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ミステリの祭典

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死んだ時間

作家 佐野洋
出版日1963年11月
平均点7.00点
書評数3人

No.3 8点 人並由真
(2025/04/20 06:11登録)
(ネタバレなし)
「私」ことⅩ大・大学病院の医局員である26歳の独身青年・加賀。彼は、いずれ開業医となる夢を抱きながら、ふと知り合った30歳の未亡人・時任杏子と男女の関係だった。杏子には好意を抱きながらも、今後の医者としての人生を考えるならやはり医学界のそれなりの立場の娘を妻とすべきだと考えていた加賀だが、そんななか杏子のアパートの自室で、売り出し中の人気女優で広告モデルの峰岸みどりの死体が見つかった。嫌疑は杏子にかかり、衝動的な殺意でみどりを殺したと思われるが、独自に状況を調査した加賀は、事件の起きた日、杏子は確実に、とある愛人と熱海に赴いていながら、その事実を秘匿している状況が見えて来る。杏子は、愛人関係の相手の男性の社会的立場を考えて、あえて自分のアリバイを証明できる不倫旅行の事実を秘匿してるのか? だがやがて、その仮説だけでは説明のつかない状況が加賀には見えてきた!?

 いや、面白い。
 ガーヴが日本を舞台にして、男性主人公の一人称で書いたらこんなのになるんでないの? という感じの好テンポのサスペンスもの&アマチュア捜査(調査)小説である。

 だが思わず本気で感嘆の声が出たのは、山場で事件の秘められていた全貌めいたものが判明する瞬間。ラストのまとめ方まで含めて、1950年代の海外ミステリで、当時のモダン作品としてポケミスに紹介された技巧派の長編のような味わいであった。要は、旧クライムクラブ上位の秀作系か。

 主人公がアマチュア探偵で、調査の幅に限界があったり、時に疲れて調べるのを中座させてしまうというリアリティなどが、筋立ての上でしっかり機能しているのにも感心。

 いまんとこ、これまで読んできた佐野洋作品のベストが、全体の熱っぽさを踏まえて『完全試合』というのは不動だけど、 今回のコレを読んで、優秀作品の次席は本作だな、と思わされた。

 講談社文庫版で読んだけど、巻末の大井廣介(紙上殺人現場)のホンネ剥き出しの解説も楽しい。
 実に幸福な読書であった。
 
 最後に、加賀を応援する下宿の大家の室井元刑事。いいキャラだね。
 そーゆーのが佐野洋の本意じゃなかったのはつくづく知ってるが、たまの登用でもいいから、手持ちのレギュラー探偵にしてほしかった。 

No.2 7点 斎藤警部
(2015/10/14 11:49登録)
いくら俺と浮気旅行の最中だったからって、折角のアリバイを否定するのかこの女は、殺人容疑が掛かってるってのに。。 ともかく独自の捜査を始める俺だったが、その行く手には思わぬ犯罪の闇が。。 って感じでしたかね、詳しい所はもうさっぱり記憶にありませんけどね、とにかく相当に面白い昭和の本格推理なんですよ。洋ちゃんファンならまず必読だね。

No.1 6点 kanamori
(2010/05/08 15:33登録)
女性タレント殺人事件の犯人として自首してきた女はれっきとしたアリバイがあった。
初期の作品で、ホワイダニットを前面にだした秀作です。著者自身も好きな作品のひとつと言っているだけに、謎の設定と意外な展開はなかなか読ませます。
謎の中心となる女性はストーリー上最後まで姿を見せず、その不可解性を高めているのも巧い構成だと思います。

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