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ミステリの祭典

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砂時計

作家 泡坂妻夫
出版日1996年12月
平均点6.33点
書評数3人

No.3 6点
(2020/09/20 12:45登録)
 『泡坂妻夫の怖い話』に続く、ノンシリーズ13番目の作品集。平成二(1990)年十一月から平成七(1995)年十月までの五年間に、雑誌「小説宝石」「小説中公」ほか各誌に掲載された小品ばかり十本を纏めたもので、長篇だと後半部分は『弓形の月』やヨギ ガンジーシリーズ第二長篇『生者と死者』などを物した最後の本格燃焼期、短篇では『泡亭の一夜』や『鬼子母像』、また〈宝引の辰〉や〈夢裡庵先生〉等の各捕物シリーズ執筆期と重なる。全体の約2/3を職人小説が占める短篇集だが、それに加えてミステリ的趣向も薄味ではあるが復活してきている。全般にほんのりした和菓子のような味わいで、軽くはあるが口当たりと後味は良い。
 抜きん出ているのは一反の仕事をやりかけて亡くなった旧知の上絵師・紋蔦の死と、結婚して二年たらずで彼と駆け落ちした元相弟子の妻・柳子を巡る顛末を描く一篇「硯」。書道経験のある方には、遺品に残された重みが感じ取れるだろう。最後の二行の光る「色合わせ」や、隠れた縁(えにし)を着物の奥にそっと仕舞い込む「三つ追い松葉」と共に、いずれも恋愛小説として丁寧に仕上げている。
 逆に三篇ほど含まれている純ミステリはやや長さが足りないか。奇妙な動機を扱った「静かな男」も表題作も、そこそこ読めはするが衝撃度は弱い。トリの「鶴の三変」はその点強烈だが、このくらいだと逆にもう少し尺が欲しいところ。描き方によっては中長篇化も可能なネタである。
 「六代目のねえさん」「真紅のボウル」の二篇はノンフィクション風のエッセイと普通小説だが、後者はボタンの掛け違いと才能の限界を示して切ない。第三者から見れば幸せそのものの人生ではあったろうが。
 以上全十篇。全盛期に比べれば薄まっているものの、手抜かりの無い小品集である。

No.2 6点 虫暮部
(2020/06/02 12:09登録)
 職人モノの一編になかなか鮮やかなミステリ的仕掛けが施されていて、そうすると他の作品にも同系統のものを期待してしまうのが人情ではないか。しかし他の職人モノはあくまで職人モノであり肩透かしを食らった。ならば問題の一編を職人モノの末尾に配しミステリ短編との橋渡しにすべきで、途中に割り込む形の芸能モノ2編は最初に置こう(最後に置くと、ミステリ要素の無さがやはり肩透かしだから)。
 と言う感じに収録順にも配慮してくれると印象がまた違うと思う。ミステリも職人モノも泡坂妻夫作品として同じ扱いで読んで欲しい、みたいな編集意図を感じるがなかなかそうもいかないのよ。

No.1 7点 Tetchy
(2007/11/15 18:50登録)
泡坂版「滅びの美学」短編集とでも云おうか。
死に対してこれほどまでに透明な存在感で文章を書けるのかと、泡坂氏の老達な筆捌きに脱帽。

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