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ミステリの祭典

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人並由真さんの登録情報
平均点:6.34点 書評数:2190件

プロフィール| 書評

No.2170 7点 密室殺人
鮎川哲也
(2025/03/08 06:29登録)
(ネタバレなし)
①「赤い密室」
②「白い密室」
③「青い密室」
④「矛盾する足跡」
⑤「海辺の悲劇」
 ……の5本を収録。

①~③は少年時代に、1973年刊行のサンケイノベルスの短編集『赤い密室』で読んでいるが、数十年ぶりの再読。

 今回は④が目当てで、ネットで本書の古書を購入。
 同編の作中で、ジョージ・バグビイ(旧クライムクラブで『警官殺し』の翻訳が出てる)の未訳の長編で不可能犯罪ものが、登場人物たちの話題になっていると、少し前にネットのウワサで聞いた。ソレで興味が出て、取り寄せてみた。そうしたら中盤の、食堂にヌードポスターを貼るか貼らないかと言い合うくだりで、あー、これ(④)も大昔にどっかで読んでたな、と気づく(笑・汗)。バグビイの未訳作の件は失念していたくせに、くだらない(?)描写の方はしっかり覚えていたようである。いかにも私らしい(笑)。

 いずれにしろ折角だから今回、この一冊、最初の収録作から順々に①→⑤の流れで読んだ。
 ①に関しては(中略)を使った大トリックはさすがに覚えており、殿堂入りした名作だとの予断もあったのだが、それを前提に読むと、すごいことはスゴイけど、フツー、警察の鑑識捜査で犯行の痕跡がわかるんじゃないの? とも思う。だってどうしたって、アレ、痕が残るよね?
 むしろ今回、星影ものでは②と③が地味に(予想外に)面白い! と思った。
 双方とも、後年の新本格が隆盛した以降の、新世代パズラーの醍醐味に通じるものがある。
 ④と⑤はまあボチボチ。④の、作者のノンシリーズ長編『死者を笞打て』に繋がっていくような、文壇ものっぽい設定は楽しい。

 名作『赤い密室』に関しては、少年時代に読んでトリックの大技に感銘を受けたようなそれほどでもなかったような中途半端な感もあり、一方で全体のどこかグルーミーな雰囲気がすごく印象深かった。
 謎解きパズラーとしての評価はさておき、私にとってはあの死体初登場のシーンのインパクトと、やがて明かされる真相の一部のビジュアルイメージの鮮烈さで心に引っかかり続けていた短編である。
 その辺の想念が過剰に記憶のなかで膨れ上がっていたところもあり、今回、読み返すとああ、こんなものか、という面もなきにしもあらず、ではあったのだが、一方で、格調の高い、美しい謎解きパズラーであることは、確かに認めざるを得ない。

 それにしても読み始めてあっという間に、ほぼ一日で全5編読んでしまったなあ。読み出す前は、一日一本ずつ読もうか、くらいに思っていたのだが。ひとつ読むと、次がすぐ読みたくなる、そんな短編集ではあった。


No.2169 6点 危険冒険大犯罪
都筑道夫
(2025/03/06 22:32登録)
(ネタバレなし)
 作者のアクション・活劇系のミステリを集めた中短編集。
 角川文庫オリジナルか?

 内容は以下の通り。

①「俺は切り札」
 ……物部太郎三部作のワトスン役、というよりは、事件屋稼業もののケッサク連作集『一匹狼』の主人公・片岡直次郎の主役編。
 この文庫本の目次にいかにも短編風の見出しが5つ並んでいるので、まったく別の事件を扱った5つの連作短編かと思ったら、続いている一本の話(中編)だった。ホックの「怪盗ニック」ものの多くみたいに、ぶっとんだ奇妙な依頼から開幕するのは『一匹狼』と同じ。
 最後がややあっけないが、昭和の活劇アクションスリラーとしてはそれなりに楽しめる。評者の好みのタイプの、いやらしいゲストヒロインも出て来るし。見逃していた1960年代の国産・陽性アクションドラマを、BSまたは配信で見つけて、面白がるような味わい。

②「帽子をかぶった猫」
③「肩がわり屋」
 ……ともにノンシリーズだと思う。裏世界に関わる連中を題材にした話で、②は中編。③は、某海外ミステリ巨匠作家のあのネタが使われている。

④「ああ、タフガイ!」
 ……日本在留のアメリカ人主人公のトラブルシューター編? あまり言えないが、本書のなかでは変化球系かも。冒頭から描写がいかにもツヅキ風にエロくて結構。

⑤「ギャング予備校」
 ……『悪意銀行』『紙の罠』の主人公、近藤&土方コンビの主役編。
 評者がこの二人に付き合うのは、これが初めてだと思う。金持ちの老人が夢想家の息子の頭を冷やそうと、主人公コンビに相談を持ち掛ける序盤は、『一匹狼』の基本パターンっぽい。こちらも最後がややあっけないが、あちこち思わぬ方向に転がり続ける話の勢いは楽しめる。

 たまにはこーゆー方向の、ツヅキもいいな。


No.2168 8点 消えた人妻
スチュアート・カミンスキー
(2025/03/06 07:09登録)
(ネタバレなし)
 フロリダ州のサラソータの町。「おれ」こと42歳のイタリア系、ルー(ルイス)・フォネスカは、以前は州検事局の捜査官だった。だが3年半前に愛する妻を当て逃げで殺され、今は召喚状を送達する業者として日々を送っていた。ルーは兼業として過去の経験を活かし、探偵稼業を営んでいる。そんなルーのところに、別途の二件の人探しの依頼があった。ひとつは離婚した父親の元に行った14歳の少女アデルを捜してほしいと願う母親ベリルからのもの、そしてもうひとつは年配の不動産業者カール・セバスティアンからの、出奔した美しい若い妻メラニーの捜索願いだった。だが捜査のなかで身体の危機を感じたルーは、72歳の友人エームズ・マッキニーの協力を得るが、そんな二人の前に思わぬ死体が転がる。

 1999年のアメリカ作品。
 作者の4人目のレギュラー探偵ルー・フォネスカものの、長編第一弾。
 結論からいえばかなり面白かった(登場人物の書き分けとか、中技や小技の効いた、ストーリーの組み立てとか)。
 特に冒頭でいきなり主人公と老人の友人が死体(読者には誰かわからない)に出くわし、そのあと物語の時勢が過去に戻って、延々と序盤の興味(で、誰が殺されていたんだ?)を引っ張る構成とか。ニコラス・ブレイクの『雪だるまの殺人』みたいだ。

 特に二つの捜査のうち、片方はクライマックスまでに段階的に決着するが、もうひとつは、エピローグになるかならないかまで収束の仕方が判然としない。そして最後の最後に、かなりの大技で決める。
 いやまあ、作者の職人作家的な手際をたっぷりと堪能させてもらいました。

 最後の一行も作者が狙いまくった文芸なんだけど、余韻があっていい。
 これはいい近年の私立探偵(まあ広義の)シリーズ……と思いきや、原書では長編が6冊書かれたこのシリーズ、翻訳された長編はこの一冊だけだそうで(怒)。まあフォネスカ主役ものの短編は、いくつか翻訳ミステリ誌とかに訳されてるみたいだけど。

 そーいえばトビー・ピータースものも原書では24冊あるなか、翻訳されたのはたった長編が5つなんだよな。
 で、Wikipediaを見ると、才人カミンスキー、20世紀の終盤にはあの『ロックフォード(氏)の事件メモ』のオリジナル小説なんかも書いてたそうで、この数日ネットで得た情報のなかで、ソレがいちばんぶっとんだ。

①ロックフォードのオリジナル小説
②ルー・フィネスカものの第二冊目
③トビー・ピータースものの未訳作

その優先順位で、カミンスキー作品、どっかの出版社で、ぜひともどんどん出してくれ。
とりあえず気長に待つわ。当てにしないで。


No.2167 7点 ドーヴァー2
ジョイス・ポーター
(2025/03/04 06:36登録)
(ネタバレなし)
 その年の1月29日の土曜日の朝。ロンドンから汽車で半日ばかりの田舎町カードリー。28歳の図書館司書の女性イザベル・スラッチャーが何者かに銃撃され、脳を損傷する重傷を負った。それから8カ月の間「眠れる美女」として土地のエミリー・コーナー記念病院の病床で昏睡状態だったイザベルが、とうとう急死。狙撃事件は殺人事件に転じた。だがイザベルの死の直後、今度はまた、実は何者かが、昏睡中の彼女の顔に枕を押し付け、殺害していたことが明らかになる。スコットランドヤードが「超人パーシー」こと敏腕警視パーシヴァル・ロドリックの活躍で賑わうなか、ジョン・ウィルフレッド・ドーヴァー警部は、チャールズ・エドワード・マクレガー部長刑事とともに、カードリーに向かうが。

 1965年の英国作品。いうまでもないけど「ドーヴァー」シリーズの第二弾。

 少年時代以来、ウン十年ぶりの再読で、さすがに最後の大ネタはだけはしっかり覚えていたが、実際の犯人は失念。ストーリーや細部もまったく忘れていた。
 しかし謎解きミステリとしては、被害者イザベルが二度にわたって(?)殺される二重殺人(??)という以外、割と普通の田舎の事件。クレイジーな大ネタでいきなりシリーズの最初からヘンな勝負をかけてきた第1作に比べ、存外にマトモな作りである。
 その分、ドーヴァーのギャグキャラぶりは、割とよく実感できた気もするが。
 
 で、結局は最後の大ネタが本作の一番の価値ということには変わりはないが、もともとコレは評者の場合「世界ミステリ全集」の月報で、本作の現物を読む前に先に瀬戸川猛資に教わって(ネタバレされて)いたものだった。当該の月報では瀬戸川猛資がホントーに面白そうにその大ネタを書いており、こっちも読む前から「そりゃスゴイ!」的に暗示にかかってしまった気配もある? ただやっぱり、このネタはそれなり以上にオモシロイ! とは思わされたが。今回、再読して。
 個人的には『ドーヴァー3』(のラストの大ネタ)もスキなんだけど(そっちも大昔に一回読んだきりだが)、ちょっとばかし『2』の方が大ネタのバカバカしさで好き。
 でもまあ、あらためて冷静になってみれば、ミステリ史上でこのネタはこの作品が厳密に初めて、ということもなく、もっとどっかで先駆があったような気がしないでもない。いやまあ、具体的に、あーあれがあるよな、とか現時点ではパッと言えないんだけど。

 なんにしろポーター、再読する価値は十分にある。

 あと、未訳のホン・コンおばさんものとか、エドマンド・ブラウンものとか、どっかで今からでも出んかな。どっちももうワンチャンくらい、あってもいいと思うんだけど。


No.2166 6点 ソフト・センター
ハドリー・チェイス
(2025/03/02 06:55登録)
(ネタバレなし)
 フロリダ州マイアミの一角、スパニッシュ・ベイ。億万長者チャールズ・トラヴァースの娘ヴァレリー(ヴァル)・バーネットは、2年前の交通事故で脳に損傷を負った夫クリスの静養に付き合っていた。夫妻はマイアミの豪華ホテルに長期滞在していたが、ある日、クリスがそこから姿を消した。やがて近隣のモーテルで、売春婦ショー・パーネルが何者かに殺害される事件が発生。警察が、探偵が、そしてパーネルの元情人だったギャングのノミ屋がそれぞれの思惑で動き出す。

 1964年の英国作品。
 現状のAmazonの書誌データ表記&登録は不順だが、創元文庫の初版は67年12月。評者が読んだのは、75年8月の第6版。

 警察側のメインキャラクターは、おなじみパラダイス・シティ署長のフランク・テレル(本書ではフランク・ターレル表記)だが、本文中には一度も「パラダイス・シティ」の名前が出てこない。
 これがシリーズ第一作らしいから、文芸設定がまだ固まっていなかったのかも? 
(あるいはまさか、シリーズ第二弾という『クッキーの崩れるとき』~たしか評者はまだ未読~から、舞台となる町の名が、作中のリアルで改名したか?)

 内容に関しては、特に推理の要もない警察捜査小説、さらにカメラアイがあちこち柔軟に切り替わる群像劇で、読者はその成り行きに付き合わされるだけだが、それはそれとしてなかなかハイテンポで面白い。登場人物はネームドキャラだけで50人ほど。前半でチラッと名前が出た警官が後半でそれなりの活躍をしたり、やっぱりメモを取りながら読むことをお勧めする。

 プロットやミステリとしてのギミックとしては、突出したところは決して多くない作品だが、妙に印象に残りそうな見せ場は少なくない。
 殺人現場の目撃者の少女(8歳)が証言と引き換えに巨大な熊のぬいぐるみ(テディベアか?)を要求し、ターレル署長が自腹で安くない出費を負担するところなんか実にゆかしい(笑)。
 クロージングもねえ、たぶんこう書いても特にネタバレにまったくならんと思うから書くけど、なんかウールリッチぽい感じで、へえ、となった。

 作者のベストワンでは決してないし、上位に入るかどうかも微妙だけど、チェイスという作家の持ち味は十二分に満喫できる。そんな一冊ではある。


No.2165 6点 ロッド・サーリングのミステリーゾーン3
リチャード・マシスン
(2025/03/01 16:19登録)
(ネタバレなし)
 かねてより尊敬している、本サイトの先輩参加者のminiさん(現在は本サイトに不参加の模様・涙)に不敬な文句を言う気など、さらさらないですが、いくらAmazonでテキトーな登録をされてたといえ、本書のカテゴリー分類はマシスン個人作家の項目ではなく「国内編集者セレクトのアンソロジー」でしょう……。
※本書は、アメリカで85年に刊行された全30編収録のアンソロジーの中から、翻訳家の矢野浩三郎が約20編をさらに絞り込んでセレクトし「ロッド・サーリングのミステリーゾーン3」「同4」という、文春文庫の邦訳アンソロジー2冊に分けた内容です。

 カテゴリー変更希望の動議は頃合いを見て管理人さんにお願いしようと思いますが、いずれにしろ「3」に収録の9編。それぞれ面白かった。

 ただし正調サーリングの『ミステリーゾーン』系列とは微妙に違うような味わいのものも多い。その辺はテレビ用のシナリオそのものではなく、あくまでベースになったSF&ファンタジー&ホラー短編の集成だからというのが大きいのだが。

 以下、簡単にメモ&備忘録を兼ねた感想&寸評。

「サルバトア・ロスの自己改良」(スレッサー)
 ……自分の持っている属性(若さとか豊富な髪とか)を他人と交換できる超能力を得た男。ラストの切れ味の良さはいかにもスレッサー。

「楽園に眠る」(ボーモント)
 ……外宇宙の小惑星に降り立った宇宙船乗組員の出くわしたものは。これは割と、マイ・イメージのテレビ版『ミステリーゾーン』っぽい。

「言葉のない少年」(マシスン)
 ……背徳の科学実験の申し子。50ページとかなり長い。どっちの方向にオチるかで、引っ張る。

「スティール」(マシスン)
 ……旧型アンドロイドボクサーを連れた中年興行師のペーソス譚。本書内ではやや毛色の違う内容だが、『ミステリーゾーン』の幅の広がりの投影でもある。

「ジャングル」(ボーモント)
 ……現代文明に侵食された未開文明の逆襲譚。かなりパースペクティブの広い話で、これを短編にまとめたところに味がある。

「人間饗応法」(ナイト)
 ……地球に来訪した異星人。割とよくある話でオチでは。

「そっくりの人」(ボーモント)
 ……日常が崩れていく主人公。妙な昏い詩情を感じさせる話。

「消えた少女」(マシスン)
 ……ある夜、突然娘が透明になった? 声は聞こえる。一幕ものの舞台劇みたいな話で、ドラマ化はしやすかったろうなあ。ただ(中略)の表現はどうやったんだろ? 簡単に済ませたか?

「悪魔が来りてー?」(ボーモント)
 ……亡き父から相続した経営破綻必死の新聞社。そこに現れた男。ホラ話というか現代のおとぎ話みたいな内容。ドラマ版はどこまで特撮で表現したんだろ?

『ミステリーゾーン』は好きな番組だが、実際にはまだまだ未見の話も多く、今回の9本はどれも映像化されたドラマ版を観た覚えがない(観たかもしれないが、だとしたら忘れてる)。
 番組に慣れ親しんだ世代人なら、きっともっと違う味わいで楽しめるでしょう。
 いや番組を観たことがない人でも、単品の作品ごとの面白さは感じられるとは思うけど。


No.2164 5点 鳴き竜殺人事件
草野唯雄
(2025/02/28 04:58登録)
(ネタバレなし)
 読んだ直後のミステリのあらすじを、(ネタバレにならないようにの警戒の念も踏まえながら)自分なりにまとめるのはスキだ。
 しかしそんな自分でも、これはあまりにとっちらかった話のため、ストーリーの要約・記述をする気にはならない。

 スゴいアリバイトリック(うわあ……)が用意されており、加えて最後のサプライズは、ぶっとぶほど意外であった。さらに言うなら事件の構造についての着想も、かなりキてる。
 
 ……ではあろうが、思いつくことをぶっこむだけぶっこんでごった煮にした感じで、まるでエンターテインメントにも謎解きミステリにもなってない。ひとことで言うなら珍作であり、怪作。
 たしかに草野作品らしいとはいえる。

 ヘンなミステリに興味がある人、読んでおくがよろしい。
 ただし楽しめるとの保証はできない。

追記:作中で『カナリヤ殺人事件 』のトリックをネタばらししてるので、そっちをまだ未読の人はあらかじめ注意のこと。


No.2163 7点 首を捜せ
サム・S・テイラー
(2025/02/26 07:16登録)
(ネタバレなし)
 1951年。カリフォルニア州の一地方サンピサンテの町。「わたし」ことLA在住の私立探偵ニール・コットンは、サンピサンテで地方新聞社を経営する実業家ミラード・J・ボールドウィンの長女ダイアナから、相談を受ける。ボールドウィン社長は次回の州知事選挙に出馬するつもりであり、当人は政治キャンペーンとしてスロットマシン賭博の廃止を訴えていた。27歳のダイアナは父の新聞社で主力として働き、一方で父の政治活動を支援していたので、スロットマシン反対キャンペーンで必要な諸事の仕事の協力を、コットンに申し出たのだ。だがボールドウィン家とコットンの契約が固まるその前に、ボールドウィンの新聞社で働く記者ハリー・N・チェスブロが何者かに射殺された。チェスブロもまたスロットマシン業界の周辺を調べており、殺人の嫌疑はジュークボックス設置を斡旋する音楽協会会長マニイ・ルビンにかけられるが、マニイは弁護士マーヴィン・J・ドリスコルに依頼。ドリスコルと懇意だったことからコットンに、事実関係の調査の依頼がある。だがこの二つの別筋の案件は、次第に意外な結びつきを見せていった。

 1952年のアメリカ作品。
 1949~53年にかけて全三冊が刊行された、私立探偵ニール・コットンものの第二弾。
 翻訳はシリーズ三冊のうち、本書だけしかない。
 シリーズそのものについての詳しいことは
https://mysteryfile.com/blog/?p=395(英語のブログ記事)とか読んでくれ。

 ネームドキャラは40人前後、多くも少なくもない、適度なバランス&ボリュームの登場人物で、お話の方も少しややこしいが、普通にメモを取っていれば特に問題はない。

 タイトルで明かされ、ポケミス裏表紙のあらすじで書かれてるように、事件に巻き込まれた被害者の首無し死体が、中盤に登場する。
 で、クライマックスまで読んで、なんで(ホワイダニット)死体の首を斬ったのか、最後に「え!?」という真相が明かされる。これには感心した(というかふいを突かれて、面白かった)。

 伏線の張り方も振り返れば序盤からなかなか周到で、なかには結構、大胆な見せ方(記述の仕方)を心得ているものもあった。全体的に、割とよくできているとは思う。

 『ジョーズ』平尾圭吾の翻訳は快調だが、途中で「女ジェームズ・ボンドみたいだ」という言い回しの台詞が出て来るのには「?」となった。
 だってこの本の原書のハードカバー(ゴランツ社版)、52年の刊行だよね? ボンドのデビューは『カジノ・ロワイヤル』刊行の53年だと思うのだが…… 
 まさか翻訳はペーパーバック版を底本として、そっちでは当時のボンドブームにあやかった、時事ネタ的な改稿がなされているとか!?

 しかしこのポケミスの刊行時期、69年1月(ちゃんと奥付を確認したぞ)。スパイ小説ブームもそろそろひと段落に入りかけている頃合いで、そこでなぜそんな時節に、いきなり50年代の私立探偵小説を新規に掘り起こしてきたのか、当時のハヤカワのムーブメントがよくわからん(いや、翻訳してくれたこと自体は、とても喜ばしいことだけど)。
 平尾圭吾自身の翻訳企画の持ち込みか、あるいはなんか別の大物作品との版権・抱き合わせ購入でこの一冊もたまたま、エージェントあたりからグロスで売り込まれた、そんななかの一冊だった……とか、だったのだろうか?
(なおこのポケミス、恒例の翻訳権独占作品ではない。その辺にも、版元の半ば消極的な出版事情が、覗いたりする?)

 で、21世紀のどこかの奇特な版元さん。もしよかったら、残りのニール・コットンものの二冊、今からでも邦訳出版を検討してみませんか。残りの作品もこのレベルなら、結構、面白いはずです。

【2025年2月27日・追記】
 上記のジェームズ・ボンド問題に関しましては、本サイトの掲示板コーナーの本日付の弾十六さんのご投稿をご覧ください。原文でどうだったのか、の調査をしていただきました。


No.2162 7点 高層の死角
森村誠一
(2025/02/24 08:03登録)
(ネタバレなし)
 いつか読もう読もうと思いながら何十年も経ってしまった作品で、いまひとつ感想がまとまらない。
 いや、普通以上に力作だとは思うし、相応に面白かったのだが、のちのちのこの作者の諸作との比較やら、元版刊行当時の目線での仮想的な評価とか、いろんな夾雑物が読み手の頭のなかに生じて混ざり合うのである。
 そんなわけで今回は、いままでの皆さんのレビューをあれこれ読ませて頂くのがとても楽しかった。すでに20人近くレビューも募ると、実質、本作ひとつに真逆な判定をしている方とかもいて、とても興味深い。
 個人的には密室トリックは100点満点で65点。
 アリバイトリックの物量攻撃は、同じく75点であろうか。

 登場人物の人間の書き方も浅いような、それなりに端正なような。少なくとものちのちの森村作品の主流になるような、醒めた苦い視線がさほど感じられないのは読みやすかった。その分、いささかかったるくもあったが。
 0.4点おまけして、この評点。


No.2161 7点 死者の中から
ボアロー&ナルスジャック
(2025/02/23 06:50登録)
(ネタバレなし)
 1940年前後のパリ。元刑事だったがさる事情から職を辞し、現在は弁護士を営む青年ロジェ・フラヴィエール。彼は、大学時代の友人で今は戦時特需の造船業で左うちわの実業家ポール・ジェヴィーニュから、相談を受ける。それはジェヴィーニュの妻で25歳の美女マドレーヌが、自分は19世紀に若くして自殺した曽祖母の転生だと信じているので、密に見張ってほしいというものだった。フラヴィエールは依頼に応えて、マドレーヌに接近するが。

 1953年のフランス作品。
 大昔に初版を新刊で買い、書店カバーをつけたままツンドクだったHM文庫版を何十年目にして読了。

 小泉喜美子が生前に、吸血鬼ロマンの影を感じる作品とかなんとか言っていたが、その辺はメインテーマである転生(そして主人公視点で見た場合の、ヒロインのある種の不老性)とかにからんで説得力を持つ。

 ミステリとして一応は……の作品だが、次第に(中略)の描写とあわせて、読者にあらぬウラ読みまでを要求する罪作りな、そしてかなり蠱惑的な物語。実のところ、個人的には最後の最後で、もう一幕、あの手のエピローグがあるんじゃないかと期待したほどだった。
 スナオに読むだけじゃもったいないね。妄想に連なっていく観念の広がりを楽しみましょう。

 あ、ちなみにヒッチの映画は、まだ観てない。これで好きな時に、いつでも鑑賞できるな。


No.2160 6点 金庫と老婆
パトリック・クェンティン
(2025/02/22 14:58登録)
(ネタバレなし)
 全9編の中短編を収録。
 おおむねはブラックユーモアというかイヤミス系で、一部に逆転のハッピーエンドで終わる作品もあり……という感じ。

 オチが途中から見え見えなものもあって、全体の評価はそこそこ。
 だが表題作の、良い意味でお約束網羅の作劇には、ある種の頼もしさを覚えた。
『ルーシーの初恋』の昏い切なさ
『ミセス・アプルビーの熊』の、歪んだ笑みが浮かぶような残酷さ
あたりが好み。
『姿を消した少年』は、悪趣味な、日本アニメーションの「世界名作劇場」の世界のようであった。

 トラント警部ものとダルース夫妻もの、そういったシリーズ探偵ものばっかり集めた、この作者の短編集が読みたい。


No.2159 7点 シンジケート
ジョン・ガードナー
(2025/02/21 19:35登録)
(ネタバレなし)
 イタリア系の英国人で、若き日はアメリカの市警に奉職し、現在はニュースコットランドヤードの敏腕警部として活躍するジョン・デレック・トリー(旧名トリーニ)。厳粛なローマン・カトリックである彼は惹かれ合う婚約者同士でありながら、小学校教諭の恋人スーザン・クロンプトンがそれとなく求めて来る婚前交渉の要求を、1960年代後半という20世紀の現代社会において、愚直に拒み続けていた。そんなトリーは英米を股にかけた裏社会の捜査のなかで、謎の人物「ウェックストン」の暗躍を認める。重大事件の予兆が色濃くなるなか、トリーと捜査陣は、ウェックストンの苗字を持つ該当の人物たちのなかで、凶悪犯罪に関与している可能性があるものを絞り込んでいくが、暗躍する敵はさらに計画を進めていた。

 1969年の英国作品。原題は「A Complete State of Death(死、完璧な状態)」だが、1974年のチャールズ・ブロンソン主演による映画化にあわせて、映画と同じ邦題で邦訳された。
 
 級数の大き目な一段組の本文で、約300ページのハヤカワ・ノヴェルズ。
 深夜に読み始め、途中で1~2時間の仮眠をとって朝に読み終える。

 物語の序盤~前半は多国籍な属性を持つ主人公トリーの人物像を、延々と描写。青年時代にアメリカで同僚の警官に死なれたのち、英国のスコットランドヤードでやり直しをはかった逸話などが語られる。
 主人公に独特の人間味を託す狙いだろうが、異性に対して健常な欲情を感じながらも、それに待ったをかけるローマン・カトリックの禁忌の設定も、外野である読者(評者)には、そこそこ面白い。

 そんな主人公周辺の素描と並行した多面多角描写の形で、叙述のカメラは英国の裏社会の現在図にも向けられる。そしてそんななかで情報があれこれ積み重なって、どうやら暗黒街で謎の大物が暗躍しているらしいことがわかってくる。

 この犯罪プロデューサー的な謎の悪役「ウェックストン」の描写が正に1960年代後半の現代に復活したモリアーティという感じで、もしかしたらのちにガードナーが「モリアーティ」シリーズのパスティーシュに着手するのは、本作などの実績を踏まえてのものかも? と夢想したりもした。いや実際のところは知らんが(笑)。

 そういう訳でトリーと謎の敵「ウェックストン」との対峙の構図がだんだんと浮き彫りになっていく一方で、話の細部はそのトリー周辺の公私のややこしい案件がからんだり、あくまで脇筋ながら一応は捜査の手順でこなさなければならない任務が意外な方向に暴走したり、この辺のストーリー全体の立体感がとても面白い。
 言い変えるなら、クライマックスに向かう物語のベクトルがはっきりしている一方で、細部のこまごまな描写もひとつずつなかなか読ませるエンターテインメントだ。
 英国ミステリ界きっての職人作家ジョン・ガードナーの作家性が、今回は良い方向に向かった感がある。
 ラストはややあっけないが、そこがまた味になっているのもなんとなくわかる。
 多彩な作風で幅広いジャンルをこなす作者だが、これは「ハービー・クルーガー初期三部作」のような殿堂入りの傑作を別カウントにした上で、作者の諸作中でも、けっこう上位に行く方ではないか? とも思う。
(ただし、良くも悪くもB級感がどこかに漂う面もあり、8点がややあげにくい。で、この評点~7点の上の方……だが。)

 ちなみに英語Wikipediaを見ると、トリーの主役編はもう一本だけ「The Corner Men 」(1974)なるものが書かれているらしいが、こっちは未訳。ちゃんと作者のシリーズキャラクター(主人公)である。しかしタイミングを考えると、その続編も前作の映画化に合わせて執筆されたんだろうな。

 主人公とヒロインの関係を含めて、続編がどのようになったか、ちょっとだけ気になる。まあ今さら翻訳なんか、されっこないとは思うけど(涙)。


No.2158 6点 その犯罪は別
マイクル・アンダーウッド
(2025/02/20 06:47登録)
(ネタバレなし)
 1960年代半ばの英国。エルウィック地方。住宅街に住むシルビア・フレイン女史は、ふだんあまり付き合いのない近所の未亡人フロレンス・ヒパートの愛猫「ネロ」の様子が変だと気にする。ネロに餌をあげたフレイン女史がヒパートのもとを訪ねると、応対がない。不審を感じたフレイン女史は警察に通報するが、やがて当人の自宅でヒパート未亡人の絞殺死体が発見される。

 1966年の英国作品。
 210ページちょっとの薄いポケミスで、訳はベテランの乾信一郎。サクサク読める。中盤で、未亡人が所有する1ダースもの時計のネジを定期的に巻いている時計職人が、検死医の判定した死亡時刻よりも遅く、被害者と会話していた? というオカルトチックな不可能興味も登場してワクワクしてくる。解法というか真相は存外にツマらなかったが。

 探偵(捜査)役は、ロンドンから地方のエルウィック署に転任している、まだ30代後半の主任警部ピーター・チャド。地元の生え抜き連中の同僚や部下と微妙な距離感で付き合う一方、可愛い奥さんと三人の子供に恵まれた家庭人の家長としてプライベートな苦労も描かれる。後者の側面はキーティングのゴーテ警部みたいだ。同時代だろうし、この頃の英国の警察小説(&そっちに近いパズラー)での流行りか。英語wikiとかで調べると、このチャド主任警部、特にレギュラー探偵ではなかったみたいだけど。愛妻ケートから出勤前に「メグレさん」と冗談で呼ばれるあたりとか、ちょっと微笑ましい。

 ポケミスの裏には「ひねりのきいた異色の犯罪小説」と銘打ってあるが、どっちかというとフーダニットのパズラー要素の強い、警察小説。ただし真犯人の特定の手掛かりなどはあくまで作者の都合で出て来るので、最終的には純粋な謎解き作品ではなくなった。最後の方にサプライズめいたものは用意されているが。

 主要登場人物が少なく(まあこの紙幅だからか)、良い意味で話の幅がぶれないので、とても読みやすい。
 前述の不可能興味っぽいあたりを起点にした「これはなかなか面白くなるのでは?」という、拾い物に出会った欲目には最終的にさほど応えてくれなかったけど、トータルとしてはそこそこ楽しめた。秀作というには微妙だが、佳作程度にはじゅうぶんなっているハズ。


No.2157 5点 シカゴの事件記者
ジョナサン・ラティマー
(2025/02/19 16:18登録)
(ネタバレなし)
 1950年代半ばのシカゴ。大手紙「グローブ新聞社」の社会部に所属する30代半ばの記者サム・クレイは、その朝、泥酔から目が醒める。すると彼は見知らぬ部屋にいて、そして脇には知らない若い女の刺殺死体があった。警察にも通報せず慌てて現場を去った彼は、何人かの目撃者に顔を見られた。やがてクレイは事件を探る新聞記者の立場として、被害者の思わぬ素性を知ることになる。

 1955年のアメリカ作品。
 王道の巻き込まれサスペンス設定で、作者は実力派ラティマー。
 こりゃ確実にオモシロイだろと期待して読み始めたが、う~ん、微妙なところでこういうものとは書き手の資質が合致しなかったのか、全体的にイマイチ。
 なにより窮状に陥った主人公クレイの描写に、さほど焦燥感も危機感も見られないのが不満(第20章前後で、某大物キャラと対峙するところで、やっとテンションが上がったが)。

 名前のある登場人物も不必要に多く、例によってメモをとりながら読み進めたら、脇役や雑魚キャラを含めてネームドキャラは70~80人に上った。斎藤警部さんのおっしゃる
>しかし、終わってみれば物語の外縁部に放ったらかしの登場人物が多いこと多いこと。
 には全く同感。『Yの悲劇』読んで、物語が終わってみれば存在感がしぼんでいく登場人物が多すぎるとかなんとか言ったのは三島由紀夫だっけ。あーいう人がコレを読んだら、なんて言うんだ、って思った。
 
 会話はかなり多く、リーダビリティは高いはずなのに、全体的に冗長。
 ヒロインっぽい女性はそれなりに出て来るが、腐れラブコメめいた読者サービスのひとつもないのも不満。

 で、空さんがおっしゃっている「論理的欠陥」とは(中略)のことでしょうか? たしかに作中のリアルで成立しえないですよね? 当方の思っていることと同じならば。

 設定も雰囲気もお話の枠組みも好みなんだけどな。途中で、あ、これはノレない、と気づいてしまい、そのまま最後まで行った一冊。好きな方、ごめんなさい(汗)。 


No.2156 6点 書斎の死体
アガサ・クリスティー
(2025/02/15 16:16登録)
(ネタバレなし)
『牧師館の殺人』以来12年ぶりとなる、ミス・マープルものの長編作品2冊目。
 この空白の12年の間の、ミス・マープルの短編での活躍具合は知らない(よく調べてない)が、ポアロものの方はその12年の間に一ダース前後の長編が書かれている。
 歴史のIFを考えても仕方がないのだが、この12年の空白期間にもうちょっとミス・マープルの登場作品が増えていたら、どうなっていたのであろう? と思ったりもした。

 ショッキングな発端で、ミス・マープルものとしては割とメジャーな方だろうから、大昔の少年時代に一度は読んでいる作品だと認識していた。
 で、その前提の上で、犯人もトリックも内容も、まったく忘れてるはずなのをいいことに、今回は再読を楽しもうと思ったら、どうやら完全に初読の、いままで読み落としていた一冊らしい? と次第にわかってくる。
 こーゆーのは、評者のようなウッカリ読者の場合、たまに(いや しょっちゅう?)ある事だ(笑・涙)。

 読了後にみなさんのレビューを拝見すると、ミス・マープルが旺盛に動く一方、捜査側やサブ探偵役っぽいキャラが過剰というご意見には同感。おかげで本来はもっと起伏を感じられるはずの物語が、いささか散漫になった。12年ぶりのミス・マープルの本格復活に際して、作者も愛着のある探偵キャラの再デビューに配慮し、読者と劇中人物に向けて「(探偵役がポアロじゃないからって)ガッカリしないで。このお婆ちゃんも、名探偵なんですよ~」的なアピールをしていた気配があるのは、微笑ましいが。

 事件の構造は割と複雑だが、その実態がなかなか読者目線で掴めず(評者がアタマを使って推理しないからかもしれんが)、後半のショッキングな第二の事件の発生まで、ややダレる。
 
 あと、前述のように捜査陣、広義の探偵役にキャラの頭数を費やしたせいか、もうちょっとクリスティーっぽい魅力的な登場人物が出そうで出てこないのがちょっと不満。
 たった9歳(!)の若年ミステリファンで、作者クリスティー本人、セイヤーズやカー、H・C・ベイリーのサインをもらったと自慢する早熟少年ペーター・カーモディの描写には笑ったが。
(あとエピローグの最後の「あの人」の描写は、とてもいいんだけどね。できればこのクロージングから逆算して、もっと途中の描写の時点でそれっぽく叙述しておいてもらいたかった、とも思った。)

 いろいろ不満を書いたけど、事件の真相そのものは、良くも悪くも作者らしい部分もあれば、さらには「死体を無事に消すまで」収録のエッセイ群を書いた時期のツヅキが読んだら感心しそうな(実際にどうだったかは知らんが)モダーン・ディティクティブ・パズラー的な発想もあり、かなり濃厚な組み立て。
 その一方で(中略)トリックに関しては、ザルというよりおおらかすぎるのは否めないが、まあその辺はね。
 ただ、犯人を当てよう、推理しようという意欲のあまりないスーダラな読者なので、物語のギリギリまで真犯人が露見しない書き方が醸し出すサスペンス感は楽しかった。

 どこかの箇所で受け手サイドの心の琴線に引っかかるか、あるいは特に何も思わなかったか、で、評価が割れそうな作品。
 直球勝負のパズラーぶりと登場人物の魅力でミス・マープル初期作なら『牧師館』の方が面白かったが、まあこれはこれで。 


No.2155 6点 裂けた視覚
高木彬光
(2025/02/10 06:37登録)
(ネタバレなし)
 世界有数の航空会社「オール・アメリカン・エアーラインズ」。その系列企業らしい、ホテル事業の新興会社「オール・アメリカン日本支社」。同社に求職した20歳代前半の伊東裕子(ひろこ)は、面接の末に同社の一員となる。だが裕子の話に何か違和感を感じたのは、その彼氏で「週刊東洋」(東洋新聞社)の28歳の記者・佐々木進一だった。やがて若き恋人たちの運命は、大きく急変していく。
(第一部「虚像の死角」)

 書籍元版のカッパ・ノベルス(昭和50年7月の40版)で読了。初版は昭和44年の11月。
「小説宝石」に昭和44年5~12月にかけて連載された作品で、第一部の「虚像の死角」を始めとする3本の中編で構成される、連作形式の広義の長編ミステリ。

 3本のエピソードの事件(犯罪)はそれぞれ別ものだが主要登場人物の一部は探偵役に限らず、次やその次の話にもまた登場。
 連作中編集といえないこともない一冊だが、そういう意味で、第一部から順々に読んでいくしかない、広い意味での長編的な構成になっている(作者自身は「連鎖推理小説」という呼称をカッパ・ノベルス版で使っていた)。
 各事件にからむ主人公というか狂言回しは佐々木青年記者だが、実際の探偵役はその上司かつ年の離れた先輩である50代の「東洋新聞」出版局局長・山西誠。「クレイジー・LP」の異名をとるが、これは当人が酔っぱらうと同じ話を何べんも繰り返したり、その一方で大事なところをとばしたりとか、溝に傷のついたレコードのような物言いになるから。たぶん高木彬光のレギュラー探偵役のなかでは、最もマイナーなキャラクターのはずで、このあと長編『女か虎か』にも登場するらしい(そっちは、評者もまだ未読)。

 で、本作の感想だが、第一部はジャンルミックス的な内容でツイストが効き、なかなか面白い。ああ、そういう方向の作品(ここではナイショだ)だったのか、とまとめの段階で軽く意表を突かれた。
 ただ続く第二部は話のネタ(宗教がらみ)はちょっと新鮮な感じだったが、お話の方がやや冗長。第三部は相場ネタに移行して、割と地味に終わった。
 作者が本来どういうものを狙ったかは何となく見えて、あとあとの話になるほど情報が積み重なっていく連作ものをやりたかったのだとも思う。つまり、作者の80年代に完結するあのシリーズのプロトタイプだと言えなくもない(こう書いてもなんのネタバレにもなってないはずなので、安心してください)。
 作者の実験精神とミステリ作家としての遊び心は評価するが、謎解き&他のジャンルのミステリとして熟成させきらないうちに、取材したネタの方の叙述に力点を置く方向で最後まで書いちゃったという感じ。
 できたものは決して悪くはないが、第二部以降はやや退屈で、送り手の当初の高い狙いが見えなくもないだけに、その辺はもったいなかったなあ、とも思ったりした。まあ高木ファンなら、ぎりぎり一読の価値はあるとは考える。


No.2154 5点 杉の柩
アガサ・クリスティー
(2025/02/07 05:37登録)
(ネタバレなし)
 久々にクリスティーが読みたくなって、大昔に読んだこれを引っ張り出してきた。結構面白かったこと、毒殺ものだという双方の記憶(印象)のみがあり、犯人もトリックもストーリーも大方忘れてしまっている。ちなみに少年時代に購入したポケミス(昭和48年の再版)で、そのまま再読。

 で、感想だが、つまらなくはなかったが、期待(記憶)ほど面白くもなかった、という感じ。
 
 あくまで個人的な感慨ではあるのだが、本サイトで何人かの方がのべているほど、メインヒロインのエリノアが魅力的に思えないんだよな。
 いや、女性ヒロインの恋心のありようなんて、まったく人それぞれでいいんだけど、ロディーに対する感情の推移が、評者にはどーもシンクロできない。一方でややこしい自責のありようは納得できるものの、その分、キャラクターが悪い意味で等身大性を欠いてしまった感じ。おかげであんましハラハラドキドキのサスペンス味も感じえなかった。

 逆転の犯人は意外といえば意外だけど、作者お得意の(中略)を今回はかなり杜撰に用いてしまった印象もある。実際に犯人の犯行がもし成功しかけたとしても、いろいろ面倒なんじゃないか、とも思った。毒薬化学の専門知識はもちろんわからないし、バラのくだりもあまり意味を感じなかった。要は(中略)ということだね?

 ちなみに自分がこれまで読んだクリスティーの諸作のなかでは最も法廷ものの要素が大きい作品ではありましょう。それだけに情報の後出しが作劇としては自然だけど、一方で謎解きミステリとしてはいささかアンフェアめいたものが目立つような。
 
 なおあんまり詳しく書けないし、HM文庫版以降はもしかしたら直ってるかもしれないけど、ポケミスでは、かの(中略)のことを先にどっかで(中略)と記述したりしちゃっていなかったですか?


No.2153 6点 欲得ずくの殺人
ヘレン・ライリー
(2025/02/04 13:19登録)
(ネタバレなし)
 コネチカット州の一角に大邸宅を構える繊維業界の大物で76歳のルーファス・ナイト。その孫娘ダフネはルーファスから寵愛を受けて恵まれた生活をしてきたが、彼女が青年弁護士アンドリュー・ストームと恋仲になったことから、ダフネは祖父の激怒の念を受ける。アンドリューの母イソベルこそは、かつてルーファスのプライドを踏みにじった、その元恋人だったのだ。そんななか、ダフネの周辺で親しい人間が殺害された。その嫌疑がアンドリューに掛かるが。

 1939年のアメリカ作品。
 ヘレン・ライリーとはどっかで聞いた名だと思い、ネットで確認したら大昔の別冊宝石に「危険な旅」とミステリマガジンに「蓄音機殺人事件」と、それぞれ短編だか中編だかが一本ずつ翻訳されている。
(ただし評者はどちらのタイトルにも、内容の記憶はない。読んでない可能性も大。)
 
 本作はダフネを主人公にしたサスペンス色の強い、動きの多いフーダニットで、論創社は、作者の作家としての大系からいえばそうだということなのか<HIBK派の実力派作家(の作品)>と銘打ってアピール? している。普通にパズラーとして売っていいんじゃないか、とも思ったが。
 
 本文が200ページ強とやや薄めの上、上記のようにイベント続出の筋立てなので、サクサク読める。翻訳も特に引っかかる箇所はなかった。
 怪しい容疑者が最後まで多すぎ、もうちょっとクライマックスまでに嫌疑の枠から外して整理すればもっと読みやすくなったのに、とも思ったが、その分? 犯人はそれなりに意外であった。 
 ただそれまでのキャラ描写からちょっとよじれてしまった印象もないではないが、これは読み手の主観なり読み込みなりにも関わるかもしれない。あと、真相に至る伏線や手掛かりはあんまり多くない、とも思えた。
 
 本書は作者のレギュラー探偵でNY市警マンハッタン殺人課クリストファー・マッキー警視シリーズの一編だそうだが、当人はほとんど物語に登場せず、その部下の刑事「トッド」ことトッドハンターが警察側の主要キャラになる。
 絵夢恵氏の巻末解説によるとマッキー警視シリーズにはその手のものも多いらしく、メグレシリーズと公称しておきながら当人はほぼ登場せず、実際にはリュカやらラポワントやらばっかが活躍してるようなものか? だったら「マンハッタン殺人課」シリーズとでも銘打てばいいのだろうが、まあそれじゃ本国のミステリ出版界でも商業企画的に弱いんだろうな? 

 たしかにある意味じゃ、名探偵が登場する謎解きものというよりはサスペンスものとして読んだ方がいい作品で(フーダニットの要素ははっきりあると思うが)、その意味ではあまり埋もれていたパズラーの秀作、佳作とかいわなかった論創の商売は適切かも。
 評点はこのくらいだが、実質プラス0.5点。二日にわけて読もうと思ったが、イッキ読みしてしまった。

※最後に、まったくの余談ながら論創といえばついにあの『おうむの復讐』のアン・オースチンを発掘新訳する動きがあるそうで、これは大いに楽しみ! 一日も早く手にとれることを願っている。


No.2152 5点 霧の中の天使
笹沢左保
(2025/02/02 07:31登録)
(ネタバレなし)
 大手企業「ムーンスター電器」。家族のほぼ全員が同社または系列会社に所属する木之元家の次女で24歳の絹子は、ムーンスターの御曹司で42歳の駒沢一男に見初められて婚約した。絹子も駒沢もともに結婚歴のある、いまは独身者であったが、絹子には彼女自身も実態を見定めきれぬトラウマが原因で性的不感症という悩みがあった。駒沢の妻として、のちのち健常な夫婦生活を送れないと不安を抱いた絹子は、かつての愛人で36歳のインテリアデザイナー・香取邦彦に相談。駒沢との挙式の日までの間、香取によって女の真の悦びを得られるように性的なトレーニングを受けるが、やがて事態は隠されていた事件に結びついていく。

 作者の中期では割と評判がいい? 『ふり向けば霧』と同系列の「霧シリーズ」、その1作目だそうな。評者はもともと『ふり向けば』を読もうと思っていたが、どうせなら一冊目からと思い、図書館で借りてきて、こっちから読んだ。

 元版のノン・ノベルで読了。5分の4が官能描写ではなかろうかという、例によっての笹沢ロマン。それもそっちの方向でかなり上位の方だが、主人公ヒロインと相手の彼氏はあくまでマジメなので、あんまりエロくない。
 「長編サスペンス推理小説」と銘打ってあるが、読者は最後の方でいきなりそれまで秘匿されていた情報を、主人公といっしょに教えられてジ・エンド。
 真犯人に関しては、作品をミステリ枠に押し込むため、あれこれ都合のいいキャラクターにされた感じで、ちょっと気の毒である。
 意外性? いや特に。


No.2151 7点 謎解き広報課 わたしだけの愛をこめて
天祢涼
(2025/01/27 15:08登録)
(ネタバレなし)
 東北の一地方・高宝町(こうほうちょう)の町役場広報課で地域広報誌「こうほう日和」を編集する公務員・新藤結子。そんな彼女は2011年3月11日、取材先に向かう途中で大地震(東日本大震災)に見舞われる。多くの人命が失われ、家屋が壊滅した被災のなかで結子は、己の無力さを痛感しながら市役所職員として、そして広報誌の担当者としてできることを探し続けるが。

 シリーズ完結編。東日本大震災をクライマックスに持ってきたシリーズ構成については軽く驚いた。とはいえ作者あとがきによると、作家になる前のライター時代に取材で、震災に遭遇した広報誌担当者の方に出会ったのがそもそも本シリーズを生み出す大きな原動のひとつだったそうで、当初からこの件が物語の決着編になることは想定されていたという。
 ほぼ10年目にして念願のゴールまで行ったわけで、その意味でも快挙である。
 
 物語の主題が真摯で重いだけに今回の前半はあまり娯楽ミステリの要素を導入する余裕がないのだが、ヒューマンドラマのなかでシリーズ全3冊を通じた伏線の回収はされるし、読者のサプライズを求める仕掛けの開陳なども印象的。
 特に後半はシリーズを積み重ねて読んできたものならではの感興が豊潤で、作品は単品でも理解できるし、楽しめるが、やはり第1冊目から順々に読んでほしい。
 結子、お疲れさまでした。

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