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ミステリの祭典

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ねここねこ男爵さんの登録情報
平均点:5.65点 書評数:172件

プロフィール| 書評

No.132 6点 フランス白粉の秘密
エラリイ・クイーン
(2018/05/05 20:48登録)
必要条件を重ねに重ねて共通部分をとるタイプなので、ロジカルではあるがアクロバティックではない。
死体発見が劇的でワクワクするが、どうしても尻すぼみな感がある。この設定いるか?ってのも散見
国名シリーズでは平凡な方ではなかろうか


No.131 4点 ジェリーフィッシュは凍らない
市川憂人
(2018/05/02 11:06登録)
ネタバレ気味です。

かなりの計算のもと書かれた作品であることはよく分かります。が、瑕も多いように思います。
作品全体を通じて、一つの章の中で第三者視点と一人称視点がシームレスに入れ替わるためかなりギリギリというか、都合の良いところだけ一人称視点になっているのが気になります。隠蔽のためでしょうが、その割に固有名詞と代名詞の切り替えが露骨すぎるため読み慣れた人はここで色々気付いてしまうでしょう。
同様に、身元の曖昧さから真っ先に(読者に)疑われるであろう人物を容疑者から外すため、幸運や偶然にかなり恵まれ、「この人物が死なずに済んだのは運なのでこの人物は犯人ではないよ!」がミエミエです。緻密な計画なのか出たとこ勝負なのか…。盛んに「自分は神ではない」「すべてが計算のうちではない」と言うのは、そこはツッコまないでくれという作者のエクスキューズでしょう。メインは別の仕掛けであるにしても…。雪山に突っ込むまでの緻密さと比べて、殺人があまりにも無計画。あれだけ幸運に恵まれなければ確実に失敗してるでしょ。そもそもなんで一気に殺さないんだろう?ちまちま殺ってたら警戒され反撃されるのは当たり前だろうに(そうしないと話が盛り上がらないからなのは分かってます)。
ジェリーフィッシュの残骸をきれいに回収した軍が、遺体はほったらかしの理由が分かりません。万一の可能性に備えて一旦は回収するはずでは?(そうしないと話が始まらないからなのは分かってます)
新しい書き方とも言えますが、三つの時間軸が同時並行というのはちょっと難しいのでは。
最後の質問がなぜ一つだけで、なぜアレで正解なのかがよく分かりません。あんな呑気なやり取りの前に軍の機密が絡んでるんだから即座に拘束でしょ。野暮かな。とにかくドラマチックにする事を優先してしまってかなり不自然。

別に粗探しをしたいわけではないのですが、メインの仕掛けの力の入れ具合とそれ以外の部分の落差があまりにも目につくので…。緻密に計算して書かれていますが、むしろ細かいことは気にせず大枠の仕掛けを楽しむのが正しい読み方なのでしょう。
結局、一番怪しいやつが普通に犯人だったね、というオチですし。

(ここからは思いきりネタバレ)
やはり独白と地の文が故意に混ぜられているのはあまり…。それまで固有名詞だったのが突然「青年」になり、次に「誰が(固有名詞)を殺したのだ?」と書くことで露骨なすり替えを狙う、しかも文体から独白である事は分かるにしても明示はされておらず、他の場面では独白のような地の文も多い。ここがメインでない事は分かっていますが、これではいくらでも嘘がつけてしまうのではないでしょうか。嘘を書いておいて、「あれは地の文ではなく独白です」と言われたらどうしようもない(クドいが、文体から区別はつくとかそういう事ではなく)。これだけギリギリアウトな事をしてこの程度か、という思い。


No.130 8点 黄色い部屋はいかに改装されたか?
評論・エッセイ
(2018/04/20 23:54登録)
語られている内容や提示されている問題が時代に追いつかれている感はあるが、必読。ただ、読者の嗜好や、そもそも問題意識を持っているかどうかで感想は大きく変わるかと。読書経験豊富でも全く意味が分からん人もいると思う。「この本は面白い」「この本はつまらん」などというレベルではなく、「何故このような本が書かれたのか?」「この本が持つ歴史的意義とは?」という。
あと、この時代に叙述トリックが全盛をむかえていたらどのように評されていただろうか、と妄想する。
「逆立ちして人を殺したとき、『①逆立ちのままどうやって殺したのか?』より『②なぜ逆立ちしたのか?』が本質」とはあまりにも核心。
(①のみで②が抜けているものを『昨日の本格』、②を正しく扱っているものを『今日の本格』と評されている)


No.129 3点 隻眼の少女
麻耶雄嵩
(2018/04/08 16:25登録)
いわゆる「後期クイーン問題」を前面に出すとこうなる、という作品。
なので、「動機」「トリック」「物証の真偽」「推理ロジック」「犯人の意外性」などの既存のミステリの評価基準を本作に当てはめることはほとんど的外れです。『そういったものにどれだけ価値があるのか?全ては虚構かも知れないのに』が本作の意図するところなので。

本作は「ミステリというものは構造的に矛盾している、そこまで言わないにしても底が抜けている、それゆえ本作のような作品の存在を否定できない。少なくとも現在は」という主張あるいは問題提起なのでしょう。例えば、本作最後近くであっさりと「あの人は死んだ」と言われるあの脇役さんを、エピローグで「推理は全て間違い、証拠は全て犯人の罠、実はあの人は生きていて、すべての黒幕だったのだ!」とする事も出来るのがミステリ。さらに背景には「後期クイーン問題」など考えたこともないご都合主義の作品が量産され持て囃されている事への危機感もあるのかも知れません。最後近くの「○○術」も、「こんな現実には無理のありすぎるトリックでも名推理になってしまう」という作者の皮肉でしょうね。

恐らく相当に玄人ウケというか関係者ウケするでしょう。ここを突いていけばミステリが次の段階に進化するかもしれませんから。大きな賞を受賞されたそうですが、多分ここらへんが受賞理由なんじゃないかなぁ。「受賞作なんだから奇想天外なトリックや大どんでん返しがあるに違いない!ワクワク」とすると肩透かしを喰らうかも。

…と、くどくど内容のないことを書きましたが、「どうでもいい。構造的な矛盾に気づいていて、あえてどれだけ抗うか、理想を追うかがミステリの魅力」と考えてる玄人でも関係者でもない自分は既存の評価基準で。すみません、あんまり面白くありませんでした。唯一、タイトルの回収は秀逸です。


No.128 4点 切り裂きジャックの告白
中山七里
(2018/04/03 20:24登録)
うーん、この作者さんにしては凡作かと。

以下ネタバレ含みます。

元々社会派色の強い作家さんなのですが、社会的テーマとミステリが高次元で融合しているのが魅力であるのに本作は脳死移植テーマに話の分量や惹きつけが片寄りミステリ部分がかなりがっかりです。新本格前に流行った業界裏事情モノみたいな。
そもそも犯人が犯行声明を出す理由がありません。目くらましのため云々言うてますが、わざわざミッシングリンクが移植に関わることを自分から教えるのは自殺行為でしょう。多少物騒な事件として少しだけ報道されるだけで済んだものを、日本中の一大関心ごとにしてしまったら二件目くらいでコーディネーターが情報提供するのは自明で、目くらましどころか解決を早めるだけです。結局コーディネーターはこの移植に絡んで不祥事をやらかしていたため保身を図り情報提供しないのですが、情報提供を拒むことは犯人が知るはずもなく偶然であり、言ってしまえば作者の話の都合でしょう。犯行声明も作品タイトルにジャックと入れたかったからでしょう。この辺の作者の商売の都合がすぐ見えるほど露骨で評価する気にはなれません。それで話が面白くなったわけでは微塵もないので…
また、動機はどうでもいい派なのですが、本作はちょっとチープかつ作者の他作品にほぼ同じものがありネタ切れなのかなぁと思いました。この動機は確かに使い勝手は良いのでしょうが。


No.127 4点 館島
東川篤哉
(2018/04/03 13:24登録)
この作者の他のシリーズものに比べるとユーモアはやや抑えめで、個人的にはこのくらいでいいと思う。が、ミステリとしての出来が今ひとつ。

以下ネタバレ含みます。

館の見取り図を見た瞬間、慣れた人なら「錯覚か回転」と思うだろう。そこに死体の状況や被害者が芸術家肌の建築家であったことなどを加えると構造はすぐに見当がついてしまう。部屋の間違いを伏線にするなど状況をフル活用して頑張ってはいるが…
どちらかと言うと、殺人より館の作られた場所や理由の方が謎として魅力があったように思う。答えも鮮やか。なので本来3点の所プラス1点で。


No.126 7点 放課後はミステリーとともに
東川篤哉
(2018/03/25 12:42登録)
面白い。割り切ってぶっとんでるので個人的には「ディナー」よりこっちの方がずっといい。
高校生というのが作者のノリに合ってるし、シンプルな謎を提示してサクサク解決でテンポ良い。


No.125 7点 ある閉ざされた雪の山荘で
東野圭吾
(2018/03/25 12:33登録)
おー、これは面白い!

手記=隠蔽工作が普通ですが、本作はそんな手垢のついた手法はとらずそれでいて衝撃成分はしっかり確保。犯行シーンを克明に描写したり、視点が頻繁に入れ替わったり…これらがちゃんと意味を持っている。
導入や人物の行動がややご都合な感もあるが良く出来ていて素晴らしい。

仮面山荘と比較されてる方が多いようで、たしかにその誘惑にかられるとは思います。
仮面山荘は(東野ファンではない自分から見ると)とても東野圭吾的で、あれこれツッコまず仕掛けの大枠やお話を楽しむもので、本作はストーリーや人物はやや弱いもののミステリ部分がしっかり作り込んであり(ツッコミたい所が皆無ではないが)、その完成度を楽しむものかと。自分はこっちが好みです。


No.124 3点 軽井沢マジック
二階堂黎人
(2018/03/24 15:55登録)
ちょっとびっくりするくらいつまらなかった…
シリーズには当たり外れもあるだろうから、少なくとも3冊は読んでから評価を決めるべきなのだろうが、ちょっと読む気がしない。

推理については、不自然さや不合理さなど無視し、とにかく最も捻くれて予想不可能なものを正解にするというスタンスで証拠など何もなし。その無理やりさは名探偵コ○ンの居候先の探偵がやるこじつけ推理とレベル的に大差ないように思う。さらに推理を語る描写が最初から最後まで変化がなく読んでてキツい。状況説明→「あ、じゃあ○○は△△なんですね」→「なんで分かるのすげぇぇぇ!」→「まぁ証拠はないんですけどね♪」ばっかり。

ユーモアについてはスベってるの一言。ユーモアは時代によって変化する賞味期限の短いものではあるのだが。売れてない若手芸人のネタを見ているようだった。

あと、ワトソン役?の同僚女性が何のためにいるのか全く分からなかった。多くのミステリで探偵は(読者の反感を買わないよう)変人に設定されており、それを常識人かつ読者の代理人であるワトソン役の目を通して見る事で描写が安定するのだが、本作では探偵もワトソン役も凄まじい変人であり、かつワトソン役にツッコミ仕事が割り振られていないため脇役より影が薄い。オリジナリティを出そうとしたのかも知れないがそれならミステリ部分でそれを出すべきで。せめてワトソン役が普通だったら2時間ドラマの原作くらいにはなったのかもしれないのに。


No.123 2点 ゲームの名は誘拐
東野圭吾
(2018/03/08 17:37登録)
ラストまでとにかく我慢。ひたすら我慢。
とてもこの作者らしい作品で、細かい事が気にならないなら楽しめるかも。

以下ネタバレ含みます。
主人公サイドの二人がアタマ悪すぎでものすごく苦痛。まず、主人公が女を追ってタクシーに乗った時点で計画は実行困難赤信号なのに主人公が都合よくスルーしているのがもうダメダメ。次に(何しても大丈夫だとはいえ)女の行動がメチャクチャで、どれもこれも即計画ストップすべき暴挙。髪切って染めた時点で…。そしてさんざん偉そうなことを言いつつ女の体に負けてストップしない主人公。主人公は女に価値を見出してないとか冒頭でカッコつけてるのにさぁ…。女の行動が荒唐無稽すぎるため、すぐに誰かと通じていることやどんでん返しへの布石だというのが読者にバレてしまう。これだけ地雷を踏みながらなぜかストップしない主人公にストレスを抱えつつオチまで歯を食いしばって読まなければならない。

黒幕さんは主人公がマトモな判断をして計画を中止したらどうするつもりだったんだろう?


No.122 9点 ビブリア古書堂の事件手帖2
三上延
(2018/03/06 18:33登録)
これは恐ろしく素晴らしい!

特に「時計じかけのオレンジ」の話は、謎の設定、その真相、その理由、その身近さ、その解決、そして本シリーズの個性である古書にまつわる話題などを巧みに絡めており完璧な出来。探偵役もワトソン役もそれぞれの個性や推理力など持ち味を発揮しとても楽しい。これほどエンタメ要素と完成度を高次元で持ち合わせた話は稀。
話の設定上厳密にはミステリではないが、これぞ日常の謎。

とにかくトリックのためのトリックや、複雑にすることだけを目的とした複雑さとは無縁で好感をおぼえる。

これ以降のシリーズもクオリティが全く落ちることなく楽しめるが、篠川母はじめいかにもフィクションというか漫画アニメ的な人物がこれ以降増えていくので、個人的にはこの二作目が最高。


No.121 8点 ビブリア古書堂の事件手帖
三上延
(2018/03/06 18:24登録)
これは素晴らしく面白い。

日常の謎、という括りになるかと思いますが、そのタイプの最高峰ではないでしょうか。
謎が軽いという意見もあるようですが、日常系としては十分な質で、なおかつ単に複雑にすることだけを目的としてあれこれこねくり回すことをせず、魅力的な謎、さり気ない手掛りの置き方、無理なくロジカルな解決と筆者の筆力の高さが伺えます。
登場人物も魅力的で、テンプレのいい所を頂きつつそれぞれが秘密を抱えていたり二面性を持っていたりなど素晴らしい。

ライトノベルというものをほとんど読まないのですが、やはり一大ジャンルを築くだけあって非常に素晴らしい作品も多いのですね。


No.120 4点 謎解きはディナーのあとで
東川篤哉
(2018/02/27 17:49登録)
少年誌の探偵漫画をそのまま小説にしたかのようで、そもそも「普段ミステリを読まない女性読者を対象にして書かれた」とのこと。その目的の達成度なら満点ではないでしょうか。

一方本格ミステリとしてはかなり苦しい部分が多く、高得点にはなりえません。異常な売上にふさわしい内容とはお世辞にも言えず、良くも悪くも「ライトノベルは内容ではなく表紙の絵で決まる」を地でいっている感は否めないというところです(言いすぎかもしれませんが人気イラストレーターの起用は大きかったでしょう)。純粋な本格ミステリは売れない、と言っているようで読者の一人としては悲しい。

ミステリとしては天才的探偵による神視点推理で非論理的、「証拠をつなぎ合わせて辻褄の合う話をでっち上げるとこうなる」タイプです。お前はアホか、と暴言を吐く一方で苦しい部分は「●●を▼▼と見間違えても無理もないでしょう」と誤魔化すわけですから…。身長が重要な手がかりになっているのは自明なのに、「シークレットシューズを履いていたのだ(ドヤァ!」「すげぇぇぇぇ!!!」ってねぇ…。この手の本は誠実な描写はむしろ的外れで、とにかくイメージを大げさに誇張すべきなので指摘するのも野暮なのですが。

推理部分をあれこれ言っても仕方ないので別の例を挙げると、第2話の冒頭で「執事は目覚まし役としても有能」と書いておきながらこの日は遅刻しないよう寝室をノックすることをしていません。執事はすでに起床していた描写がありますし、この日に限って目覚ましノックしない理由がありません。まぁ「遅刻遅刻〜!!」というギャグをやりたいためでしょうが、ギャグを優先して矛盾が生じてしまっています。とにかく推理部分でもギャグ部分でもこういう矛盾や苦しい描写が多く、ミステリとしての骨格がしっかりしているとは言い難いでしょう。

自分のようなひねくれたマニアが読むか、本作の本来のターゲット層が読むかで大きく評価が分かれるかと思います。


No.119 5点 金雀枝荘の殺人
今邑彩
(2018/02/26 11:11登録)
トリックや推理ロジックは2〜3点。そのかわり動機や事件の背景が素晴らしく、トータルでこの点数。

推理部分が酷く、「実は○○は△△だったんじゃなかろうか。そうすると▼▼も●●だったかもしれない。だとすると✕✕と考えられるので〜」的な、推測の上に推測を重ねていくうえに「なんでそうなる?」というのも多いため個人的には読んでいて非常に苦痛だった。この強引な話運びには一応理由があるのだが…。前書き(?)にも近いことが書いてあるが、要は「与えられた情報からどれだけひねくれた面白い解釈をひねりだすか?」という本です。

トリックについても、密室は「密室になってるからボクは犯人じゃないよ」という感じだし、そもそも第一の殺人は密室にする必然性が無いような…。やらなくてもいいけどやってみたら出来た、と言いたいのだろうか。見立て殺人についても、理由は「犯行順の錯誤か、殺害方法選択の誤魔化し」と相場が決まっているので、ふ〜んとしか。

それから、探偵役が登場の仕方から人物描写までそのままこの時代の流行りテンプレなうえ、屋敷に居座るまでの流れが不自然極まりない。一回追い出されたのに自宅の二階に再度不法侵入(!)する男がいたら即警察呼ぶに決まってるじゃん。その不審者に一通り自己紹介から屋敷の案内までする他の登場人物たちは輪をかけて頭がおかしいとしか思えない。ぶっちゃけ内通者がいるのだが、だったら霊感少女みたく理由をつければいいわけで、「内通者がいるから不法侵入しよう」とは一体…?
霊感少女も「どうしてもあと一人登場人物が必要だった」のと「館に連れてくる理由がいる」ので仕方ないとはいえ、オバケの描写はいらんでしょ。

ただ、動機や事件の背景がとても面白く、それで救われている感じ。


No.118 3点 密室殺人ゲーム2.0
歌野晶午
(2018/02/26 10:51登録)
それなりに面白い話と、なんだこりゃという話が混在していて、トータルでこの点数くらい。

これは推測だが、この本で用いられているトリックはおそらく作者が通常の作品で使用しようとしたが欠点が多すぎたり状況が限定されるためお蔵入りになったものを、本作のようにバレても構わない、ただし警察にバレることは何故か無いという特殊な設定にして廃品利用したものと思われる。ゆえに個々のクオリティは低め。昔あった推理トリッククイズに小説がくっついているイメージ。

作中で矛盾のない推理がなされたときに「う〜ん、それも正解!」としてフェアさをアピールしてはいるのだが、そもそも複数解釈が可能故にボツにしたトリックのクセになんだそりゃという言い訳めいたものを感じてしまう。


No.117 6点 白昼の死角
高木彬光
(2018/02/20 12:48登録)
読みやすく、戦後の混乱期の雰囲気や社会情勢を上手く描いていて楽しめる。
それにしても、この時代は金と地位と名誉と色欲ばっかりww登場人物たちもいい感じに小物ぞろい。

詐欺の手口などについては実際の事件を下敷きにしたということでそれなりに説得力があるし、当時の法律の未整備っぷりなど勉強になる…のだが、マンガ「クロサギ」などを読んだあとだとどうしても手口の緻密さやカタルシスなどで物足りなさを感じてしまう。なので採点は低め。この時代にこれほどの、というのはあるのだが。


No.116 7点 ヒポクラテスの誓い
中山七里
(2018/02/16 16:08登録)
連作短篇集。なかなか面白い。

いやいや法医学教室に所属することになった新人女性医師。そこには超凄腕の法医学者がおり、圧倒的な司法解剖の手腕で捜査陣が見落としていた真実を探り当てていく…という、海外ドラマっぽい設定。
実際、海外ドラマで使われるスーパーコンピューター超技術を、口が悪く近寄りがたいが腕は超一流の法医学者に置き換えただけで斬新さはない。さらに最終話以外は割と展開が似たりよったり。
なので本来であれば凡作まっしぐらなのだろうが、この作者のさすがの筆力で水準以上の作品になっている。飽きるギリギリ一歩手前できちんと締めくくるのはすごい。
登場人物も展開もテンプレ通りというか、マンガ的ドラマ的な分かりやすさで、斬新さは欠片もない分安定と信頼の面白さ。おすすめ。


No.115 6点 超高層ホテル殺人事件
森村誠一
(2018/02/16 15:46登録)
読んでいる間は結構楽しかった。
何人か殺されるが、高層ホテルが舞台になるのは最初の一人のみ。

冷静になると「この時代だから許されたいい加減さ」があちこちに見られる(トンデモっぷりや刑事鑑識の痕跡の見落としっぷり)が、ストレスのない文章とテンポの良さであまり気にならなかった。
第二の殺人のアリバイトリックは面白いアイデアで、実現のためかなり都合良い状況になっていることに目をつぶれば結構斬新かと。動機や人間関係はこの時代らしく「金と地位と名誉と愛人」でドロドロww またホテルの主導権を握る争いなどホテルうんちくが結構しっかり書かれていて、社会派ものと考えたほうが良いと思う。


以下ネタバレ含む気になるところ。
第一の殺人の刑事達の推理が大分おかしい。あの時点では「犯人が点灯前に被害者を突き落としたあと、点灯まで待って自分も飛び降りた」になるはずで、「秘書が犯人をかばうために犯人を逃したあと飛び降りた」にはならないだろう。その場に三人いたことは分かっていないのに。
また、チェーンはどう見ても痕跡が残るだろう…。捜査陣の注目はチェーンに集まっているわけだし。
あと、何故女は飛行機におとなしく乗ったのだろう?抵抗しまくると思うんだが(薬で眠らせたり拘束したり、は写真を手にしていたことから考えづらい)。


No.114 9点 贖罪の奏鳴曲
中山七里
(2018/02/14 14:07登録)
これは面白かった。

弁護は絶望的と思われる案件の弁護を買って出るダークヒーロー御子柴弁護士シリーズの第一作です。
社会派・法廷ミステリということになると思いますので、トリック等の解明ではなく謎の提示やその解決、取り巻く人間関係や人物描写が面白さの中心になりますが、本作はそのお手本のような出来。魅力的な人物描写や文章、構造の転換による衝撃成分などお約束事をきちんと網羅した上にオリジナリティもしっかり確保されており文句なし。

好みもあるかとは思いますが、この作者は異常に文章が上手く、岬洋介シリーズで特に顕著ですが演奏シーンの文章は感動的です。本作中にもピアノの演奏シーンがあり、(評者の表現力が貧弱で恐縮ですが)演奏されている曲が聞こえるどころか色彩が目に浮かぶほど文章が巧みでスピード感に溢れ読むたび震えます。調べてみるとこういったシーンでは文字数や読みのリズムを考慮し文章に緩急をつけて書かれているそうで、文章から曲や色彩を感じた作家はこの方が初めてです。

本サイトでは二作目の方が高評価なようですが、個人的にはエンターテイメントの各要素を高水準で取り揃えた本作をより高評価します。


No.113 4点 人形は遠足で推理する
我孫子武丸
(2018/02/11 16:59登録)
うーんやっぱり短編向きのシリーズですね。

謎解きはほどほどで、登場人物のコミカルなやり取りを楽しむシリーズなんですが、頑張って長編にしてみたものの水増し感が否めません。あとがきにバスジャック設定から思いついたと書いてある通り、状況を描くことが目的になっているうえに、別にバスジャックじゃなくてもよく(行動を制限できればなんでもよい)、園児がいることによるハラハラ感も特になし。うーん残念。

さらにイベントごとにバスジャック犯の人格が入れ替わっているかのようで、冷静さを欠いているとはちょっと違う意味で行動の一貫性がまるでなく、ほかの方の書評にもある通り非常にストレスです。ファールの基準が毎回変わる審判を見ているようで…。イベントを起こしてページを稼がないといけないのでしょうがない。設定上不可能なのですが、2人用意して人格を分けたほうが自然でしたね。

気楽に読めますし、主役2人プラスワンも魅力的なので、ふわっとさらっと読むのが適しているかと。

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