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ミステリの祭典

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ねここねこ男爵さんの登録情報
平均点:5.68点 書評数:176件

プロフィール| 書評

No.176 7点 どんなに上手に隠れても
岡嶋二人
(2025/06/23 17:59登録)
面白い。この作者さんらしくとても読みやすい小説で、謎の設定が魅力的なので最後まで楽しく読める
犯人の指摘がメタ視点で容易だったり諸々ガバい面もあるが、展開を楽しむ小説と考えれば許容範囲かと


以下ネタバレ含みます



「他の場所でご存じないですか?」だけはだいぶマズいように思う。もし相手が「ああこの人はあのときの運送の受付の人ですね、ていうかよく見たら他の場所で知ってるわ今思い出した、なんで運送業者の受付やってんの?あれ?犯人分かっちゃったんですけど」というふうに「他の場所でご存じ」だったら、芋づる式に真相が明らかになり質問者の恐喝計画が台無しになってしまう。一体どういう答えを期待してたんだろうか

被写体の特定に苦労してた&被写体は業界関係者と考えてたので「もうリスクを犯しても関係者に聞き込みするしかない!」と思ったにしても、被写体が受付にいたことを知っている身代金運搬者には絶対に質問してはならない

もちろん読者の興味を引くためというメタ的な意味のやりとりではあるけれど、それにしても


No.175 6点 そして扉が閉ざされた
岡嶋二人
(2025/06/06 12:55登録)
設定等なかなか面白く、大抵の人が最後まで一気に読んでしまうのでは
傑作とはいい難いかもしれないが、読んで損はしないはず


以下ネタバレ気味です


設定上、事件当時の状況が徐々に明かされるため読者はなかなか情報を得られず(だから先が気になるのだが)、得てもすぐ後に矛盾点を指摘したり嘘を白状するため、それぞれにあまり驚きがない
また脱出描写については「どうせ穴塞がれてるんでしょ」とミエミエなのでただのページ稼ぎに近い。やるなら「母親にすら想定外であろう盲点を突いた脱出法を考えるが、最後にそれすら手のひらの上で絶望する」くらいは欲しかった
さらに、母親がどういう算段だったのかいまいち分からない。「母親が名探偵で真相を見破っており、言質を取るよう色々仕掛けて誘導する」なら分かるがほぼ何もしてないし、そもそも第三者には推理不可能なので(なにせ犯人が自覚してないんだから)。兵糧攻めすればベラベラ喋るだろ程度だったのかな

おそらく「脱出不可能&時間制限ありという極限状況での推理」「真相を知る人間が誰もいない」という興味を引く舞台設定が先にあって、そこに謎等を後付けするという構想の流れだったのではないかと思う
オチがそれなりにまとまってるのに物足りないのはそのためではないか


No.174 8点 焦茶色のパステル
岡嶋二人
(2025/03/18 19:58登録)
面白い!
この作者らしくとても読みやすい小説で、どんでん返し成分もバッチリ確保。
自分は競馬に関する知識も興味もあまりないですが、楽しめました。
少しだけある分野の専門知識に触れる箇所がありますが、基本読み飛ばして結論だけ拾っても十分だと思います。


以下ネタバレ含みます。


自分は遺伝に関しては専門ではないものの大学で少し触っていたので、メインの謎についてはすぐに見当がつきました。ただ「血統が重要な競馬業界の関係者ならこの程度は常識なのでは?」と疑問です(高校の生物で習う程度ですし)。自分は競馬の知識はないので分かりませんが…。
深読みすると、小説で起こってるようなことは実は現実にはよくある「公然の秘密」なのを、ミステリという体でしれっと暴露したとかそういう狙いなんですかね。
トリックに関してはごくシンプルで独創性はないですが、構造の変化がメインのこの作品では十分でしょう。


No.173 7点 99%の誘拐
岡嶋二人
(2024/12/22 14:18登録)
とても面白い小説で、それだけにちょっと残念
多くの人が書かれてるように、最後にもうひと山あったら凄い名作になっていたかも


以下ネタバレ含みます

倒叙形式になっている最大の理由は、時代的にあまりにも先進かつ複雑な主人公の手法を説明するため&ちょっとトンデモ気味なので少しでも説得力をもたせようとするためだろう(最後の謎の仕込みも)
狙いは成功しているし没入度も上がっているが、引き換えに謎解き成分がかなり少なくなってしまったのが惜しい。かといって最後に一気に説明されても誰も納得しないだろうからこれしかなかったが
ただせめて、探偵役?の過去の行いを伏せる&もっと手の込んだものにして、ラストで主人公に指摘させる程度はやってよかったように思う。本作でも途中でやってるがあまりにもあっさり済ませてしまってるので
他にも手記に色々仕込みどころがあったりと、もっともっと面白くなりそうだった点で惜しい


No.172 7点 火の虚像
笹沢左保
(2024/10/03 18:22登録)
ネタバレ気味です。


さほど期待せずに読んだら結構面白くてびっくりした。
トリックに関しては賛否ある…というか否定派のほうが多いだろうが、とてもこの作者らしい。
犯人はすぐ見当がつくものの、自分は途中まで犯人も黒幕も2通りあり得ると思っていた。黒幕は予想と違っていたが、確かにこっちのほうがいい。


No.171 4点 お電話かわりました名探偵です 復讐のジングル・ベル
佐藤青南
(2024/02/28 12:36登録)
君野いぶきシリーズ3作目であり、終わり方からして多分最終巻?

1作目は魅力的な謎もありそこそこ楽しめたが、巻が進むごとに悪い意味でラノベ的な要素が多くなり、伏線も謎解きも雑になっていった。そこが残念。
特に本巻の最終エピソードはなんというか、最終回で強引にまとめた打ち切り漫画のように思えてしまった。ネタ切れか、作品自体に手応えがなかったのだろうか。
非常に読みやすくはあったので惜しい。


No.170 6点 お電話かわりました名探偵です
佐藤青南
(2024/02/28 12:23登録)
県警の通信指令室の警察官が、110番通報の断片的な情報だけで真相を見抜き解決するリアルタイム安楽椅子探偵もの。
エピソードによってはうーん?と思うものもあるが、全体的には伏線等が上手でわりと楽しめた。一方で、キャラクター描写周辺に関しては勿体ないなぁと思う。

具体的には、キャラクターたちがいわゆるラノベのテンプレほぼそのまま(平凡で優柔不断鈍感主人公、それになぜか惚れている超美人超有能超嫉妬系ヒロインなど)で、テンプレ通りだから説明不要ですよね?とほぼキャラの掘り下げがない。なので勤務中の警察官としては異様に個性的なのに無個性というおかしな具合になっており、好感が持ちづらい。
また本来はサブテーマであろうはずのテンプレ鈍感恋愛描写が異様にしつこく、下手するとメインより長い。そこに後への伏線がはられてるのかと思いきやただのページ稼ぎだった。通報時のリアリティに欠ける描写も含めイライラする人はいると思う(自分は平気だったが、アマゾンレビューには散見)。

余計な要素は最小限に抑え、淡々と魅力的な謎を提供してくれればもっと面白くなっただろうなぁ、と思える点で惜しい。ただ光るエピソードもあるので、読んでみる価値はあるかと。


No.169 4点 積木の塔
鮎川哲也
(2024/02/15 12:45登録)
ネタバレ気味です。

アリバイ作りの構想自体は素晴らしいのですが、ディテールに微妙な点が多いのが気になります。
特にスーツケースの件はどう言い訳しても絶対に相手は納得しないと思うのですが。意図せずそういう事態になりその場しのぎとしてならともかく、非常に頭が良いとされている犯人が気が強いと言われる相手に対してあらかじめ計画に組み込んでいたというのは苦しいかと。(この時代にそういうサービスがあったかどうかは分かりませんが)スーツケースは宅配便で自宅に送るという設定でも良かったのでは。第三者に乗車を目撃させているわけですから工作はそれで十分かと。
他にもちょいちょい「ん?」と思う点があり、この作者の他作品ほど細部に気を遣えていないように感じるのでこの点数で。


No.168 6点 アリバイの唄
笹沢左保
(2024/02/10 22:05登録)
ネタバレ気味です。

おそらくミステリ史上屈指であろうほど金のかかったトリック。
読んでるときに思いついてはいたものの、「建物の外を見せないならワンチャンあるけど見ちゃってるからなぁ…」と却下。まさかそれを金の力で解決するとは思いませんでしたw
この作者らしく非常にテンポが良く読みやすいし、アリバイ自体は非常に強固。楽しく読めました。


No.167 4点 沈黙の函
鮎川哲也
(2024/02/09 12:55登録)
この作者の作品の中ではイマイチかと思います
謎の設定は非常に魅力的なのですが、実際読んでみると「こうやってこうやったら一丁上がりでコイツが犯人じゃん」ってのがすぐに分かってしまいます

犯人が分かるから駄作、という意味ではないのですがあまりに単純すぎる&犯人の行動が明らかに不自然で浮いてるので…


No.166 6点 結婚って何さ
笹沢左保
(2024/02/09 12:49登録)
素人探偵の推理力すごすぎ!
狭い範囲に都合の良い人間関係が集中している違和感はありますが、読んでいるうちは気になりませんでした
トリックにも新規性はないものの使い方が上手で、特に密室は見事(多少の不確実性があり、さらに絶対に密室にする必要はなかったかもしれませんが)
2時間ドラマにしたら面白くなると思う


No.165 7点 泡の女
笹沢左保
(2024/02/08 11:38登録)
ネタバレ気味です。

笹沢左保版「幻の女」ということで期待しましたが、死刑執行が迫る中懸命に調べても調べても手がかりがすり抜けていく…といったハラハラ感のある「幻の女」と比べて、状況がさほど深刻でもなくサクサク重要な情報が集まってくる本作はやや拍子抜けです。またメイントリック?は作者の他作品にも例があります(作者のお気に入りだったのでしょう)。
ただ流石の筆力で読ませるし、最後のどんでん返し(というか構造の変化)はお見事でした。個人的にはかなり好きです。


No.164 5点 招かれざる客
笹沢左保
(2024/02/08 11:25登録)
ネタバレ気味です。

笹沢左保氏特有の作風とは違った、古典的なトリックによる本格もの。
それだけにミステリを多く読んでいると色々見当がついてしまいますが、流石の筆力で読んでいるうちはそこそこ楽しめました。
ただあくまでそこそこなのでこの点数で。


アリバイトリックは鮎川哲也氏の作品にほぼ同じものがありますが(たまたま続けて読んだので混乱した)、徳間文庫版の有栖川有栖氏の解説によると、執筆時期からして独立して同じアイデアを思いついたということらしいです。
まったく独立に微積分を編み出したニュートンとライプニッツみたいなもんでしょうか。
ただ死体の発見が完全な偶然によるものであり、アリバイトリックを仕込んでいる以上適切なタイミングで発見させる必要があるはずなのでそこが瑕でしょうか。どこかで言及されるのかと思いきや何もありませんでした。


No.163 7点 霧に溶ける
笹沢左保
(2022/09/10 21:51登録)
ネタバレ気味です。

この構造ネタはあちこちで見かけるけれど、本作はその中でもっとも「自然」かと思います…特に動機面で。殺害方法も一つ一つ切り出してみるとシンプルでそこそこ実現可能性ありそう。とくに密室は秀逸。さらにそのすべてがこの作者らしさ全開
時間的余裕があまりなく一つ歯車が狂うとすべて瓦解しそうなことと、ここまで上手に背中を押してあげられるか?というのはありますが

ただ前述の通り、この構造ネタは動機か実行技術面で「手段が目的化してる」的不自然さを拭えない作品が多いのに、本作は筆力もあいまってそこそこ納得できるように書かれています。読んでいる最中は全く別のことを考えていたので結構驚きました
読む価値ありありです。面白かった


No.162 6点 他殺岬
笹沢左保
(2022/08/07 11:43登録)
初読時は「昼下がりの2時間ドラマにぴったりだなぁ」程度の感想だったが、時間を置いての再読時には評価爆上がりした
ごく狭い範囲に都合の良い人間関係が集中しているなど微妙な点も多いものの、メイン部分の出来と圧倒的なリーダビリティは評価していいと思う

一つだけ、誘拐されてから「実は他殺じゃないと都合悪いから他殺ってことにしよう!そうしよう!」ではなく、その前に「本当に自殺なのか当時から違和感があった」的な文章を入れておくだけで不自然さがだいぶ減ったように思う


No.161 7点 黒い白鳥
鮎川哲也
(2022/08/07 11:31登録)
メインのアリバイトリックは正直平凡よりややマシといった程度なものの、周辺のディテールや補強アイデアが素晴らしい…というかそっちがメインなのかも

初読時小学生だった自分は「すごい作家と聞いてたけどこんなもん?」と失望した(のでこの作者を避けていた)のだが、一回りしてから再読すると凄さが分かった
ただやはりメインの味の薄さからこの点数で


No.160 6点 ぼくと、ぼくらの夏
樋口有介
(2021/11/30 19:28登録)
面白いかつまらないかで言えば、面白い。ただミステリとして読むものではないかも。
作者はもともと純文学志望だったそうで、確かにそれが窺い知れる文章と内容。人物の設定や言動、人間関係がミステリ的な伏線ではなく「作者が作中に漂わせたい雰囲気」のためだけに存在しており、ああなるほどねと思う。例えばヒロインの設定とか、父親母親と主人公の関係とか。

謎は滞りなく解決するし手がかりも各所に置かれている。真相はなんとなく赤川次郎っぽく、怪しい人物がしっかり悪い人なのでさしたる意外性はない。ただ前述の通りこの作品の魅力はそこではなく、それがツボにハマる人にはハマると思う。
個人的には主人公の異常なモテ方の不自然さと言うか、「物語の前から好きになるように決められていました」的な台本臭さが気になってしまった。10代の恋愛ってそういうものではあるけれども。


No.159 2点 日曜は憧れの国
円居挽
(2021/11/03 00:46登録)
これはよろしくない。

あまりボロクソに言いたくはないけれど、「とりあえず登場人物たちをアニメっぽく個性過剰にしておいて、テキトーに日常の謎っぽいなにかを解くフリをする」という量産型日常の謎短編集の悪い典型例。
謎が魅力的でない上に推論の進め方がめちゃくちゃで、証拠もなしに仮定に仮定を積み重ねた挙げ句人を悪人呼ばわりするとか結構不快。
ついでに、材料関係なくカレーの作り方がめちゃくちゃで嘘でしょ?と思った。


No.158 8点 配達あかずきん
大崎梢
(2021/11/03 00:31登録)
かなりの良作。いわゆる日常の謎系でも上位に入るのでは。

ワトソン&探偵役の2人含め登場人物たちの個性描写がやや薄味なものの、謎の設定が非常に魅力的で解決も筋が通っており、ほのぼのとしたエピソードもあればかなり緊張感のある話もあり楽しめる。
量産型日常の謎本は業界裏話が大半でおまけのように事件をくっつけただけのものが多いが、この本はそれらとは一線を画している。

作者さんはこの本がデビュー作とのことで、やはり良作を書く人は最初から化け物だ。


No.157 5点 ホペイロの憂鬱
井上尚登
(2021/10/27 19:01登録)
サッカーチームの関係者によるほのぼの日常ミステリ。ゆるーく読むならいいかもしれない。
自分は相当なサッカー好きなのでそう思うだけかもしれないが、登場人物の口を借りて話される作者の他スポーツ観は少々棘があるか。もっともサッカー好き以外が読むとも思えないけど…


以下ネタバレ気味。
最初のエピソードが破綻している。ある人物があることを隠すためにやっている不自然な行動が謎の中心なのだが全く隠れておらず、逆に不自然さだけが際立ってしまいかえって注目されてしまう。それまで謎にならなかったのは探偵役がなんとなくスルーしてたから…と身も蓋もない
隠したいなら表面上は以前と同じにして探偵役に気付かれないようにしなければ意味がなく、例えば以前と状態を揃えるために故意にアレを破壊していた(それをホペイロ特有の着眼点で見破った)とかやり方はいろいろあったと思うのだが。おそらく当初の予定では、ホペイロではなく不自然さを指摘した人物を探偵役に据える予定だったのだろう。
それ以外のエピソードはそれほど悪くない。

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