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ミステリの祭典

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ぷちレコードさんの登録情報
平均点:6.25点 書評数:277件

プロフィール| 書評

No.277 6点 ブラッディ・ファミリー
深町秋生
(2025/06/27 22:40登録)
非合法な手段であろうと、とにかく関係者を操って真相への道を切り拓く黒滝警部補と彼の上司であり、正論を貫き通す相馬美貴警視を中心に据えたシリーズ第二弾。
監視係として警察内の問題を探る彼らが今回狙うのは、女性刑事を自死に追いやった不良警官だ。彼の父は、次期警察庁長官と目される大物。
全ての行為を適法化できる権力を相手にした黒崎と相馬の闘いが熱い。知力、体力、組織力、脅迫に銃弾、お互いに死力を尽くした暗闘に圧倒される。


No.276 5点 6
(2025/06/27 22:35登録)
怪談記事から読者投稿や独白、カルトの手引書、動画の配信記録まで様々な形態のテキストによって、なんとも不気味で据わりの悪い六つの怪の断章を語るのみならず、それらが組み合わさって、一つの大きなアンチ怪談的に異様で救いのないヴィジョンを描き出す。紙の本ならではのある仕掛けに驚かされる異色作。


No.275 5点 5
佐藤正午
(2025/06/18 22:05登録)
夫婦の関係に倦怠を感じる夫が、旅行先のバリでの奇妙な体験をきっかけに、妻へのかつての情熱を取り戻すところから物語は始まる。主人公の作家・津田は、その妻の浮気相手だったが彼女が変心し関係の清算を迫ったことから、彼の人生も不可解な方向に捻じれ始める。
超自然の現象が起き、愛について語られる本作だが、東京とその近郊を舞台にした風俗小説としての面白さもある。それにして印象に残るのは、津田の性悪なキャラクターだろう。


No.274 5点 エフェクトラ 紅門福助最厄の事件
霞流一
(2025/06/18 22:00登録)
忍神健一の役者生活四十周年記念セレモニーを無事に成功させるべく紅門福助を雇ったのだが、セレモニー準備中に雪で密室状態になった建物で殺人事件が起きてしまう。
謎また謎で幕を開けた本書は、死体に施された見立ての謎、そこに絡んでくる二十世紀末の事件などの謎を紅門福助が解く。ラストの三章を費やして、誰がいかにして何故やったかを、丁寧に解き明かす。しかもその謎解きで浮かび上がる真相は、常識を鮮やかに覆す。


No.273 5点 リベルタスの寓話
島田荘司
(2025/06/08 21:29登録)
本書は表題作を前編と後編に分け、間に中編を挟み込み、正義道徳による民族愛が卑しく転落する仕組みを浮き彫りにしていく。
周囲の民族紛争が主題となっているが、物語の根底を支えているのは、オンラインゲームで使用される仮想通貨を取引するリアルマネートレードである。仮想世界でも欲と合理性によって他人を利用するケースが発生し、現実世界に跳ね返っていく。人間を動物以下に扱う残虐性は、サイバー世界の進化とともに強まっていくのではないかという懸念を抱かざるを得ない。


No.272 5点 誰かが見ている
宮西真冬
(2025/06/08 21:25登録)
運命の糸に搦めとられた四人の女性の行く道が交わり、やがて思いもかけぬ綻びが露になっていく。
ちょっとしたことで誤作動を起こす心のメカニズムが描かれ、ニューロチックな展開を予感させるが、あくまで作者は悩めるヒロインたちの人生に寄り添おうとする。序章の違和感が一気に解消されるくだりの謎解きのカタルシスは感動的。男性中心社会における女性たちの生きづらさに焦点を当てたミステリ。


No.271 6点 プールの底に眠る
白河三兎
(2025/05/28 22:06登録)
高校最後の夏休みに裏山に出かけた僕は、そこで自殺しようとしていた美少女と出会う。死に場所へ導かれるイルカの話をしたところ、彼女は僕をイルカと呼び、僕は彼女をセミと名付けた。今、留置所の中にいる僕は、十三年前にセミと過ごした七日間を振り返る。
幼馴染で同級生の由利が絡んだ四角関係に悩まされ、彼女の頼みでおかしな野球対決に巻き込まれるなど、青く甘く面倒くさい学園ラブストーリーが次々に展開する一方で、なぜ今、彼は殺人容疑で檻の中にいるのか、という謎が最後で明らかになっていく。奇想めいた逸話が印象深く、散りばめられた細かい企みに驚かされるほか、心を痛める者たちの哀切さが響く小説である。


No.270 5点 ブラック・ローズ
新堂冬樹
(2025/05/28 21:56登録)
欺き、出し抜き、裏切り、寝返り、でっち上げなど、あらゆる手段を使った復讐劇。
舞台はテレビ業界。葉山孝史を死に追いやった仁科真一は、十年連続でドラマ視聴率トップを守り、ドラマ界の帝王と称されている。亡き父・孝史の無念を晴らそうとする女性プロデューサー梨田唯が仁科を追い詰めていく。
その過程で、テレビの内幕を目の当たりにすることになる。ストーリー性のある面白いドラマを書ける脚本家がいなくなり、ドラマ原作を映像化したものばかりになっている。大手芸能プロダクションの人気タレントを順番に主役にするキャスティングの生で、物語無視のドラマが氾濫している。「いまは嘘でも、最後に本当にすればいい」という唯の考え方、口八丁手八丁ぶりには、妙に感心させられてしまう。


No.269 6点 ばくうどの悪夢
澤村伊智
(2025/05/17 21:49登録)
人に害をなすゴーストハンターもので、敵は夢魔である。第一章から登場する語り手の僕は、小説家の父を持つ中学生。彼とクラスメイトが「夢で見たとおりに傷つけられている」被害に遭い、やがてクラスメイトの一人が命を落としてしまう。眠れば殺される悪夢を恐れる僕のため父は野崎夫妻の力を借りる。「見える」妻・真琴は僕に悪夢に対抗するための巾着袋を渡してくれるが。
物語の中盤で大きな転調を見せ、読み手の想像力を凌駕する意外な形でそれを投下する。サプライズと共に凶悪性増してくる。夢魔「ばくうど」の力をいかにして鎮めるかという未知なる命題は、知的好奇心を高ぶらせる。


No.268 5点 60%
柴田祐紀
(2025/05/17 21:40登録)
舞台は杜の都・仙台で、まずは粕谷一郎を始めとする暴力団・山戸会系田臥組の面々の紹介から始まるが、主役は若頭の柴崎純也。柴崎は、経済・金融に通じており、県警暴力団対策課の高峰岳を通じて後藤真一をスカウトし、マネーロンダリング専用の投資コンサルタンティング会社を立ち上げようとしていた。その社名が「あなたの資産を60%増へ」を謳った「60%」という次第。
扱うのは麻薬マネーで、柴崎たちは中国マフィアと組むことになるがやがて破局が。犯罪小説にはよくあるパターンで、闇の哲学で誘う柴崎のキャラにしてもとりわけ斬新というわけでもない。やり過ぎ感はあるが、終盤の捻りには唸らされた。


No.267 6点 黒真珠 恋愛推理レアコレクション
連城三紀彦
(2025/05/03 21:20登録)
わずかなページ数の中で転調を複数盛り込む表題作、たった二人の会話シーンでプロットが二転三転する「裁かれる女」、妻の轢き逃げ事故に意外な真相が浮かぶ「紫の車」、旅館にまつわる道ならぬ恋の人生模様に、尖った構図を捻った書き方で持ち込む連作「ひとつ蘭」と「紙の別れ」。
愛憎を中心に捉え、伏線や符丁に支えられた論理性と意外性を備えた短編集。


No.266 6点 グッドナイト
折原一
(2025/05/03 21:13登録)
三階建てのアパートを舞台に、様々な住人の異様な人間模様が描かれる。息子の不眠症に対処するためにアパートの一室で心理研究所を営む女性のもとを訪れる小説家でもある母親が事件巻き込まれていく「永遠におやすみ」は、作中作と現実が入り乱れる作者の得意とする多重文体サスペンスの典型。以降、小説家を目指す人間の鬱屈とした心理、集合住宅において壁を隔てた隣人に抱く不審、夜の闇に跋扈する正体不明の怪人物といった折原作品に頻出するお馴染みの構成要素が虚構と現実のあわいで再構築された複雑怪奇なストーリーを形成していく。
異様な捻じれたプロットがサプライズを演出するだけでなく、一筋縄ではいかない人間存在の歪さを暴いていく。最終段階に至って浮かび上がらせる人間の業は作者ならではで、唯一無二の読み心地である。


No.265 5点 マッチメイク
不知火京介
(2025/04/21 22:42登録)
大手団体のレスラーが試合中に急死したことを受け、事件の真相を追う新米レスラーの姿を活写した作品。
誰がどうやって殺したのか、そんなオーソドックスな骨組みを斬新な舞台で転がし、同時にプロレス興業の現実的な仕組みについても解明するという情報小説的な趣味を持っている。ミステリとしてはたいしたことはないが、主人公が自らの肉体を作り上げるトレーニング・シーンで、全身の筋肉の脈動が伝わってくるかのような動的な表現力は、格闘技ミステリの新たな可能性を感じさせる。臨場感あふれる迫力の描写はお見事。


No.264 8点 向日葵の咲かない夏
道尾秀介
(2025/04/21 22:34登録)
主人公は、小学四年生のミチオ、幼い妹のミカ、ミカだけを溺愛する母親。ミチオが住んでいるN町では、犬や猫を殺しては足を折り、口に石鹸を押し込むという事件が頻発していた。
夏休みの前の終業式に、ミチオは担任の岩村先生から宿題とプリントを届けるように頼まれ、欠席したクラスメイトのS君の家を訪問するが、そこで発見したのが首を吊って死んでいるS君の姿。ところが岩村先生と警察が駆け付けると死体が無くなっていた。
ミチオとミカは真相を探り始めるという本格ミステリの死体消失ものに、生まれ変わりというオカルトネタを絡めた異様な物語が展開していく。真相を解明していく中で、何度か論理のひっくり返しを見せながら驚きの結末に持っていく。
導入部における謎の提案、途中におけるサスペンス、ラストの意外性と全てに渡って魅力にあふれていて素晴らしい。


No.263 7点 涜神館殺人事件
手代木正太郎
(2025/04/09 21:59登録)
イカサマ霊媒師のエイミー・グリフィスは、帝国心霊学協会の心霊鑑定士・ダングラスとともに、探偵家ソーンダイクが住む館を訪れた。前の所有者が閉ざされた中庭から消えたというこの呪われた館に、心霊考古学者や心霊写真家などの面々が集結する。だが、彼らは次々と何者かに殺されてゆく。
本書の読みどころは、濃密な怪奇趣味が醸成する個性的な作品世界。アクの強いキャラクター造形、最後に明かされる事件の背景や動機も異形そのもので素晴らしい。


No.262 5点 蜘蛛の牢より落つるもの
原浩
(2025/04/09 21:54登録)
渇水によってダム湖の底から姿を現わそうとしている村のキャンプ場では、かつて互いを埋め合って死に至らしめた不可解な集団生き埋め事件が発生した。事件関係者や旧村民たちは渇水と、あの時と同じ蜘蛛の大発生に、村に祀られていた比丘尼の祟り再びと恐れおののく。そんな中、奇妙な黒い影が出現し、新たな異常死が。
村人に惨殺された比丘尼の怨霊譚と、不条理な生き埋め殺人の謎を生理・心理的ディテールで忌まわしく肉付けしながら、人間が怪異を生み出すというテーゼで結びつけている。


No.261 6点 あの日、君は何をした
まさきとしか
(2025/03/27 21:49登録)
水野大樹は、ある晩自動車事に遭い死亡してしまう。彼が深夜に外出した理由が不明だったため、未解決事件への関与を疑う風評が流れ、母親のいづみの心は深く傷ついた。
わが子を喪った哀しみにいづみの精神が崩壊していくさまが描かれるのが序盤の展開で、やがて十五年の時が経過して別の殺人事件が発生する。本書の特異さが際立ってくるのは、新旧二つの事件を結び付ける糸が見え始める中盤からで、捻じれた心理の描き方に戦慄させられる。


No.260 5点 秋雨物語
貴志祐介
(2025/03/27 21:44登録)
「餓鬼の田」は、風光明媚な立山連峰を望む避暑地という舞台設定が効いている。愛する人をなぜか得られない呪いに憑かれたっ青年の驚くべき独白の物語。
「フーグ」は、解離性遁走という精神医学用語を手始めに、蜘蛛合戦や瞬間移動といったオカルト的でSF的な趣向が連続する。
「白鳥の歌」は、主人公の小説家が、作中作にも登場し無名な歌手が遺した絶唱に隠された秘密に肉薄する。
「こっくりさん」は、お馴染みの召霊儀式に秘められた忌まわしい謎が明かされる。
総じて怪奇小説に通ずる、レトロな味わいがある作品集。


No.259 6点 逆転正義
下村敦史
(2025/03/14 21:52登録)
いじめを教師に報告した高校生、家出中の女を保護した男、自宅で人を殺してしまった女、罪なき子供を殺された父親。
自分には自分の、他人には他人の物差しがある。そして自分の基準が絶対正しいとは限らない。どの話もディテールが騙し絵のように構成され、攻守、善悪、男女、それまでの設定が終盤で一気に覆される。読めば読むほど自分の偏見、頭でっかちな正義感、価値観がひっくり返される。今、自分の前に映る光景が本当に正しいのか、読みながら迷宮に入り込む。景色が反転するどんでん返しミステリ集。


No.258 6点 恋する殺人者
倉知淳
(2025/03/14 21:47登録)
主人公は大学生の高文。彼は従姉の真帆子の死に疑問を抱いていた。高文は真帆子から「最近、つけられている気がする」と聞いていたのだ。警察に言ったのだが反応は薄く、自分で捜査を始めることに。その助手は、フリーターの来宮が務める。この素人コンビがアポを取った人が次々と凄惨な手口で殺されていく。
この二人がどうやって真帆子の死と、それに続く殺人事件に迫っていくかが読みどころだが、女心が分からない高文と、内心では高文のことが好きな来宮の関係性がいい。
「恋する殺人者」というこのタイトルが頭にあるから、すっかり騙された。ラストですべてのピースがはまった時に作者が仕掛けた罠に気付いた。

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