ぷちレコードさんの登録情報 | |
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平均点:6.29点 | 書評数:265件 |
No.265 | 5点 | マッチメイク 不知火京介 |
(2025/04/21 22:42登録) 大手団体のレスラーが試合中に急死したことを受け、事件の真相を追う新米レスラーの姿を活写した作品。 誰がどうやって殺したのか、そんなオーソドックスな骨組みを斬新な舞台で転がし、同時にプロレス興業の現実的な仕組みについても解明するという情報小説的な趣味を持っている。ミステリとしてはたいしたことはないが、主人公が自らの肉体を作り上げるトレーニング・シーンで、全身の筋肉の脈動が伝わってくるかのような動的な表現力は、格闘技ミステリの新たな可能性を感じさせる。臨場感あふれる迫力の描写はお見事。 |
No.264 | 8点 | 向日葵の咲かない夏 道尾秀介 |
(2025/04/21 22:34登録) 主人公は、小学四年生のミチオ、幼い妹のミカ、ミカだけを溺愛する母親。ミチオが住んでいるN町では、犬や猫を殺しては足を折り、口に石鹸を押し込むという事件が頻発していた。 夏休みの前の終業式に、ミチオは担任の岩村先生から宿題とプリントを届けるように頼まれ、欠席したクラスメイトのS君の家を訪問するが、そこで発見したのが首を吊って死んでいるS君の姿。ところが岩村先生と警察が駆け付けると死体が無くなっていた。 ミチオとミカは真相を探り始めるという本格ミステリの死体消失ものに、生まれ変わりというオカルトネタを絡めた異様な物語が展開していく。真相を解明していく中で、何度か論理のひっくり返しを見せながら驚きの結末に持っていく。 導入部における謎の提案、途中におけるサスペンス、ラストの意外性と全てに渡って魅力にあふれていて素晴らしい。 |
No.263 | 7点 | 涜神館殺人事件 手代木正太郎 |
(2025/04/09 21:59登録) イカサマ霊媒師のエイミー・グリフィスは、帝国心霊学協会の心霊鑑定士・ダングラスとともに、探偵家ソーンダイクが住む館を訪れた。前の所有者が閉ざされた中庭から消えたというこの呪われた館に、心霊考古学者や心霊写真家などの面々が集結する。だが、彼らは次々と何者かに殺されてゆく。 本書の読みどころは、濃密な怪奇趣味が醸成する個性的な作品世界。アクの強いキャラクター造形、最後に明かされる事件の背景や動機も異形そのもので素晴らしい。 |
No.262 | 5点 | 蜘蛛の牢より落つるもの 原浩 |
(2025/04/09 21:54登録) 渇水によってダム湖の底から姿を現わそうとしている村のキャンプ場では、かつて互いを埋め合って死に至らしめた不可解な集団生き埋め事件が発生した。事件関係者や旧村民たちは渇水と、あの時と同じ蜘蛛の大発生に、村に祀られていた比丘尼の祟り再びと恐れおののく。そんな中、奇妙な黒い影が出現し、新たな異常死が。 村人に惨殺された比丘尼の怨霊譚と、不条理な生き埋め殺人の謎を生理・心理的ディテールで忌まわしく肉付けしながら、人間が怪異を生み出すというテーゼで結びつけている。 |
No.261 | 6点 | あの日、君は何をした まさきとしか |
(2025/03/27 21:49登録) 水野大樹は、ある晩自動車事に遭い死亡してしまう。彼が深夜に外出した理由が不明だったため、未解決事件への関与を疑う風評が流れ、母親のいづみの心は深く傷ついた。 わが子を喪った哀しみにいづみの精神が崩壊していくさまが描かれるのが序盤の展開で、やがて十五年の時が経過して別の殺人事件が発生する。本書の特異さが際立ってくるのは、新旧二つの事件を結び付ける糸が見え始める中盤からで、捻じれた心理の描き方に戦慄させられる。 |
No.260 | 5点 | 秋雨物語 貴志祐介 |
(2025/03/27 21:44登録) 「餓鬼の田」は、風光明媚な立山連峰を望む避暑地という舞台設定が効いている。愛する人をなぜか得られない呪いに憑かれたっ青年の驚くべき独白の物語。 「フーグ」は、解離性遁走という精神医学用語を手始めに、蜘蛛合戦や瞬間移動といったオカルト的でSF的な趣向が連続する。 「白鳥の歌」は、主人公の小説家が、作中作にも登場し無名な歌手が遺した絶唱に隠された秘密に肉薄する。 「こっくりさん」は、お馴染みの召霊儀式に秘められた忌まわしい謎が明かされる。 総じて怪奇小説に通ずる、レトロな味わいがある作品集。 |
No.259 | 6点 | 逆転正義 下村敦史 |
(2025/03/14 21:52登録) いじめを教師に報告した高校生、家出中の女を保護した男、自宅で人を殺してしまった女、罪なき子供を殺された父親。 自分には自分の、他人には他人の物差しがある。そして自分の基準が絶対正しいとは限らない。どの話もディテールが騙し絵のように構成され、攻守、善悪、男女、それまでの設定が終盤で一気に覆される。読めば読むほど自分の偏見、頭でっかちな正義感、価値観がひっくり返される。今、自分の前に映る光景が本当に正しいのか、読みながら迷宮に入り込む。景色が反転するどんでん返しミステリ集。 |
No.258 | 6点 | 恋する殺人者 倉知淳 |
(2025/03/14 21:47登録) 主人公は大学生の高文。彼は従姉の真帆子の死に疑問を抱いていた。高文は真帆子から「最近、つけられている気がする」と聞いていたのだ。警察に言ったのだが反応は薄く、自分で捜査を始めることに。その助手は、フリーターの来宮が務める。この素人コンビがアポを取った人が次々と凄惨な手口で殺されていく。 この二人がどうやって真帆子の死と、それに続く殺人事件に迫っていくかが読みどころだが、女心が分からない高文と、内心では高文のことが好きな来宮の関係性がいい。 「恋する殺人者」というこのタイトルが頭にあるから、すっかり騙された。ラストですべてのピースがはまった時に作者が仕掛けた罠に気付いた。 |
No.257 | 5点 | 遠い旋律、草原の光 倉阪鬼一郎 |
(2025/03/03 21:51登録) 長い歳月を背景とする一族の因縁の物語であり、崇高なトーンの芸術家小説にして恋愛小説、そして精緻そのものの暗号ミステリでもある。 作者の作品では時にして物語が印象に残らないほどの強烈な存在感を放つ暗号が、本書では物語と融合している。 アクの強さをあまり感じさせない点で、倉坂作品の入門書として最適でしょう。 |
No.256 | 5点 | UNKNOWN 古処誠二 |
(2025/03/03 21:47登録) 航空自衛隊のレーダー基地、隊長室の電話に盗聴器が仕掛けられていた。密かに捜査を進めるため、防衛部調査班の朝倉二尉が基地を訪れる。野上三曹は、彼の指揮下で働くように命じられた。 基地という閉ざされた空間に加え、自衛隊という閉ざされた組織が舞台。誰がどうやって盗聴器を仕掛けたのかという謎とその解決を通して描かれるのは、自衛隊という官僚機構の姿、ひいては日本の国防である。そんな真摯なテーマを扱いながらも、野上の軽妙でユーモラスな語りと、シンプルな展開で一気に読ませる。 |
No.255 | 6点 | チルドレン 伊坂幸太郎 |
(2025/02/18 22:14登録) 銀行強盗事件に遭遇した大学生の鴨居と陣内。二人はそこで目の見えない青年・永瀬と知り合い、共に無事に解放されるが。 目が不自由だからこその鋭敏さで強盗事件の真相を鮮やかに解き明かしてしまう永瀬と二人の友情の芽生えを示唆して終わる「バンク」。家裁調査官をしている「僕」が語り手の表題作と「チルドレンⅡ」。永瀬の彼女である「わたし」が学生時代に永瀬の彼女と自分と陣内が偶然巻き込まれた事件を回想する「レトリーバー」。陣内が父親超えする瞬間のエピソードを永瀬が語り起こす「イン」。 五つの小さな物語は独立して楽しめるのだが、それぞれの中に仕込まれている挿話が別の物語のテーマになっていたりと、ひとつの長編小説を読んだような構成になっている。笑いあり、じんわりするところあり、というナイーブで温かな小説。 |
No.254 | 6点 | デカルトの密室 瀬名秀明 |
(2025/02/18 22:01登録) ここで扱われるのはフレーム問題。無限の可能性を持つ現実の事象をふるいにかけ、有限解として収束させることは可能かという問題であり、これは我々がいかにして世界を認識するか、意識とは何かという謎に直結する。 ロボットに意識を持たせるためには、意識自体の定義が必要となる。そしてロボットと開発者の関係は、登場人物と作者の構図と相似である。「探偵が論理的に辿り着いた真相が真実か否かは作中からは判断できない」という後期クイーン問題はそのままフレーム問題へと繋がっていく。難易度は高いが、ロボットミステリを語る上で外せない一冊。 |
No.253 | 5点 | 道 白石一文 |
(2025/02/05 22:01登録) 最愛の娘を交通事故で失った男が、過去に飛んで事故を未然に防ぎ、娘の生まれた時間を過ごすというタイムトラベルもの。未来の記憶を持ったままで過去に飛び人生をやり直す話と言えば、いろいろな名作があるが、佐藤正午の「Y」のように人生の分岐点を捉えてあり得たかもしれない人生を模索する話に近い。 中盤以降、さまざまな冒険を経て、最終的に「僕たちはそのそれぞれの世界で別々に生き続ける無数の自分でもある」という世界観を得る。改めて生きるとは何かを力強く問いかける作品だ。 |
No.252 | 5点 | 川崎警察 下流域 香納諒一 |
(2025/02/05 21:54登録) 一九七〇年代の川崎の工業地帯を舞台にした警察捜査小説。 川崎の経済を支えた京浜工業地帯とその暗部を背景に、川崎の街で日々を暮らす人々の心象を活写する作者の濃厚な筆致が冴えている。 捜査の過程で現れる人物たちに共通するのは無常観だ。全てが激しく変化していくその地にあって、誰もが不確かな日常に抗いながら生きている。そしてのその変化を受け入れられない者が罪を犯す。この時代、この土地だから起きた事件の真相はあまりにも切ない。 |
No.251 | 7点 | キョウカンカク 天祢涼 |
(2025/01/23 21:48登録) 被害者の死体を燃やすことからフレイムと呼ばれる連続殺人鬼に妹を殺された山紫郎。彼が出会った銀髪の美女は、探偵・音宮美夜と名乗った。音声に色がついて見えるという共感覚の体質である彼女は、人の声の「色」を手掛かりに犯人を追う。 探偵役の特殊な能力・体質に加えて、犯人の奇想天外な動機が忘れ難い。だが、本書は決して探偵の設定や動機の意外だけに頼った作品ではない。本書の驚きの土台は、大胆極まりない伏線の仕掛け方にある。あまりに大胆なので、それが犯人に繋がる話だと気づく人は少ないのではないか。物語の根幹から細部に至るまで、伏線とその回収が見事。 |
No.250 | 5点 | 誰も死なないミステリーを君に 眠り姫と五人の容疑者 井上悠宇 |
(2025/01/23 21:39登録) 人の死期が判る志緒と人が死ぬミステリが許せない佐藤のコンビが、推理によって誰も死なないうちに事件を終わらせようというシリーズの第三弾で、二人が高校生時代に初めて手掛けた事件を描く。志緒が好きな歌手と幼馴染たちの間で起きた殴打事件の真相を突き止めることで、歌手に現れた死の兆候を消そうというのだ。 物証や証言から犯人特定に至る流れが堅実で、そこに人を死から救うドラマが深く織り込まれていて良い。 |
No.249 | 7点 | 炎に絵を 陳舜臣 |
(2025/01/12 22:01登録) 辛亥革命の資金の拐帯犯と烙印を押された父の汚名を晴らすため、調査を神戸で行ってくれと病床の兄に頼まれた青年が、同僚の女性社員の協力を得て父に関わる過去を探っていくうちに、産業スパイ問題も絡んでくる。 スピーディーで躍動感あふれる展開が、意外性に富んだ結末まで一気に読ませる。一風変わったタイトルもその意味が明らかになった時、心の内に余韻を響かせる。 |
No.248 | 5点 | 血の季節 小泉喜美子 |
(2025/01/12 21:57登録) ある死刑囚の話から始まる。死刑囚は少年時代の戦前の東京で、外国人の少年たちと出会う。彼等との交流を通じて揺れ動く少年の心理が描き出され、ドラキュラの存在をほのめかすような描写が重ねられ、想像はいやがうえにも刺激される。 日本を舞台にヨーロッパの乾いた空気を持ち込み、独特の雰囲気を醸し出している。ミステリとホラーの要素がうまく溶け合った余韻を残すラストは味わい深い。 |
No.247 | 5点 | ものがたりの賊 真藤順丈 |
(2024/12/28 22:48登録) 歴史の有名人と小説の有名人が入り乱れ、開戦前の昭和初期までを映し出す冒険活劇。荒唐無稽な設定も、大杉栄の粛清や九州帝大の生体解剖、「青鞜」の刊行など史実を忠実に織り込むことで、パロディ炸裂の壮大な物語に仕上がっている。 二転三転しながら、ニヤリとさせられるラストへ連れて行ってくれる風刺とアイデアが詰まった作品。 |
No.246 | 7点 | 爆弾 呉勝浩 |
(2024/12/28 22:43登録) 酒屋の自販機を蹴って止めに入った店員を殴り捕まったスズキタゴサク。実はこの男、爆弾魔だった。彼の予告通りに爆発が起こる。そしてさらなる爆破をめぐって、取り調べに当たる刑事たちを相手にゲームを始める。 読みどころは、捜査陣とスズキタゴサクの息詰まる対決の行方なのだが、彼は追求をのらりくらりのかわしていく。目的も何なのか分からない不気味さがある。まさに前代未聞のテロリストで、相対する警視庁コンビや現場の野方署のコンビなどもいいキャラクターで、捜査小説として読み応えがある。不公平感が蔓延する日本の現状を穿つ、破壊度十分の社会派小説である。 |