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ミステリの祭典

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レッドキングさんの登録情報
平均点:5.28点 書評数:943件

プロフィール| 書評

No.263 6点 髑髏城
ジョン・ディクスン・カー
(2019/12/19 23:54登録)
怪探偵対決・・かたや「サリーちゃんパパ」魔王風貌アンリ・バンコラン、こなたナチと言うよりファシスト党隠れ幹部風ジークムント・フォン・アルンハイム男爵(実にいいなあ、この名前)
ライン河岸に聳えるドクロまんまの古城、髑髏城。伝説の魔術師の怪死、奇怪な名優の焼殺事件。隠し扉に抜け道、怪しさ満載の容疑者たち。ホラーとドタバタ、ロマンスとマザーグース童謡のごった煮。映画絵画超えて蝋人形館紙芝居レベルの高さにまで達したケレン味。これこそジョン・ディクスン・カーの・・・と言うよりミステリ本来の醍醐味。
惜しいことに、カーにとって最も大事な不可能犯罪がないけど大目に見ちゃう。


No.262 5点 ガラスの村
エラリイ・クイーン
(2019/12/12 21:37登録)
米国北部の寒村で起きた女流画家の殺人事件。閉鎖的な共同体に紛れ込んだ怪しげな異邦人の容疑者をめぐる裁判。裁判自体が奉行所~裁判官と、良く言えば「プロ」悪く言えば「おかみ」の物だった我が国と違い、住民から選ばれた陪審員の評決で決せられるシステムの近代西洋。だがそれは必ずしも素晴らしい物とは言えず、共同体のおぞましさをあぶりだしてゆくこともある。

「全体集合Xの中に殺人者がいる」「異邦人Aは犯人で『あり得る』」「A以外は犯人で『あり得ない』」「従ってAが殺人者である」・・「災厄の町」「フォックス家の殺人」同様に犯人特定のロジックのトリック見破りのミステリ。ただ2作に比べると設定が甘い。➀いくら閉鎖的な小村とはいえ集合X以外に、あるBが存在していたかも知れない。➁「A以外にはあり得ない」の縛りが弱い。私でさえ、ある人物のアリバイについて「ん? それウラとらなくてよいの?」となり、結局そいつが犯人だった。だからミステリとしてはせいぜい3点。

せいぜい3点だが、
「・・この討伐隊はインディアンの村をかたっぱしから焼き払って・・大人も子供も全部虐殺してしまった・・」
「あなたは本当の恐怖を知っていますか? 地獄とはこのことです。ヒロシマはこの世の地獄でした・・・」
いくら西洋のアウトサイダーのユダヤ人とは言え、「反乱の60年代」以前に、こんなセリフを二人の主役に言わせた作者に敬意を表し点数はオマケ付き。


No.261 5点 カーテン ポアロ最後の事件
アガサ・クリスティー
(2019/12/02 15:06登録)
自ら手を汚すことなく連続殺人を行う「操りの悪魔:X」、対するは老いさらばえた往年の名探偵ポワロ。手に汗握る虚々実々の攻防・・とはならず、「ポアロ最後の事件」はこじんまりしたサークル内で暗く苦く進行して行き、最後はポアロも彼の「モリアーティ」を相打ちにしてライヘンバッハの滝に沈んでゆく(ホームズは甦っちゃったけど)

「じつは犯人は君なのだよ」・・・いそいで頁を戻したら、「いそいで私は〇〇を回して・・」と見事にさりげなく伏線が敷いてあった。


No.260 6点 化石少女
麻耶雄嵩
(2019/11/15 16:57登録)
刊行時の初読では「麻耶ももう終わりかな」てな詠嘆感あったが、再読して「やっぱすげえな麻耶雄嵩」となった。お話自体はコミック化を当て込んだような、あほらしいラノベ風で「麻耶の本領はメンヘラ主人公ととんでも探偵の跋扈するブラックなミステリだろ!」と文句言いたかったが最後の最後に「ブラック」とまでは行かずとも「半よごれ」に決めてくれている。「星を継ぐもの」や島荘を彷彿させる車殺人のバカミストリックがGood。
〈訂正〉
初読時の失望感の反動から、再読で7点評価に跳ね上げたが、「貴族探偵」「あぶない叔父さん」等と併せて再々読の結果この点数に変更。


No.259 6点 十日間の不思議
エラリイ・クイーン
(2019/11/08 16:50登録)
殺人事件が起きるまでが実によい。サスペンス超えて狂気と情念の美学・・・まるで「嵐が丘」か「白痴」か。ここまでならば「シャム双生児」と並ぶクイーン小説の双璧として8点献上。
全体4分の3まできて殺人起きてミステリになって、「十戒見立て」オチで尻つぼみに一件落着。マイナス1点。一年後に、どんでん返し「操り」オチして最終解決。さらにマイナス1点。で、計6点。
ところで「操り」って魅力的なテーマとは思うが、催眠術同様に何か噓くささが付きまとう。東野「悪意」や京極「絡新婦」にしても「そんなうまくいくか?」てなる。そのへん「Yの悲劇」はあの偶然性が見事だったかな。


No.258 3点 死者はよみがえる
ジョン・ディクスン・カー
(2019/10/26 15:37登録)
思いもよらない真犯人、見返せば意味のある見取り図、登場人物全てが互いに互いを疑い合う状況・・「こういう状況を何と言ったらいいのか」「わしなら推理小説と呼ぶね」・・・この「落とし」だけのためにこれ書いたんだろな、カーさん。


No.257 5点 三幕の殺人
アガサ・クリスティー
(2019/10/21 17:25登録)
アガサ・クリスティーには映画よりも「舞台」が似合う。別にクリスティー原作の芝居を見たいってんではなく、二十世紀前半、芝居が中上流階級の娯楽社交場だった時代の登場人物達がよく似合う。「~公爵」「~卿」「~夫人」「~令嬢」「~大尉」「~医学博士」・・といった面々が、気どり取り澄ましふんぞり返った容疑者として、ずらりがん首揃えるエヅラがよい。「エッジウエア卿の死」同様に犯人が演じる「無実芝居」と「アリバイトリック」。

※ところで、若い清純な女と三十歳も年長の恋多き男の「純愛」なんて、どうしたって眉に唾付けたくなるわな、われらおじさん世代としても。んな男、インチキおやじに決まってるじゃん。あのバランスの悪いひねくれた若者の方が遥かにましだぞ、同伴者にするならと、おじさん心から思う。そこんところはアガサ・クリスティーしっかりと押さえてくれていて拍手拍手。


No.256 4点 エッジウェア卿の死
アガサ・クリスティー
(2019/10/18 16:23登録)
「犯人こいつだ!」→ 「適中!」。「こういうアリバイトリックか?」→「適中!」・・・気持ちいい。
死刑執行を前にした犯人がポアロにあてた手記のニヒル具合が良い。死刑囚はいつもあれくらいの奴であってほしい。
※「人間関係トリック」もそうだが「偽悪キャラ一捻りトリック」も続けて読むと少し色あせてしまうな。


No.255 6点 フォックス家の殺人
エラリイ・クイーン
(2019/10/13 16:31登録)
「殺人が行われた。」「Aには犯行が可能だった。」「A以外には犯行は不可能だった。」「したがって犯人はAである。」・・・完璧な密室のごとく組み立てられた完璧なロジック。
だが探偵には「密室のトリック」を破る様に「ロジックのトリック」を破ることを要求される。よくできた「密室」が、結局は作者が読者を騙す「叙述トリック」であるように、この作品の「ロジック」も巧妙に読者を欺く「叙述トリック」により構成されている。
そして「本格ミステリ作家」エラリイ・クイーンには、そうした「欺き」でさえも「フェア」であることが要求される。ここでの叙述は「フェア」か?自分は「OK」だった。


No.254 4点 ねじれた家
アガサ・クリスティー
(2019/10/07 21:54登録)
これまたマザーグース物の一つ。クイーンが「靴に棲む老婆」で描いた家族や、それ以上にカーの描くフリークな群像とは違い、クリスティーは英国女流小説風の人間描写から筆をすべらせない。それがひんやりとした、いかにもなミステリな雰囲気を醸し出して、それはそれでとても良いのだが、「マザーグース童謡」とはいまいちそぐわない。


No.253 4点 靴に棲む老婆
エラリイ・クイーン
(2019/10/07 01:21登録)
マザーグース見立て殺人ものの一つだが、登場人物達の「フリーク」具合が、カーに比べてイマイチ。カーならば、もっともっとホラーでドタバタでグロテスクかつファンタスティックな童話的キャラで楽しませてくれたろう。
「全く同じサインというのは偽造である。」てなロジックは目からウロコだった。


No.252 6点 孤島パズル
有栖川有栖
(2019/10/01 17:31登録)
「密室殺人」に「宝探し」に「ロジック」と豪華3点セットで8点付けたいが、
➀「完全な密室」だがカラクリがチャチなのでマイナス1点。 ➁0次元1次元2次元と進化する「宝探しパズル」も3次元に至って尻つぼみとなりマイナス1点。 ➂犯人特定のロジックは見事・・・もちろん「あの日記に虚偽記載がないとは言い切れない」「拾った紙は最初に見過ごした紙とは別物で、誰かが自転車で踏んでたことに気付かなかった」「実はライフルは二丁あった」などのイチャモン付けは可能で犯人確定の「十分条件」とは言えない・・・見事だが、「分り安すぎる犯人」のキャラ描写が「純粋なロジック」の判断を阻害しており、ここはプラマイ0。で、計6点。

(いろいろネタバレ)
あの女が一人ボートで湾を漕いで行く場面が、「獄門島」で住職が夜の寺の石段を提灯灯りで登っていく場面や「ゼロの焦点」で女が一人で海に舟を漕ぎ出す場面に重なり、ロジック以前こいつが犯人だと直感できてしまう。


No.251 6点 死時計
ジョン・ディクスン・カー
(2019/09/28 07:43登録)
古い時計の、狂い、よじれ、ねじけて噛み合わない歯車の様な登場人物達。誰もかれもが怪しく描かれる中で、「うさん臭さ過ぎる」キャラの一群が物語早々に容疑者リストから「お払い箱」になった後に、「いかにも容疑者らしい」キャラ群が残されるが、最後にカラクリ時計の「カラクリ返し」が待っていた。
これもカーのトリックとしては「スカ」な部類(〇〇道だの隠し〇〇〇だの、それ自体ペケだろう)の作品だが、面白かったんで点数はオマケ付き。


No.250 3点 赤後家の殺人
カーター・ディクスン
(2019/09/20 12:29登録)
魅惑的なオカルト冒頭から十八番の密室殺人展開に広がり、フランス革命にまで辿る歴史浪漫溢るる物語を経て、竜頭蛇尾な尻つぼみ感たっぷりな結末で終わる。まあ、あんだけ毎度毎度「密室」「不可能」やってんだから、たまにはこんな「脱力感」あふれる「スカ」なトリックもあるだろう。


No.249 8点 ポアロのクリスマス
アガサ・クリスティー
(2019/09/15 18:36登録)
「最近のあたしが取り澄ましたお上品なミステリしか書かないと思ったら大間違いよ。えげつない血生臭いのも書けるのよ・・」ってな自慢気な前書きだが、本当は「あたしだってジョンのような『密室もの』くらい書こうと思えばいくらでもこしらえられるのよ・・」を示した傑作。十八番の「人間関係トリック」をダミーに使い捨てるところがGood。


No.248 4点 鏡は横にひび割れて
アガサ・クリスティー
(2019/09/12 19:47登録)
ほぼ一気読みできる位に読みやすいアガサ・クリスティのミステリの中にあって、珍しく「退屈さ」を感じてしまう作品。このネタは短編でまとめてほしかった。


No.247 5点 杉の柩
アガサ・クリスティー
(2019/09/05 11:00登録)
ハヤカワ文庫の表紙画、なんで薔薇の絵?と思ったが、ちゃんと理由があった。冷静な判断力を保ちながらも、強くひたむきに異性への情念を抱き続けるのは男とは限らないってことね。クイーンはおろかカーでもこんな女は描けない。


No.246 8点 囁く影
ジョン・ディクスン・カー
(2019/09/03 09:22登録)
オカルトとドタバタを両翼に、不可能犯罪トリック解明をエンジンにして飛翔するカーのミステリの中で、この作品はオカルトのみドタバタ抜きの片翼飛行で疾走する。そして切なく歪んだ心情とサスペンスが、ハウ・フーを超えて「いったい何が起こっているのだろう」のホワットダニットを噴き上げて行く。
ところでこの作のフェル博士にはいつもの魅力がないが、なんせ片翼のドタバタ自体がないのだからやむを得ず、ヒロインの魔力がそれを補ってあまりある。「あなたは彼女を愛してなどいないのよ・・幻想の女・・あなたの頭が創り出した夢の女よ・・ねえ、聞いて・・」「あの人が、どんな女だってかまわない。僕は、あの人のところに行く。」
嗚呼、「幻の女」「愚かなる男」


No.245 4点 地獄の奇術師
二階堂黎人
(2019/09/02 09:58登録)
これが江戸川乱歩の作品だったら、敬意を表して「名誉9点」位は付けちゃってたかもなあ。
それにしても、あの女子高生探偵のキャラ、もちっと何とかならんのか。


No.244 4点 スタイルズ荘の怪事件
アガサ・クリスティー
(2019/08/29 22:42登録)
アガサ・クリスティーの記念すべき処女作。1920年発表てことは1915年の「恐怖の谷」とほぼ同時代なのか。キャラ的にもプロット的にも「こいつが不幸に消えないと話が収まらない」=「ミステリ的には犯人のわけがない」て位に分かりやすいヒールを出しちゃいながら見事に一捻りして終結。十八番の「人間関係トリック」も既にきめてる。

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