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ミステリの祭典

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狐火の辻
牧場智久、楢津木刑事

作家 竹本健治
出版日2020年01月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点
(2020/10/11 09:23登録)
 土砂降りの雨のなかで、湯河原の温泉旅館街で、起きた交通事故。そして、新たに郊外で起こった交通事故ではなぜか、車に轢かれた被害者が煙のように消えてしまった…。それらの連続する事故に興味を抱いた楢津木刑事は、やがて街なかで起こっている「奇妙なこと」やネットで噂される「タクシー怪談」にも、漠然とした繋がりを感じていく。雲をつかむような謎を解くために結成された「居酒屋探偵団」に、楢津木が引きこもうとしたのは、18歳で本因坊IQ208の天才棋士、牧場智久だった。名作『狂い壁 狂い窓』以来の、定番キャラクター楢津木刑事、牧場智久が登場! 『涙香迷宮』の流れを汲む、鬼才のサスペンス・ミステリー!
 二〇二〇年一月角川書店刊行。雑誌「文芸カドカワ」二〇一八年十一月号から二〇一九年七月号まで、および「カドブンノベル」二〇一九年九・十月号まで連載されたものを、加筆修正のうえ単行本化したもの。
 底なし沼へと通じる、こんもりと繁った森の奥へと続く小道で子供たちを待ち受ける黒マントの怪人や、定番怪談の変形といったネットに広がる数々の不気味な噂に加え、クルマに関する奇妙な出来事の連続や、ビルの屋上から物を投げ落とす男の存在など、湯河原方面に相次ぐ小事件の連なりからやがて隠されていた犯罪が立ち上がってくる、といった作品。
 五部三十一章、断章の連続で読者を幻惑するのは『将棋殺人事件』や『狂い壁~』と同じですが、混沌の中から出現するのは全てを操る存在や圧倒的な悪意ではなく、偶然のうちに絡み合った人々の姿なのがこれらに比べてやや物足りないところ。メインとなるのは若い男と初老のおっさんの追いつ追われつの謎ですが、ミステリ的に面白いのは黒マントと沼に隠された秘密の方。この両者を作者が〈偶然の連続〉によってみにょ~んと繋げている為、世界が歪むような独特の非現実感が生じています。物語の核になってるのはある種ハートフルなエピソードなんですけどね。誤解が誤解を呼んでしまったというか。まあそんな感じでこの作者にしてはアッサリ目。
 二〇一三年十月の連城三紀彦氏の死を受け、同じ幻影城出身作家として竹本が物したリスペクト作品、という前情報もあったんですが実際にはだいぶ異なる味わい。麻耶雄嵩氏など好意的な書評が多いですが、それとは裏腹にかなり読者を選ぶタイプの小説です。

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