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ミステリの祭典

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Tetchyさんの登録情報
平均点:6.73点 書評数:1631件

プロフィール| 書評

No.551 2点 バール・イ・ヴァ荘
モーリス・ルブラン
(2009/06/18 23:14登録)
錬金術を編み出した老人の死後、その手法を探りに上手く遺族(ここでは孫娘二人と姉の夫)に取り入った犯人たちの周りで起こる数々の事件をラウールことリュパンが見事解き明かすというもの。
しかし、バール・イ・ヴァ荘とその庭園を舞台に物語が繰り広げられるなら、見取図ぐらい必要だぞ!
この人物配置や間取りの理解に苦しみ、物語にのめりこめなかったと書きたいところだが、もしそれがあったとしてもあまり印象に残らない凡作だっただろう。


No.550 4点 二つの微笑を持つ女
モーリス・ルブラン
(2009/06/17 20:18登録)
冒頭の不可能興味溢れる殺人事件の真相に絶句…。
今までの読書体験を全て無にするような脱力感に捉われた。
ただ恋をしている時にフランスミステリの、普通ならば鼻で嗤ってしまうような愛の囁きはけっこうキます。
特に「アントニーヌ、笑って下さい」の台詞は感性に直撃だった。


No.549 4点 ジェリコ公爵
モーリス・ルブラン
(2009/06/02 23:00登録)
日本の翻訳本ではルパンシリーズの1つとして数えられているが、実はルパンが出ていないノンシリーズ物。ルブラン=ルパンという安直な販売方法が気になるが・・・。

それはさておき、ジェリコ公爵なる人物は実は貴族ではなく、無敵の海賊というのが面白く、これは訳の仕方に無理があるだろうと思われる(公爵に当る単語は英語で云うところのPrince)。
で、ふとある若い女が出くわす記憶喪失の男。彼は非常に魅力的な男で、その女性は次第に恋に落ちていく。

まあ、大体、その中身は見える作品で、非常に少女マンガチックな話である。これがフレンチ・ロマンスかと思ったりもする、王道ストーリー。
ある種、ハーレクインの原形かも?


No.548 5点 虎の牙
モーリス・ルブラン
(2009/06/01 21:43登録)
ルパンシリーズ最大長編ながら、イマイチ知名度が低い本作。
二億フランという、現在の価値観でも破格の遺産を巡る殺人事件をドン・ルイス・ペレンナことルパンが探るというのが本書のテーマ。
従って話の風呂敷はとてつもなく大きく、敵も凶悪かつ奸智に長けているのに、結末はなんだかあっさり風で、肩透かし気味。
そしてルパンも結婚して物語が閉じられることからも、当時ルブランがルパンシリーズをこの作品で決着を着けようとしたのが解る作品。
とはいえ、世間はそれを許さず、今度は過去に遡り、ルパンの活躍が語られていくのだが、それはまた別のお話。


No.547 5点 金三角
モーリス・ルブラン
(2009/05/31 20:06登録)
ルパンことドン・ルイス・ペレンナが活躍する本作。
偶然遭った女性に纏わる因縁に立ち向かう元兵士の物語。
題名になっている「金三角」という謎は、引っ張るにしてはなんとも正体は腰砕けである。
また人物の入替りが成されているが、普通これはきづくのではないだろうか?
訳もひどく、改訳した方がいいと思う。


No.546 9点 眠れる美女
ロス・マクドナルド
(2009/05/30 23:36登録)
冒頭、あまりにもロマンティックな展開に面食らった。これはロス・マクではなくてハーレクインかと思ったほどだ。
とはいえ、このような幕開けは嫌いではない。寧ろ従来のハードボイルド探偵小説物の定型を破る斬新な導入部と評価できる。

この、石油が海へ流出するというシーンから始まる本書は従来探偵事務所に依頼人が来て仕事を依頼する定型から脱却し、自らをいきなり事件の渦中に飛び込ませ、依頼人を得るというまったく逆の手法を用いている。これは常に傍観者たる探偵を能動的に動かそうとした作者の意欲の表れではないだろうか?
したがって本作ではアーチャーは本作の中心となる女性、ローレルに好意を抱き、家に誘う。さらに珍しいことに事件の関係者の一人と一夜を共にしたりするのだ。
しかしやはり中盤以降は従来の観察者及び質問者のスタンスに回帰し、ある意味、試みは半ばで費えてしまう。物語中、登場人物に「そんなに質問ばかりして嫌にならない?」とアーチャーに尋ねさせている所は非常に興味深い。

しかし今回も登場人物に対して容赦がない。誰一人、どの家族として倖せな者が出てこない。常に何らかの問題を抱えており、陰鬱だ。
チャンドラーは時には非常に印象的な女性を登場し、物語に一服の清涼剤をもたらしたりしたのだが、ロス・マクは常にペシミズムに満ちている。

またモチーフとなる石油の海への流出が物語の進行のメタファーとなっているのも上手い。ただ『地中の男』の山火事と違い、本作の中ではそれは解決しない。これも真相は判明するものの、事件そのものが解決しないことのメタファーなのだろう。


No.545 6点 中途の家
エラリイ・クイーン
(2009/05/29 23:28登録)
片や美しい妻を持ちつつも行商人として安物の品々を売る生活、一方で名家の婿になりながらも、相手は年増の性格のきつい女性という二重生活を送っていた被害者。しかしこういった設定にありがちな、周囲の人間関係を探る事で浮かび上がるこの被害者像は不思議な事に立ち昇らなく、犯人捜しに終始しているのが実にクイーンらしい。

ただ真相はどうにもアンフェア感が拭えず(以下、思いっきりネタバレ)

被害者が絶命の間際に言い残した「女にやられた」という手掛かりがここでは全く雲散霧消してしまう。
確かにミスリードとは思いもしたが、裁判でも証言者が犯行当時の犯人の行動を裏付けるのに、明らかに冤罪起訴されるルシーが当人だと名指しするほど、女性に見えたのにもかかわらず、呆気なく覆されるところに、無理を感じる。
また被害者のダイイングメッセージは本格ミステリならば重視すべき物であるのに、それが全く活かされないのはいかなるものなのだろうか。

本書の舞台である「中途の家」同様、クイーン作品体系の中休みとも云うべき作品なのかもしれない。


No.544 9点 一瞬の敵
ロス・マクドナルド
(2009/05/26 23:09登録)
家庭内の悲劇を描く作者の本作も、最後は後味の悪い、重く苦しい結末を迎えた。
よく「エディプス・コンプレックス」を作者の作品のテーマに挙げられることが多いが、今回も同様。

物語は複雑だ。
登場人物の成り代わり、偽名行為の連続で、登場人物の色合いががらりと変わっていき、その二転三転する流れに頭が追いつかず、考え込むことしばしばだった。
物語の核となるデイヴィは実は単なるデコイに過ぎなく、終盤320ページ辺りで迎える彼の幕引きは驚くほど呆気ない。寧ろ本当の悪は被害者だったという裏返しは買える。

しかし、登場人物が多過ぎ、悪趣味なまでにプロットをこねくり回しているのも確かである。ともあれ、不可解だった逃走者の行動が、最後論理的に明かされる手並みは見事の一言。


No.543 8点 ブルー・ハンマー
ロス・マクドナルド
(2009/05/25 23:10登録)
ロス・マクドナルドの遺作とされる本作はごく一般に駄作だと云われるが、私にしてみれば物語の焦点が常にぶれず、物語の軸が常に明確であったせいか点数的には高いものとなった。また盗まれた絵画を追うという従来の失踪人捜しとは毛色の違う展開が新鮮だったことも物語に魅力を感じた一助になっている。
ともあれ、確かに登場人物構成が二転三転、はたまた四転五転し、プロットが結局破綻していないのか判断が付きかねるが、やはり最後にアーチャーが犯人に呼びかける言葉は物語の終焉にダメを押す。
さらにアーチャーが生まれ故郷に行き、今までストーリーに描かれたことのない結婚生活について触れるのもシリーズ最後の原点回帰の様相を呈しており、著者がまさにアーチャーシリーズに決着を付けようとしていたようにも思える。
何しろアーチャーが恋患いをするのだから面白い。
これは感情を押し殺した傍観者からの脱却を意味し、感情を持った主人公はもはや探偵たる資格を持たないというメタファーでアーチャー御役御免の意味合いを強く感じた。


No.542 4点 ホームズ二世のロシア秘録
ブライアン・フリーマントル
(2009/05/24 19:57登録)
本作も前作同様、第一次大戦開戦の火花がいつ起こるか解らない1913年を舞台に歴史上の人物らとシャーロック、マイクロフト、セバスチャン、ワトスンらが共同し、諜報活動に乗り出す。
前回はアメリカが舞台だったが今回はタイトルにもあるように、ロシア。
しかもまだロマノフ王朝が国を治める時代の話。しかしレーニン、スターリンら、後のロシア革命の立役者たちの暗躍も同時に語られ、ロシアの歴史の大転換期と第一次大戦が起こるか否かの瀬戸際の非常に緊迫した雰囲気の中にセバスチャンは晒されており、前作にも増して状況はスリリング。

しかしそれでもなお、なんだか割り切れないんだな。

ここに描かれているホームズは非常に人間くさく描かれている。
これこそ作者の意図するところなんだろうけど、果たしてこんなホームズを見たかったという人がどれだけいるだろうか?
この世界一有名な私立探偵はもはや“スター”であり、“ヒーロー”なのだ。
そんな男がウジウジしているところなんて読みたいと思わないのではないか?

色んな要素が盛り込まれている贅沢な作品だけれども、やっぱり手放しに賞賛できないなぁ。


No.541 3点 兇悪の浜
ロス・マクドナルド
(2009/05/24 00:57登録)
ハードボイルドのプロトタイプの型にかっちり嵌め込んで作られた印象が強く、従って妙に何も残らなかった。
文章は今までの一連のロス・マク作品の中では最も読みやすく、あれよあれよという間に事が進んでいった。
事件の手掛かりが容易に手に入るのも気になったし、登場人物各々があまりに類型的過ぎた(トニー・トーレスは若干異なっていたが)。


No.540 5点 動く標的
ロス・マクドナルド
(2009/05/23 00:05登録)
探偵リュウ・アーチャー初登場ということで、「質問者」という位置付けはある程度規定されているものの、どうも三文役者に成り下がっている印象が濃い。人の間の渡り方がどうにも不器用で、未熟である。
またプロットが平板で落ち着くであろう場所に落ち着いたという感じ。
う~ん、残念。


No.539 9点 地中の男
ロス・マクドナルド
(2009/05/21 22:34登録)
終盤の残り130ページ余りでどんでん返しを繰り返しながら明確に物語が収束するその手際は、やはり巨匠の業故である。
今回は登場人物それぞれの思い込みが微妙なバランスを維持し、今日にまでに至り、アーチャーをして、もはや本来の任務は終えたのだから真相はそのままにしておいた方がよいのかと云わしめたほど。
そして恐るべしは母親の息子への記憶の刷り込み。これに尽きる。


No.538 8点 ドルの向こう側
ロス・マクドナルド
(2009/05/20 19:26登録)
犯人は予想外ではあるが真相は半ばで自らが仮説した通り。そのせいで物語に失速感を感じたのかもしれない。
人前では現実を直視しない素封家として振舞っていた彼女が実は常に過酷な現実に対峙せざるを得なかったために起こった憎悪が招いた悲劇。
嗚呼、痛々しい。


No.537 8点 別れの顔
ロス・マクドナルド
(2009/05/19 23:12登録)
最後の章でバタバタ、と不明だったピースが嵌め込まれ、全体像が浮かび上がる所が凄い。
今回は終わってみれば実はサイコ・サスペンスでロス・マクドナルドの心理学への興趣が色濃く表れている。
また、最後の章の盲目の母の何気ない一幕で、無力だと思われていた存在が実は絶大なる支配力を持っていたという畏怖を表す所もまた印象深い。

もしかしたら法月氏は某作を創るのに本作の影響を少しばかり受けたのかもしれない。


No.536 9点 テロリストのパラソル
藤原伊織
(2009/05/18 22:53登録)
確かにこれはとてつもないデビュー作だ。
まず冒頭の導入部。久々に晴れた日、公園まで散歩する主人公と休日を楽しむ人々の風景。そして突然の爆発。静から動への反転が素晴らしく、一気に読者を物語世界に引きずりこむ。

登場人物たちに共通するのは栄光を掴みかけた喪失感だろうか。何かに失敗し、また這い上がろうとし、努力を重ね、そして再び成功に似た何かを掴みかけたその瞬間、運命が眼の前でそれを攫っていく。ただ彼らはそれをあるがままに受け入れる。何かのせいにせず、とにかく生き延びる事にだけ執着して。

しかし犯人の動機の、なんて幼稚なことか。なぜこんなにも人生が、性格が歪んでしまったのか。

10月の長く続いた雨が止んだ土曜日、新宿中央公園で起きた爆破事件。それは物語の始まりであったが同時に彼ら3人の終焉の瞬間であったのだ。その運命の瞬間に居合わせた人々が形成する曼荼羅はいささか偶然に過ぎる感じもするとも云えるが、まあそれは措いておこう。
本書の題名にあるパラソルという単語は最後の最後にようやく登場する。ある登場人物がこの言葉に込めた意味とは、以前とは変わり果ててしまったある人物の中に最後に見出した少しばかりの優しさだったのかもしれない。


No.535 8点 さむけ
ロス・マクドナルド
(2009/05/17 19:43登録)
浅い、と思った。ブラッドショーの苦悩、トム・マギーの苦渋、ドロシー・マギーの狂気、そのどれもが響かなかった。
最後の4ページで一気呵成に暴かれる真相に唖然とさせられたせいで、まだ頭の中が整理されていないのかもしれない。だが結末で憶えた戦慄は『象牙色の嘲笑』の方が上。
今回はドロシー・マギーの失踪に始まった人物相関が完全に遊離してしまったのが残念。
マクドナルドは、ロイ・ブラッドショーをテリー・レノックスにしたかったのかもしれない。


No.534 8点 象牙色の嘲笑
ロス・マクドナルド
(2009/05/17 00:50登録)
今回も彼は完膚なきまでに質問する。読んでいるこちらが当惑するほどに、個人の領域に立入る。
そのあまりある執拗さは、終いには犯人が「なぜきみはおれを苦しめるのだ」と身震いさせられるくらいまでにもなる。
だがしかし、そこまで行いながらも彼の影は見えない。
犯人は最後、足枷のように影を引き摺るのに、彼には影すら見えない。「質問者」である以上に「傍観者」である所以だ。

真相は戦慄を憶えた。しかし、未だに謎なのは、被害者は何を「嘲笑」っていたのだろうか?


No.533 10点 縞模様の霊柩車
ロス・マクドナルド
(2009/05/15 23:00登録)
愛に飢えた人々が家族という一番小さな、そして身近な社会集団を形成した時、こんなにも哀しい事件が起こるのか。
愛されるという事を欲望という形で求めるが故、視える物も視えなくなり、無我夢中に貪欲なまでに模索し、踠く。

一番手に入れたかった父親の愛を形として求めたがため、実感できなかった娘。
その事実を何もかも無くしてしまった最後に告げられる残酷な結末。

終わり間際に真相通告人として太陽のような娘を選んだ作者の意図は何だったのだろうか?


No.532 7点 知りすぎた女
ブライアン・フリーマントル
(2009/05/14 19:38登録)
父親が経営する会社―本書の場合は義理の父親だが―が悪事に加担しており、それを自分が引き継ぐ事になったら・・・という、クーンツ張りの巻き込まれ型サスペンスをフリーマントルが書くと斯くもこのように実に緻密な物語になるといった見本のような作品だ。
ただハイソサエティクラスの人物達の物語であるから、どうしても明日は我が身といった危機感を感じられないのが難点ではある。

しかし最後に抱いた感想は「女は怖いなぁ」ということ。
1人の男性を巡る正妻と愛人が困難を乗越える話だが、2人のやり取りがドロドロしていない分、最後の仕打ちにうすら寒さを覚える。

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