home

ミステリの祭典

login
火よ燃えろ!

作家 ジョン・ディクスン・カー
出版日1960年01月
平均点6.14点
書評数7人

No.7 7点 クリスティ再読
(2022/11/25 22:13登録)
さてこれはカー時代ミステリの佳作という評判があるのでどうかしら?

シンプルな話である。殺人事件は1件だけ。それでも事実上の決闘が2回、大捕物もあって、前半ややもたつく印象があるけども、後半に向けてドライブがかかってくる作品。「ニューゲイトの花嫁」が前半が面白いのとちょうど逆。

ミステリとしてのトリックは、タイムスリップ物でないと成立しない話、かもね。やや小粒感はある。恋愛描写はヒロインのフローラが、時代柄仕方ないとはいえワガママに男を振り回すタイプなので、あまりノレない。
一番の面白味は、出来立てホヤホヤのスコットランドヤードに主人公が志願する話、というあたり。「民主警察のお手本」みたいなスコットランドヤードでも、出来たときにはまったく信用がない組織。それまでのボウ・ストリート・ランナーズのような「お金を貰って捜査する」私立探偵というか岡っ引き風の組織に代わって、軍隊風の規律を持った警官隊として組織されたという背景がしっかり描かれる。

そこに現代のスコットランドヤードのCIDの警視の主人公がタイムスリップ。同じ立場で出来立てのスコットランドヤードに奉職する。「紳士は働かないもの」だから、主人公の現代風の職務に対する忠誠心を、愛人のフローラは意外に感じたりする。で主人公のチェビアト警視、実力で部下の警官隊を掌握し、現代の科学捜査をいろいろ工夫して実現しようと奮闘するし、この出来立てのスコットランドヤードの活躍を社会にアピール。こうやって近代警察に対する市民の信頼が築かれていった...という話。

ジャンルが「警察小説」でもいいくらい。タイトルの「火よ、燃えろ!」がマクベスで意味深なのに、あまり機能しない。これは残念かな。

No.6 5点 レッドキング
(2022/01/25 19:15登録)
これまた活劇シーン絶品で点数オマケ。カーには「燃えよ炎!」てなカッコ良い土方歳三トリップ物を希望したい。
< 以下、露骨なネタバレ >
「座頭市」仕込み杖進化系の仕込み銃トリック。(「コブラ」のサイコガンて「百鬼丸」仕込み義手の進化系だよね。)

No.5 7点
(2018/08/21 20:36登録)
 1960年代のロンドンから、日常のまま1829年に移行してしまったスコットランド・ヤードの警視ジョン・チェビアト。彼はその世界で31歳の未亡人フローラ・ドレイトンに一目惚れするが、それから間もなく彼女が犯人としか思えない状況下で、射殺事件が起きてしまう。咄嗟にフローラを庇って証拠を隠すチェビアト。だが彼は同時に草創期のロンドン警察を任された身でもあった。果たしてチェビアトは彼女を救い、真犯人を探し出せるのか?
 1957年発表。歴史物としてはやや後期のもの。「ハイチムニー荘の醜聞」「引き潮の魔女」と共に近過去三部作を成しています。時代物を描き切る前後の作品。
 チェビアトに何かを伝えようとする前に殺された女性。彼がその殺害現場に居合わせたのは、彼女が身を寄せている伯爵夫人から「鳥の餌が盗難にあったから」と呼び出された為でした。しかしチェビアトは「鳥の餌」が宝石の隠し場所である事をすぐに見抜きます。宝石は恐喝により賭博場から闇の組織に流れていたのでした。
 そして賭博場を仕切る闇組織のボス、ヴァルカンは彼を始末しようと周到に罠を張って待ち構えています。射殺事件の手掛かりを追ってあえて虎穴に飛び込むチェビアトですが――。
 ルーレット場での二人の格闘が良いですね。ちょっとした工夫で一対一の対決に持ち込むのですが、チェビアトはヴァルカンに勝利した後でも「決闘に応じれば逮捕しない」という約束を守ろうとします。あるアクシデントからそれは不可能になるのですが、その出来事が間接的に射殺事件のヒントに繋がるのが上手いところ。まあ、こっちは活劇のおまけ程度ですが。
 その合間には未亡人フローラに横恋慕する軍人ホグベン大尉を二度に渡って叩きのめします。最後には悔し紛れにチェビアトの証拠隠滅を告発するホグベン。そして物語は一気に真相の解明へと雪崩れ込んでいきます。
 「ビロードの悪魔」ほど贅沢ではないですが、ストーリーの流れが良く、アクションシーンを挟んで非常に面白く読めます。カーの歴史ミステリの中でも上位の出来でしょうね。

No.4 5点 nukkam
(2016/04/24 22:33登録)
(ネタバレなしです) 1957年発表の歴史本格派推理小説です。不可能状況下での銃殺という魅力的な謎を扱っていますが、目撃情報がかなりあやふやなこともあって不可能性がいまひとつ伝わりにくくなっているのは惜しいところです。冒険スリラー小説要素が強いため謎解きが盛り上がりにくくなっているのも否めません。まあそれでも「喉切り隊長」(1955年)よりはなんとかミステリーとして踏みとどまっていますが。トリックは歴史物だから謎として成立したというものなので賛否両論あるかもしれません。ちゃんと謎解き伏線があることは巨匠カーならではです。それにしても「ビロードの悪魔」(1951年)、(カーター・ディクスン名義の)「恐怖は同じ」(1956年)に次いで3度目のタイムスリップとは、いくらなんでも多すぎでは(本書でタイムスリップは最後みたいですが)。

No.3 6点 ボナンザ
(2014/10/31 13:43登録)
カーの歴史物の中でも評判の良い作品の一つ。
タイムスリップ設定自体は強引だが、トリックを活かす点では成功しており、佳作とよんでよい。

No.2 6点 kanamori
(2013/07/10 13:28登録)
昨年作家デビューしたディクスン・カーの孫娘シェリ・ディクスン・カーの『Ripped』は、現代娘がヴィクトリア朝時代のロンドンにタイムスリップし切り裂きジャックと対決する歴史ミステリのようで、Amazonのレビューを見る限り評判は上々らしい。

タイムスリップを扱った歴史ミステリといえば祖父の十八番で、本書もそのタイプの一冊。
主人公チェビアト警視が19世紀初めにタイムスリップし、創設間もないロンドン警視庁の一員として活躍するといった内容で、ロマンス&冒険活劇ものの秀作だと思います。チェビアトが乗っていたタクシーが二輪馬車に変わる冒頭のタイムスリップ・シーンなど巧いです。
衆人環視下の謎の銃撃という不可能状況の殺人を扱っているのはカーの歴史モノでは珍しいですが、重要な役割のアイテムに関しての作者のあとがき解説は、やや言い訳じみているように感じた。
タイムスリップという特殊設定を活かした仕掛けと言う点では「ビロードの悪魔」に一歩譲るかな。

No.1 7点 Tetchy
(2008/11/13 23:48登録)
カーが後年、力を入れた時代・歴史ミステリは佳作が多く、これもその中の1つ。
主人公がタイムスリップして歴史上の謎を解くという趣向は『ビロードの悪魔』と同様で、二番煎じのような感じは否めない。
が、本作はそれを逆手にとって、読者をミスリードすることに成功している。
こういうちょっとしたケレン味が歴史ミステリを面白くするという好例。

7レコード表示中です 書評