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ミステリの祭典

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ぷちレコードさんの登録情報
平均点:6.28点 書評数:262件

プロフィール| 書評

No.262 6点 あの日、君は何をした
まさきとしか
(2025/03/27 21:49登録)
水野大樹は、ある晩自動車事に遭い死亡してしまう。彼が深夜に外出した理由が不明だったため、未解決事件への関与を疑う風評が流れ、母親のいづみの心は深く傷ついた。
わが子を喪った哀しみにいづみの精神が崩壊していくさまが描かれるのが序盤の展開で、やがて十五年の時が経過して別の殺人事件が発生する。本書の特異さが際立ってくるのは、新旧二つの事件を結び付ける糸が見え始める中盤からで、捻じれた心理の描き方に戦慄させられる。


No.261 5点 秋雨物語
貴志祐介
(2025/03/27 21:44登録)
「餓鬼の田」は、風光明媚な立山連峰を望む避暑地という舞台設定が効いている。愛する人をなぜか得られない呪いに憑かれたっ青年の驚くべき独白の物語。
「フーグ」は、解離性遁走という精神医学用語を手始めに、蜘蛛合戦や瞬間移動といったオカルト的でSF的な趣向が連続する。
「白鳥の歌」は、主人公の小説家が、作中作にも登場し無名な歌手が遺した絶唱に隠された秘密に肉薄する。
「こっくりさん」は、お馴染みの召霊儀式に秘められた忌まわしい謎が明かされる。
総じて怪奇小説に通ずる、レトロな味わいがある作品集。


No.260 6点 逆転正義
下村敦史
(2025/03/14 21:52登録)
いじめを教師に報告した高校生、家出中の女を保護した男、自宅で人を殺してしまった女、罪なき子供を殺された父親。
自分には自分の、他人には他人の物差しがある。そして自分の基準が絶対正しいとは限らない。どの話もディテールが騙し絵のように構成され、攻守、善悪、男女、それまでの設定が終盤で一気に覆される。読めば読むほど自分の偏見、頭でっかちな正義感、価値観がひっくり返される。今、自分の前に映る光景が本当に正しいのか、読みながら迷宮に入り込む。景色が反転するどんでん返しミステリ集。


No.259 6点 恋する殺人者
倉知淳
(2025/03/14 21:47登録)
主人公は大学生の高文。彼は従姉の真帆子の死に疑問を抱いていた。高文は真帆子から「最近、つけられている気がする」と聞いていたのだ。警察に言ったのだが反応は薄く、自分で捜査を始めることに。その助手は、フリーターの来宮が務める。この素人コンビがアポを取った人が次々と凄惨な手口で殺されていく。
この二人がどうやって真帆子の死と、それに続く殺人事件に迫っていくかが読みどころだが、女心が分からない高文と、内心では高文のことが好きな来宮の関係性がいい。
「恋する殺人者」というこのタイトルが頭にあるから、すっかり騙された。ラストですべてのピースがはまった時に作者が仕掛けた罠に気付いた。


No.258 5点 遠い旋律、草原の光
倉阪鬼一郎
(2025/03/03 21:51登録)
長い歳月を背景とする一族の因縁の物語であり、崇高なトーンの芸術家小説にして恋愛小説、そして精緻そのものの暗号ミステリでもある。
作者の作品では時にして物語が印象に残らないほどの強烈な存在感を放つ暗号が、本書では物語と融合している。
アクの強さをあまり感じさせない点で、倉坂作品の入門書として最適でしょう。


No.257 5点 UNKNOWN
古処誠二
(2025/03/03 21:47登録)
航空自衛隊のレーダー基地、隊長室の電話に盗聴器が仕掛けられていた。密かに捜査を進めるため、防衛部調査班の朝倉二尉が基地を訪れる。野上三曹は、彼の指揮下で働くように命じられた。
基地という閉ざされた空間に加え、自衛隊という閉ざされた組織が舞台。誰がどうやって盗聴器を仕掛けたのかという謎とその解決を通して描かれるのは、自衛隊という官僚機構の姿、ひいては日本の国防である。そんな真摯なテーマを扱いながらも、野上の軽妙でユーモラスな語りと、シンプルな展開で一気に読ませる。


No.256 6点 チルドレン
伊坂幸太郎
(2025/02/18 22:14登録)
銀行強盗事件に遭遇した大学生の鴨居と陣内。二人はそこで目の見えない青年・永瀬と知り合い、共に無事に解放されるが。
目が不自由だからこその鋭敏さで強盗事件の真相を鮮やかに解き明かしてしまう永瀬と二人の友情の芽生えを示唆して終わる「バンク」。家裁調査官をしている「僕」が語り手の表題作と「チルドレンⅡ」。永瀬の彼女である「わたし」が学生時代に永瀬の彼女と自分と陣内が偶然巻き込まれた事件を回想する「レトリーバー」。陣内が父親超えする瞬間のエピソードを永瀬が語り起こす「イン」。
五つの小さな物語は独立して楽しめるのだが、それぞれの中に仕込まれている挿話が別の物語のテーマになっていたりと、ひとつの長編小説を読んだような構成になっている。笑いあり、じんわりするところあり、というナイーブで温かな小説。


No.255 6点 デカルトの密室
瀬名秀明
(2025/02/18 22:01登録)
ここで扱われるのはフレーム問題。無限の可能性を持つ現実の事象をふるいにかけ、有限解として収束させることは可能かという問題であり、これは我々がいかにして世界を認識するか、意識とは何かという謎に直結する。
ロボットに意識を持たせるためには、意識自体の定義が必要となる。そしてロボットと開発者の関係は、登場人物と作者の構図と相似である。「探偵が論理的に辿り着いた真相が真実か否かは作中からは判断できない」という後期クイーン問題はそのままフレーム問題へと繋がっていく。難易度は高いが、ロボットミステリを語る上で外せない一冊。


No.254 5点
白石一文
(2025/02/05 22:01登録)
最愛の娘を交通事故で失った男が、過去に飛んで事故を未然に防ぎ、娘の生まれた時間を過ごすというタイムトラベルもの。未来の記憶を持ったままで過去に飛び人生をやり直す話と言えば、いろいろな名作があるが、佐藤正午の「Y」のように人生の分岐点を捉えてあり得たかもしれない人生を模索する話に近い。
中盤以降、さまざまな冒険を経て、最終的に「僕たちはそのそれぞれの世界で別々に生き続ける無数の自分でもある」という世界観を得る。改めて生きるとは何かを力強く問いかける作品だ。


No.253 5点 川崎警察 下流域
香納諒一
(2025/02/05 21:54登録)
一九七〇年代の川崎の工業地帯を舞台にした警察捜査小説。
川崎の経済を支えた京浜工業地帯とその暗部を背景に、川崎の街で日々を暮らす人々の心象を活写する作者の濃厚な筆致が冴えている。
捜査の過程で現れる人物たちに共通するのは無常観だ。全てが激しく変化していくその地にあって、誰もが不確かな日常に抗いながら生きている。そしてのその変化を受け入れられない者が罪を犯す。この時代、この土地だから起きた事件の真相はあまりにも切ない。


No.252 7点 キョウカンカク
天祢涼
(2025/01/23 21:48登録)
被害者の死体を燃やすことからフレイムと呼ばれる連続殺人鬼に妹を殺された山紫郎。彼が出会った銀髪の美女は、探偵・音宮美夜と名乗った。音声に色がついて見えるという共感覚の体質である彼女は、人の声の「色」を手掛かりに犯人を追う。
探偵役の特殊な能力・体質に加えて、犯人の奇想天外な動機が忘れ難い。だが、本書は決して探偵の設定や動機の意外だけに頼った作品ではない。本書の驚きの土台は、大胆極まりない伏線の仕掛け方にある。あまりに大胆なので、それが犯人に繋がる話だと気づく人は少ないのではないか。物語の根幹から細部に至るまで、伏線とその回収が見事。


No.251 5点 誰も死なないミステリーを君に 眠り姫と五人の容疑者
井上悠宇
(2025/01/23 21:39登録)
人の死期が判る志緒と人が死ぬミステリが許せない佐藤のコンビが、推理によって誰も死なないうちに事件を終わらせようというシリーズの第三弾で、二人が高校生時代に初めて手掛けた事件を描く。志緒が好きな歌手と幼馴染たちの間で起きた殴打事件の真相を突き止めることで、歌手に現れた死の兆候を消そうというのだ。
物証や証言から犯人特定に至る流れが堅実で、そこに人を死から救うドラマが深く織り込まれていて良い。


No.250 7点 炎に絵を
陳舜臣
(2025/01/12 22:01登録)
辛亥革命の資金の拐帯犯と烙印を押された父の汚名を晴らすため、調査を神戸で行ってくれと病床の兄に頼まれた青年が、同僚の女性社員の協力を得て父に関わる過去を探っていくうちに、産業スパイ問題も絡んでくる。
スピーディーで躍動感あふれる展開が、意外性に富んだ結末まで一気に読ませる。一風変わったタイトルもその意味が明らかになった時、心の内に余韻を響かせる。


No.249 5点 血の季節
小泉喜美子
(2025/01/12 21:57登録)
ある死刑囚の話から始まる。死刑囚は少年時代の戦前の東京で、外国人の少年たちと出会う。彼等との交流を通じて揺れ動く少年の心理が描き出され、ドラキュラの存在をほのめかすような描写が重ねられ、想像はいやがうえにも刺激される。
日本を舞台にヨーロッパの乾いた空気を持ち込み、独特の雰囲気を醸し出している。ミステリとホラーの要素がうまく溶け合った余韻を残すラストは味わい深い。


No.248 5点 ものがたりの賊
真藤順丈
(2024/12/28 22:48登録)
歴史の有名人と小説の有名人が入り乱れ、開戦前の昭和初期までを映し出す冒険活劇。荒唐無稽な設定も、大杉栄の粛清や九州帝大の生体解剖、「青鞜」の刊行など史実を忠実に織り込むことで、パロディ炸裂の壮大な物語に仕上がっている。
二転三転しながら、ニヤリとさせられるラストへ連れて行ってくれる風刺とアイデアが詰まった作品。


No.247 7点 爆弾
呉勝浩
(2024/12/28 22:43登録)
酒屋の自販機を蹴って止めに入った店員を殴り捕まったスズキタゴサク。実はこの男、爆弾魔だった。彼の予告通りに爆発が起こる。そしてさらなる爆破をめぐって、取り調べに当たる刑事たちを相手にゲームを始める。
読みどころは、捜査陣とスズキタゴサクの息詰まる対決の行方なのだが、彼は追求をのらりくらりのかわしていく。目的も何なのか分からない不気味さがある。まさに前代未聞のテロリストで、相対する警視庁コンビや現場の野方署のコンビなどもいいキャラクターで、捜査小説として読み応えがある。不公平感が蔓延する日本の現状を穿つ、破壊度十分の社会派小説である。


No.246 9点 吸血の家
二階堂黎人
(2024/12/16 21:57登録)
恐るべき因縁を秘めた旧家で起こる連続殺人の謎に探偵役の二階堂蘭子が挑む。心霊術師、ポルターガイスト、神がかりの少女など、オカルティズムを散りばめ、しかも三つの不可能犯罪が起こるというから驚かされる。
本書は一つの密室と二つの足跡のない殺人テーマに挑んでいるが、そのうちでも雪上で殺された復員兵の謎は、心理的・映像的な迫力を相まって鮮烈な印象を残す見事なトリックである。


No.245 6点 倒錯の死角−201号室の女−
折原一
(2024/12/16 21:52登録)
アルコール中毒から退院したばかりの大沢の手記と、その向かいのアパートに住む清水真弓の日記と母親宛の手紙、そして母親の手紙で語られていく。
幾重にも読者を欺く話の入れ子構造を、様々な人物による叙述で作り上げていくので混乱してくる。過去と現在の移動も激しく、なかなか現在に辿り着かないのだが、そこに辿り着くまでの時間のトリックも巧妙に仕掛けられている。


No.244 5点 アリスの国の殺人
辻真先
(2024/12/04 22:00登録)
児童文学出版社の社員である主人公・アリスを愛する青年が、心ならずも漫画は雑誌の編集をやらされている現実界の編集長殺害事件と、彼が夢想世界で念願のアリスと結婚する間際、嫌疑を受ける密室でのチェシャ猫殺害事件が交互に展開する。
現実界、ふしぎの国それぞれの事件に大胆なトリックが工夫されているが、両方のストーリーをつなぐ仕掛けにも抜かりがない。現実界、ふしぎの国の確証の題名も徹底して日本語で言葉遊びが行われていて作者のこだわりを感じる。


No.243 6点 スケルトン・キー
道尾秀介
(2024/12/04 21:55登録)
恐怖を感じない性格を活かして、雑誌の調査を支援する仕事をしていた坂木錠也のもとに、かつての児童養護施設の仲間がある報せをもたらした。その報せは、幾人もの死者を生みことに。
錠也の境遇に同情しつつも、その暴力に感情移入は出来ず、それでも物語の展開に惹かれていく。後半になると作者の仕掛けに気付いて驚くことになる。さらにその仕掛けが生むサスペンスにしびれ、そして最後の言葉でわずかではあるが希望を感じる。

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