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ミステリの祭典

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ベツレヘムの星

作家 アガサ・クリスティー
出版日1977年01月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 5点 人並由真
(2025/04/29 03:24登録)
(ネタバレなし)
 数年前に各社の翻訳全書判ノベルズを古書でまとめ買いした中に、これがあったのに先日気が付いて、引っ張り出してきた。外出時用の手頃な短編集にとこれを選んで持っていく。

 原初の刊行は1965年だそうで、個人的な観測では50年代後半~60年代前半あたりがクリスティーのやや低迷期なので(その時期に秀作がまったく無い訳ではないが)、ちょうどその辺から晩年の円熟期に切り替わる頃合いの一冊? 
もしかしたらミステリ執筆に憂いて、変わったものを書きたくなった気分のなかでの著作かな、などと勝手に夢想する。
 
 子供も読む(のであろう)クリスマス本なのだろうからそんなに難しい内容ではないだろう、と予想していたが、その辺はアタリ。ただし確かにキリスト教関連の基本教養がないと、それなりにキツイ。まあ、おおむねシンプルな話で、受け手が感じたことで大外しはないとは思うが。
『水上バス』は現代設定で、これは普通に良かった。
 
 しかし表題作ってこんな話だっけ? 大昔にミステリマガジン(1974年2月号、当時の訳題「ベスヘレムの星」 )で読んだ時の記憶だと、もっとなんかかなり普通の、地に足がついた宗教民話っぽいストーリーだと思っていたよ。

No.1 5点 クリスティ再読
(2017/12/26 00:12登録)
本作はクリスティのクリスマス・ストーリーである。まだから、小説としてはミステリとは言い難いが、Mystery には「宗教的な秘儀」という意味もあるわけで、そういう意味じゃミステリ、かもよ。
6つの掌編小説の間に4つの詩が挟まる構成で、あっという間に読めるが、クリスマスストーリーなのでキリスト教に関する常識は必須。やはり「水上バス」は「春にして君を離れ」のヒロインさえも救う話。本作のヒロインは自身で、他人の心がわからない「人間嫌い」と自認するような女性だから(少し身につまされるな)「春にして」の最終段階にいるようなものだ。だからこそ、ちょっとしたきっかけで、救われることもあるのかもしれないね。なかなか、いい。
「夕べの涼しいころ」は知恵遅れの少年が神と友達になる話だが、ミュータントみたいなSF風のテイストが不気味で、なかなか深い。あとは聖者たちがはっちゃける話の「いと高き昇進」が笑える。
というわけでクリスマス・ストーリーとは言っても堅苦しくはない。小話くらいにでサクっと楽しめる。
(クリスマスにこれを読もうととっておいたのだよ。「アクナーテン」「さああなたの暮らしぶりを話して」「殺人をもう一度」はまあ、いいや。とりあえずクリスティは本作で打ち止めにします。)

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