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ミステリの祭典

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Kingscorssさんの登録情報
平均点:6.42点 書評数:96件

プロフィール| 書評

No.56 8点 りら荘事件
鮎川哲也
(2020/09/09 14:57登録)
最初に書かないといけないのは、自分が読んだのは講談社文庫1992年版です。あとがきに書いてあったのですが、旧版から新版ではかなり書き足しや推敲があって面白さが全然違うらしいです。見分け方は8章が『暑い街で』なのが新版、『由木の出京』が旧版らしいです。作品名の違い(りら荘事件、りら荘殺人事件)では見分けられないらしいので注意。今回自分が拝読したのは新版です。

いや、素晴らしかった。これぞ本格という醍醐味を存分に味わった。一番すごいと思えたのは、最後まで中だるみがなくのめり込んで読めた点。新版で推敲済みだからか、ほぼ冗長な部分がなく、最後の最後までこんなに没入して本を読んだのは久しぶりだった。

トランプを使ったトリックや心理的伏線等もすばらしく、それら一つ一つでも一本短編ミステリーかけるぐらいなのに、贅沢に全てを無理なく融和させている、本格のお手本のような作品。しかも全く古さ(60年前だよ…すごすぎ)を感じさせない手腕はさすが御大、鮎川哲也だと感心しました。

当然、それはちょっとやりすぎじゃない?ちょっと犯人の機転が効きすぎじゃない?動機としてそれどうなの?なんで〇〇なの?等、本格に必ずついて回る非現実的乖離問題はもちろんあるが、他の本格に比べれば全ては大分現実的であると感じ、とくにアンフェアなものもなく、テンポよく最後まで読み進めれます。かなり最後の方までガンガン事件が起きるが、その反面、全く事件の全容が見えてこず、これどうやって着地するの?と不安になりますが、みごと気持ちよく謎が氷解します。

日本ミステリー史に確実に残るである名作なので未読の方、旧版の方しか読んでない方は是非(新版の方を)読んでみて下さい!

最後にひとこと。二条さん… (ノД`)シクシク こんなピエロ今まで見たことないよ… いいキャラしてたよ… あんた…


No.55 5点 OUT
桐野夏生
(2020/09/08 13:24登録)
2004年のエドガー賞(米ミステリー界のアカデミー賞みたいなの)の長編部門で日本人初のノミネートされた作品と知っていたので、楽しみにして拝読しました。

グロいし、イヤミスだし、確実に好き嫌いは分かれる。個人的にはどちらも面白ければOK派なのでその辺は問題なかったが、感想としては、やはり後半の展開がうまいと思えない。前半(上巻)はかなりワクワクしながらのめり込んで読んでただけに最後のまとめ方含めた後半(下巻)全体が極めて残念でしかたない。

もちろんつまらないわけではないのだが、前半のショッキングでスリル満点の読み応えに比べて後半はちょっと路線がかわってきてしまい、最後の対決っぽいシーンとか読んでてかなり(エログロ鬱が苦手等ではなくて、つまらないという意味で)苦痛で冗長の内容。

終わりよければ全て良しじゃないが、後半があまりよくないせいで全体評(前半9点、後半3点)としても微妙にならざる得ない(イニシエーション・ラブとかは真逆で最後の1行までは2点だが、最後の1行が10点なので印象もよく総評も高い)のが本当もったいない。傑作になり得ただけに本当に残念で仕方ない。


No.54 7点 ABC殺人事件
アガサ・クリスティー
(2020/09/07 02:01登録)
クリスティー傑作四天王の一角、ABC殺人事件(他は、そして誰もいなくなった、アクロイド殺し、オリエント急行殺人事件)。ミッシング・リンク、見立て殺人の古典なので、当然ミステリーファンなら必読でしょう。

ある日、ポワロに殺人予告状が届き、頭文字がAの場所で頭文字Aの老婆が殺される。そのあとも殺人予告状のあとに頭文字Bの場所で頭文字Bの美女、Cの場所でCの中年紳士が次々に殺されていく… 一体犯人は誰で何の目的で連続殺人を行うのか?

今作はクリスティーの作品の中では少し異色で、エンターテイメント性が他の作品より高いです。その最たる理由は、他作と同じく見えない犯人VSポワロの形式ですが、今作は犯人が最初の殺人が起こる前から挑発的な殺人予告状をポワロ宛に出して実際そのとおり殺人を実行し、その後、ポワロたちをあざ笑うかのように挑戦状的な殺人予告状を次々に送りは凶行に及ぶ、しかもA,B,Cの順で殺さていくという見立て殺人。これだけだとまるで漫画みたいな出来すぎドラマの概要ですが、そこはクリスティー、ちゃんとポワロに唸るような論理的帰結で推理させて意外な犯人を用意しています。

残念なことは嚆矢であるがために、既に後続(エラリー・クイーンにまで!)に死ぬほどこのアイディアを”リスペクト”という名のもとに模倣されまくられており、初読の人でもなんかトリック知ってて楽しめなかったとかありそうなこと… いや、トリック知ってても楽しめるんです…

また、他のクリスティー傑作四天王(そして誰もいなくなった、アクロイド殺し、オリエント急行殺人事件)等のトリックよりラストの衝撃度は明らかに少ないです。

なぜなら…

(ΦωΦ)フフフ… ABCは我らクリスティー傑作四天王の中でも最弱。四天王の面汚しよ…


No.53 5点 連続殺人鬼 カエル男
中山七里
(2020/09/06 20:56登録)
基本的には楽しく拝読させてもらったんですが、(実質)デビュー作だけあって色々粗が目立ちます。

犯行の流れがクリスティーの超有名作のアレのパクリ(リスペクト?)やどんでん返しを含む構成やネタが手垢のついた色々な有名作に似ているのは目をつぶるとして、筆致の面で所々しつこい言い回しが多い気がします。あと、やはり一番ダメだなぁと思ったのは、アクションの描写が病的に長く、完全に蛇足なこと。とにかく無駄に長くて退屈。あんなに詳細にアクションを書き込まなくてもいいんじゃないかと激しく思いました。全体的にアクションシーンは全部退屈だったのですが、特に警察署襲撃の描写はしつこすぎて読んでて苦痛でした…

アクションシーンをもっとスリムするだけでもっともっと面白くなったのに、すごくもったいないなぁというのが感想です。

グロい描写が苦手、手垢のついたトリックや構成に面白さを感じない読者ならもっと点が低くなること必至です… ただ、(実質)デビュー作でここまでのミステリー小説を書ききったのはひとえに中山七里さんの才能のなせる技だと感服しました。


No.52 8点 カーテン ポアロ最後の事件
アガサ・クリスティー
(2020/09/05 16:55登録)
クリスティーが亡くなる前年の1975年に出版(執筆自体は1943年)されたポワロ最後の事件として以外はあまり知名度がない本作ですが、紛れもない傑作です!

デビュー作の”スタイルズ荘の怪事件”と同じスタイルズ荘で締めくくるという憎すぎる演出。そしてプロットが何より素晴らしいです。考え抜かれた最終作としての演出と構成が見事というほかありません。

知名度のない理由は、やはりある意味”死と老い”がテーマなので全体的に暗くテンポがゆっくり目なこと、トリックもクリスティーの他の有名どころに比べれば派手さがなく地味(犯行上しかたない)、等だと思いますが、最後のポワロの手記で真相が全てがわかったときは構成の巧さに舌を巻かざるをえません。

さらに今作を満喫するには、先にある程度他のポワロシリーズを読み込む必要があると思います。”スタイルズ荘の怪事件”は特に場所以外はあまり関係してない(一応事件のことが少し話題にはなる)ですが、読んであるとより色々実感できますし、やはり他作を先に読み、ここに至るまでのポワロとヘイスティングズの関係をある程度熟読してあると最後がより感慨深いものになるでしょう。(ABC殺人事件の冒頭ら辺の”この全て左右対称なところ、実に気持ちがいい”とかセリフを知ってるとカーテンでの最後の”フェアプレイ”の意味が分かり、うはーーー!となったり、他にも驚愕の○○○○の件ももしかしてABCからの伏線?とか)

ポワロ最後の勇姿と思いやりを心に焼き付け、ポワロシリーズを含めた傑作群を後世に残してくれたアガサ・クリスティーに感謝しかありません!


No.51 7点 ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女
スティーグ・ラーソン
(2020/09/04 23:53登録)
長いし、評価が別れてるし、誇大評価なんじゃないかなぁと、なんとなく読むの躊躇してましたが、最近読了しました。

先に感想言うと、噂に違わず面白かったです。最初の方は登場人物覚えるのに苦労(あまりの人の多さに家系図とかついてるし)したり、なかなか物語が動かないので、ちょっとイマイチかなぁと思いながら読んでましたが、あるきっかけでどんどん謎が解けていく過程にとにかく引き込まれ、最後の方は夢中になって読んでました。

とにかくキャラクターが立ってて、エンターテイメント性が高く、読ませる小説でした。

個人的にイマイチだったところは、北欧の土地柄なのか、主人公がジェームス・ボンドみたいで、やたら落ち着いててかっこよすぎなのはおいていても、すぐ誰彼構わずセックスするのがいただけない点。やはり前半の物語がゆったり進む関係であまり面白さを感じにくい点。後半の事件の真相がわかって精算した後の雑誌ミレニアムの処遇の話が蛇足気味に感じたことでしょうか。

とはいえ、世界中で人気が出たのも納得の作品でした。


No.50 7点 盤上の敵
北村薫
(2020/09/04 14:41登録)
北村薫さんの作品らしくない緊迫した文章、白と黒が交互に書かれるミステリアスな構成。もうたまりません。

TV制作会社勤め(だっけ?)の主人公の留守中の家で発生した、在宅の妻を人質に取られた強盗立てこもり事件。主人公をチェスの駒のキング、妻をクイーンに見立て、チェス盤上の棋譜のように戦略的にこの一連の事件の解決を試みる夫。しかし、その裏には隠された真実が…

個人的には思い切り騙されましたし、とても面白かったんですが、イヤミス的な要素も含んでいるので合わない方(特に女性の方)も結構いらっしゃると思います。読後感も決していいとはいえません。ただ、日本ミステリー史の重要な立ち位置に残るであろう作品(言い過ぎ?)だと思うので機会があったら是非読んでみて下さい。


No.49 5点 覆面作家は二人いる
北村薫
(2020/09/04 12:11登録)
何も考えずにサクサク読めて楽しめる寡作。展開とかキャラクター、掛け合いが完全にラノベか漫画なので肩の力を抜いて楽しめる。

そのため、ミステリー部分はどちらかと言うと薄味で、推理を楽しむのではなく、ぶっ飛んだ正確の持ち主である深窓の令嬢とワトソン役の編集者の漫才みたいな掛け合いとかを楽しむだけの作品なので内容自体はあまりない。悪く言えば安っぽいTVドラマを活字化したような作品。

あまりミステリー部分を期待せずに、ラノベとか漫画の活字化と思って読めば楽しめると思います。個人的には可もなく不可もなくという感じ。


No.48 7点 空飛ぶ馬
北村薫
(2020/09/04 11:53登録)
北村薫さんの日常の謎系傑作ミステリー。氏のデビュー作で、円紫さんと”わたし”シリーズの第一作。五つからなる短編集です。

この作品ははっきり言ってしまうと地味の一言です。なので、あまり面白味を感じない読者も少なくないとはおもいます。派手な殺人事件等でなく、日常の謎という身近なテーマに主眼をおいて、女子大学生の”わたし”の周りで起こるちょっとした不思議を、それらの謎とは全く関係のない噺家である円紫さんが聞いただけで推理して解決?(または解明のみ)するという、いわゆる安楽椅子探偵ものです。

この本の特徴は読後感でしょう。どの話も北村さんの良質な文章力でやさしく心をなでられ、あるものは謎が解明した後にもやもやしたり、あるものはほっこりしたりと、他の推理小説では味わえない不思議な読後感を満喫できます。

このシリーズはどの本から読んでもおもしろいんですが、今作はシリーズ第一作なので”わたし”と円紫さんとの出会いや交流のはじめがキチンとエピソードに入っていて、この本から順番に読んでいくのがおすすめです。シリーズ毎に”わたし”の成長も合わせて読めるので今作が面白いと感じたなら、自然と残りのシリーズも読破されることでしょう。


No.47 6点 スタイルズ荘の怪事件
アガサ・クリスティー
(2020/09/04 05:40登録)
アガサ・クリスティーのデビュー作であり、探偵ポワロ&ヘイスティングス初登場の歴史的作品。後の大傑作群の礎的作品なので、ミステリーファンなら必ず読むべきだと思います。

動機、プロット等、デビュー作としては全体的には質の高い作品だが、ミステリーや謎解き部分はまだ完成度がそれほどでもなく、粗も目立つ。まず、第一章でいきなり登場人物のほぼ全員が出てきて、それが結構な人数なので誰が誰だか覚えるまでかなり大変。名前も覚えにくく、混乱以外の何物でもない。読了するまで何回か登場人物表見直すこと必至。また、犯人候補が最後まで二転三転するが、どうにか読者を欺いてやろうみたいなきらいが全面に出てしまっており、無理な構成が鼻につく。推理の最後のワンピースは、おいおいそれはいくら何でも唐突に出現しすぎでダメだろう…というような証拠で、その証拠が最後まで残っていた理由も結構ありえないもの。(見られたら即バレ、言い逃れ不可な証拠を簡単に処分できるにもかかわらず、ほったらかしで残す犯人とかありえない) 全体的にもテンポが悪く読んでて疲れる部分も。

個人的に残念だったのは、ポワロ初登場作なので、ポワロの名探偵誕生秘話とかヘイスティングスとの初めての出会いや友情を育むまでのことが書かれてあると思ってたら、ポワロシリーズの一つみたいな普通のノリで二人共出てきて、ポワロはすでに名探偵、ヘイスティングスとも既に友人だったのでがっくり来た。

総評としては、デビュー作なのでまだまだ完成度は高くないが、記念すべき作品なのでポワロファンなら必読です!なので、おまけで+1点しました。


No.46 4点 アリス殺し
小林泰三
(2020/09/03 18:45登録)
プロット的には嫌いでもなかったんですが、文章がちょっと稚拙なのと、なんで不思議な国のアリスのアヴァターなのに日本人ばかりこうなるの?っていう疑問が… 普通こういうミステリーになるなら登場人物は全部英国人になるだろと思いました。

あと、最後の残酷シーンの描写がとにかくしつこくて完全に蛇足。読んでて気持ち悪い。全体を通しては不思議の国での会話が原作チックにしてあるのはわかるが、やはり読んでて不快に感じてしまう。ちょっとなろう系ラノベっぽい描写や語り口、構成があって自分は苦手でした。

もう少し筆力を磨いて、主人公含めて登場人物が全員英国人で、イギリスの有名大学内で起こる事件とかだったならもっと雰囲気もマッチして面白くなったんじゃないかと思います。残念。


No.45 9点 medium 霊媒探偵城塚翡翠
相沢沙呼
(2020/09/01 10:16登録)
はじめに告白します。自分は相沢沙呼が苦手です。

しかし、今作は見事という他ありません…

この本を読む前に同著者のマツリカシリーズ三冊を読破しましたが、正直全く合いませんでした。個人的にラノベ、恋愛小説が超苦手で、マツリカシリーズはキャラクター達がまさにそれらの代表、しかも気持ち悪いソフトSMプレイばかり詳細に書き込んであり、読むのがかなり苦痛でした。最高傑作と名高いマツリカマトリョシカもラノベご都合主義、キャラクターが気持ち悪い等でほぼ楽しめませんでした。ああ、この作者は自分には永久に合わないな… そう思ってました。

今作も話題先行でどうせラノベ好きな奴らがキャッキャ騒いでいるだけの作品だろと決めつけ、図書館でたまたま見つけたので読んでみただけのものでした…

最終章に行くまでの感想は、マツリカシリーズに比べ、思ったよりラノベ要素がなくなって個人的に読みやすくなっており、まずまずかなぁ。キャラクターも高校生でなくなった分、ガキくささもなくなり、好感も上がり、なるほど、確かに変わった倒叙ものとしてそれなりに面白く、犯人も半分ぐらいの時点で推測でき、作者のねらいもわかった気になって完全に上から目線で批評してました。まぁまぁの仕掛けだけど、この作者、また女子高生(+ふともも)とカメラ屋だしてるよ… 他にネタないんかい…とか思いながら…

そして最終章。やはり思ったとおりの犯人、ほぼ想像通りの結末。…かと思いきや!

全 く 予 想 外 の 衝 撃 の 結 末 ! !

いや、もう本当に猛省です。相沢沙呼さんを舐めまくってました。さすが鮎川哲也賞受賞者。比類なき名作で、超本格ミステリーでした。『全てが伏線』という帯の謳い文句に偽りありませんでした。自分の嫌いなラノベっぽい要素も、自分みたいな中途半端な読者に推理させて有頂天にさせるのも全て計算通りとわ…

ただ、一点。この作者、先程も触れましたが、息をするように当然のごとくまたまた女子高生と太もも(太ももだけはガチ。伏線でも何でもなかった)出してます… 興奮した女子高生の口を借りて”ふとももぉーー”と叫ばせる始末。そしてマツリカシリーズ同様、セーラー服の構造を熟知したトリック。どんだけ好きなんだよ、変態かよ。その証拠に性懲りもなく作中で翡翠の口を借りて、作者が変態だとまたまた自白(マツリカマトリョシカでもやってた)してます。作中のキャラに自分を憑依させて妄想や作者の性癖への非難を言わさせるとは

ま さ に 霊 媒 変 態 小 説 家!! (゚∀゚)


No.44 6点 『アリス・ミラー城』殺人事件
北山猛邦
(2020/08/31 22:05登録)
基本的にはすごく引き込まれて読みました。探偵たちを孤島の城に集めて、次々と殺人が行われていくというプロットもかなりベタですが好きです。探偵たちのキャラクターもうまく描写されてあると思います。

トリックもまぁどっちかといえばアンフェアだと思いますが、一応伏線っぽいのはキチンなされてます。

一番の問題は賛否が別れ議論されているメイントリックが完全に大御所である〇〇〇〇(漢字四文字)さんの代表作の一つ、〇〇〇〇〇〇〇事件のパクリ(もしくは知らなかったが勉強不足で二番煎じになってしまった)なことじゃないでしょうか。それがなければ+2点ぐらいの衝撃だったと思いますが、既にあちらを読了していたので、あまり驚きはありませんでした。いや、これ完全にパクリやん…と感じただけで… それが残念です。

パクリじゃなく、ただの叙述の一つという方もいると思いますが、叙述の革新的な犯人隠匿方法としてはまるっきりやり方が同じと感じてしまいました…


No.43 6点 官能的 四つの狂気
鳥飼否宇
(2020/08/31 01:44登録)
本作をより楽しく堪能するには、先に『本格的 死人と狂気』を読了することをおすすめします。

世界バカミス☆アワード(第二回)を受賞している今作。同作者の『本格的』にも出てきた変態探偵?増田助教授が主役のお下劣極まりないバカミス。ただ、官能的というだけあって全部がエロミスです。なのでバカミス、エロミスが苦手な人だと全然おもしろくないと思います… 自分は個人的にバカミス大好きなので楽しめました。

バカミスとして評価するとなかなかの出来だと思います。ミステリーやトリック、プロットはバカミスなのであんまり追求しないで下さい… 軽い落語の噺を読む感覚で。

ただ、問題の最後の大どんでん返しはバカすぎて呆れます。(超絶驚愕を狙ってた思うんですが、どっちかというと酷すぎてドン引きでした)

鳥飼否宇さんは文書も構成もうまいので、バカミスを許容できる方なら一読の価値はあると思います!


No.42 6点 本格的 死人と狂人たち
鳥飼否宇
(2020/08/30 13:49登録)
割と知られていませんが、バカミスの名作です。バカミスの中でもトリックがバカなだけで真面目に本格ミステリーしてるもの等と違い、お下劣、おバカ、メタの三拍子そろったユーモアたっぷりの正統派?バカミスです。簡単に言えば『六とん』系です。

普通のミステリーを期待すると初っぽなからついていけないでしょう。しかし、キチンとバカミスと知って読めば本書を堪能できるはずです。本格的と銘打ってるだけあって、本格ミステリーちっくな短編が3つ+読者への挑戦状で構成されています。

六とんが好きな方ならこちらも楽しめるでしょう。違うのはこちらのほうが文体や文章が読みやすく、洗練されててちょっと意外でした。ただ、第二講が最後まで大学の講義の内容を読んでるだけなので、擬態の学術知識に興味ないなら辛いかも…

ゆるく、クスリと笑いたいあなた、本書を読んでみたらどうでしょうか?個人的にバカミスは大好きなので7点ぐらいあげたいんですが、読書の挑戦の最後の一行でイラッと来たので−1点です。結局、答えは○○ないんかい!!!バカミスだからってそりゃないだろ!ヽ(`Д´)ノプンプン

単行本、第一講、28ページ表2のフィボナッチ数列。増田45と清水56の年齢差が9になってますが、11ですよね? もし文庫化するなら修正してほしいです。第二講もレジュメが誤植ばっかり!…とおもったら、こっちは普通にわざとでした…


No.41 9点 大誘拐
天藤真
(2020/08/30 00:50登録)
これは超オススメ。完成度がかなり高く、特に文句のつけようもない。

エンターテイメント性がずば抜けて高く、ミステリーとしては薄味だが、犯罪小説として超絶面白い。

敢えて言うなら40年以上も前の著作なので仕方ないのだが、携帯もインターネットもなく、田舎ではテレビさえない、超高度情報化社会になる前でしか成立しないネタなので、時代背景がわかってない現代人から見ると色々と少し想像しづらいかも。(なんで〇〇しないの?とか、どうして〇〇なの?とか思ってしまうかも)
あと、中盤が少し中だるみするところかなぁ…

しかし、そんなの関係なしに応援したくなる犯人と刀自。100億(40年前の100億ですよ!)も身代金要求して、最後もどうやって話を着地させるんだろうと思ってたら、そうきますか… お見事です!

読後感もよく、まるで一本の映画を見てるよう。実際、自分は未見ですが、実写映画(1991年)もあるそうなのでそちらも機会があれば見てみたいですね。現在の腐った日本映画界が制作するアイドルの宣伝のための実写化と違い、実力派俳優ばかり起用で割と出来がいいらしいです。(面白いけどあまり売れなかったみたいです…やはりアイドルやジャニーズをバンバン起用して原作愛のないクソ映画つくるしかないのか?)

↓山田くん!レッドキングさんの座布団全部持ってって!


No.40 4点 子どもの王様
殊能将之
(2020/08/29 12:50登録)
殊能将之さんの大ファンです。点数は甘めです。

ハサミ男、石動戯作シリーズ以外での殊能将之さんの完全新作。そして悲しいことに殊能将之さんの絶筆となります。(ノД`)シクシク

子供向けのミステリーランド作品として世に出た今作ですが、はっきり言ってしまって、あまり出来が良くありません。子供向けのためかミステリー部分がかなり薄味で弱く、内容も大人向け?のためか結構陰鬱になっており、どちらも中途半端で作品が弱いまま終わってしまっています。所々で殊能さんのセンスが光るも、文体は基本的に子供目線のためかいつものキレがなく、ファンとしては悲しいぐらいダメダメなものになってしまっています。

ジュブナイルものと思えば読めないこともないのですが、殊能将之ファンが望んでいるのはこういうのではなく、新しい殊能将之をファンに見せる前に49歳という若さで逝去されてしまったので至極残念でなりません。

未だに死んだの実は嘘だよーってヒョコッと石動戯作のようなノリの軽さで戻ってきてくれるのを願うばかりです。。。殊能先生、実はペンネーム変えて小説出版してるんですよね?そう言ってください!未だに先生のTwitterを時たまチェックしてます。『んじゃまた』って呟いたのが最後とか悲しすぎる(ノД`)シクシク


No.39 6点 キマイラの新しい城
殊能将之
(2020/08/29 12:32登録)
殊能将之さんの大ファンです。点数は超々甘めです。

石動戯作シリーズ五作目(樒/榁を抜くなら四作目)にして最終作。。。悲しすぎます。もう石動戯作を二度と読めないなんて。。。(ノД`)シクシク

今作も割とぶっ飛んだ設定で、中世の騎士が現代に精神だけタイムトリップ?してきます。なんと中世で起こった事件を現在の日本で石動戯作が捜査するというトンデモ事件。この設定だけ見たら完全なバカミスっぽいので、またか。。。と黒い仏を思いだす人が多いでしょうが、きちんとした裏付け、理由、動機と今回は真面目に本格ミステリーしてます!

…とはいえ、石動戯作シリーズはユルさが売りなので、相変わらずのらりくらり真相に近づく過程がダルい場面、冗長なシーンも多く、テンポもそんなに良くないので全体的に完成度は高くないと思います。。。ただ、今回も登場の元名探偵の水城さんはやはりキレキレでカッコいいし、殊能将之さんのセンスを味わえる作品なのでファンは必読ですね!

個人的にはあまりファンタジーやSF要素が好きではないので他の石動戯作シリーズよりは評価が低いです。でも水城さんが出てきたのでおまけで+1点です!


No.38 7点 樒/榁
殊能将之
(2020/08/28 23:57登録)
殊能将之さんの大ファンなので点数は甘いです。

今作は火サスみたいな脱力系旅情ミステリーです。前作『鏡の中は日曜日』のスピンオフ作品的立ち位置ですので、この本のみ読んだ方の評価はあまり良くないかもしれません。ミステリー要素も大したものではなく、内容もページ数もかなり薄いです。その証拠に『鏡の中は日曜日』の文庫版では同時収録になってます。超お得ですね!!

なので、『鏡の中は日曜日』に登場する二人の名探偵、石動戯作と水城のキャラクターファンBOOKと思って下さい!完全におまけ小説です。そう思って読めば二人の性格や仕草、考え方がよくわかり、かなり楽しめるはずです。トリック等は薄味ですが、構成はうまくまとめてあるので、その辺はやはり殊能さんの才能の為せる技でしょうか。

当然気づいてるとは思いますが、タイトルにも秘密があります。本当、殊能将之さんはセンスありすぎ。

前作の『鏡の中は日曜日』を読まずに単体でこちらを読むと前作のネタバレになってしまうので必ず前作を読んでからか、『鏡の中は日曜日』の文庫版を買って読んで下さい!


No.37 9点 鏡の中は日曜日
殊能将之
(2020/08/28 23:27登録)
殊能将之さんの大ファンです。点数も超甘めです。必ず文庫本の方で読んで下さい!

石動戯作シリーズ第三段の本格ミステリー。前作の黒い仏はバカミスだったので、そこで殊能将之さんを読むのやめた人結構いると思うと残念なんですが、今作はめちゃくちゃ切れてます!

ファンとして、氏の最高傑作はハサミ男でなくこの作品だと断言できます!ただ、ただね。。。条件付きなんです。。。それは、石動戯作シリーズをちゃんと前二作読了してて今作を読んでること。既に手垢のついているあの叙述を許せるかどうか。殊能将之さんの洗練されすぎた文章(洗練されすぎて逆に読みにくいところが多々ある)に耐えれるか。

(´ε`;)ウーン… 条件たくさんあるなぁ。。。

内容は、帯とかにも書いてあるんですが、冒頭でいきなり石動戯作は殺されます。衝撃的です。そこからどうしてそうなったかの話になり、そして二人目の名探偵、水城優臣が登場します。この探偵、最初はあまり好感持てないんですが、真相まで行くとめちゃくちゃ魅力的になるんです!一方、今作も石動はかなりマイペースなユルいキャラです。対して水城はキレキレです。過去に水城が解決した事件を現在の石動が再調査という形で話は同時進行します。このへんの構成がまためちゃくちゃうまいんです。そして石動戯作殺害の真相がまた衝撃的なんです!これ以上語れないのがつらい。

とにかく最後の真相(元名探偵の水城)がかっこいい!やられた感半端ない。そして少しホロリとする。最高の読後感。

前作黒い仏で本を投げてしまい、脱・殊能将之になった人も是非読んでほしい。この本読まないのはもったいなさすぎる。。。評価の低い方の理由もわかるです。”アレ”が許せないんですよね?わかります。でもアレ抜きでも面白いと思うんです。未読の人、必ず美濃牛と黒い仏読んでから読んで下さい!!

ここまで絶賛してしまいましたが、作名はもっと内容が推測しやすいもののほうがよかったんじゃないかなぁと思いました。未だにあのタイトルの意味わからない。。。
梵貝荘殺人事件とか梵貝荘の秘密とかシンプルなやつでよかったと思う。。。

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