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ミステリの祭典

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魔力
リープホーン警部補&ジム・チー巡査

作家 トニイ・ヒラーマン
出版日1990年03月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点
(2020/09/06 12:01登録)
 旱魃が続く八月の深夜、シップロックのナヴァホ族警察に勤務するジム・チー巡査のトレイラーに、突然三発の銃弾が撃ち込まれる。その弾丸はトレイラーのアルミ板の外から、猫に起こされなければチーが寝ていた筈のベッドに集中していた。だが彼には、そこまでして狙われるような敵は思い当たらなかった。
 同じ頃、保留地ではもはや伝説的存在となったジョー・リープホーン警部補は、二カ月前から各方面に散らばって起こった三件の未解決殺人を追っていた。一つはここウインドウ・ロックの近く、一つはアリゾナとユタの州境、三つ目はビッグ・マウンテンに近い無人地帯の北西部。チーはそのうちの二件、ナヴァホ福祉部に勤める三十一歳の未婚女性アーマ・オネソールトと羊飼いのデュガイ・エンドチーニー老人が殺された事件に関わっていた。この襲撃も、三つの殺人と何らかの関連があるのだろうか?
 リープホーンはシップロック支署のラーゴ警部に掛け合い、もう一度事件を見直しチーに協力させることを提案する。最初の手掛かりは、屋根にのぼっているエンドチーニーを射ったと主張する男、ルーズベルト・ビスティの尋問だった。だが被害者は実際には〈体の左側を肉切り包丁で〉刺されて死んでいた。またビスティは殺意は認めたものの、その動機については固く口を噤んだままだった。
 奇妙に食い違う事実。さらにチーはビスティが大事に抱えていた札入れの中に、骨でつくったと思われるビーズがはいっているのを見つける。それは彼のトレイラーの床にころがっていたビーズ玉と、まったく同じ物だった・・・
 "The Ghostway"(未訳)に続くナヴァホ・インディアン・シリーズ第七作。インディアン警官のダブル主人公が協力する最初の作品で、リープホーンには脳腫瘍に苦しむ愛妻エマが、チーの恋人には今はウィスコンシン在住の元小学校教師、メアリー・ランドンがそれぞれ配されています。メアリーの登場が前作からなのか、それとも四作目の"People of Darkness"(これも未訳)まで遡るのかは不明。
 タイトルの"Skinwalkers"とは「動物の毛皮を着る者」つまり"魔法使いたち"程度の意味。〈まとった毛皮の動物に変身する〉というナヴァホの言い伝えに由来するものです。ここからも分かる通り既読五冊中では最もエスニック寄り。〈呪い〉や迷信が息づくナヴァホ独自の思考形式を利用した狡猾な罠が、プロットの中心に組み込まれています。
 ジム・チーを狙う犯人側からのブランク描写など、ある程度手札を晒した状態でのスタート。そのせいか黒幕の正体を見抜くのはあまり難しくありません。動機その他についてはややデータ不足ですが。
 リープホーンも撃たれ、チー巡査も罠に嵌って重傷を負うなど展開も派手。さらに未解決事件で凶器や傷口に押しこめられた骨のビーズが、不気味なムードを醸し出しています。マカヴィティ賞受賞の次作『時を盗む者』と並び、シリーズを代表する長編の一つでしょう。1988年度第三回アンソニー賞受賞作。ちなみに翌年第四回の受賞はトマス・ハリス『羊たちの沈黙』です。

No.1 7点 kanamori
(2014/08/16 22:29登録)
ナヴァホ族警察本部のリープホーン警部補は、保留地で発生した3つの殺人事件が相互に関連があるのではと疑っていた。一方、ジム・チー巡査が暮らすトレーラーハウスに夜間何者かによってショットガンが撃ち込まれる事件が起きる---------。

これまで別々のシリーズで主人公だったナヴァホ族出身の2人の警察官、リープホーン警部補とジム・チー巡査が本書で初めて顔を合わすことになる。
インディアン保留地という特異な舞台背景がシリーズの特徴となっていて、大自然の描写に加えて、呪術信仰などの異文化情報が興味深いのですが、謎解きミステリの要素として、それらを巧くプロットに組み込んでいる点が素晴らしい。
本書でいえば、ミッシングリンクの欠けたピースや、犯人の施したトリックは、こういう背景があって成立するもので、単なる珍しい異文化小説ではなく謎解きの伏線にもなっている。
リープホーン警部補の抱える家庭の問題や、チー巡査のプライベートのその後も気になるところで、シリーズ続編も読んでみたい気になりました。

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