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ミステリの祭典

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シナの鸚鵡
チャーリー・チャン

作家 E・D・ビガーズ
出版日1954年09月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2025/05/14 07:04登録)
(ネタバレなし)
 ハワイのホノルル社交界の花形として長年にわたって知られた、今は60歳代のシェリイ・ジョーダン夫人。彼女の自慢の宝石「フィルモア真珠」は斯界の伝説的なお宝だったが、最近になって夫人の息子で30代半ばのヴィクターが投機で失敗。夫人は息子の窮状を救うため、やむなく真珠を手放して金に換えることにした。夫人は30万ドルで真珠を売りたいが、ウォール街の大物として知られるP・J・マッデンは息子のために金策を急ぐ夫人の足元を見て、買値を22万ドルで買いたたこうとする? しかもマッデンはいわくつきの男? 実は彼は10代の頃、ハワイで憧れの美少女だったシェリイに懸想していた過去があるらしく、真珠の買い取りは当時からの意趣返しでもあるようだ。NYの宝石商アレクサンダア・イーデンが真珠の取引の仲介を務め、その息子の美青年でまだ大学生のポップが真珠の運び役を担当。かたやハワイの名刑事チャーリー・チャンもシェリイとの縁で、アメリカ本土に渡った。やがてマッデンの希望で真珠の受け渡し場所がカリフォルニアの砂漠にある「マッデン牧場」に変更になるが、そこでは怪異な殺人事件が待っていた?

 1926年のアメリカ作品。チャーリー・チャンシリーズ第二弾。
 一年と少し前に読んだシリーズ第一弾『鍵のない家』がかなり面白かったので、今回もちょっと期待した。

 翻訳は定評の悪訳らしいが、当初からそう覚悟して読めば、まあ付き合えないことはない。
 中盤まで事件らしい事件は起きないが、奇襲(早わざ)殺人? といえる殺人事件の発生シーンはなかなか蠱惑的(あまりそっちの面からミステリ的に深掘りされないのはナンだが)。
 さらに実質的な青年主人公のポップと、映画業界人(ロケハンティング役の女性スタッフ)ポーラ・ウェンデルとのラブコメ模様がなかなか楽しいので、ほとんど退屈はしない。そんなこんなのうちに、某メインキャラクターの隠された秘密らしき情報が見えて来るあたりの筋運びはなかなかスリリングだ。
 前作レベルの結実感にはちょっと遠いが、今回も最後のどんでん返しまでそれなりに楽しめた。物語の舞台となる砂漠の牧場と、映画撮影所、それぞれのロケーションの叙述もいい。
(まあ真相が発覚してから振り返ると、犯罪の構造についてはいささか思う所もないではないが。)

 例の「奇想天外の本棚」の新訳予定リストに入っていた一作だが、もはや、ぜ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ったいに、ソッチでは読めそうもないので覚悟を決めて、数か月前にややプレミア付きの綺麗な状態の古書を購入。電子書籍でタダで読めるかもしれんが、当座その気はないので、まあまあ高いこのお値段でも納得。
 さて次は『追跡』か。こちらも大昔に買った本が見つからないので、改めてすでに古書(創元文庫版)は購入してある。
 
 評点はこの数字だが、評価はその点数のなかでの上の方。

No.1 4点 nukkam
(2016/05/29 17:21登録)
(ネタバレなしです) なぜかチャーリー・チャンが宝石をニューヨークへ(後に目的地は変わります)運ぶことになるという不思議なプロットの、1926年発表のチャーリー・チャンシリーズ第2作ですが推理もあるとはいえこれは本格派推理小説というよりスリラー小説ではないでしょうか。スリラー小説といっても次々に事件が起きるのではなく、むしろその反対。おうむ事件以外に明確な形で事件らしきものがなかなか起きず、事件が既に発生しているのかそれともこれから発生するのかさえはっきりしない、もやもやした状態が続きます。チャンも身分を隠しての行動なので描写がとても地味です。書きようによっては意外な真相を演出できたかもしれませんが、読者が謎解きに参加しにくいストーリーのためか唐突感の方が強いです。またE・S・ガードナーの「偽証するおうむ」(1939年)を読んだ読者なら本書でのおうむの能力には不自然さを感じると思います。

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