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ミステリの祭典

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ALFAさんの登録情報
平均点:6.63点 書評数:238件

プロフィール| 書評

No.238 7点 さむけ
ロス・マクドナルド
(2025/09/30 09:08登録)
はるか昔の初読では、本格味の複雑なプロットやエンディングが印象深かった。

再読してみると、複雑なプロットによってかえって物語に雑味が生じているように感じる。
登場人物と展開をもっと整理したらキリッと引き締まった話になっただろう。
そのほうが衝撃のエンディングもいっそう引き立つと思うが・・・

いずれにしても本格風味の名作ハードボイルド。
ハヤカワ版小笠原豊樹の訳はとても読みやすい。


No.237 6点 パリから来た紳士
ジョン・ディクスン・カー
(2025/09/26 07:14登録)
表題作「パリから来た紳士」のエンディングが面白い。取って付けたような趣向ではなく、プロットに巧みに織り込んである。
何より本編の消失トリックが、この本家と同じというかパクリというかオマージュというか・・・
もちろんカーとしてはオマージュのつもりなんだろう。

一方「取りちがえた問題」の痛そうなトリックは近年の国産人気作で再利用されている。同じというかパクリというかオマージュというか・・・いやこちらはオマージュではないだろうな。


No.236 8点 ビロードの悪魔
ジョン・ディクスン・カー
(2025/09/24 07:22登録)
冒険活劇+歴史ミステリー+SFタイムスリップで、もうお腹いっぱい。

歴史学の教授ニコラス・フェントンは300年前の古文書に記された毒殺事件の謎を探るべく、悪魔の手を借りてタイムスリップする。同名の貴族に憑依するという、まことに手際のいいやり方で。
この悪魔、メフィストより俗っぽくて笑える。
長い尺の半ばまでは、猥雑な17世紀ロンドンを舞台にした冒険活劇。街の臭さが漂ってきそうなリアリティ。後半になって俄然ミステリー濃度が高くなる。

特殊設定のロジックがしっかり通ったフーダニットで、伏線も十分。
ジャンルミックス型エンタメ大作にして、カーの代表作である。


No.235 7点 硝子の塔の殺人
知念実希人
(2025/09/21 17:11登録)
作中にも出てくるけど名作「Y」のアイデアをうんとモダンに仕立てたらこうなるかな。
人工美あふれるパズラーとして楽しめる。
引用される数多くの有名作品は、ミステリー愛やオマージュというより読者サービスとして効果的。
違和感があるのはエピローグ。うす甘いエンディングが本編の世界観とアンマッチ。


No.234 7点 緑のカプセルの謎
ジョン・ディクスン・カー
(2025/09/17 07:31登録)
ポンペイの遺跡を観光で訪れた、何やら不穏な家族と友人グループ。
それを目撃する探偵役・・・
クリスティさながらのオープニングである。

起こる事件は、子供の無差別殺害と衆人環視下での実業家の毒殺。
密室はないが、魅力ある不可能犯罪が牽引力になって安心?して読み進められる。
フェル博士の毒殺講義と終盤の真相開示がやや冗長なのが残念。


No.233 6点 絡繰り心中
永井紗耶子
(2025/09/16 08:56登録)
「女は一人で死んでいた。」ミステリーのツカミとしては申し分ない。
切られて死んでいたのは吉原の花魁。辻切りかそれとも心中の片割れか。
謎を追うのは、身分を隠し笛方として町場に暮らす若き日の遠山金四郎。
なかなか魅力的な設定である。

残念なことに、謎解きと遠山家の話とが平行して構成がバラけてしまった。
肝心の犯人像もニヒルであってほしいのに妙に俗っぽくて今ひとつ。
人物造形が一番たしかなのは謎の口利き屋「獏」。
設定の妙に構成が追いつかないもどかしさがある。


No.232 7点 励み場
青山文平
(2025/09/15 12:31登録)
江戸のお仕事小説仕立てで夫婦の心の機微を描いている。
終盤、それぞれに関わる真相が明らかになるくだりはまさにミステリー。
主題にふさわしい文体や構成はさすが。

味わい深い作品だが、他の作品にも時折見られる過度のストイシズムが若干の違和感として残る。


No.231 6点 阪急電車
有川浩
(2025/09/15 10:18登録)
話題作とは知っていたが、ハテ?ミステリー要素はあったかな?
と思って読んだらやはり無かった。
16の連作短編で、登場人物が複雑に絡み合う構成の妙は楽しめる。
それぞれの話はサラリとした人生の機微。
いささか通俗的ではある。


No.230 7点 妖魔の森の家
ジョン・ディクスン・カー
(2025/09/13 07:42登録)
カーはトリック愛に満ちた作家だと思う。いかにして読者を惑わすか、きっと本人も楽しみながら書いたんだろう。
濃い人間ドラマや精緻なロジックではそれぞれクリスティやクイーンに譲るが、トリックはテンコ盛り。ときには突っ込みどころ満載だったりするけどそれも楽しい。

この短編集も密室中心の良作揃い。
中でも、表題作「妖魔の森の家」はトリックだけに終わらない大仕掛けな秀作。
それにしてもHM卿、それ重くなかったか?


No.229 7点 本売る日々
青山文平
(2025/09/07 10:04登録)
作者お得意の江戸のお仕事小説、今回は書肆(出版業兼書店)のあるじが主人公。
淡いホラーとシリアスな日常のなぞを含む中編三話。
実は短編集「江戸染まぬ」の「町になかったもの」が事実上の前日譚になる。四話続けて読むのも一興。
主人公の名前は変わっているが。

端正な文体で語られる起伏のある話は読みごたえ十分。作中の和書の蘊蓄は凄いが知識がなくても楽しめる。
全体にミステリー濃度は薄いので評価は控えめだが、本好きにはおすすめ。


No.228 8点 三つの棺
ジョン・ディクスン・カー
(2025/09/04 07:36登録)
私見だが優れたミステリーには天才型と秀才型があると思う。
瑕があっても突出したワンアンドオンリーを具現化したものが天才型、精緻でバランスよく欠点の少ないのが秀才型。
この「三つの棺」は・・・(以下ネタバレします)



「○○○が犯人」というトンデモ設定を着地させた点で天才型。クリスティの「XXXが犯人」という某有名作と同じ。
天才型にありがちな歪みはある。大がかりな密室+アリバイトリックは突っ込みどころ満載だが、ここはカーのサービス精神。
密室トリックで語られることの多い作品だが、ワンアンドオンリーのこの趣向こそが真髄。


No.227 5点 流れ星と遊んだころ
連城三紀彦
(2025/09/02 07:34登録)
連城にしか書けない作品だと思う。
しかし私としては・・・(以下ネタバレします)



作者に直接騙されるのは好まない。作者が創る人物や状況に騙されてみたいのだ。
この作品はタネ明かし段階で、叙述を操る連城さんの手が見えてしまう仕掛け。短編ならそれも一興だが。
芸能界を舞台にした中年男たちの夢と挫折という主題もあまりササらない。
タイトルはハードボイルドでいい。


No.226 5点 絞首商會
夕木春央
(2025/09/01 07:13登録)
チェスタートン張りの逆説に満ちた快作・・・になるはずだった。

ユニークな着想の足を引っ張ったのは文体と構成。
生硬でギクシャクした文体に加えて、古風なアレンジもあって読みにくいことおびただしい。いくらデビュー作でもいかがかと・・・フォローしておくと次作以降はまずまず。
物語は冒頭と終盤はいいが途中は冗長。こちらは構成の問題。
キャラ造形はいい。元泥棒紳士の蓮野はまだ近作ほど颯爽とはしていないが晴海社長は絶好調。

楽しいアイデアなんだから大幅改編でもう一度読みたいなあ。


No.225 8点 ユダの窓
カーター・ディクスン
(2025/08/31 07:50登録)
数十年ぶりに再読。

法廷を舞台にした"He did'nt it."(コナレないなあ笑)。
初読時には気になった凶器の不合理性も、フーダニットは付け足しと割り切ればこれで良し。
今回はHM卿もさることながら、精緻を極めた原告側の白旗論告が印象に残った。
それにしてもトリックの「ユダの窓」、意味深な名称に似合わぬ現物のショボさに笑える。

異色作にして傑作。


No.224 6点 ある詩人への挽歌
マイケル・イネス
(2025/08/30 07:26登録)
大昔の初読では引用される詩の読み込みに手間取った。英国教養派などという妙なレッテルに気負ったのかもしれない。若気のいたり・・・

今回再読した印象は、丁寧に作り込まれたオーソドックスなミステリー。伏線もいいし適度にベタなユーモアもある。
ただ、ゆったりと長い導入部に比べて終盤は慌ただしい。せっかくの多重解決もまともに驚くヒマもない。構成がアンバランス。
まあ、時代を考えればやむを得ない・・・とはいえない。同じ年に絶妙の構成で知られるクリスティの傑作が出ている。


No.223 6点 火刑法廷
ジョン・ディクスン・カー
(2025/08/28 14:46登録)
数十年ふりに再読。
申し分のないツカミ、ジミ目の解決、そしてエピローグに至って洗練されたホラーになる。
しかしこの手のハイブリッド形ホラーミステリーは、近年国産の名作が数多くあるからなあ・・・


No.222 7点 満鉄探偵 欧亜急行の殺人
山本巧次
(2025/08/22 16:53登録)
鉄道とミステリーは相性がいい。運行ダイヤを元に緻密なトリックを仕掛ける「時刻表ミステリー」もそうだが、列車そのものを舞台にする「列車ミステリー」も魅力的。こちらは、区切られた時間と空間に旅情も加わってまとまりのいい物語になる。

今回は、満鉄(南満州鉄道)が舞台。かつて、広大な中国東北部を満州国として日本が統治したなんてファンタジーのようだがこれは史実。ロマンをかきたてられる舞台ではある。
満鉄はただの鉄道会社ではない。満州国統治の中枢だった。
その満鉄社内でたびたび書類が紛失する。
実在した豪華寝台列車に乗り合わせるのは、調査を命じられた社員、軍特務将校、憲兵、謎の美女、そしてソ連のスパイ。道具だては華やかだが荒唐無稽ではない。最後にはそれぞれの謎にちゃんと落とし前がつけられている。
ただ、本命より脇筋の話の方がでかいという欠点はある。
冒険スパイアクション+本格ミステリー+歴史風味でなかなか美味しい。

映画に向いている。大連駅でそれぞれの人物が乗り込むシーンはまるでオリエント急行。


No.221 5点 白い兎が逃げる
有栖川有栖
(2025/08/21 07:15登録)
表題作の中編+3つの短編。
「不在の証明」が気に入った。ありがちな双子ネタを作者がどう料理するか推測しながら読み進めると楽しい。
「地下室の処刑」の動機は想定外で面白いが、カルトの描写は絵空事っぽい。
表題作は、唐突かつ好都合に「指紋の一致」が出てきた段階でテンションが下がってしまった。
全体に生真面目に書かれてるなあ、とわかってしまうのはいいのか悪いのか・・・


No.220 6点 夜歩く
横溝正史
(2025/08/20 08:53登録)
かなり本格に振った上に例の趣向をメタ的に取り込んでいて、意欲は大いに買うんだけどなあ・・・
小説作法上の横溝らしい癖がここではマイナスに出ている。
その一、「饒舌」。最終盤の犯人のセリフが冗長かつ説明的。読者を驚愕させる大一番なのに。
その二、「ご都合主義」。○○病が遺伝して皆さん○○病だなんて・・・
その三、「障害について」。他の作品にもみられるが、身体障害を必然というより雰囲気づくりに用いている。時代性を差し引いても面白くない。
ここは編集権限で改編できないものかなあ。
クリスティの場合は著作権者の了解のもと、「ニガー」→「インディアン」→「兵隊」人形と正式に改編している。
金庫に入れてダブルロックした刀が、結果的にアリバイ破壊になるロジックなどは大好きなんだけど。


No.219 4点 メグレの打明け話
ジョルジュ・シムノン
(2025/08/19 07:13登録)
十数年ぶりに再読。
警察小説としての味わいはあるが、いくらメグレでも解決のないお話ではねえ。
ミステリーを読む快感とは無縁の作品。

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