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ミステリの祭典

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ぷちレコードさんの登録情報
平均点:6.24点 書評数:293件

プロフィール| 書評

No.293 9点 人狼城の恐怖
二階堂黎人
(2025/09/16 21:28登録)
国境の巨大渓谷を挟んでドイツとフランスにそびえる双子の城(人狼城)を舞台に、壮絶な殺戮劇が展開する。
第一部(ドイツ)第二部(フランス)のどちらから読み始めてもいい構成になっており、人狼伝説にまつわる様々な意匠に魅了される。閉じ込められた城内で起こるのは殺人の連続。事件はやがてサバイバルの様相を呈し、登場人物は逃げ惑う。これでもかと連発する不可能犯罪の数々、多くの謎を散りばめて第三部で蘭子が登場する。続く第四部で謎の解明に多くのページを割いた構想に見合う、度肝を抜く驚愕のトリックが披露される。まさに傑作である。


No.292 6点 Rommy
歌野晶午
(2025/09/16 21:21登録)
ROMMYというロックシンガーの伝記という体裁をとったもので、その肖像が関係者の証言や手紙、自作の菓子などを元に描かれる。一方でROMMYを襲った狂気の密室殺人事件が記述され、両者はラストで劇的に結びつくという構成。
感動的な真相もさることながら、この伝記パートの凝りようが尋常ではない。


No.291 6点 續・日本殺人事件
山口雅也
(2025/09/06 21:30登録)
アメリカ人が書いた、日本を舞台にする探偵小説の翻訳という趣向の作品で、描かれる場所はその設定からして現実の日本ではない。
相模半島にあるカンノン・シティーの草庵を事務所に私立探偵業を始めた東京茶夢を主人公とする中編二編のうち「巨人の国がリヴァー」では、スモウ・レスラーの珍妙な連続殺人事件がチェスタトン風のロジックで解決され、論理を捨てるという禅の世界を論理至上の推理小説の世界に持ち込んだ「実在の船」では、新本格派風にメタレベルのオチがつく。ジャパネスクな世界が楽しめる一冊。


No.290 5点 グロテスク
桐野夏生
(2025/09/06 21:24登録)
一流企業のエリートOLでありながら、夜は街角で体を売る和恵。和恵と同級生であった区役所勤めの主人公。その妹で美貌を持つ娼婦ユリコ。階級社会を縮小したような一流女子高校での鬱屈した日々とその後の人生が、それぞれの独白や手記という形で綴られていく。
空気の読めない言動で学校でも職場でも居場所を失っていく和恵と、美しさで男たちを翻弄してきたユリコ。全く違う個性の二人が、最後は同じ場所で下層の娼婦として殺される。何より恐ろしいのは事件よりも、美しすぎる妹への嫉妬心と、同級生への悪意を肥大させ怪物化していく主人公の心の闇である。


No.289 7点 777 トリプルセブン
伊坂幸太郎
(2025/08/27 21:15登録)
不運な殺し屋・七尾が請け負ったのは簡単な仕事だった。超高級ホテルの一室にプレゼントを届けるはずが、勘違いで殺人劇に。そのホテルには驚異的な記憶力を持つ紙野結花が身を潜めていて、彼女を狙う同業者たちが押しかけてくる。
殺しの同業者13人のほか政府高官らがホテル内で交錯し、殺人と逃走の合間に任務と人生の片鱗が、物語を予想外の方向に進めながら、サスペンス色豊かに語られていく。死亡率が高いのに全く血なまぐさくなく、節々でユーモアを味わうことが出来る。


No.288 6点 永遠の仔
天童荒太
(2025/08/27 21:09登録)
主人公三人は、幼年時代に小児病棟の精神病棟で出会う。三人はそれぞれに虐待された過去を持ち、そこから逃れるために霧の霊峰の中、罪の道へと走る。
三人の幼年時代と、成人し看護婦、弁護士、刑事となり再会を果たした後の物語が交互に語られ、彼らの人生が有機的に描かれている。そこには生きていくことへの不安と絶望、そしてそれに反比例するかのように生々しい「生」への欲望が渦巻いている。
いかなる苦境や逆境にあっても自分、あるいは他者である「あなた」がそこに生きていること、それは価値あることだと全編を通じて諭してくれるのだ。そこの安易な慰めや、偽りは一切ない。最後の文章にそれは凝縮されている。


No.287 5点 デッド・ディテクティブ
辻真先
(2025/08/17 21:14登録)
死後の世界へ向かう究極のトラベルミステリ。
フーダニットにしてハウダニット、さらに絶対に嘘がつけない、生前に見たものを再現させられるという状況下にもかかわらず、殺人事件の犯人が判明しないのはなぜなのか、というのが最大の読みどころ。
あの世のシステムを逆手に取って意表を突くところが作者らしく、見せ方の巧さに唸らされた。


No.286 6点 私が殺した少女
原尞
(2025/08/17 21:10登録)
天才ヴァイオリニストの少女の誘拐事件で、身代金の受け渡し役を依頼された沢崎が、事件解決のための調査を依頼されるところから事件は動き出す。舞台設定自体は、いわゆる正統派ハードボイルドである。
やがて悲惨な結末を迎える誘拐事件の真相、少女の死への引き金となったのは誰か。二転三転するサスペンスは読む者を飽きさせない。直木賞受賞作でもある。


No.285 8点 メルカトルと美袋のための殺人
麻耶雄嵩
(2025/08/05 21:33登録)
推理の腕は確かながら、性格が悪く自分の利益のためには他人を犠牲にすることなど、なんとも思っていない探偵メルカトル鮎の非情さと論理性を愉しめる短編集。
メルカトルの活躍を作家でありワトスン役の美袋三条が語る。幽霊や作中作が出てくるなど、趣向を凝らしているが基本は正統的な本格ミステリであり、見事なロジックとトリックが堪能できる。


No.284 7点 OUT
桐野夏生
(2025/08/05 21:29登録)
主婦たちの家族関係からくる鬱屈した気持ちと暗い情念が作品全体を覆っている。
一つの心の闇が引き起こした犯罪が次の犯罪を引き起こす。その闇が生まれた抑圧の背景をリアルに描かれいている。四人の女性が様々な事情から死体解体の作業に参加していくが、きっかけはほんのわずかなお金が必要だったため。
お金が人格を与える影響というのは、作者の作品全体に通底している。


No.283 7点 スクランブル
若竹七海
(2025/07/26 22:41登録)
一九八〇年の新国女子高を舞台に、六人の少女が関わる六話の短編集。
一話ごとに語り手と探偵役が交代するロンド形式で、さらには十五年後の現在と過去とが交互に描かれて、やがて物語冒頭に起きたまま解決されなかった殺人事件の真相に辿り着くという入り組んだ構造。
しかも一話ごとに殺人事件の推理も繰り広げては否定される。苦さと爽やかさが強い作者らしい青春ミステリ。


No.282 4点 すべてがFになる
森博嗣
(2025/07/26 22:35登録)
大学の工学部の助教授である犀川と教え子の萌絵が、徹底した理系思考で事件の謎を解明していく。
コンピュータ用語やバーチャルリアリティーに関する難解な用語が次々と飛び交い、理系ならではの想像を絶するトリックと結末が用意されている。しかし、犯人の動機が重要視されていないので、殺人の動機が弱いというか理解が出来ない。


No.281 5点 ボーダーライン
真保裕一
(2025/07/15 21:36登録)
主人公は、アメリカで日系企業の調査員として生きる日本人。日本人観光客の起こすトラブルの後始末が主な仕事だ。そんな彼が、ふとしたきっかけで邪悪な犯罪者と関わることになってしまった。また同時期に同棲相手が不可解な失踪を遂げ、仕事と私事の両方で困難な事態に直面しながら苦闘する羽目になる。
本場アメリカの作風を忠実に再現したような私立探偵小説でありながら、現代日本の抱える問題と真摯に向き合っている。


No.280 6点 チョコレートゲーム
岡嶋二人
(2025/07/15 21:32登録)
学校という密室の中で生徒同士の遊びが犯罪にエスカレートし、その結果一人の男子生徒が命を落とす。
この物語は死んだ生徒の父親が息子の死の真相を探るという構成をとり、父親の哀切な感情が痛いほど胸に響く。また崩壊した親子関係、学校が発端となった犯罪など現在の社会問題に鋭く切り込んでいる点から、作者の深い洞察力を窺い知ることが出来る。


No.279 6点 鋼鉄の騎士
藤田宜永
(2025/07/06 21:20登録)
舞台は一九三八年、ナチスの台頭できない臭い空気が漂い始めたヨーロッパ。
帝国陸軍フランス駐在武官千代延子爵の次男、義正は倦怠と憂鬱の日々を過ごしていた。ある日、懇意のフランス人男爵に連れられて見に行った自動車レースに感動し、自らレーサーたらんと決意する。周囲の反対を押し切った華族の身分を捨て、男爵所有の名車ブガッティを借り受けて修行に励むうちに、いつしか欧米列強のスパイ戦の渦中に巻き込まれていく。
若さゆえの直情径行が様々な波紋を引き起こし、彼はますます困難な立場に追い込まれるが、それでもレースへの出場をあきらめない。次々に襲いかかる試練を乗り越えながら、彼は次第に一人前の男に育っていく。陰湿なスパイ戦に翻弄されながらも夢を忘れない青年の心意気を描いており、後味の爽やかな冒険小説である。


No.278 5点 芝浜の天女 高座のホームズ
愛川晶
(2025/07/06 21:11登録)
落語家の故・八代目林家正蔵が実は名探偵でもあった、という設定のシリーズもの。
猫の失踪から始まる騒動を描く「白兵衛と黒兵衛」、過去を語らない妻への疑念のために苦しむ後輩落語家に正蔵が救いの手を差し伸べる「芝浜もう半分」の二編が収録されている。
作中では、いくつかの噺に言及されるが、それらは事件を構成する重要な部分にもなっている。作者の古典芸能に関する造詣の深さをうかがわせ、細部に至るまで構成に無駄がない。


No.277 6点 ブラッディ・ファミリー
深町秋生
(2025/06/27 22:40登録)
非合法な手段であろうと、とにかく関係者を操って真相への道を切り拓く黒滝警部補と彼の上司であり、正論を貫き通す相馬美貴警視を中心に据えたシリーズ第二弾。
監視係として警察内の問題を探る彼らが今回狙うのは、女性刑事を自死に追いやった不良警官だ。彼の父は、次期警察庁長官と目される大物。
全ての行為を適法化できる権力を相手にした黒崎と相馬の闘いが熱い。知力、体力、組織力、脅迫に銃弾、お互いに死力を尽くした暗闘に圧倒される。


No.276 5点 6
(2025/06/27 22:35登録)
怪談記事から読者投稿や独白、カルトの手引書、動画の配信記録まで様々な形態のテキストによって、なんとも不気味で据わりの悪い六つの怪の断章を語るのみならず、それらが組み合わさって、一つの大きなアンチ怪談的に異様で救いのないヴィジョンを描き出す。紙の本ならではのある仕掛けに驚かされる異色作。


No.275 5点 5
佐藤正午
(2025/06/18 22:05登録)
夫婦の関係に倦怠を感じる夫が、旅行先のバリでの奇妙な体験をきっかけに、妻へのかつての情熱を取り戻すところから物語は始まる。主人公の作家・津田は、その妻の浮気相手だったが彼女が変心し関係の清算を迫ったことから、彼の人生も不可解な方向に捻じれ始める。
超自然の現象が起き、愛について語られる本作だが、東京とその近郊を舞台にした風俗小説としての面白さもある。それにして印象に残るのは、津田の性悪なキャラクターだろう。


No.274 5点 エフェクトラ 紅門福助最厄の事件
霞流一
(2025/06/18 22:00登録)
忍神健一の役者生活四十周年記念セレモニーを無事に成功させるべく紅門福助を雇ったのだが、セレモニー準備中に雪で密室状態になった建物で殺人事件が起きてしまう。
謎また謎で幕を開けた本書は、死体に施された見立ての謎、そこに絡んでくる二十世紀末の事件などの謎を紅門福助が解く。ラストの三章を費やして、誰がいかにして何故やったかを、丁寧に解き明かす。しかもその謎解きで浮かび上がる真相は、常識を鮮やかに覆す。

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