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ミステリの祭典

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ぷちレコードさんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:325件

プロフィール| 書評

No.325 5点 暗獄怪談 或る男の死
鷲羽大介
(2026/05/31 21:44登録)
よくある怪談実話系の体裁であるが、手触りが違う。友人の祖母の遺品を巡る顛末「或る男の死」、この世のものではない不気味なものが襲いかかる「押し入れの中」など、怪談作家の聞き書きで従来の怪談に近いが、全体的に冷めている。怖がらせるというよりは、怪異からの人間の真実を照射しようとする眼差しが強い。
真っ黒い尿がある事実を示す「墨汁のような」、虎と喚起させる深層意識の熱情「美しきランナー」、そこにある死の予感「小鳥にひかれて」など幻想的で象徴的で、何ひとつ説明がないゆえにイメージが脳裏に焼き付く。


No.324 7点 ファラオの密室
白川尚史
(2026/05/31 21:37登録)
背景となる時代は紀元前十四世紀。主人公は変死体となって発見され、ミイラにされた神官のセティ。だが心臓に欠けた個所があったため冥府の裁きを受けられず、ミイラ姿のまま地上に舞い戻ってきた。セティは自分が死んだ事件の真相に辿り着けるのか。
セティの死以外にも、解くべき大きな謎が存在する。先王アクエンアテンの遺体が密室状態のピラミッドから消失した大事件だ。アクエンアテンといえば、太陽神アテンを唯一の神を定め、他の神々への信仰を禁止した異端の王として知られるが、アクエンアテンの死の直後という時期でなければ成立しない点であり、歴史ミステリとして極めて野心的な試みといえる。古代エジプト特有の宗教観と密接に関連した特殊設定も謎解きに不可欠な要素となっており、専門知識をわかりやすく語る筆致も見事である。


No.323 5点 星くずの殺人
桃野雑派
(2026/05/19 21:08登録)
二〇××年、一人三千万円という破格の宇宙旅行が始まった。宇宙ホテル「星くず」では、正式開業を前に六人の参加者によるモニターツアーを企画。しかし開始早々、事件が発生する。無重力のはずの部屋で、首吊り死体が発見されたのだ。開業前胃のイメージ悪化は避けたいが、死体を放置するわけにもいかず、添乗員の土師は苦悩する。
宇宙空間ならではの謎に始まり、通信途絶、船外活動、スペースデブリなど、次々と襲うサスペンスも緊張感たっぷり。曲者ぞろいのツアー参加者たちの背景も徐々に明らかになってゆき、様々な駆け引きを含むサバイバルものでもある。


No.322 6点 半暮刻
月村了衛
(2026/05/19 21:01登録)
会員制クラブに勤める山科翔太と辻井海斗は、女性客を騙して借金まみれにし、風俗店に落としていたが、ある日警察の摘発にあう。だが逮捕され実刑に服したのは翔太だけだった。
児童養護施設で育ち、少年院に入ったことがある翔太と、経産省のキャリア官僚の息子である海斗。第一部では翔太が自らの罪と向き合い、第二部では広告代理店に就職した海斗の罪を捉えていく。ヤクザは暴力団対策法に縛られるが、半グレはカタギの世界に身を置きながら、法の隙間で好き勝手が出来る。代理店勤務のエリート社員でも犯さざるを得ない合法的な犯罪。「日本社会の闇と本物の悪をえぐる」という帯が、ひしひしと迫る社会派サスペンス。


No.321 5点 留萌本線、最後の事件 トンネルの向こうは真っ白
山本巧次
(2026/05/07 22:33登録)
JR北海道、留萌本線は赤字路線の一つだが、その廃止が決定した近未来という設定で書かれている。運命の日が間近に迫った列車を爆発物を手にした男が占拠する。運転手と乗客を人質にとった犯人は、交渉役として廃線に一役買った道議会議員を要求した。
ローカル線とハイテクを駆使した犯罪の取り合わせに意外性があっていい。合理性を追求すれば何かが必ず犠牲になるが、それによって喪われることもあると、作者は警告を発している。


No.320 5点 そして今はだれも
青井夏海
(2026/05/07 22:28登録)
高校教師の笑子は、生徒から予想外の依頼を受ける。高校では女子生徒の退学が続出しており、その背後には教師Xがいるというのだ。Xは女子生徒の弱みを握り、退学に追い込んでいるという。笑子は正体を探るべく活動を始める。
Xの候補者は四人しかいないはずだが、どうしてこのように混乱が生じてしまうのかという謎解きも興味深いが、謎解きの後のビターな展開が忘れ難い。


No.319 5点 虚ろな感覚
北川歩実
(2026/04/24 21:39登録)
7編からなる短編集。その中から2編の感想を。

「完璧な塑像」有野文江は、美容整形医の都波満彦に友人の梨恵を紹介し、都波と梨恵は交際し婚約するところまでいった。しかし都波には他に女がいたという理由で、婚約を破棄した梨恵は、一人旅に出た切り行方不明となった。梨恵からの音信が途絶えて一年が過ぎた頃、文江は街角で梨恵そっくりな女を連れている都波の姿を見かける。ここから二転三転して意外な結末を迎えるのだが、パズラーとしては粗が目立つし、人物描写は生彩が欠け、失踪事件にまつわる伏線がほとんど張られていないのは不満。
「告白シミュレーション」薬の副作用で一時的な前向性健忘症に陥った田坂摩耶は、ニ十分程度しか記憶できなくなる。
摩耶に好意を抱く主人公は、彼が短期記憶を覚えておけないのをいいことに、愛の告白を何度もシミュレーションしてみる。卑怯な恋愛遊戯の果てに明らかになる、滑稽かつ暗澹とした真相こそ作者の真骨頂だろう。


No.318 6点 君のクイズ
小川哲
(2026/04/24 21:28登録)
三島玲央は一千万円の賞金が掛かったクイズ番組の決勝戦に駒を進めていた。しかし決勝戦の対戦相手だった本庄絆が、問題文の読み上げ前に解答する「ゼロ文字押し」で優勝する。なぜ本庄絆は読まれる前から答えを知っていたのか。玲央は決勝戦を振り返り、競技クイズのメソッドに基づいて彼の思考を読み解こうとする。
相手の「知っている」を材料にして、より理解しようとするコミュニケーションの過程が、人生の映しでもあるクイズを通して描かれる。一方で、他人の人生をどこまでも知ることが出来るのか、という問いに答えが用意されている点も見逃せない。クイズによって知る行為の意味を広く問いかけている。


No.317 5点 ゆうずどの結末
滝川さり
(2026/04/09 21:17登録)
呪われた本というメタ趣向の都市伝説もの。
自殺した作家・鬼多河さりが遺したホラー小説「ゆうずど」を一行でも読んだ者は市が訪れるという。たとえ途中で読むのをやめても、どこかに捨ててもその呪いから逃げることは出来ない。
様々な場に現れる「ゆうずど」が発動する呪いに救いはないが、それを受ける者たちもまた闇を孕んでいる。定番のテーマ、モチーフをグロテスクなディテールと歪な心理描写で捻るのがいい。


No.316 5点 ラザロの迷宮
神永学
(2026/04/09 21:12登録)
湖畔の洋館に8人の男女が集まり、殺人事件を題材とする参加型の謎解きゲームに興じる。真相解明まで館から出られないというルールのもと、ゲームが始まった。程なく彼等の眼前に転がった死体は本物だった。
典型的な閉鎖環境ミステリだが、そこに血塗れで警察を訪れた記憶喪失者の素性を探る警察小説が絡んでくる。
多様な驚愕が連続したあげく、思いも寄らない角度から真相が顔を出す。ギリギリの綱渡りが楽しめる。


No.315 8点 木挽町のあだ討ち
永井紗耶子
(2026/03/25 21:18登録)
江戸期の芝居小屋を舞台に、ひとつのあだ討ちを目撃した、様々な人の現実を描くことによって、あだ討ちの正体を少しずつ明かしていく。
語り手を変えた「自分語り」を積み重ねた構成。いわゆる聞き書き形式の筋立てで、語り手たちのキャラクターはよく考えられており、それぞれの語りは謎を隠すと同時に真相の一部分を示す形になっており、精緻かつ周到である。
奇想天外なアイデアを、手の込んだ文章が支えている。笑いあり涙あり、芝居の観客や上演に携わる人たちへの敬意にあふれている。


No.314 7点 地雷グリコ
青崎有吾
(2026/03/25 21:12登録)
高校生の射守矢真兎は、ゲームを通して次々と現れる強敵と頭脳戦を繰り広げる。そのゲームは他愛のない子供の遊びに独自のルールを追加し奥深い頭脳ゲームに仕立てている。
射守矢は対戦相手の言動から性格や癖を見抜き、それを活かして相手を出し抜こうとする。初体面の相手がどんな人間かを見抜いていく。そして対戦相手が知り合いの場合は、さらに知り尽くそうと執念深く観察し、関係性の変化を呼ぶ。
勝負は文化祭の屋上使用権を賭けたゲームに始まり、しまいには数千万円がかかった勝負にまで発展する。しかし、ゲームを楽しむ高校生たちの青春小説としての趣が、最後まで失われないのも魅力のひとつである。


No.313 5点 花の下にて春死なむ
北森鴻
(2026/03/10 21:08登録)
舞台は三軒茶屋の知る人ぞ知るビア・バー「香菜里家」。マスターの工藤が常連客とともに訪れる客が持ちかけた謎を推理するという構成。
全ての話に共通しているのは、提出された謎が解明される時、そこに込められた人間の想いが明かされる点。単なる謎解きゲームの域を超えて、叙情的な感銘をもたらす。


No.312 7点 殺戮にいたる病
我孫子武丸
(2026/03/10 21:04登録)
快楽殺人者を中心に立場の異なる視点から物語は展開していく。
サイコスリラーの傑作であるだけでなく、驚愕の結末のために作者が仕掛けた周到な準備の巧妙さに舌を巻く。しかもそれがこの小説の隠された重要なテーマを浮かび上がらせる鍵にもなっている。現代社会の病理を描いた筆致は見事。


No.311 5点 魔術はささやく
宮部みゆき
(2026/02/18 21:36登録)
両親のいない日下守少年は、伯父大造一家のもとで暮らしていたが、ある日、大造が若い娘を車ではねてしまった。ここから思わぬ事件に巻き込まれていく。
物語は、伯父とその家族を救おうとする守の姿がメインに描かれていくが、作者はそこにサブストーリーを用意し、話を膨らませていく。大造一家をはじめ、高校の友達やバイト先の従業員たちとの交流を通じ、それまで失われていた絆を徐々に取り戻していくことになる。その意味で本書は、成長する少年の姿を生き生きと捉えた青春小説ともいえる。


No.310 5点 歌麿殺人事件
水野泰治
(2026/02/18 21:29登録)
歌麿の謎を追ったルポライターが自殺を遂げ、彼の親友だった男女二名がそれを追うという、歴史ミステリらしい展開を見せながら、歌麿自身も含めた登場人物たちの恋愛模様が、次第に多動的に浮かび上がってくる。
ルポライターの死は、その死因を追う二人の間に微妙な亀裂をもたらし、徐々に崩れ始める。その崩壊感覚が引き起こすサスペンスが、事件の謎以上にカタルシスをもたらす。


No.309 5点 楽園のカンヴァス
原田マハ
(2026/01/29 21:58登録)
ルソー研究者のティム・ブラウンは美術商コンラート・バイラーの邸宅に招かれる。そこで見せられたのは、ルソーの最晩年の大作「夢」とほとんど同じ内容の作品だった。死期迫るバイラーは、ブラウンともう一人呼び寄せたルソー研究者・早川織絵に真贋鑑定を依頼する。
ミステリでありながら美術の知識が身につき、さらには恋愛小説としても愉しめる。最後にほっこりするのが、またいいところ。


No.308 10点 奇想、天を動かす
島田荘司
(2026/01/29 21:54登録)
浮浪者の老人がわずか十二円の消費税を請求された腹いせに、菓子屋の女性店主を殺害。吉敷刑事は、事件の背景を探り出すため、現場の浅草界隈に聞き込みに回る。
冒頭から怪奇趣味を漂わせた不可能犯罪が登場するが、本筋はオーソドックスな社会派推理的な展開を見せていく。次第に事件の背景が判明したところで、奇想に富んだ謎を仕掛けることで、昭和三十二年に北海道の国鉄札沼線で起きた事件が絡んでくるあたりからは、まさに作者の独壇場。本格ミステリと社会派ミステリが融合した傑作。


No.307 5点 幸福な朝食
乃南アサ
(2026/01/15 21:47登録)
アイドルになり損ねた人形使いを主人公にしたサイコスリラーだが、冒頭からヒロインの血生臭い夢のシーンが描かれるなど、一貫として暗いトーンに包まれている。
ヒロインの狂おしい心理が描き込まれていくほど暗さも増していくが、それが妖しい魅力となって心理サスペンス的効果を高める仕組みとなっている。ただサイコスリラーとしての仕掛けに物足りなさを感じた。


No.306 6点 火の接吻
戸川昌子
(2026/01/15 21:44登録)
火遊びがもとで火災を起こした三人の幼稚園児が二十六年後、それぞれ消防士、刑事、放火魔として成長する。この三人がライオンを飼っている一人の女性を焼死させた放火事件を契機に再会するが、さらにそこから新たな殺人事件へと展開していく。
主要人物の三人をはじめ、登場人物たちは名前ではなく、役割名でしか出てこない。実名が出るのはプロローグとエピローグにあるような記録の上だけである。これによって悪夢を装った舞台劇のような様相を呈する。丹念に仕立てられた舞台装置の中で、ドラマは終焉を迎える。幻想的な心理ミステリの妙が存分に味わえる。

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