日もハリウッドでは誰かが金に酔い、誰かが不幸のどん底に陥っているのだろう。


No.375 7点 三浦和義事件
島田荘司
(2008/11/01 14:13登録)
最近疑惑の死を遂げた三浦和義氏。
ノンフィクション作品だがここに上がっていたので感想をば。

面白いのは当然のことながら、マスコミサイドの視点で描かれた三浦像と三浦本人の視点で描かれた造形がものの見事に食い違っていることだ。情報操作というものは非常に恐ろしいものだと痛感した。
おそらく対岸の火事と思い、読んでいる私を含めた読者も、犯罪に巻き込まれ、いわれのない容疑をかけられた時、どのように周囲が、世間が自分に対して変化していくのか、それをまざまざと見せつけられる。

本書の最後で島田はこのようなことを云う。

「重大事件に必ず犯人が挙がるとは限らないことを、われわれ日本人はそろそろ学ばなければならない」

これは世間が騒ぎ立てたがために警察・検察が三浦を何が何でも犯人として挙げざるを得ない状況に追い込まれたことを批判した文章なのだが、本格ミステリ作家である彼がこのようなアンチテーゼめいたことを発言するのが興味深い。


No.374 9点 天に昇った男
島田荘司
(2008/10/31 23:17登録)
ヤバイ。ものの見事にハマッてしまった。

本作は島田作品の中でも異色の物で、作者本人でさえあとがきで全く予想外に生まれた副産物であると述べている。
島田ミステリに通底する弱者への真心とロマンシズム、これが一貫して物語のBGMとして流れ、進んでいく。最後には珍しく悲劇的な結末で無機質に締められ、読者の心には冤罪に対してのほろ苦さが色濃く残る。最後に門脇春男は救われたのか、それは判らないが不幸な者がここにいるということを強く教えられた。


No.373 8点 ひらけ!勝鬨橋
島田荘司
(2008/10/30 22:23登録)
これ、実はけっこう好き。
この小説は殺人事件が起こるものの、明らかに作者得意の本格推理ではない。
「青い稲妻」チームの個性的な面々の日常とホームの存続を賭けたゲートボールの白熱した試合、そしてクライマックスで繰り広げられるかつて一流の素人レーサーだった老人たちの華麗なるカーチェイスが主になっており、老人たちの再生と青春の復活がメインテーマなのだ。
ゲートボールの試合を読んで、これほど手に汗に握ったのは後にも先にもこの作品だけである。
オイラは角川文庫版で読んだが、この表紙がものの見事に内容と全く関係のないマンガになっている。
誰だ、担当者は!?


No.372 7点 死者が飲む水
島田荘司
(2008/10/29 14:21登録)
御手洗シリーズ『斜め屋敷の犯罪』で登場した牛越刑事が主役を務めるスピンオフ作品。
北国の叙情が滲み出てくるようだ。
でも時刻表トリックはやっぱり苦手。


No.371 8点 火刑都市
島田荘司
(2008/10/28 23:04登録)
当時初めて読んだ島田流社会派小説。
そんな中でもトリックが組み込まれているのが島田らしいなぁと思った。
解決部分では唸らされたけど、犯人の動機が観念的で、ちょっと作者自身、自論に酔っているような気がせんでもない。


No.370 5点 殺人ダイヤルを捜せ
島田荘司
(2008/10/27 22:41登録)
かなり一昔の時代を感じさせるミステリ。
この一昔前ということをもっと念頭に置いておけばトリックも見破れたかも。
しかしもうすぐ、この題名に使われている「ダイヤル」の意味が解らない世代が読者になっていくんだろうなぁ。


No.369 7点 Zの悲劇
エラリイ・クイーン
(2008/10/26 14:07登録)
前2作から打って変わって物語はサム警視の娘ペイシェンスの一人称叙述で語られることから悲劇四部作において、変奏曲ともいうべき作品になるだろう。

巷間の評価が本作についてかなり低いのは、やはりこのペイシェンスというキャラクターが妙に浮いている感じを受けるのと、前2作に比べ、タイトルに掲げた「Z」の意味がインパクトに欠けるからだろう。

私はといえば、前2作に比べるといささか迫力に欠けるのは巷間の評価とは一致するものの、結末まで読んだ今では、最後怒濤の如くレーンが開陳する弁証法による消去法で瞬く間に容疑者が絞られ、1人の犯人が告発されるあたりはロジックの冴えと霧が晴れていくカタルシスが得られ、個人的には凡百のミステリよりも優れており、楽しめた。


No.368 5点 学校の殺人
ジェームズ・ヒルトン
(2008/10/25 20:52登録)
『チップス先生さようなら』のヒルトンが唯一著した推理小説。
学校を舞台にしているのがこの作者らしく、どうせ文豪の手遊びで書いたミステリだろうと思いきや、意外にも読める内容だった。
でもやはりこの作家の本質は謎解きにあるのではなく、やはり物語の部分にあり、学校の中での捜査につきものの、青春臭さがこの作品に彩りを与えている。
でも学園物のミステリではやはりセイヤーズの『学寮祭の夜』がベストだなぁ。


No.367 10点 黒い天使
コーネル・ウールリッチ
(2008/10/25 00:19登録)
泣けた。静かに泣けた。夜の切なさに包まれたかのようだ。

夫の浮気相手に怒鳴り込んでいったところ、その女性は死体となっており、夫にその容疑がかかり、妻が無罪を証明するため、浮気相手の女性にまつわる4人の男性を調べるという、ウールリッチならではの設定。

この中で3人目の男との話がいい。多くは語るまい。とにかく切ないのだ。

誰もがロマンティストになる小説だと思った。本当にウールリッチは素晴らしい。

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