home

ミステリの祭典

login
ぷちレコードさんの登録情報
平均点:6.32点 書評数:242件

プロフィール| 書評

No.242 5点 本格的 死人と狂人たち
鳥飼否宇
(2024/11/21 22:16登録)
興奮すればするほど、頭脳が明晰になるという数学科助教授の増田は、若い女性の性行動を統計学的に研究するために、隣室の女子大生の性生活を覗き見る日々を過ごす。彼女の絶頂に至るまでの時間を計測することで、男女の恋愛パターンを数値化しようという試みだったが、折しも彼が近所で起きた殺人事件の容疑者となり、中断せざるを得なくなる。自らの容疑を晴らすためにも、そして研究を続けるためにも、この事件を解決せねばならない。
基本的に変態ミステリなのだが、主人公も奇人ではあるが真摯な学者ゆえの知性が滲み出てくる。グラフ、図版、レジュメ、地図を本文中に駆使し、アカデミックなミステリの可能性を模索しているところも楽しい。


No.241 6点 命に三つの鐘が鳴る Wの悲劇’75
古野まほろ
(2024/11/21 22:10登録)
左翼革命組織の一員だった過去を持つ若きキャリア警察官、二条実房の前に、かつての友人であり革命組織のリーダーである我妻雄人が恋人を殺したと出頭してくる。その自白の裏に見え隠れする不可解な矛盾。彼の真意とはいったい何なのか。真実を追い求め、二条はかつての友に警察官として取り調べに望む。
取調室の中で動機を巡って行われる言質を賭けた壮絶な攻防は圧巻。その聴取を通して二条が警察官として成長していく姿を描いた小説であり、そのセンチメンタルで衝撃的な結末は忘れ難い。


No.240 6点 夜の声を聴く
宇佐美まこと
(2024/11/10 22:36登録)
知能は高いが集団生活に馴染めないため、不登校を続ける「僕」こと堤隆太は、目の前で自殺未遂をした加島百合子に惹かれ、彼女と同じ定時制高校に通い始める。
そこで知り合った級友と隆太がリサイクルショップを手伝いながら、遭遇する不思議な出来事を解決していくのが前半の展開。だが十一年前に起きた殺人事件の存在が次第に大きなものとなり、彼らの運命を狂わせてしまう。
青春小説プロットとミステリの謎を合体させたような読み味の作品。


No.239 5点 ドレス
藤野可織
(2024/11/10 22:32登録)
SF的設定のものもあれば、いわゆる日常の謎が舞台のものもある。どれも母娘、親友、恋人などの二人組の関係が中心に置かれていて、その中で人の記憶の危うさや他者を理解することの難しさが探究される。
どの作品も想像できない方向に展開し、ラストでは背筋が凍ることもある。作品が提示する様々な問いは簡単に解消されず、読後も脳裏に響き続ける。


No.238 5点 柘榴パズル
彩坂美月
(2024/10/28 21:58登録)
主人公の美緒は、祖父と母、兄と妹、そして猫と共に暮らしている。そんな一家のひと夏を5つの短編によって描いた本書では、写真館での人間消失事件などが、美緒たちなりの温もりの中で解かれる様を楽しめる。
だが本書は、それだけでななく各編の間に陰惨な事件を報じる記事が挟まれているのだ。最終話で記事の意味を理解した時、この物語の全貌を知り切なくなった。


No.237 6点 紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人
歌田年
(2024/10/28 21:52登録)
ジオラマが手掛かりの失踪人探しという難題に、紙鑑定士がプラモデル作りのプロと組んで挑む。
探偵役の二人の異能が新鮮であり、彼らが見出す新情報が次々に連鎖していく展開も刺激的。物語が進むにつれ、事件の闇が深まりアクションが加速する構成も秀逸。デビュー作とは思えない仕上がり。


No.236 6点 怪談小説という名の小説怪談
澤村伊智
(2024/10/17 22:59登録)
夜の高速を走る車の中での怪談披露、散歩する親子が遭遇した奇妙な家屋、田舎町の奇妙な風習に、夕暮れの学校で起きる陰惨な事件。現代らしい怪談を語るシチュエーションと、語りに仕込まれた小さな違和感を回収する手際で読ませる。
物語が存在すること、そして語ることの意味を浮かび上がらせる趣向が目立つ。特に筆を折った先輩作家から知らされた、存在も定かではない読んではならない小説を語る「涸れ井戸の声」、ある夏の海辺の出来事を多人数の証言から再構成する「怪談怪談」の2編は、ホラーでもありミステリでもあり、そして物語を論じた小説でもある。


No.235 6点 喜劇悲奇劇
泡坂妻夫
(2024/10/17 22:53登録)
主人公が奇術師であり、奇術趣味を横溢している。だが、それ以上に言葉遊びの趣味の方が勝っており、奇術が見えないもどかしさを感じさせない。回文こそは、まさしく活字でしか表現できない趣向で、作者は小説の制約を逆手に取って遊びに徹している。
表題、小見出しはもとより、書き出しも結びの一行も回文になっている。そして物語は、回文名をもつ芸人ばかりが犠牲者となる奇妙な連続殺人で、回文づくしの趣向も極まった感がある。


No.234 6点 いけないII
道尾秀介
(2024/10/05 22:24登録)
各編の最後に収められた写真によって、それまで記されてきた物語に潜む、表立って語られなかった部分が浮かび上がる。
写真は一枚であっと言わせるような仕組みではなく、写真と本編の文章とを突き合わせて、読者が読み解いていく必要がある。ただし、次章の中で前章の事件について語られて、隠された部分がある程度示されているため、前作に比べると親切な作りになっている。
難易度は下がった一方、個々の人物や背景の描写は前作以上に掘り下げられて、人間関係の歪みと残酷さ、そして悲しみが心に刺さる。


No.233 6点 陽だまりに至る病
天祢涼
(2024/10/05 22:18登録)
「困っている人がいたら何かしてあげなさい」と常日頃、母親からそう言われていた小学五年生の上坂咲陽は、同級生の野原小夜子を家に連れ帰った。小夜子は近所のアパートで父親の虎生と二人暮らしだったが、失業中の虎生がいなくなってしまったからだ。だが帰宅した母親に言いだしかねた咲陽は、小夜子と二階の自室に住まわせる。おりしも町田のラブホテルで若い女性の殺人事件が起きていた。そのニュースを見る小夜子の様子や、彼女を捜しているという刑事の訪問などから、咲陽は虎生が事件に関わっているのではないかと疑問を抱く。
人間として大事な要素を欠落させたまま、無定見な「正義」を肥大させてしまった虎生。貧困によって身を売る女性と、彼女らを買う男たち。コロナ禍によってより鮮明にされた現実が、事件の背後から浮かび上がる。さらに咲陽と小夜子に培われたはずの「友情」の揺らぎと反転が、驚愕と感動を呼ぶ。


No.232 7点 殺人方程式
綾辻行人
(2024/09/23 22:23登録)
トリックや雰囲気よりも論理面やゲーム性に重きをおいて書き上げた作品。
徹頭徹尾、論理的な謎解きを目指したというこの作品は、死体の首がなぜ切断されたのかという命題に解答が与えられることで、あらゆる謎、事象、設定が必然的に結びついていく。試行錯誤の末、残った数枚のピースで一気にパズルが組み上がるような感覚が心地良い。


No.231 7点 奪取
真保裕一
(2024/09/23 22:18登録)
偽札造りをテーマにした軽いタッチの犯罪小説。
三部構成で、第一部は若者二人が銀行ATMを誤作動させる偽札造りに挑む。第二部では本格的になり、偽札造りの達人とその弟子が実物と見分けがつかない偽札を造るべくミツマタの木を植えるところから組み始める。第三部はその先、銀行やヤクザを相手に偽札の換金を行うさまを描いたコン・ゲーム小説。各部それぞれに独特のアイデアが駆使され、痛快な読後感が味わえる。


No.230 6点 ウェディング・ドレス
黒田研二
(2024/09/08 23:01登録)
結婚式の当日、ウェディングドレス姿の花嫁は、家に忘れた結婚指輪を取りに戻るという花婿を送り出した。二十分後に再開するはずだったが。失踪、凌辱、猟奇殺人など様々な事件が主人公たちを襲うのだが、どこかおかしい。
女性視点の描写と男性視点の描写で著しい矛盾がある。しかし、序盤から丹念に張られた伏線を活かし、絵になるトリックの解明とともに、最後には筋を通す。
推理あり、潜入捜査あり、活劇ありという多様性も魅力。最後はタイトルに忠実に恋愛物語として着地する。


No.229 6点 有限と微小のパン
森博嗣
(2024/09/08 22:56登録)
ゲームソフトメーカー、ナノクラフトが長崎で経営するテーマパークに女子大生グループが訪れる。死体消失事件があったばかりのテーマパーク内部で、彼女たちを待ち受けるかのように次々と奇怪な事件が続発。事件の背後には、主人公の女子大生、萌絵と因縁のある美人天才プログラマーがいる。彼女の狙いは一体何か。
萌絵とナノクラフトの若き天才社長が、古式ゆかしい許嫁であったり、萌絵と彼女のゼミを担当する教授、犀川とのあるのかないのかよくわからない恋愛関係、さらに喜怒哀楽を鼻の先を動かす程度にしか表現しない必殺理系ぶり、などサイドストーリーも楽しめるが、本書の焦点はもちろん謎解きにある。その謎についてに、あまりに大掛かりで意表をつかれ、理解を超えていた。


No.228 8点 黒い画集
松本清張
(2024/08/27 22:55登録)
7編からなる中短編集で、どれもよく出来ている。その中から特に気に入った2作品の感想を。

「遭難」北アルプスの空気、雪の感触まで伝わってきて、読んでいるこちらまで登山をしているかのような思いを味わえる。鹿島槍ヶ岳で遭難があり、三人パーティのうち一人が亡くなる。やむを得ない事故に思えたが、生還者の手記をよく読むと。追い詰められていく犯人に感情移入してしまう。エンディングも思いがけないものだった。

「天城越え」アンチ伊豆の踊子小説である。「伊豆の踊子」とは反対のコースで天城越えしようとした少年が、恐ろしい運命と遭遇する物語。何とも巧みな反転。これは「伊豆の踊子」を知った上で読んでほしい。


No.227 7点 私という名の変奏曲
連城三紀彦
(2024/08/27 22:48登録)
洋菓子屋の店員だった娘が交通事故をきっかけに美女に変身、世界的なファッションモデルとして成功するものの、虚飾に満ちた生活にやがて心が蝕まれ、自分が憎む七人の男女ひとりひとりに、自分を殺させようとする。
一人の女を七人が別々に殺すことになるのだが、もちろんそんなことは現実的に不可能。その不可能をどう可能にするのか。セバスチャン・ジャプリゾの「シンデレラの罠」のようなトリッキーな心理ものを髣髴させる作品である。


No.226 6点 キング&クイーン
柳広司
(2024/08/15 22:30登録)
ある出来事がきっかけで警察を退職し、今は六本木のバーで店員兼用心棒として働いている元SP・冬木安奈のもとに、天才チェスプレイヤーのアンディ・ウォーカーの警護依頼が持ち込まれた。依頼人によると、彼は米国大統領から命を狙われているというのだ。
頭脳明晰でタフなヒロインの魅力、その彼女さえも翻弄するアンディ・ウォーカーの一筋縄ではいかない変人ぶりとキャラクター造型は印象的だし、彼らが繰り広げる頭脳戦は、緊迫感と知的スリルに溢れている。洒脱で、特にタイトルの真の意味が明らかになる終盤のどんでん返しは鮮やか。全てのエピソードが、ミステリとしての骨格に有機的に結びついている。


No.225 9点 99%の誘拐
岡嶋二人
(2024/08/15 22:24登録)
犯人の男は、キーボードで身代金を要求する文章を打ち、それを女の声に電子合成する。それを他人のコードレス電話を仲介して送るので逆探知も不可能である。コンピュータに保存された証拠の記録はハッカーして隠蔽するわ、コンピュータの冒険ゲームに見せかけての被害者の少年をおびき出すわ、今や日常的になった機器を使いながらも、その組み合わせが実に鮮やかでアイデアの巧みさに感心する。
本書は、コンピュータ創世期からの歴史や、熾烈な企業間競争に触れていて、それが事件の真相に繋がる。犯罪の背後関係は、ハイテク犯罪の不気味な無表情さとは打って変わって人間臭く、読後は妙にしんみりした。


No.224 6点 カエルの小指
道尾秀介
(2024/08/03 22:39登録)
「カラスの親指」の続編だが、単品でも十分楽しめるように仕上がっている。元詐欺師の武沢竹夫の現在は、その話術を実演販売という健全な仕事で活かして暮らしていた。ある日、彼の実績が山場を迎え、いざ客たちに財布の口を開かせようとした時のこと、一人の中学生が口を挟んできた。口上のリズムは崩れ、その日の商売は散々な結果に終わってしまう。武沢は再び詐欺の世界に回帰してしまう。
詐欺によって生活を破壊された者が、加害者を騙し返して復讐する。大枠はそのような騙し合いの物語である。だが作者らしい様々な捻りが加えられている。誰が誰を騙しているのか、目くるめく展開が実に楽しい。しかもそこに、家族や仲間といった糸が、心強いものも心を削るものも含め織り込まれていて、騙し合いが実に味わい深いものになっている。しかし、前作に比べてしまうと、こじんまりとしているのは否めない。


No.223 5点 虚魚
新名智
(2024/08/03 22:30登録)
人が死ぬ怪談を集める女怪談師と、その実地検証役の同居人が、釣ると死ぬという魚の怪談の発生源を文字通り遡っていく。その調査と推理による追跡行は、怪異の様相が次第に変容し、意外な地点へとたどり着く展開まで含めてミステリ的だが、同時にルポ系怪談の手法そのものである。
なぜ怪談を追い求めるのかというホワイダニットが、怪異の実在を前提とした二重のハウダニットに重なる構図も面白い。

242中の書評を表示しています 1 - 20