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ミステリの祭典

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雪さんの登録情報
平均点:6.24点 書評数:586件

プロフィール| 書評

No.426 5点 狐火の辻
竹本健治
(2020/10/11 09:23登録)
 土砂降りの雨のなかで、湯河原の温泉旅館街で、起きた交通事故。そして、新たに郊外で起こった交通事故ではなぜか、車に轢かれた被害者が煙のように消えてしまった…。それらの連続する事故に興味を抱いた楢津木刑事は、やがて街なかで起こっている「奇妙なこと」やネットで噂される「タクシー怪談」にも、漠然とした繋がりを感じていく。雲をつかむような謎を解くために結成された「居酒屋探偵団」に、楢津木が引きこもうとしたのは、18歳で本因坊IQ208の天才棋士、牧場智久だった。名作『狂い壁 狂い窓』以来の、定番キャラクター楢津木刑事、牧場智久が登場! 『涙香迷宮』の流れを汲む、鬼才のサスペンス・ミステリー!
 二〇二〇年一月角川書店刊行。雑誌「文芸カドカワ」二〇一八年十一月号から二〇一九年七月号まで、および「カドブンノベル」二〇一九年九・十月号まで連載されたものを、加筆修正のうえ単行本化したもの。
 底なし沼へと通じる、こんもりと繁った森の奥へと続く小道で子供たちを待ち受ける黒マントの怪人や、定番怪談の変形といったネットに広がる数々の不気味な噂に加え、クルマに関する奇妙な出来事の連続や、ビルの屋上から物を投げ落とす男の存在など、湯河原方面に相次ぐ小事件の連なりからやがて隠されていた犯罪が立ち上がってくる、といった作品。
 五部三十一章、断章の連続で読者を幻惑するのは『将棋殺人事件』や『狂い壁~』と同じですが、混沌の中から出現するのは全てを操る存在や圧倒的な悪意ではなく、偶然のうちに絡み合った人々の姿なのがこれらに比べてやや物足りないところ。メインとなるのは若い男と初老のおっさんの追いつ追われつの謎ですが、ミステリ的に面白いのは黒マントと沼に隠された秘密の方。この両者を作者が〈偶然の連続〉によってみにょ~んと繋げている為、世界が歪むような独特の非現実感が生じています。物語の核になってるのはある種ハートフルなエピソードなんですけどね。誤解が誤解を呼んでしまったというか。まあそんな感じでこの作者にしてはアッサリ目。
 二〇一三年十月の連城三紀彦氏の死を受け、同じ幻影城出身作家として竹本が物したリスペクト作品、という前情報もあったんですが実際にはだいぶ異なる味わい。麻耶雄嵩氏など好意的な書評が多いですが、それとは裏腹にかなり読者を選ぶタイプの小説です。


No.425 5点 虹の舞台
陳舜臣
(2020/10/09 08:52登録)
 神戸・海岸通の東南ビル地階で中華料理店『桃源亭』を営む陶展文は、拳法の弟子である沢岡進に、こんど完成する三宮サンライズ・ビルの目玉スポット『世界の味センター』に進出してみないかと打診される。元船長の沢岡はここ数年ほどビルのオーナーである東南汽船の嘱託をしていたのだが、このたび専務取締役として建設中のビルに出向することになったのだった。
 古巣を動く気の無い展文は出馬を固辞し、代わりに店主と喧嘩し東京をとび出した大コック・甘練義を紹介する。甘は快諾し、話は片付いたかに見えた。
 だがここで新たな問題が持ち上がる。センターのインド料理に入店する宝石商、マニエル・ライの評判がよくないのだ。料理店経営にひどく乗り気なライは宝石関連のオフィスも神戸に移し、北野町に家まで買って陣頭指揮に赴いているのだが、彼にはインドの首相ネールと並び称された独立運動の闘士、チャンドラ・ポースの宝石を奪った疑いがかけられており、在留インド人のあいだでも爪弾きされているという。それどころか彼を処分するために、殺し屋が日本に派遣された形跡すらあるのだ。
 出店をことわるかどうかに頭を痛める沢岡は、「世界の味センターの関係者をお招きしたい」というライの招待にとりあえず応じる事にする。展文たちも行きがかり上彼とともに北野のライ家を訪れるが、弘子夫人に四人の客が予備室で饗されるなか、突如として三発の銃声が響き、それに続いてマントルピースの上の花瓶が砕け散った・・・
 昭和48(1973)年に発表された『失われた背景』に続く著者18番目の推理長篇であり、陶展文ものとしては4作目にあたる最後の作品。同年には『長安日記 賀望東事件録』『柊の館』などの連作短編集も刊行。名作『秘本三国志』連載に取り掛かる前の年、本格的に歴史小説に軸足を移す直前の時期です。
 ピストルをもった犯人を見たフランス料理の名コック・田辺源一によると、曲者は白いターバンを巻いたひげだらけのインド人。さらにかけつけた警察により再度(ふたたび)山の登山道に倒れていたライの死体が発見されると、ボースの復讐に燃える秘密結社の報復説ががぜん真実味を増してきます。そうこうするうちやがて第二の殺人が発生し・・・
 とこう書くとテンポ良く見えますが、実際には11年前の前作『割れる』に比べても読み応えの少ない長篇。随所に挿入される中華コック・甘練義の料理指南や、ボースの挿話を中心としたインド革命史などで間を持たせています。買えるのは冒頭部分を含めたこの構成が伏線とそのカモフラージュになっている所、このあたりは流石に各賞受賞ベテラン作家の手際です。
 陳氏の小説は即物的な題名が多いですが、本書では真相を踏まえた上で、珍しく詩的なタイトルが付けられています。しかしミステリとしてはそれほどでもなく、個人的には子母沢寛の聞き書き集『味覚極楽』に登場する亡命インド人革命家のボース氏が、チャンドラとは同姓の別人であると判明したのが主な収穫でした。


No.424 7点 魔法
クリストファー・プリースト
(2020/10/07 07:22登録)
 爆弾テロに巻きこまれ、それ以前の数週間にわたる記憶を失った報道カメラマン、リチャード・グレイ。保養施設で治療に専念する日々を送る彼のもとへ、かつての恋人を名乗るスーザン・キューリーが訪ねてきた。彼女との再会をきっかけに、グレイは徐々に失われた記憶を取り戻したかに思われたのだが・・・
 南仏とイギリスを舞台に展開するラブ・ストーリーは、穏やかな幕開けから一転、読者の眼前にめくるめく驚愕の異世界を現出させる! 奇才プリーストが語り(=騙り)の技巧を遺憾なく発揮して描いた珠玉の幻想小説。

 早川書房「夢の文学館」実質最後の作品として登場した後(本来出るはずだったのはジョン・クロウリー代表四部作の第一部『エヂプト』)、ハヤカワFT文庫から叢書内叢書〈プラチナ・ファンタジイ〉全七冊のうちの一冊として世界幻想文学大賞受賞作『奇術師』とともに再刊行された、作者の代表長篇のひとつ。1984年発表。
 プリーストに惚れ込んで訳し続けている古沢嘉通氏の初刊あとがきに「いっさいの予断を抱かずに作者の「語り=騙り」に身を任せるのが、本書を読む際の正しい態度」とある通り、この種のレビューで詳細を述べにくい作家の一人。ある程度狙いのハッキリした『奇術師』などと比べても、本書は特にそうである。なので極力ネタバレする訳にはいかないのだが、読了して若干の不満も覚えたので当たり障りのない範囲で触れておく。このように語る事で、既に作者の術中に陥っているのかもしれないが。
 文章は平易にして単純。あまり表現方法に凝るタイプではないにも関わらず登場人物に感情移入させ、知らず知らずのうちに物語に引き込む手際は、この作者の並々ならぬ筆力を感じさせる。手ざわりや途中までの期待感は『奇術師』よりも上。第五部で描かれるアンダーグラウンドサークルの描写や〈絶対的な力と見えたものが逆に呪いに繋がってしまう〉というパラドックス、さらに同十章から十三章に至る身に迫るような崩壊感とスーの感じる絶望的恐怖心は、読み手に知的刺激を与え感情面を強く揺すぶる。
 ただヒロインその他の登場人物が魅力的なだけに、あの結末は興醒め。手法としてはむしろ好きな方だが、本書の場合効果的に働いてはいない。即物的かつショッキングな分だけ解り易い『奇術師』の方が、プリースト入門にはより〈向き〉かもしれない。


No.423 7点 変調二人羽織
連城三紀彦
(2020/10/06 09:56登録)
 刊行順では『戻り川心中』に続く二冊目だが、単行本あとがきにもある通り、事実上こちらが著者の処女短篇集となるもの。「十年前、まだ僕が大学生だった頃(中略)父が読んでも犯人のわからぬ推理小説を書いてみようか――」そう気負いこんで書きあげた「依子の日記」を始め、第3回幻影城新人賞入選のデビュー作「変調二人羽織」など、初期からの発表順に全五篇が収録されている(改稿された「依子~」以外は、各篇いずれも1978年1月号から「幻影城」誌にほぼ毎月掲載されたもの)。連城のデビュー翌年に創設された、1981年度第3回吉川英治文学新人賞の候補作でもある。ちなみに前年第2回の受賞作は、同じ幻影城出身者である栗本薫の『絃の聖域』。
 冒頭の二篇、表題作と「ある東京の扉」はいずれも不可能犯罪を扱っているが、語り口は饒舌に過ぎまだ練れてはいない(落語の古典演目「盲目かんざし」を巧みに改変した「変調~」のアリバイトリックは捨て難いが)。それが次作「六花の印」を機にガラリと変わる。
 明治三十八(1905)年と昭和五十年代の東京、人力車と乗用車の同シチュエーションでの道行きが交互に描かれ、七十年以上の歳月を隔てて繰り返すように起こった車中の拳銃自殺事件が、周到な企みと奇しき縁で結ばれていたことが最後に判明する。本書の白眉であり、作者の数少ないハウダニット物の中でも絶対に落とせない作品。当時読んでいて〈化けた〉と思った。あるいはデビュー作のちょうど一年前に掲載された亜愛一郎シリーズ「G線上の鼬」に挑戦したのかもしれない。だが〈花葬シリーズ〉に並ぶ連城初期の代表短篇だけあって、題名を象徴する"雪の痣"での収斂といい、纏め方はこちらの方が上である。考え抜かれた犯行や細かな伏線も申し分ない。
 これに続く「メビウスの環」「依子~」は、いずれも少数精鋭の登場人物たちで構成されたボアナル風の反転もの。リドル・ストーリーめいた前者は少々切り詰め過ぎだが、疎開先の人里離れた一軒家で繰り広げられる愛憎劇を描いた後者はなかなか凄まじい。戦前、文壇に確固たる地位を築いた作家・滝内竣太郎とその妻・依子。二度に渡る闖入者の訪問が、彼らの完全な破滅を招く。叙述トリックを組み合わせることにより、反転の構図を強化しさらに悲劇性を高めている。良く出来た作品だが、流石に「六花~」には勝てないか。
 ベストスリーは「六花の印」、表題作そして「依子の日記」。短篇「ある東京の扉」は変則の推理コメディであり、集中でも少し異色の味わいである。まだ全体の方向性が定まっていないのは初期ゆえの事だろうか。ただこれにも転機となる「六花~」にも、いずれも著者独特のシンメトリー嗜好が仄見えている。


No.422 5点 爬虫類館の殺人
カーター・ディクスン
(2020/10/04 11:31登録)
 ガスだ! 流れ出してきた有毒な気体の波にその場の全員がたじろぐなか、ヘンリー・メリヴェール卿だけが部屋の中に突進していった。部屋には苦悶にねじ曲がった動物園長の死体が・・・しかも部屋は内側からゴム引きの紙で目張りされていたのだ。戦時下のロンドン、史上空前の密室に挑んだH・M卿が暴く驚愕の真相とは?
 『貴婦人として死す』に続くHM卿シリーズ第15弾。1944年発表。同年にはフェル博士シリーズの15作目『死が二人をわかつまで』も刊行されています。事件の発生日が一九四〇年九月六日からの二日間、バトル・オブ・ブリテンの真っ最中に設定されているだけあって、メイントリックの隠蔽に直接これを利用した、戦時ミステリここにありといった作品。ただこの頃になるとドイツの劣勢がほぼ確定しているせいか前作に比べるとコメディ調が強く、終始かなりはっちゃけたストーリーが繰り広げられます。他の方の書評にもあるように、特異な〈目張り密室〉でも名高い作品。
 あのトリックは結構有名なので〈それ以外の要素〉に着目して読んだんですが、結果は微妙。爬虫類館の管理人マイク・パースンズの動きを読み解きながら並行して重要な手掛かりを放り込むところや、しょっぱなの大騒動が第三の事件に繋がる部分は流石ですが、ドタバタを除くと割と平板な展開で、前作ほどの手際の良さは見られません。メインとなる密室構成に比重が掛かり過ぎてる気もしますね。シリーズ筆頭格『ユダの窓』のような〈ネタは割れてもやはり面白い〉名作ではありません。
 そういう意味で積極的に評価するのはいささか厳しいところ。水準はクリアしてるものの佳作の多い四〇年代前半の著作の中では、どちらかと言えば下位の出来でしょう。


No.421 5点 追込
ディック・フランシス
(2020/10/01 17:05登録)
 シュロップシャで週末を過ごすため従兄の家を訪ねた職業画家、チャールズ・トッドは愕然とした。家の外には警察の車が三台、青い回転燈が不気味にまわっている救急車が一台、停まっていて、眩しいばかりのフラッシュが断続的に窓から漏れている。ワインの輸出入業を営むドナルド・ステュアートは土気色の顔をして、茫然と廊下に立ちつくしていた。家の中を飾っていた美術品がごっそり盗まれ、ガランとした床の上では、彼の妻リジャイナが血だらけになって横たわっていたのだ。不意に帰ってきた彼女は運悪く泥棒に出くわし、口封じに殺害されたものと思われた。
 放心状態のドナルドを支えるトッドだったが、いつまでもここにいる訳にはいかない。彼は従兄の身を危惧しつつ画業に戻ることにするが、ワージングで仕事を引き受けた富裕な老未亡人、メイジイ・マシューズの話に驚愕する。放火に遭い思い出の家を焼かれた彼女もまた従兄たちと同じく、旅行先のオーストラリアで十九世紀の有名な競馬画家、アルフレッド・マニングズ卿の絵を購入していたのだ! トッドはどん底状態のドナルドを救うべく、事件の謎を追いはるばるシドニイへと飛ぶが・・・
 『重賞』に続く競馬シリーズ第15弾。1976年発表。冒頭100P余りは発端のイギリス編。それからシドニイ在住の美術学校時代の旧友ジック・キャサヴェッツとコンビを組み、結婚してわずか三週間にしかならない彼の妻セアラのキツい対応に晒されながら、シドニイ→メルボルン→アリス・スプリングス→また引き返してメルボルン。それからニュージーランドに飛んでオークランドからウェリントン、最後に三度目のメルボルン行きで決着と、オセアニア道中記みたいな所もあってなかなか楽しいです。
 相手は大掛かりな国際窃盗団で人数も十人以上。ピンチに次ぐピンチの割に敵方の攻勢はやや甘く、ラストも含めてちょっとどうかなという感じです。一貫して冷酷かつ凶暴なプロ集団という設定なので、"粗い"とされるのはたぶんここでしょう。内藤陳さんの『読まずに死ねるか!』にも、〈コレと『障害』はオススメできない〉とあった気がします。後者については異論もありますが。全体としてはショッキングな掴みに比べ、本編であるオーストラリア編の展開が若干緩いですね。
 でも読み所が無い訳ではない。主人公トッドの負傷直後の扮装や、ヒルトン・ホテルでのコメディ紛いの脱出劇など笑いもあり、とっちらかっているのは同じとはいえ12作目の『暴走』よりは読めました。以前読んだリーダーズ・ダイジェスト版の『馬の絵にご用心!』がスカスカで全然つまらなかったので、持ち直した分多少贔屓目入ってるかもしれません。
 総評すると下位ではあるけどそこそこ楽しめる作品。間違っても上位には来ませんが、競馬シリーズの一冊として見ればまあ及第点かな。採点は『暴走』よりちょっと上の5.5点。


No.420 7点 死はわが隣人
コリン・デクスター
(2020/09/29 10:03登録)
 オックスフォード大学ロンズデール学寮長選挙のさなか、ブロクサム通りの北側にならんでいるテラス・ハウスの一軒で殺人が発生した。被害者は同僚とともに独立開業したばかりの若き物理療法士、レイチェル・ジェームズ。彼女は裏窓のブラインド越しに首の下を銃で撃たれ、明るいとび色の髪を血の海にひたし台所の奥に倒れていた。
 テムズ・バレイ警察のモース主任警部は朝食どきに起こった銃撃の謎を追い始めるが、被害者が人から恨みを買っていたとはとうてい思えない。だが一癖も二癖もある隣人たちの錯綜する証言から、やがて殺人事件と学寮長選挙との意外な接点が浮かび上がってくる。手がかりを掴んだと思った矢先病に倒れたモースは、糖尿病治療の苦痛に耐えながらなおも事件の真相に迫ろうとするが・・・。現代本格ミステリの最高峰、モース主任警部シリーズついに佳境へ。
 1996年発表。『カインの娘たち』に続くシリーズ十二作目で、本来ならばモース最後の事件になるはずだった長篇。そのせいか最後の絵葉書の趣向に見られるように、人間モースを浮き彫りにするようなエピソードがいくつも見られます。シリーズ自体は読者の懇請の結果、次作『悔恨の日』であのような結末を迎える訳ですが、生みの親としては希望を持たせる形で終わらせたかったのかもしれません。
 序章、終章を含めて全七部と分厚い割に、途中まではややたるんだ感じ。鏤められた仮説や衒学趣味ほか各エピソードで引っ張るものの前作以上にイマイチな展開が感興を削ぎます。
 〈残念だけどシリーズでも下の方かな〉と思って読んでたら、第四部以降の半ば過ぎから急速に挽回。学寮長選挙を戦うジュリアン・ストーズとデニス・コーンフォード、二人の候補者それぞれの夫婦模様がクローズアップされ、主人公の疾病も一役買って決着。さらに保養地バースの高級ホテル〈ロイヤル・クレセント〉での素晴らしいエンディングからモース警部のミドル・ネームが明らかになるなど、『悔恨の日』でなくこちらが〆でも良かったような気もします。現行の形がよりベストなのは分かりますが。
 『カイン~』、本書、『悔恨~』の三冊で一括りとも言えるんですよね。尖ったスタートをした割には、また別の良さを出して上手くシリーズを纏めたなと。第十作『森を抜ける道』辺りから、小説創りは飛躍的に向上してます。ミステリとしては大した事ないかもしれないけれど、本書をプッシュする人の気持はよく分かるなあ。
 デクスターもコンプリートしたので、即席の順位を以下に掲げます。偏った読み手の偏ったランキングなので、まあ参考程度に。
 ①キドリントンから消えた娘 ②ウッドストック行最終バス ③カインの娘たち ④死はわが隣人 ⑤森を抜ける道 ⑥死者たちの礼拝 ⑦ジェリコ街の女 ⑧悔恨の日 ⑨モース警部、最大の事件 ⑩謎まで三マイル
 次点は第九作の『消えた装身具』。十位をどっちにするか迷った以外は、ほぼ順不同です。


No.419 6点 狂い壁狂い窓
竹本健治
(2020/09/26 09:15登録)
 東京・大田区の高台に樹影荘と名づけられた古びた洋館があった。かつて産婦人科病院として建てられたもので、かたわらには鬱蒼とした樫の大木が生えていた。ここには六組の入居者が住んでいた。この樹影荘で怪事件があいつぐ。トイレの血文字、廊下の血痕、中庭の白骨・・・・・・血塗られた洋館と住人たちの過去が、今あばかれる!
 ゲーム三部作シリーズ最終作『トランプ殺人事件』の翌年発表された、竹本健治の長編第四作にして狂気三部作の最終編。昭和五十八(1983)年四月、講談社ノベルスより発刊。初版巻末に当時の刊行ラインナップが載っていますが、戸川昌子や西村寿行、西村望や谷恒生等の濃いメンツと比較しても本書の内容は強烈で、講談社からは約八年後のウロボロスシリーズまでずっとお呼びがかかりませんでした。というか当時でもこんなのよく出したよな。
 しょっぱなから頭に凶器がつき刺さった死体やら、ホルマリン漬けの胎児やら何ちゃらかんちゃら。生理的嫌悪感を催すガジェットをジメジメザワザワした形容詞が彩ります。更に誰が誰やら分からないブランク描写の妄想オンパレードに加えて、連続する意味不明な事件。220P余りの本文を三十七にも及ぶ章立てで区切りまくった、目眩のしてくるような構成です。
 ただ果てしなく自問自答を重ねるような、どこか思春期風の文体なので、読んでいてそこまでの嫌悪感は無い。ニチャニチャした喋り方で容疑者に纏わりついてくる楢津木刑事とか、関西弁丸出しの住人・小野田とか、故意に俗悪にやってるなという部分はありますが。まあちゃんとカタが付くんかいという内容の割には、そこそこマトモに着地します。ただ〈被害者の足跡が無い!〉とかいくつかの謎については、上手く作者に逃げられたような気もするなあ。
 分類は本格/新本格となっていますが、犯行動機の曖昧さが語るように内容的にはよりホラーに近い作品。シャーリイ・ジャクスン『たたり』系列の、〈呪われた館〉物に挑んだ出色の和風ゴシック小説です。


No.418 7点 平成兜割り
森雅裕
(2020/09/25 10:06登録)
 1991年11月刊行。『ベートーヴェンな憂鬱症』に続く著者三冊目の作品集で、連作短編集としては『さよならは2Bの鉛筆』の次作にあたる。同年4月には鮎村尋深シリーズ最終作にして第11長編の『蝶々夫人に赤い靴(エナメル)』も上梓されている。
 第16長編『鉄の花を挿す者』で頂点に達する刀剣趣味の嚆矢となった短編集で、巻末付記によれば、当初から商業ベースでの連作になるとは思っていなかったらしい。「これならなんとかしらばっくれて潜り込ませることができるだろうと書いた」"雨の会"アンソロジー初出の第一作「虎徹という名の剣」以外の四編は、全て本書のための書き下ろし作品である。「好きなものについて書きたくなるのは当然のこと」「高校時代と同じ思い入れをこめた」と後記にある通り、敷居は高めだが各種刀剣関連のネタに絡む良作が揃っている。
 各編の語り手を務めるのは横浜元町に店を構える若き骨董屋・六鹿義巳。確かな鑑定眼を持ち古物業の裏にも通じているが、父親が起こした喧嘩沙汰と母方から特製ホットドッグ店を継いだ影響で、業界の重鎮たちからは半ばイロモノ扱いされる存在である。人呼んで〈刀剣界の落ちこぼれ〉。また馬車道のカラオケ・バーで好みのアイドルの全曲メドレーを熱唱するなど、ミーハー気質な所もある。
 本人の認識は〈刀屋〉だが、それでは商売にならないのも事実。二作目の「はてなの兼定」で知り合った口の減らない日野市在住の女子高生・畑小路晶子に、たまに店番をさせている。こちらの方は六鹿と異なりセールストークは優秀なようだ。
 表題作以外は刀剣の来歴や真贋、悪徳業者による詐欺紛いの仕掛けや業界のウラ話に纏わるものが殆ど。ただしこれも第四話「現代刀工物語」を読むと、半ば必要悪という側面もあって単純ではない。作る側も赤貧かつ過酷で、売る側の儲けも知れたもの。とにかく金にならない世界なのである。まあ刀鍛冶って、溶接工プラスアルファみたいなもんだもんねえ。それでもこれを生業として選ぶのは結局〈好きだから〉としか言いようがないであろう。
 それもあってか著者独特の反骨具合は少なめ。キャラ作りの上手さに加えてアクが取れ、その分良い方向に行っている。既読の内でもサラリとした感触で最も読み易かった。主人公の六鹿も森雅裕作品の登場人物としては異例なほど物腰が低く、人当たりがいいそうだ(なんとか商売人の範疇に収まっている、とした方が適切だろうが)。
 連作中のピカイチは第二話「はてなの兼定」。腐れ縁の老人二人のお笑い混じりの角突き合いに、孫娘とヤンキーの兄ちゃんが絡んで微笑ましい。ミステリとしても結構良く出来ていておすすめ。これに続くのは「現代刀工物語」か「虎徹という名の剣」のいずれかだろうか。表題作は最も犯罪臭が強く、集中ではやや異色。ただしそちらがメインではなく、明治の剣客・榊原鍵吉の偉業に日仏ハーフの女子大生が挑む、コトの経緯が興味の中心となる。なお兜割りを行う心形刀流・飛明館道場の師範代、舞門都美波は、第10長編『100℃クリスマス』で主役を張っている。


No.417 6点 赤い猫
仁木悦子
(2020/09/22 22:22登録)
 連城三紀彦『戻り川心中』と共に第34回日本推理作家協会短編賞を受賞した、著者の代表作品集(ちなみにこの時の長編賞は西村京太郎『終着駅殺人事件』)。本書冒頭で彼女は故・江戸川乱歩の追憶に触れ〈もう一度駆け出しのころに戻って、頑張ってゆきたい〉と熱く抱負を語っているが、デビューから二十四年目、晩年での受賞は正直遅きに失した感がある。前年度の第33回はいっさい作品が選出されなかったため、地味な作家にもようやくスポットが当てられるようになったと考えると少々皮肉な話だが。
 学習研究社発行の「母と子の雑誌 ベルママン」に連載された二編を初め、昭和五十四(1979)年九月から昭和五十六(1981)年二月にかけて各誌に掲載された、表題作ほか四短編を含む全六作品を収録している。第八長編『冷えきった街』に登場する私立探偵・三影潤や、第三長編『殺人配線図』登場の東都新報・吉村駿作記者など、ほぼシリーズ探偵のみで固めた短編集でもある。
 なお「ベルママン」発表各編で探偵役を務める〈浅田悦子〉の旧姓は仁木。雄太郎の妹・悦子の結婚後の姿である。仁木短編は本集の後にも執筆され続けるが、長編については翌昭和五十七(1982)年、講談社ノベルスより刊行された第十一長編『陽の翳る街』が、彼女の最終作となった。
 表題作「赤い猫」は、一人暮らしの無口で、とっつきのわるい老婦人・大林郁の住み込み話し相手として雇われた二十二歳の女性・沼手多佳子が、ある夜邸で起こった事件をきっかけに郁の持つ類稀れな推理の才能に気付き、彼女とともに十八年前、母の由佳子がなぐられて殺された事件の犯人を突き止める話。車椅子の老女が主役のアームチェア・ディティクティヴ物だが、協会賞受賞作とはいえ仁木短編としてはそこまで突出していない。ミステリとしてよりも郁と多佳子、短いながらも確かな繋がりで結ばれた二人が心に残る作品。
 逆にミステリ要素が買えるのは嵐の山荘ものの変形「青い香炉」。暴風雨に煽られて吊橋の落ちた民宿に閉じ込められた八人の男女が、復旧までの暇潰しとして半年前、麓の町に住んでいた著名陶芸家が二人組の男に殺された謎を解く推理競べもの。ジュニア風だがなかなか変わったトリックが二つほど使われている。やや強引な所もあるが、収録作の中ではかなり面白い。
 肩を撃たれて入院中の三影潤が病院近くで起こった老人殺しを解決する「白い部屋」は、この両編に比べるとやや落ちる。赤・白・青と来て、幼稚園児の哲彦と二歳になる鈴子、二児の母となった悦子の活躍が見られる「ベルママン」発表作も同様。それなりに趣向は凝らしてあるが、発表誌のせいか物語の展開は若干安直にも思える。
 トリの「乳色の朝」は二重三重の裏を秘めた誘拐ものだが、最終的に犯人サイドの人間が多くなり過ぎるのが難といえば難。こうやって見渡すと、こじんまりとはしているがやはり一番は表題作、という事になろうか。仁木の小説はミステリ部分にばかり気を取られていると読後そこまでとは感じないが、思い返すと長編にしても短編にしても後を引く作品が多い。独自の感性を持つ貴重な作家の一人である。


No.416 6点 砂時計
泡坂妻夫
(2020/09/20 12:45登録)
 『泡坂妻夫の怖い話』に続く、ノンシリーズ13番目の作品集。平成二(1990)年十一月から平成七(1995)年十月までの五年間に、雑誌「小説宝石」「小説中公」ほか各誌に掲載された小品ばかり十本を纏めたもので、長篇だと後半部分は『弓形の月』やヨギ ガンジーシリーズ第二長篇『生者と死者』などを物した最後の本格燃焼期、短篇では『泡亭の一夜』や『鬼子母像』、また〈宝引の辰〉や〈夢裡庵先生〉等の各捕物シリーズ執筆期と重なる。全体の約2/3を職人小説が占める短篇集だが、それに加えてミステリ的趣向も薄味ではあるが復活してきている。全般にほんのりした和菓子のような味わいで、軽くはあるが口当たりと後味は良い。
 抜きん出ているのは一反の仕事をやりかけて亡くなった旧知の上絵師・紋蔦の死と、結婚して二年たらずで彼と駆け落ちした元相弟子の妻・柳子を巡る顛末を描く一篇「硯」。書道経験のある方には、遺品に残された重みが感じ取れるだろう。最後の二行の光る「色合わせ」や、隠れた縁(えにし)を着物の奥にそっと仕舞い込む「三つ追い松葉」と共に、いずれも恋愛小説として丁寧に仕上げている。
 逆に三篇ほど含まれている純ミステリはやや長さが足りないか。奇妙な動機を扱った「静かな男」も表題作も、そこそこ読めはするが衝撃度は弱い。トリの「鶴の三変」はその点強烈だが、このくらいだと逆にもう少し尺が欲しいところ。描き方によっては中長篇化も可能なネタである。
 「六代目のねえさん」「真紅のボウル」の二篇はノンフィクション風のエッセイと普通小説だが、後者はボタンの掛け違いと才能の限界を示して切ない。第三者から見れば幸せそのものの人生ではあったろうが。
 以上全十篇。全盛期に比べれば薄まっているものの、手抜かりの無い小品集である。


No.415 6点 消えた装身具
コリン・デクスター
(2020/09/18 00:16登録)
 〈英国"歴史の都"ツアー〉のクライマックスで、コレクターたる最初の夫の遺品〈ウルバーコートの留め具〉を、オックスフォードのアッシュモーリアン博物館に寄贈する筈だったツアー客ローラ・ストラットンが、ホテルでの滞在中に急死した。問題の装身具は八世紀後半のすかし細工を施した金製品で、三角形の隅にルビーが一つだけはめこまれているもの。博物館の収蔵品である黄金のバックルに完全にフィットする、世に二つとない貴重な品だった。だが持ち主の死とともに、留め具もまた彼女の抱え込んだハンドバッグごと紛失していた。
 事件を担当するテムズ・バレイ警察のモース主任警部は、ローラの死は他殺ではないかと疑うが、二十七名にものぼるツアー客を前に窃盗犯の洗い出しは遅々として進まない。そんな彼の疑念を掻き立てるかのように、今度は装身具を受け取る予定だった博物館側の管理責任者が、全裸の死体となって遊泳地域の川面に浮かんだ! モースは錯綜する関係者の証言を選り分け、その中から二つの事件の関連を掴もうとするが・・・。二転三転するプロットを凝らして、英国現代本格の雄が描くシリーズ第九弾。
 ゴールド・ダガーを受賞した『オックスフォード運河の殺人』から3年後の1991年に発表された長篇。冒頭の「感謝の言葉」で述べられている通り、英国セントラル・テレビジョンで1987年のクリスマスに放映された『主任警部モース』第2シリーズ第1話、「ウルバーコートの留め具」を原型にしている。文庫版で読了したので詳細は不明だが、大庭忠男氏のポケミス版解説によるとTV版とはかなり違う作品に仕上がっているそうだ。
 全三部構成で、ダミーと真相との二段構え。観光ツアーの事件らしくオックスフォード全域を舞台に取り、TV版脚本を叩き台に細部まで考え抜かれた殺人を描いている。痒い所まで手が届くのは本解決の方だが、実のところ偽解決の方が面白いのもいつものデクスターあるあるである。ここから後期の代表作『森を抜ける道』に行くだけあって、内容的にも復調している。だがそれでも色々と限界はあって、かなり上手く纏めてはいるが初期作を越えるまでには至っていない。
 全員を集めての犯人指摘やモースのベッドインから恋の終わりまでと、演出や主人公周りのエピソードもやや派手。この辺りはドラマ版の影響だろうか。個人的にはもう少し抑えた筆致の方が好みだが。
 リメイクとの前情報から期待値は低かったが、結構楽しめた作品。佳作までには至らないがそれでも6.5点は付けたい。


No.414 6点 瓦斯灯
連城三紀彦
(2020/09/16 21:03登録)
 直木賞受賞作『恋文』に続き刊行された、著者九番目の作品集。1983年頃に「別冊婦人公論」ほか各誌に書かれた短篇を纏めたもので、表題作を含む〈炎三部作〉および「花衣の客」、それにパリ人肉事件をアレンジした異色作「親愛なるエス君へ」など全五篇を収録している。長篇だと『敗北への凱旋』に取り掛かっていた頃、短篇では『少女』や『恋文』所収の各作品と、一部執筆時期が被る。講談社から出版された初期の和装五冊(『戻り川心中』から『夕荻心中』まで)の中では、最も地味な短篇集である。
 作者言うところの「火にまつわる三部作(『瓦斯灯』『炎』『火箭』)」は、情念を炎に例えた古風な恋愛シリーズとして纏まっており、ミステリとしてはそれ程ではないが端正な佳品揃いで読み応えがある。特にどこまでもすれ違いを繰り返す峯と安蔵、幼馴染みの二人の姿を描いた表題作は出色。
 〈八十篇近くも書いているが、好きだと言える作品は片手でも余るほどしかない〉という著者が、「ごく小さな作品ではあっても、今現在、僕自身が一番愛着をもっている」と語るもので、時代の流れとともに消えゆく運命の〈点灯夫〉という職業の切なさや哀しさが、〈後ろ姿にはっきりと老いの影が見てとれる〉安蔵の、最後の儚い抵抗に重なってゆく。華々しい諸作の影に隠れて目立たないが、紛れも無い傑作である。
 『花衣の客』は連城得意の反転ものだが、事件の構図よりも真実が判明した後の虚しさだけが心に残る。昭和のはじまりから終戦直後まで、致命的な誤解から二十二年もの歳月を空費してしまった主人公・紫津。"女の業"として片付けてしまうにはあまりに空ろな作品。
 最後の『親愛なるエス君へ』は、時代設定も離れており集中でこれだけが異質。ファン評価は高いようだが実のところそこまで買えなかった。色々難しいのかもしれないが、ここまで製本に凝ったのなら集中のムードや全体の統一性にはより気を遣って欲しい。採点はその分の点数をいくらか割引いたものである。


No.413 6点 別館三号室の男
コリン・デクスター
(2020/09/12 09:53登録)
 オックスフォードのセント・ジャイルズ・ストリートに建つ、〈ホーアス・ホテル〉の未完成の別館で殺人事件が起きた。大晦日に催された大仮装晩餐会で一等賞を獲得した宿泊客が、元日の朝顔面を殴打された血まみれの死体となって発見されたのだ。ラスタファリー教徒(ジャマイカの黒人宗教)のはでな衣裳をまとった男はドーランでコーヒー色に首から肩までを染め、あけっぱなしの窓から吹きこむ外気で凍りつくほど冷えきったベッドに横たわっていた。
 殺人のニュースが知れわたるや別館の客たちは一人残らず荷物をまとめ、警察が到着する前に姿を消してしまう。イスラム信者の仮装をし、ヤシマック(目以外を隠す黒いベール)に顔を包んだ被害者の妻もその例外ではなかった。おまけに彼らはことごとく、住所や名前を偽っていた・・・
 見知らぬ男女が集うホテルで起こった、身元不明の死体をめぐる謎。掴みどころのない難事件にモース警部が挑む、人気シリーズ第七弾。
 1986年発表。刑事ドラマ『主任警部モース』の放送が翌年から本格的に始まるせいか、前作『謎まで三マイル』から丸三年開いての刊行。このペースは次作『オックスフォード運河の殺人』まで続きます。TV放映前の打ち合わせに手を取られたのか、この辺りの作品はそこまでの出来ではないですね。
 事件の構図はチェスタートン式トリックの現代風組み合わせ。犯人側の計画は安易な所も目につきあまり面白くはないのですが、被害者側の動きや第36章におけるルイス部長刑事の手紙の分析、それに続くモースの指摘などは明快で、どちらかと言うと脇の部分が買える小説です。シリーズ上位には間違っても入りませんが、総合力でいくと『謎まで~』とそんなに差はありません。
 わりと陰惨な事件なんですが、大晦日から年明けにかけてムリヤリ駆り出されたせいか、主人公モースの言動はいつも以上に不真面目。容疑者も全員逃げ散って、前半の会話はほとんどドーヴァー警部ばりに毒が入ってます。

 彼はふたたび部屋の中を見まわし、別館三号室を出ていこうとしているように見えたが、また引き返してテレビの下の箱の引出しを一つずつ開けて、注意ぶかく隅まで調べた。
 「なにをお探しになっていたんですか?」モースといっしょに〈ホーアス・ホテル〉へもどりながらルイスが訊いた。
 モースは首を振った。「ただの習慣だよ、ルイス。テンビーのホテルで十ポンド紙幣を見つけたことがあるんだ」

 上記のようなお笑い要素はあれど、後期作品のようにエピソードでも読ませる話作りにまでは至ってないかな。採点は少々オマケしてギリ6点。そんなところです。


No.412 6点 仮面荘の怪事件
カーター・ディクスン
(2020/09/10 05:54登録)
 かのオスカー・ワイルドに『サロメ』を贈らせた悪名高き古典女優フラヴィア・ヴェナー。彼女が急逝した私設舞台を最上階に持つロンドン近郊のワルドミア荘は、エル・グレコをはじめとするスペイン絵画のコレクションと共に、今は大富豪ドワイト・スタンホープの所有に帰していた。
 だが彼は何を思ったかそのうちでも特に優れた四点の名画を、警報装置に守られた二階の画廊から無防備な食堂へと移し始める。そして年の瀬の夜おそく――突如おこったすさまじい物音に人々がその場に駆けつけてみると、そこには画を盗みに入ったらしい泥棒が、胸を突きとおされ食器棚のそばにあおむけに倒れている。が、その覆面の下から現れたのは当のスタンホープ氏自身の顔だった!
 アンデス山中のインディアン信仰の象徴『メッキの男』をめぐって展開される、謎とユーモアと恐怖。名探偵ヘンリー・メリヴェール卿の活躍はいかに?
 『殺人者と恐喝者』に続くHM卿シリーズ第13作。1942年発表。ノン・シリーズ代表作の一つ『皇帝のかぎ煙草入れ』と同年の作品で、既存の短編を膨らませて長編に仕立て直したもの。原型作品の方も読んでいますが、若干問題はあるとはいえそこまでスカスカしてはいません。この辺は元々のトリックの良さに救われた感じ。また被害者の化粧着関連の処理は、長編化にあたってのプラス要素の一つ。
 残念なのはせっかく登場人物たちが温かい目で描かれてるのに肝心の後味が悪いこと。ドタバタ部分を少々削っても、やはり寝室で待ち構えるのがベストだったのではと思います。H・Mの株も落ちますし、被害者が引き伸ばしの都合で生かされた感も否めませんしね。
 今回はHPBの村崎敏郎版『メッキの神像』で読了。読了前には若干不安もありましたが、巷で言われてるほど酷い訳者さんではありません。タイトルの方も創元版より内容に合ってる気がします。色々と問題はありますが、人物描写やファース部分など長編独自の味わいも出ており、リメイク作品としてはまずまずの出来だと思います。


No.411 6点 海王伝
白石一郎
(2020/09/08 06:05登録)
 原生林に蔽われた海抜三千尺をこえる紀州熊野の奥龍神集落。猟師たちの怒りを買い村払いの制裁を受けた熊狩り名人の息子・龍神牛之助は、杣師の杢兵衛に見送られ、果無の山嶺を越えて十津川郷の筏師頭・平八の元へと向かう。なんとか丸太試しに成功した牛之助は「しならい」の役目を与えられ平八の手もとに置かれるが、ここへも村八分の回状が送られてきた。
 平八はかれを逃そうと川を下り、熊野灘に面する新宮の港へ連れてゆくが、そこで退屈しのぎに作らせた筏船が潮に流され、牛之助は女を買いに出かけたお調子者の炊(かしき)・吉松とともに遭難してしまう。黒潮反流に乗って南へ流され、半死半生の状態で沖合に漂う筏を種子島沖で救ったのは、肥前の五島を船出して七日目になる船大将・三島笛太郎の黄金丸だった・・・
 前作から二年余りの間を置き、平成元(1989)年五月十四日から平成二(1990)年三月二十二日号まで、雑誌「週刊文春」誌上に連載された直木賞受賞作『海狼伝』の続編。タイトルこそ『海王伝』ですが内容的にはまだ序盤で、何度か海戦はするものの肝心の日明貿易は達成できず、流浪のシャム国王ナレスワンから羅字号勘合符を入手するまでで終わります。
 これは入国許可証みたいなもので、明国にある台帳と付き合わせて真物という事になれば、交易を許され帰国許可証の暹字号勘合符を渡されるそうですが、今回そこまで行っていません。幾つかの因縁も生じシリーズもまだまだこれからという所で作者の白石氏がお亡くなりになったのは、ちょっと残念。
 牛之助を拾った後、種子島で三十挺余りの大鉄砲を調達して琉球からシャム(現在のタイ国)のアユタヤへ。フランキ賊(ポルトガルやスペインなど、いわゆる南蛮人)の脱走奴隷、シャム人プラヤーを助けて通商面の不備を充実させます。動物たちの心が解る牛之助がプラヤーと笛太郎、両者の仲立ちをするのも面白いところ。
 ただ『海狼伝』ほどに魅力的な脇役はいない。異母弟・馬剣英が黄金丸に魅せられ、これを奪おうとした事から笛太郎は実の父・人見孫七郎こと明国海賊の頭目・馬格芝(マゴーチ)と対峙するのですが、孫七郎は過酷な拷問を受けて左足を失い、人格も痩せ細って凶悪さしか残っていません。対馬に残したままの妻や子供の事まですべて忘れ果ててしまっています。 やはり前作での宣略将軍・鴨打藤九郎のように、主人公を導く大きな存在であって欲しかったですね。両者の決着は付かないままなので、復讐に燃える麗花(ヨファ)の存在も併せ、たぶん続編の明国行きで完結する筈だったんでしょうが。
 不完全燃焼のまま終わっていて、色々な意味で惜しいシリーズ。同じく未完の『黒い炎の戦士』みたいに、息子さんがそのうち続編書いてくれないかな。

 付記:作中に登場するアユタヤ王朝第21代目の王、ナレースワンは現地では「大王」と称せられ、また「黒の王」とも呼ばれる存在。1584年にビルマの属国となっていたタイを独立させ、1600年には逆にビルマの都ペグーを陥としました。救国の英雄としてタイ三大王の一人に数えられています。身近な所ではムエタイの創始者という伝承もあります。


No.410 6点 魔力
トニイ・ヒラーマン
(2020/09/06 12:01登録)
 旱魃が続く八月の深夜、シップロックのナヴァホ族警察に勤務するジム・チー巡査のトレイラーに、突然三発の銃弾が撃ち込まれる。その弾丸はトレイラーのアルミ板の外から、猫に起こされなければチーが寝ていた筈のベッドに集中していた。だが彼には、そこまでして狙われるような敵は思い当たらなかった。
 同じ頃、保留地ではもはや伝説的存在となったジョー・リープホーン警部補は、二カ月前から各方面に散らばって起こった三件の未解決殺人を追っていた。一つはここウインドウ・ロックの近く、一つはアリゾナとユタの州境、三つ目はビッグ・マウンテンに近い無人地帯の北西部。チーはそのうちの二件、ナヴァホ福祉部に勤める三十一歳の未婚女性アーマ・オネソールトと羊飼いのデュガイ・エンドチーニー老人が殺された事件に関わっていた。この襲撃も、三つの殺人と何らかの関連があるのだろうか?
 リープホーンはシップロック支署のラーゴ警部に掛け合い、もう一度事件を見直しチーに協力させることを提案する。最初の手掛かりは、屋根にのぼっているエンドチーニーを射ったと主張する男、ルーズベルト・ビスティの尋問だった。だが被害者は実際には〈体の左側を肉切り包丁で〉刺されて死んでいた。またビスティは殺意は認めたものの、その動機については固く口を噤んだままだった。
 奇妙に食い違う事実。さらにチーはビスティが大事に抱えていた札入れの中に、骨でつくったと思われるビーズがはいっているのを見つける。それは彼のトレイラーの床にころがっていたビーズ玉と、まったく同じ物だった・・・
 "The Ghostway"(未訳)に続くナヴァホ・インディアン・シリーズ第七作。インディアン警官のダブル主人公が協力する最初の作品で、リープホーンには脳腫瘍に苦しむ愛妻エマが、チーの恋人には今はウィスコンシン在住の元小学校教師、メアリー・ランドンがそれぞれ配されています。メアリーの登場が前作からなのか、それとも四作目の"People of Darkness"(これも未訳)まで遡るのかは不明。
 タイトルの"Skinwalkers"とは「動物の毛皮を着る者」つまり"魔法使いたち"程度の意味。〈まとった毛皮の動物に変身する〉というナヴァホの言い伝えに由来するものです。ここからも分かる通り既読五冊中では最もエスニック寄り。〈呪い〉や迷信が息づくナヴァホ独自の思考形式を利用した狡猾な罠が、プロットの中心に組み込まれています。
 ジム・チーを狙う犯人側からのブランク描写など、ある程度手札を晒した状態でのスタート。そのせいか黒幕の正体を見抜くのはあまり難しくありません。動機その他についてはややデータ不足ですが。
 リープホーンも撃たれ、チー巡査も罠に嵌って重傷を負うなど展開も派手。さらに未解決事件で凶器や傷口に押しこめられた骨のビーズが、不気味なムードを醸し出しています。マカヴィティ賞受賞の次作『時を盗む者』と並び、シリーズを代表する長編の一つでしょう。1988年度第三回アンソニー賞受賞作。ちなみに翌年第四回の受賞はトマス・ハリス『羊たちの沈黙』です。


No.409 5点 ロマンス
エド・マクベイン
(2020/09/05 09:47登録)
 イースターまでちょうど二週間となった四月五日日曜日、脅迫電話に悩む女優ミッシェル・キャシディが、主演するミステリ劇『ロマンス』そっくりの状況で通り魔に襲われた。彼女は幸いにも軽傷で済み、舞台は一躍マスコミ注目の的となる。が、その翌日ミッシェルは自宅で二十二箇所を切り刻まれた惨殺体となって発見された。脅迫者に怯えていた筈の彼女が、なぜ無防備にアパートの扉を開いたのか?
 ほどなくしてアリバイを疑われた彼女のエージェント、ジョニー・ミルトンのオフィスから、血染めのナイフが発見される。刺傷事件はミッシェルに関心を集める為の狂言だったとミルトンは告白するが、殺人については完全に否定した。彼を二級殺人の罪で起訴すると息巻くネリー地方検事補に対し、ミルトンの動機に疑問を抱くキャレラ刑事は十日間の猶予を求め、劇団関係者に的を絞って独自の捜査を進めるが・・・。愛憎渦巻く演劇界の殺人に、バート・クリングのロマンスをからめて描く巨匠の会心作。
 1995年発表。『悪(いたずら)戯』に続くシリーズ第47作で、ホープ弁護士シリーズ第十一作の『小さな娘がいた』とは同年の作品。前作で人質対策班の女刑事ジョージア・モウブリーが撃たれたときに知り合った、黒人女性の医官警視補シャーリン・クックとクリング君のウブなラブアフェアをサイドに据えて展開しますが、同じ頃デフ・マンが引き起こしたグローヴァー公園の暴動騒ぎが、彼らの恋路にも何度か影を投げかけています。
 メイン事件はモジュラー形式ではなくこれ一本。問題の舞台劇『ロマンス』は前衛混じりの?な出来で、裏方のあんちゃんにも「あんな駄作をプロデュースできるなら、だれだってやれる(原文ママ)」と言われる有様。確かに芸術家気取りの脚本家がリキ入れてる割には、作中劇の方は全然面白いと思えない。何度もマクベイン映画で警官役やってる俳優登場させたりと、色々小ネタ挟んでテコ入れはしてるんですけどね。大枠の事件もリーダビリティはあるけど、内容も薄くそこまでの出来ではありません。この分厚さでこれは厳しいなあ。『ララバイ』から『寡(かふ)婦』までの三作はまだ読んでないけど、そのあたりで一応円熟期も終わるのかな。面白そうに見えたんで本書はちょっと期待してたんですが。
 採点はギリ5点。まだまだ意欲作もあるようなので、ここらで奮起を望みたい所です。


No.408 6点 血の季節
小泉喜美子
(2020/09/02 08:25登録)
 昭和五十×年早春のかぐわしい朝、青山墓地の中央道路からずっとそれた裏手の暗がりで、五歳になる幼女の死体が発見された。昨夜から捜索願いの出されていた子供で、性的暴行の形跡はなかったが被害者の頸部には二カ所、咬傷とおぼしき痕が残されていた。また少女が家から持って出た筈の古いドイツ製人形が紛失していたのも、事件の異様さに拍車を掛けていた。
 それからほどなく犯人は逮捕されたが、鑑定でも心身喪失は成立せず、まもなく死刑が確定しようとしていた。だが彼にどこか正常でないものを覚えた弁護士は、ある大学の医学部教授に被告人の再鑑定を懇請する。本人も自分がなにゆえに犯罪に及んだのか、そのすべてを、〈本当に聞いてくれる人〉に伝えたがっていた。
 ――そして囚人はひめやかで冷たい精神科病棟の奥の一角で、白髪の院長に語り始める。遠い遠いあの頃、四十年前の幼年期にまでさかのぼる告白を・・・
 『ダイナマイト円舞曲(ワルツ)』の約八年後に書き上げられ、昭和五十七(1982)年二月に早川書房より刊行された著者の第三長篇。シンデレラ(Cinderella)・青ひげ(Blue beard)など西洋三大ロマンのBCDを踏まえた長篇三部作の最終篇で、本書ではドラキュラ(Dracula)伝説をモティフにしています。
 作者のあとがきに〈日本の風土には受け入れられにくい題材〉〈まったくの幻想小説としてならともかく、現代の日本を舞台に一応はリアリズムの手法を守ってこれを登場させるとなると、たいそうむずかしい〉とある通り縛りがキツかったようで、"東京のドラキュラ"を現在の形に落とし込むには、かなりの苦労があったものと思われます。そのせいか流麗・奔放な第一、第二長篇に比べて仕上がりはやや地味。
 著者が採ったのは主人公のバックボーンを太平洋戦争初期から末期に設定し、クライマックスに昭和二十五年五月二十五日の東京大空襲を持ってくる構成。各章前半では幼年時代からの回想、後半では『青山霊園内幼女殺人事件』の捜査の過程が記述され、全三部に分かれたそれを序章と終章が挟み込んでいます。
 合理と非合理のあわいを彩るリドル・ストーリーめいた結末が特色ですが、内外の同趣向作品と比べても鮮やかさに欠けるのが難点。"ちび"の頃のいじらしさから成長するに従い一転、残酷さや小悪魔性を見せつけるヘルヴェティア公使の娘・ルルベルの描写や、全篇に影を投げかけるオルツィ夫人『紅はこべ』の扱いなど、プラス部分を入れても読後感はどこかモヤッとしています。
 宝島社の「復刊希望! 幻の名作ベストテン」企画で第2位を獲得し、連城三紀彦『夜よ鼠たちのために』等と共に2016年に復刊された作品ですが、大仰な惹句とは裏腹にゆったりとした筆致で読ませるタイプの小品。〈吸血鬼が訪れてきそうな真夏の宵に〉じんわりと触れてみるのが良いでしょう。


No.407 6点 茶匠と探偵
アリエット・ド・ボダール
(2020/08/30 11:33登録)
 フランス人の父とヴェトナム人の母の間にニューヨークで生まれ、ヴェトナム文化の末裔たちが宇宙に展開するアジアンベースの氏族社会を描き続けるパリ在住のSF作家、アリエット・ド・ボダールの本邦初作品集。デビュー翌年の二〇〇七年以降二〇〇九年を除いて毎年発表されており、現在ある三十一篇のうち五篇の作品がネビュラ賞三回、ローカス賞一回、英国SF協会賞二回、英国幻想文学大賞を一回受賞している。本書はシリーズ中の九篇を独自の基準で選んだもの。
 収録作品は発表順に 蝶々、黎明に墜ちて/船を造る者たち/包囊/星々は待っている/形見/哀しみの杯三つ、星あかりのもとで/魂魄回収/竜が太陽から飛びだす時/茶匠と探偵 。探偵ロン・チャウと意思を持つ元軍艦の宇宙船《影子(シャドウズ・チャイルド)》がコンビを組み、深宇宙(ブラックホール)での事件を解決する表題作のみ中篇で、他は皆短篇作品である。
 「茶匠と探偵」に限らず本集に登場する宇宙帝国、大越(ダイ・ヴィエト)の船は全て人格を持っており、胆塊(マインド)と呼ばれるそれは専門家の調整を受けたのち抱魂婦(マインド・ベアラー)の子宮に宿され、人間同様に月満ちて出産する。生体と機械が合体した存在ではあるが、疑似受胎を経ることにより氏族社会に組み込まれ、家族の一員となり数世代に及ぶ助言者となる。彼らのほかに、死者でありながら生前の人格を移植され永遠の長老となる〈永代化〉システムなど、帝国のテクノロジーは基本〈氏族の強化と維持〉に用いられる。
 他にも船内での中国風の髪型や漢服の着用、航行中のストレス緩和のための平静茶の調合、日常生活用の作業ロボット"ボット"の存在などの特色がある。また未来世界でありながら、旧ヴェトナムの伝統的な風習も残存する。さらに行政官や兵士、科学者のような基幹的な役割も主に女性が担うなど、社会システムのジェンダーが逆転しているのも特長的。各作品の主人公など重要な登場人物も、ほとんどが女性である。"紅毛"と呼ばれるもう一方の星間国家の雄、西洋的な価値観と機能性に彩られた〈ギャラクティク〉とは、何から何まで対照的に創られている。
 好みで選ぶとまず巻頭の「蝶々、黎明に墜ちて」。地球時代の物語で、フェンリウのメヒカ地区で起きた女性ホログラム技術者の殺人事件を描く。この世界ではスペイン人による征服が起こらず、アステカ帝国の末裔であるメヒコが存在。鄭和の遠征により中国人が新大陸に到達し植民している。ヴェトナムはメヒコの支援を受けて中国から独立したが、その過程では虐殺なども起きた。本篇の登場人物たちは探偵役も含めて皆難民で、動機もそこから派生している。ケン・リュウ「紙の動物園」のような、故郷喪失者のトラウマと悲哀が全ての根底にある。
 これとコインの裏表のような存在なのは「形見」。〈ギャラクティク〉で永代者のデータを不法に切り売りして生活している主人公が、司法取引による警察の囮捜査に使われ・・・というお話。容赦の無い終わりが来ると思わせるが、主人公は意外な救いを得、己の人生を意味あるものにする為にあえて罰を選び取る。受賞作ではないが、本集ではこれが一番。
 〈訳者あとがき〉では大島豊氏が、「いずれは全作品を紹介したい」と意欲的な所を見せている。アジア系SFの中でも異質な口当たりだが、シリーズ全体のレベルはかなり高い。

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