home

ミステリの祭典

login
ことはさんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:349件

プロフィール| 書評

No.349 5点 恋文
連城三紀彦
(2026/11/08 00:16登録)
まあ、さすがにこれはミステリではないな。どの話にも隠し事をしている人物がいて、隠し事が明らかになることで話に結末がつくので、構成はミステリ的だが、これをミステリとしてしまったら、ミステリの範囲が広がり過ぎだろう。
連城三紀彦には、ミステリとしてもっと優れた作品がたくさんあるので、ミステリ読みなら後回しにしてもよいと思う。
けれど、連城三紀彦の非ミステリ作品としては、直木賞受賞作でもあり、代表作と言ってよいし、文体や人物造形にも連城らしさがよく出ているので、一読の価値はある。
それにしても、時が過ぎて恋愛観や倫理観が変わってしまったなあ。本作の発表当時を知る世代の私でさえ違和感を覚えるのだから、いまの読者にはまったく共感できないだろう。「普通の不倫」なんて表現があり、今なら炎上案件だ。


No.348 7点 ダブルオー・バック
稲見一良
(2026/11/07 23:50登録)
ある銃が転々と人手に渡り、その行く先々で起こる事件を描いた連作。ミステリというより、ハードボイルド・タッチの一般小説だと思う。でも、これはよい。
「アーリィタイムズ・ドリーム」だけは少し作風が異なるが、ほかの作品はどれも、狩りの緊迫感と追い詰められた男の緊迫感が共鳴して、じっくりと読ませる。
以下、各話寸感。
「オープン・シーズン」 衰えを感じた男が狩りに出る話。狩りの描写に迫真性があってよい。
「斧」 狩りを通じて父と子の交流を描く。染みる。
「アーリィタイムズ・ドリーム」 妄想癖のあるバーの店長が、気の迷いから関わる冒険譚。作者にはめずらしいコメディ・タッチの作品。
「銃執るものの掟」 猟師が巻き込まれるクライム・ストーリー。最後の台詞が、語り手の生き様を表現している。見事。


No.347 8点 青い密室 名探偵星影龍三全集(2)
鮎川哲也
(2026/11/07 21:55登録)
いまのミステリをたくさん読んだ人が、いま読んで面白いかといわれれば、典型的すぎて楽しめないかもしれない。でも、これが原点だからね。
ベストは「薔薇荘殺人事件」。
「白い密室」 中心の趣向は古典的なのだが、それに気づけなくするための周辺状況の整え方がうまい。星影の確認点(びっこや匂い)が謎を盛り上げる。
「薔薇荘殺人事件」 ここまで密度が高く、きれいに組み上げられた作品は、ミステリ史を見渡してもほとんどない。振り切っている。(逆に言えば、ドラマ部分を楽しもうとしている人には、楽しめる要素がほとんどないだろうが、これはもう好みの問題)
「悪魔はここに」 伏線やロジックはなく、ワン・アイディア・ストーリー。アイディアはいいんだけどね。
「青い密室」 これも単純な状況に気づけなくする状況設定がうまい。停電が発生することの利用の仕方が鮎川哲也らしい。犯人がxxxなのも気が利いている。
「砂とくらげと」 書簡の往復によって、安楽椅子探偵のような読者挑戦の感じを出している。星影の返信に「記述が足りない」といった文句を入れているのが、メタ感があってよい。
「茜荘事件」、「悪魔の灰」 犯人当てのTV番組からの小説化とのこと。元から文章表現だけの小説化なのだろう。事件に対する検討や質疑はなく、事件の説明からすぐ解決編に入るため、あっけない。ボーナス・トラックと思って、採点対象外。
「朱の絶筆」 短い紙幅に複数の筋を盛り込んでいるため、解決編はかなり駆け足。とはいえ、メインアイディアは魅力的で、後に長編化されたのも納得できる。


No.346 5点 駄作
ジェシー・ケラーマン
(2026/11/07 21:44登録)
背表紙のあらすじに【本書には奇想天外な展開があることをあらかじめ警告します】とあるので、興味半分で読み始めた。
いやまあ、確かに「奇想天外な展開」ではあるが、それが面白いかは、また別の話。
個人的には、前半はなかなか良いサスペンスで、後半はかなり好みでないxx。風刺やパロディも入ってるのかなあ、よく分からず。
後半だけなら2、3点くらいの評価だが、前半と数ページの最終章を加点してこの点数。最終章は、これも「奇想天外」で「なにこれ?」と思う人もいると思うけど、私は好き。滅茶苦茶といえば滅茶苦茶なんだけど。


No.345 7点 炎に絵を
陳舜臣
(2026/10/03 17:48登録)
陳舜臣作では、やはりこれがいちばんよい。
前半は、父の汚名をそそぐために過去を調査する話で、なかなか地味な展開だ。中盤になって劇的な事件が起きてからは、一気に物語がすすみ、いくつもの反転を見せながら、最後にタイトルに絡んで、ある想定にたどり着くまで、息をつく暇もない。いやあ面白い。
読後、冒頭を読み返してみると、(ミステリの構成としてではなく)「物語のつくりとして、ここから始めていること」が必然的に感じられた。これは作者の小説家としての腕だよなぁ。
ただ、ひとつひとつの文章は推考された感じはしないので、締切に間に合わせるために書いた月刊誌の連載から、あまり手をいれていないのかもしれない。(文春文庫の最後の記載によると、「オール読物」の1966年5月号から8月号までが初出とのことなので、作中の1から4の章立てになっているのが、そのまま連載にあたると想像)
それがかえって、終盤のスピード感につながっている気もするので、これでよかった気はする。


No.344 5点 やぶにらみの時計
都筑道夫
(2026/09/27 21:57登録)
トクマの特選のシリーズで読んでみた。初読。
冒頭の状況設定は、なかなかそそられる。自分自身をみんなに否定されて、途方に暮れる。一体どういうことなのかと思わされる。
けれど、その謎を解くために主人公が東京を右往左往するところでは、あまり謎が掘り下がったり展開したりするわけではない。
解説で法月綸太郎が「東京の姿を書き残したい」思いがあったと書いているが、納得。言われてみれば、風景描写に力がはいっていて、謎の追跡は「従」になっている気がする。
それでもストーリーは飽きさせずに展開するのだが、結論はちょっと残念。そうならば、いろいろ上手くいきすぎだし、発案者の動機もかなり無理がある。
評論「黄色い部屋はいかに改装されたか?」で初期クイーンを称揚しているのに、実作は初期クイーンのような構築感のあるプロットではないのだなぁと思う。読んで評価する作品と、書いて楽しい作品(書ける作品?)は違うということのだろう。
魅力的な冒頭で始まり、中盤はいろいろ放り込んで飽きさせず、最後はなんとか畳む。かなり以前に読んだ既読の数作も、そんな感じだったイメージだ。トクマの特選のシリーズでは4作出ているが、すべて法月綸太郎の解説なので、あまり間を空けずに読んでみよう。


No.343 5点 巨大幽霊マンモス事件
二階堂黎人
(2026/09/27 18:51登録)
メインの2つのトリック(赤い館、ロージンの死)は、なかなか魅力的。巨大な岩が家を潰している状況の真相も魅力的。
とはいっても、特定の条件が揃ってはじめて成立するトリックなので、なかなか事前に見破るのは難しい。読者と推理を競うタイプではないが、個人的にはそこはマイナス点ではない。
マイナスなのは、淡々とした情景描写と、心理描写の少なさ。そのため、臨場感やサスペンスがあまり感じられない。
あとがきで、作者は島田荘司の「ロシア幽霊軍艦事件」に言及しているが、臨場感やサスペンスは、圧倒的に島田荘司の勝ち。
他にも、巨大幽霊マンモスの真相があっけないことや、作中での超能力が実在しているかのような言及など、否定的な感想になる部分は多い。
びっくりするくらい人が死ぬが、謎に関わるものが少ないのもマイナスポイント。謎に関わる事件が、相対的に目立たなくなってしまう。
事件が起きたあとに謎の検討が少ないのも、マイナスポイント。(ストーリー的には、謎を検討しているような状況でないので、ストーリーとしての整合性はあるが、そういうストーリーにしたところが、謎と解明の面白さを期待する自分にはマイナスポイント)
トリックとしては一見の価値があると思うが、それ以外に見どころはあまりないかな。


No.342 5点 真珠郎
横溝正史
(2026/09/27 18:43登録)
横溝正史は、10代の頃に、角川文庫のほとんどの作を読んだ。これはそのとき未読のまま残っていた一冊で、思い立って読んでみた。
いや、代表作に比べるとかなり扇情的で、ストーリ展開や事件の描写など、まるで乱歩の通俗物のようだった。発表時期を考えると、乱歩の通俗物より本作が先なので、あらためて横溝正史はすごいなとも感じたのだが、好みかといわれると、そうでもない。
解決を読んでも、色々と疑問に思うことがあり、納得感が薄い。解決部分自体、かなり説明不足の感がある。あれは全部が計画だったのか、上手く行きすぎじゃないか、動機に見合っているのか、などと考えてしまう。
世評はある程度高いととらえているが、私の評価はそれほどでもなかった。


No.341 5点 幸福な生活
百田尚樹
(2026/09/27 18:31登録)
本サイトで点数が高いので読んでみた。
「落ちに向けて、きっちり作り込んだプロット」を楽しむショートショート集。雰囲気や描写、キャラ立ちには、ほとんど筆をさいていない。
全作が例外なく15ページ程で、だいたい10分で読めるので、すきま時間の読書には最適。
注目すべきは、「最後の1行」で話を落とすことに、全力を向けていること。レイアウトまで考えられていて、全作「ページをめくったところで最後の1行」になっている。ここは高く評価したい。
だから、未読の読者には「ペラペラとページをめくらないこと」を、強く強く、伝えたい。そうでないと、うっかり「最後の1行」を読んでしまいますよ。
ベストは表題作かな。完全に落ちの好みだけでの判断なので、これはもう、ひとそれぞれだな。
気づいた点としては、ジャンル作家ではないから当然かも知れないが、ミステリ的な「フェアな叙述」に対する意識はあまりない人だということ。(そうなっているよね、という現状分析であり、良し悪しや好き嫌いの意図はない)
みなさん高評価だが、私の採点はこうなってしまうな。楽しく読んだんだけど、琴線にふれる部分がないのか、採点するとなると高くつけられないんだよな。直近に読んだあれとかより上にはならないし……、などと考えてしまうとね。高評価の人、すまぬ。


No.340 5点 インド倶楽部の謎
有栖川有栖
(2026/09/27 18:15登録)
相変わらず、語り口はいいなぁ。
事件の数が多いわけでもなく、派手な事件が起こるわけでもないのに、それでもこの厚さを読ませるのは、物語の転がし方がうまいんだろうな。山奥の温泉への調査行なんか、退屈になりそうなところなのに、まったく退屈しないのは、情報の出し方が巧みで、興味をそそるからなんだろうな。
ただ、楽しく読めるのだが、読み終わってから振り返ると「ミステリとしてここがよかった」と思うところがないのは、ちょっと残念だ。
とくに前半の謎(予告された殺人)の真相はちょっとなぁ。論理説明はあって、それは確かに現実では有効な論理だと思うが(いや、現実では有効な論理だからこそか?)、ミステリの論理としては、言ってしまえば「面白くない」。犯人指摘の論理も、言ってしまえば「短編ネタ」。ミステリの面白さは期待外れだった。


No.339 6点 空に浮かぶ密室
トム・ミード
(2026/09/27 18:00登録)
「死と奇術師」がおもしろかったから、本作も読んでみた。
「死と奇術師」は、メインの事件以外にも「これはどうつながる?」と思わせる要素がたくさんあり、終盤でそれが回収されることで構築感があったが、本作は、構築感よりも手数で勝負といった印象だ。
読みやすくて、次々といろいろな展開があって飽きさせないのだが、どれが中心の事件かも明確でなく、どこかまとまりがない。謎めいていた要素があっけなく解決するものもあるし、全体的に謎のあらためも弱い。捜査の段取りは、時代設定が昔といっても、さすがにありえない。
なとど、評価しようとすると欠点はいくつもあげられるのだが、一番強い印象は「いろいろ盛り盛りで楽しい」という点なので、なかなか不思議な読後感である。
ラストは、ちょっと共感できないなぁ。


No.338 5点 ポアロのクリスマス
アガサ・クリスティー
(2026/09/27 12:41登録)
未読のクリスティー作品の中では、いい評判をいくつも聞いていた作品なので、期待して読んでみた。
評判のいいポイントはわかったつもりだし、その点は確かに好きなのだが、説得力が足りないと思ってしまった。
伏線はいくつもはっているが、なぜこのタイミングなのか、なぜその方法なのかが気にかかってしまった。
ストーリー構成についても、重要な内容が終盤に明かされ、その後いっきに解決にいくので、極めて後ろでっかちだ。
「アガサ・クリスティー完全攻略」では、「クリスティーは演劇だ」と何度も書かれているが、本作は演劇にしたら映える気がする。各登場人物ごとに物語があり、見せ場がある。いい役者を揃えれば、見応えがありそうだ。
でも、言いかえれば「各登場人物ごとのモジュラー型のストーリー」とも言える。私は、モジュラー型があまり好きではないので、本作もそれほど琴線にふれなかったのかも。


No.337 5点 チェーン・ポイズン
本多孝好
(2026/09/27 10:59登録)
「1年後に楽に死ねる薬をもらう約束をした女」と「連続自殺の不可解さを追う記者」の話。
リーダビリティはじつによく、それぞれの話、単体でも面白い。加えて、2つの話がどのように絡むのかという興味の引き方も、とてもスリリング。
事前にまったく内容を知らないほうが楽しめる作品だと思うので、感想は書くのは控えるが、私の採点にだけ触れると、驚かせようとしているポイントの1つがわかってしまったことと、片方の話があますぎる展開のため、やや減点。
しかし、この話が深く刺さる人もおおいと思う。


No.336 6点 前夜祭
連城三紀彦
(2026/09/27 10:49登録)
どの作品も「構図の反転」がきれいに決まっている。しかし、ドラマ的要素は、すべて浮気を中心としたドロドロした人間関係で構成されており、その点がのれなかったので、点数は低め。
以下は各話寸感。
「それぞれの女が……」 2つの物語を最後に交錯させる、極めてテクニカルな1編。
「夢の余白」 親パートと子パートが並行して語られる、これもテクニカルな1編。
「裏葉」 見合いの席で、親側の画策が描かれる。なかなかブラックな味わい。
「薄紅の糸」 父親の葬儀から始まり、そこに至るまでが回想される。反転のさせ方は、本作が本集中では一番好き。
「黒い月」 典型的なドロドロした人間関係といった構図で始まるので、これがいちばんのれなかった。
「普通の女」 構図の似たような話を、別の作家の作品集で読んだ。そちらでは「ワンアイディア・ストーリー」に感じたが、さすがに連城三紀彦は小説として読ませる。
「遠火」 写真やライターとタバコといった小道具の使い方がうまい。
「前夜祭」 亡くなった人の本心を、周囲の人々の語りから浮かび上がらせる。連城三紀彦の語りが光る。本作のベスト。


No.335 5点 夜歩く
ジョン・ディクスン・カー
(2026/08/16 23:05登録)
「グラン・ギニョール」を読んだので、創元の新訳で本作も再読。
読んだのは数十年前なので、ほとんど憶えていなく、純粋に「グラン・ギニョール」と比較できた。第2の事件が全面改定されている点は良い変更だと思ったが、構成の主軸はほとんど「グラン・ギニョール」と同じで、これは想定以上だった。
作品としての評価を述べるなら、「グラン・ギニョール」以上にエピソードを増やしたことで、全体がややごちゃついてしまい、全盛期の作と比較すると、やっぱり習作といった感は否めない。複雑すぎて記憶に残りづらく、しばらくするとどんな話だったか忘れてしまいそうだ。


No.334 5点 グラン・ギニョール
ジョン・ディクスン・カー
(2026/08/16 23:00登録)
表題作の「グラン・ギニョール」は、「夜歩く」に比べると、枝葉がなく、すっきりしている。そのためか、序盤のあそこも、まちがえさせようとしているのが見えてわかりやすいし、人間関係の趣向も想像がつきやすい。まあまあの佳作といったところ。
他の短編は、あまり面白さがわからなかった。
「史上最高のゲーム」は、創元の「カー短編集5」よりもボリュームがおおく、ヴァン・ダインに対する評価は実に納得した。一部を引用してみよう。”ヴァン・ダインほど創意にとぼしい作家はほかにいない。……。とはいえ、ディテールの積み重ねに……ヴァンスは真に迫った存在となる。……、友人が「あの本にはぞっとさせられたよ」と明言した”


No.333 7点 第八の探偵
アレックス・パヴェージ
(2026/08/16 22:57登録)
作中作をがっつり使った作品で、日本の新本格のようだ。
作中作の個々の作品は、なかなか不条理感があってよい。迫真性はうすく、すこしファンタジーのような空気感がある。
作中作の使い方も、なかなか気が利いていて良い。
ネット検索すると、「この作中作が、わざわざ再刊しようとする作品かな?」という意見をいくつもみたが、そこは御愛嬌。


No.332 6点 金髪女
エド・マクベイン
(2026/08/16 22:39登録)
ホープ弁護士シリーズの第1作を再読してみた。
本作では、事件の当事者と語り手である主人公ホープの状況が、まるでシンクロするようにすすみ、読者もそれぞれの状況を親近感をもって読むことになる。謎と解決はたいしたことはないのだが、ふたつの家族の問題が身近に感じられ、なかなかハラハラされられる。
やはり私は、このシリーズは初期のほうが好きだ。
本シリーズは、童話・童謡をモチーフとしているとのことで、ネット検索してみた(初読時はネット検索などできない時代だった)。原題「Goldilocks」で検索してみると、日本語Wikiで「3びきのくま」の題になっている「ゴルディロックスと3匹のくま(Goldilocks and the Three Bears)」がみつかり、これが元とした童話のようだ。森の中に住む3匹のクマの家に、金髪の少女が勝手に入り込むという話で、Goldilocksとは「金髪」という意味で、gold「金」+lock「髪」からできた名前とのこと。
「勝手に入ってきた金髪女の話」というのが本作で使われたイメージで、金髪女との浮気を表していると思われる。これをふまえて読んでみると、終盤で語られる動機の部分など、より印象的に感じられるだろう。
ほかに特記したいシーンとしては、主人公が飼っている猫が死ぬ場面がある。事件と絡まないエピソードなのだが、丁寧に描かれている。きっとこれは家族の崩壊の象徴なんだなと感じた。
あとは、1978年の作なので、家族のあり方は今とけっこう違っている。アメリカでも、まだまだ「女性は家庭」の意識が根強かった時代だったんだな。


No.331 7点 ポー傑作選1 ゴシックホラー編 黒猫
エドガー・アラン・ポー
(2026/06/07 21:55登録)
ちょっと前に新潮社のポー短編集「ゴシック編」を読んだが、こちらも読んでみた。
新潮社の6作(「赤き死の仮面」、「ウィリアム・ウィルソン」、「落とし穴と振り子」、「黒猫」、「アッシャー家の崩壊」、「リージア(ライジーア)」)は、本集にはすべて収録されている。やっぱり、「ミステリを除いてポーから選ぶとすると、これになるよね」ということなのだろう。
本集は、詩の代表作「大鴉」もはいっていたり、解説が充実したりしているので、新潮版より、こちらがおすすめ。
ただ、(集英社の「黒猫 エドガー・アラン・ポー短篇集」とも5作が重なっているので、3冊で比較すると)、翻訳の好みは、集英>角川>新潮の順なので、集英社版が私のおすすめ。1つ翻訳を具体的に引用してみよう。「赤き死の仮面」のほぼラスト。
角川。「黒檀の時計の命も、浮かれ騒いでいた最後の者の命とともに果てた。三脚台の炎も消えた」
集英。「浮かれ狂っていた最後の一人の息が絶えるとともに、黒檀の時計も止まった。三脚台の篝火も消えた」
映像をイメージしたとき、集英社版のほうが、カット割りがわかる気がする(人、時計、三脚台とかわっていく)のが、好みのポイント。


No.330 8点 法治の獣
春暮康一
(2026/06/03 22:32登録)
これは面白かった。「SFが読みたい!2022年版」で、国内1位という評価にも納得の出来だ。
内容は、異星の生命の「探索と発見」を描いた、同じ未来史に属する作品群で、どの作品も、その異星の生命の「社会の成り立ち」の説明があり、これが抜群に面白い。
同じように「社会の成り立ち」を描いた作として、本サイトに眉村卓の「司政官」の感想を書いたことがある。「司政官」は簡潔な描写でスケッチのような印象で、それはそれでよかったが、本作はそれと違い、じっくりと「社会の成り立ち」の細部まで書き込まれている。その内容が、意外性を備えつつも「ひょっとしたらあり得るかも」、「あったら面白いな」と思わせる魅力に満ちている。いやあ、この作者は追っかけよう。
ネット検索すると、野尻抱介の評で「描写が先、説明が後なので」と書かれていたが、まさにそのような作りなので、謎解きの妙味もある。ミステリ読みにもおすすめです。
他のネット評にあった「生物学にかなり振り切ったSF。 SFとは”ある架空の条件下での事象の観測”という箱庭遊びであると認識させてくれる1冊」という感想にもつよく共感した。
ただ、そういう「振り切ったSF」なので、物語を「人の喜怒哀楽」を主に読む人や、「理に萌える」感覚がない人には、まったく面白さがわからないのだろうなとは思う。読み人を選ぶ作だろう。

349中の書評を表示しています 1 - 20