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ミステリの祭典

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ジェリコ公爵

作家 モーリス・ルブラン
出版日1960年01月
平均点4.33点
書評数3人

No.3 6点 人並由真
(2021/08/17 18:16登録)
(ネタバレなし)
 第一次世界大戦の終結からしばらく。南仏の海岸の町にある城館「ミラドール館」は、亡き父から莫大な遺産を相続した、20代半ばの美貌の令嬢ナタリー・マノルセンが城主を務めていた。だがそこに地中海全域を荒らしまわる海賊王「ジェリコ公爵」の一味が来襲する気配がある。ナタリーの従兄弟で元彼氏のマクシーム・デュティエールや、ナタリーへの求婚者で貿易商のフォルヴィルが緊張するなか、土地で噂になっている謎の青年「エレン・ロック男爵」が館に来訪。彼は一年以上前に記憶を失なって波間を漂っていた30代半ばの青年で、今もその記憶は戻らないが、人並外れた才覚で短期間に相応の財産を築いた身上だった。一同の前で常人離れした洞察力や機敏さを披露したエレン・ロックはナタリーたちに加勢して、ジェリコ一味の襲撃に応じるが。

 1930年のフランス作品。ルブラン66歳の時の作品でノンシリーズ編。

 評者は、少年時代に南洋一郎版の『魔人と海賊王』を読んだきりだった。その後、内容もどんどん忘れていたので、成長してから創元文庫の初版を買ったが、例によって、ずっと家の中でほったらかし。たまにはこういうのもいいな、と思って、一念発起して、購入した本を何十年ぶりに手に取る。

 いやー、話の展開も大ネタも痛快なほどに忘れていた(笑)。
 もちろんお話は旧態依然の部分はあるし、まるで19世紀半ばのロマン小説に接しているような感触もあるが、その辺は当初からこちらもそういうものを予期しながら読み始めたので文句には当たらない。むしろ良い意味で紙芝居のようなおとぎ話のような、オトナ向けの冒険メロドラマに身を任せて、それでフツーに心地よい。

 あらためて作品の形質というか実態としてはルパン・シリーズと無縁の一編だが、記憶喪失の快男児の青年エレン・ロックは、かなりルパン成分の濃いキャラクター。
 たしかルパンの半生は21世紀現在までの研究家によって作品世界内でのその経歴が考察・整理されているはずだから、エレン・ロックの正体=一時期記憶を失っていたルパンという説は唱えられないし、そもそもそれ以前に、最終的には作中ではっきりと彼の過去の素性が語られる(ここまでは書いてもいいですね? もちろん具体的なことは明かさないが)。
 それでもたしか南洋一郎も『魔人と海賊王』の序文で「ルパンを思わせる主人公(大意)」とか書いていたはず。その辺の気分はよくわかる。

 いかにもルブランの好きそうな気丈なお嬢様ヒロインのナタリーも、段々と三枚目風の性格が増していくマクシームも、それぞれ明快なキャラクターづけでよろしい。
 某・悪役がかなりしつこく、いい加減に退場しろよという感じはあったが、まあその辺は裏を返せば作者の最後までテンションを維持したい、サービス精神の賜物でもあろう。
 お宝の争奪や復讐などがからむ筋立ては、全体的に小規模な事件の積み重ねだが、エレン・ロックの正体に関するメインストリームのドラマ部分と合わせてそれなりの立体感はあり、これはこれでいい。 

 それで、当然ながら、本作の終盤の余韻は、あくまでこの作品が単発の長編だったからこそのもので、そういう意味ではルパンっぽい主人公ながら、ルパンシリーズに組み込まれなくて良かったと実感。

 ちなみに『魔人と海賊王』では「アデュー(さようなら)ではありません。オウ・ボワール(また会いましょう)です」とかいった主旨の印象的な名セリフが終盤にあったような気がしたのだが、創元文庫版ではなかった。あれも南洋一郎の翻案(創作)だったのかしらん。

No.2 3点 ボナンザ
(2020/11/03 15:21登録)
彼がリュパンなのかどうかはさておき、ルブランらしいサスペンスとラブロマンスだが、話の魅力は・・・。

No.1 4点 Tetchy
(2009/06/02 23:00登録)
日本の翻訳本ではルパンシリーズの1つとして数えられているが、実はルパンが出ていないノンシリーズ物。ルブラン=ルパンという安直な販売方法が気になるが・・・。

それはさておき、ジェリコ公爵なる人物は実は貴族ではなく、無敵の海賊というのが面白く、これは訳の仕方に無理があるだろうと思われる(公爵に当る単語は英語で云うところのPrince)。
で、ふとある若い女が出くわす記憶喪失の男。彼は非常に魅力的な男で、その女性は次第に恋に落ちていく。

まあ、大体、その中身は見える作品で、非常に少女マンガチックな話である。これがフレンチ・ロマンスかと思ったりもする、王道ストーリー。
ある種、ハーレクインの原形かも?

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