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ミステリの祭典

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空白の起点

作家 笹沢左保
出版日1961年01月
平均点6.10点
書評数10人

No.10 7点 八二一
(2024/03/07 20:17登録)
高額の保険に加入してほどなく殺された男の死の真相を、保険調査員が追う。トリックの扱い方も見せ方も巧みだし、人間関係のもつれを描く筆も冴えている。

No.9 7点 クリスティ再読
(2023/11/20 10:57登録)
中島河太郎が選んだ「日本作品ベスト30(昭和42年まで)」に入っていることで、「新本格派」と呼ばれた初期の笹沢左保の秀作として知られる作品...というイメージを評者は持っていたなぁ。「招かれざる客」「人喰い」「霧に溶ける」「結婚て何さ」とパズラーに軸を置きながら、社会派ネタとロマンをうまく結合させた初期の笹沢左保の高い(ヨクバリな)理想を結実させた作品だと思う。
「新本格」って出版元の思惑で何度も使われたレッテルのわけで、松本清張が導入したリアルな人物造型と社会背景をうまくパズラーの枠組みに落とし込む、という理念を考えたら、「ポスト本格」という位置づけとして笹沢を捉えるものいいんじゃない?とか思うところでもあるんだ。
にしてもさ、笹沢左保だから分かり切っていることだけど、メロドラマが実に達者なんだよね。ニヒルな保険調査員新田と、保険会社ライバルながら男女の関係になる初子、それにヒロインの鮎子が織りなす三角関係が、メロドラマとしての骨格をしっかりと保持して、不可能犯罪をリアルなかたちで埋め込んである、という構成がまず秀逸。このトリックって「プロビバリティの犯罪」っぽい面があるから、失敗したら失敗したで...とリアルに逃げることができるうまい着想じゃないのかしら。いいかえると「リアルなトリック」でしかもパズラー的には「不可能犯罪」になる秀逸トリックだと思う。これを「小粒」とか言うのは失当だと思うんだ。
あと笹沢の「パズラーの背骨」というと、

一枚の紙を隠すために、同じ紙をその上に貼りつける―新田は、これが男女関係だと思っている。

本作のこの名セリフは、笹沢版「木の葉は森に隠せ」じゃないのかしらね。
パズラーをロマンと結合する手腕はガーヴを凌ぐものがあるしね。ちょっと追っかけてもいいかもなあ。

No.8 7点 人並由真
(2021/07/29 05:38登録)
(ネタバレなし)
 笹沢作品初期のメジャータイトルの一つ。

 宝石社「現代推理作家シリーズ・笹沢左保編」巻末の島崎博編纂の書誌「笹沢左保著作リスト」によると、作者・第9番目の長編。雪さんのレビュー内のカウントと異同があるが、これは島崎リストが雑誌連載開始&書き下ろし順に並べられ、たぶん雪さんの方が書籍の刊行順にカウントしているため。どちらも間違いではない。

 しかしこんなメジャータイトルだから以前に読んでるハズだと思っていたが、ページをめくりだすとどうも初読っぽい。
 たぶん勘違いの原因は、本サイトやあちこちのレビュー? で思い切りネタバラシされていて、すでに読んだように錯覚していたからだと思う(涙)。
(というわけで、誠に恐縮ながら、本サイトでも先行の文生さんのレビューは完全にネタバラシ(汗)、kanamoriさんのレビューもかなり危険なので、本書をまだ未読の方は、ご注意ください。)

 そういうわけで、大ネタはほとんど承知の上で読んだが、はて、それでも(中略)ダニットの興味とか、ソコソコ楽しめる。

 力の入った初期編ならではのキャラ造形もよく、笹沢らしい女性観も随所ににじみ出ている。 
 特に主人公・新田純一のキャラクターは最後に明かされる過去像も含めてなかなか鮮烈で、この時期の笹沢が警察官以外のレギュラー探偵に食指を動かさなかったのが惜しまれるほど。彼の主役長編をもう1~2冊読みたかった。

 その一方で、フーダニットのアイデアはともかく、殺人の実働に至るトリックは本サイトでも賛否両論のようで(?)、個人的には(中略)も、いささか拍子抜け。大技を支えるもっとショッキングなものか、良い意味でのバカネタを期待していたのだが。
 
 トータルとしては2時間ドラマもの、という声にも、初期の笹沢ロマンミステリの秀作、という評価にも、どちらにも頷ける感じ。
 作者の作品全体としてはAクラスのCランク……いやBクラスのAランクぐらいかな。
 あえて気になると言えば、(中略)が良くも悪くもちょっと佐野洋っぽい感じがするところ。これが作劇の都合優先で、導入されたように思えないこともない。評点は0.25点くらいオマケして。とにかく新田のキャラで稼いだわ。

No.7 7点
(2021/01/28 10:50登録)
 大手広告会社・全通秘書課員である小梶鮎子は大阪出張の帰途、眞鶴の海岸付近で男が崖から突き落とされるのを、上り急行 "なにわ" の車中から目撃した。驚くべきことに墜落死した男は、鮎子の実父・美智雄と判明する。果たして鮎子は、全くの偶然で父親の死を見たのか。たまたま同じ列車に乗り合わせた協信生命の腕利き調査員・新田純一は、被害者が多額の生命保険に加入した直後だった事に気付き、東日生命の調査員・佐伯初子と共に執拗なまでの追求に乗り出すが――。
 書き下ろし『泡の女』に続き、雑誌「宝石」誌に1961年8月~11月にかけて連載された著者の第十長篇。単行本化に際し、連載時の『孤愁の起点』から現タイトルへと改題。同年の発表には他に第八長篇『影が見ていた』がある。翌1962年3月からは本サイトでも評価の高い『暗い傾斜』の連載も「宝石」誌で始まっており、推理文壇のホープとして質量共に充実に向かう時期だと言える。本書に先駆けて最初期の書き下ろしである『霧に溶ける』『結婚って何さ』の二作を読了したが、充実した風景描写と印象的なヒロイン像も相俟って、この長篇が最も楽しめた。
 冒頭のキャッチーな掴みと過去の暗い翳を帯び対峙する男女二人の主人公、加えてサブヒロインとのせめぎ合い等、他サイトでは〈二時間ドラマ〉などとも言われているが、それでも焦らずじっくりとしたストーリーの進展には好感が持てる。笹沢の長篇は推理はともかく、犯人に開き直られると証明困難か不起訴濃厚と思えるものが多いのだが、本篇では探偵役と犯人とを宿命的に結びつける事で結末の不自然さを回避し、それと同時にショッキングな動機と悲劇の創造に成功している。トリックは少々物足りないが、初期のうちでも纏まりの良い作品である。
 なお今回のテキストには書影は無いが、1990年8月刊行のケイブンシャ文庫版を使用。それにしても笹沢の著書には、つくづく宇野亜喜良のイラストが似合う。

No.6 6点 パメル
(2020/02/10 01:13登録)
女性客が走る列車内で、崖から男性が転落するのを目撃する。その後、転落した男性は、目撃者の父親と判明。被害者の複雑な人間関係、高額な保険金、有力な容疑者の死など惹きつけられる要素は多い。また、舞台として設定されている真鶴や小田原の地方都市の描写や登場人物像の描写も優れていて印象深い。
アリバイトリックには二つの偽装工作があるが、ひとつに関しては少し無理があると感じてしまったが、布石は十二分に敷かれており現実味がないとは言えないので一応納得。もう一つは良く出来ていて、当時の世相と相まって説得力がある。フーダニットとしては楽しめないアリバイ崩しがメインの作品だが、ラストには意外な真相があり驚かされるし、哀愁に満ちた終わり方も好み。本格とロマンを融合した作品といえる。

No.5 6点 蟷螂の斧
(2016/08/23 17:37登録)
裏表紙より~『真鶴の海岸近くの崖から男が突き落とされ墜落死する。折しも、付近を通過中の列車の乗客が事件を目撃するが、目撃者の一人は被害者・小梶美智雄の娘・鮎子であった。やがて小梶が多額の生命保険に加入しており、要注意の契約者であったことが判明。事件に不審を抱いた保険調査員の新田純一は、小梶の調査を開始するが…。複雑な人間模様に潜む危険な愛憎を捉えた本格長編ミステリー。』~

犯人、トリック、動機が巧く絡み合った作品との印象です。○○○○○○○の殺人に分類されると思いますが、それほど違和感や否定的な感情は起こらず、素直に納得させられてしまいました(笑)。

No.4 6点 ボナンザ
(2014/04/07 23:02登録)
知られざる名作。トリックは結構おもしろい。

No.3 3点 文生
(2012/04/04 12:26登録)
目撃者が犯人という本格ファンの気をひくに十分な趣向に対し、トリック自体はベタすぎてひねりに欠けるのがなんとも残念。

No.2 6点 kanamori
(2010/06/29 17:44登録)
初期の本格ミステリで比較的評価が高い作品だと思いますが、メイントリックがカーや乱歩の有名作品で前例があるので、読んでいてすぐに分かってしまいました。<偶然>自体が不自然な点など、トリックの使い方もカーのほうが数段巧いと思います。
しかし、トリックを暗示するタイトルは秀逸です。

No.1 6点 こう
(2008/05/11 23:26登録)
 登場人物が少なくというか犯人にふさわしい人がほとんどいないので犯人の見当はすぐにつきます。おそらく作品の主眼は動機にあると思います。ある意味ロスマク風な動機だと思いますがアレンジして使用している作品もあるかと思うのであまり驚けないかもしれません。アリバイトリックは平凡。アリバイ物に多いのですが確実性と必然性が欠けていると思います。動機に対しての評価で変わってくるかと思います

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