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ミステリの祭典

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後ろ姿の聖像
別題『もしもお前が振り向いたら』『魔の証言』『後ろ姿の聖像 もしもお前が振り向いたら』

作家 笹沢左保
出版日1981年02月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 5点 ボナンザ
(2023/06/30 21:37登録)
ミステリとしては驚きはないが、笹沢らしい動機が印象的な一作。

No.1 6点
(2021/08/12 18:57登録)
 東京の染地にある製パン工場に停められていた真紅のコスモの運転席で、絞殺された女性の遺体が発見された。被害者は三十八歳になる元歌手、十津川英子。紆余曲折の末一昨年の春ブラジルから帰国した後、吉祥寺のバー「ケイ」を開店し、経営者兼ママとなっていた。車内には凶器や指紋を含む一切の証拠は残されておらず、顔見知りによる計画的犯行と思われた。
 捜査線上には二人の愛人が容疑者として浮かぶが、会議の席上刑事生活三十年の大ベテラン・荒巻部長刑事は、第三の人物の存在を強く主張する。かつて清純派の流行歌手・伊吹マリのマネージャーを務めていた元作詞家・沖圭一郎。沖は八年前、自作の詞を巡るいさかいから当時の売れっ子作曲家・船田元を軽井沢の別荘で殺害し、十日ほど前に刑期を終えて甲府刑務所から出所したばかりだった。その事件の目撃者として彼を告発したのが、当時岬恵子と名乗っていた十津川英子だったのだ。
 荒巻は格下の警部補・御影正人と組んで沖のアリバイ崩しに成功するが、その直後彼は小田急線の特急電車に飛び込み自殺してしまう。後味は悪いものの、事件はこれで落着したと思われた。
 だが捜査本部が解散して二日後、二人の刑事を新たな衝撃が襲う。犯行時刻東京にいた筈の沖はその実福岡から千歳に飛び、札幌に音楽学校を創設した恩師・城崎久仁彦に就職の斡旋を依頼していたのだ。完璧なアリバイを持ちながら彼はなぜ出鱈目を並べた挙句、無惨な轢死を選んだのか・・・・・・
 愛と無常の交錯が殺人を招く、笹沢左保の本格推理長編小説。
 初出は雑誌「小説現代」昭和55(1980)年6月号~同年8月号。単行本では『後ろ姿の聖像』に改題されたが、著者の意向かのちに講談社ノベルスに収められた際、雑誌準拠のこのタイトルに戻された。2000年8月刊の日文文庫版ではふたたび改題されているが、期間も開いており恐らく出版社側の要請によると思われるので、ここではより本書に即応した『もしもお前が~』で通す。長編としては94冊目、『悪魔の部屋』とほぼ同時期の連載作品である。
 内容的には以前評した『さよならの値打ちもない』と似た読み味。悲恋メインのプロットに捻りを加えた上で、いくつかのミスディレクションを仕掛けており、『さよなら~』とはある意味ネガとポジの関係にある(ただし電話の「沖先生」の解釈はやや強引)。トリックは一回りスケールダウンしているものの、自殺した容疑者が残した歌詞「そのとき」に沿った結末は皮肉なもので、〈売れない作詞家〉との設定もここで生きてくる。ドラマ的には前者よりも、タイトルと展開が不即不離の関係にあるこちらが上か。準佳作程度の価値はある長編で、採点は6点~6.5点の間くらい。

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