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ミステリの祭典

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青い車さんの登録情報
平均点:6.93点 書評数:483件

プロフィール| 書評

No.343 7点 片桐大三郎とXYZの悲劇
倉知淳
(2017/02/10 16:17登録)
 エラリー・クイーンの設定を模倣した法月綸太郎があるのに、ドルリー・レーンのオマージュはこれまでありそうでありませんでした。いい着想です。けっこうヴォリュームがありますが読みやすく、4作どれも倉知淳らしい意外な方向からの論理展開での解決が楽しめます。中でも最終話は、ダミー推理でも手を抜かず、さらには元ネタからの思い込みを利用したトリッキーなオチがよく出来ていて集大成といっていいでしょう。評価をやや落としたのは、第三話の幕切れは全体的にライトなタッチのこの本で明らかに浮いているように思える点です。


No.342 6点 どちらかが彼女を殺した
東野圭吾
(2017/02/09 21:33登録)
 まだ作者が超売れっ子になる前の作ですが、この頃から既にストーリー運びのうまさは完成されています。被害者の兄を視点にして緊張感を保ちつつ、文章そのものは平易なのでしんどさを感じずすらすらと展開を楽しめました。ただ何か文句を付けるとするなら、利き腕だけでなくもう一つか二つ犯人を当てる手がかりを配置した方がコクが増したのではないでしょうか。


No.341 8点 小さな異邦人
連城三紀彦
(2017/02/09 21:14登録)
 「名手・連城三紀彦の手腕は衰え知らず」とでも言うべき安定した短篇集。ミステリーにおいて時として甘くなりがちな人間の心理を深く掘り下げた作品たちは唯一無二の輝きを放っています。ウェットでドロドロした話が多めですが、最後の表題作でわずかな希望を残すという流れもいいです。


No.340 6点 心臓と左手 座間味くんの推理
石持浅海
(2017/02/09 19:40登録)
 大迫警視と美味しいものを飲み食いしながら事件を推理するのが基本フォーマットの連作。そのためどれも変化には乏しいですが、すっきりした無駄のない文章やそつない伏線には感心します。やはり白眉は表題作でしょうか。ちょっとした不合理を突っ込むことで真相が浮き彫りになる論理展開が見事な快作でした。


No.339 7点 星降り山荘の殺人
倉知淳
(2017/02/09 19:26登録)
 風桜青紫さんのご講評にもありますが、読者に対しての仕掛けは本作においてほんのおまけに過ぎません。メインは古典パズラーに倣った推理の積み重ねにある訳で、例のひっかけだけをあげつらって酷評する人がいるのは残念です。
 肝心の謎解きはなかなかのレベルに達しています。倉知淳ならではの伏線回収が快感で、その推理はどれも思わぬ角度から紡ぎ出されます。まあ、一方でその推理に関しても脇の甘さが方々から指摘されていますが、読んでいる間は夢中になったので良しとしましょう。


No.338 4点 消失グラデーション
長沢樹
(2017/02/09 19:13登録)
 今まででいちばん期待と読み終わった満足度との落差が大きかった作品かも……。登場人物はどれも共感し辛いし、テンポの悪い文章で先が読みたいと思えないし、何より無理やり都合のいい偶然ばかりで成立させた事件があまりに興ざめでした。少なくとも新人賞受賞に相応しい作品とは思えないのが正直なところです。続篇は滅多なことがない限り読まないだろうなぁ。


No.337 7点 リバーサイド・チルドレン
梓崎優
(2017/02/09 19:02登録)
 デビュー作『叫びと祈り』のハードルには及ばなかったかな。選んだ舞台やテーマの切り口がユニークですし、クライマックスの見せ方も上手なのは評価されるべきでしょう。ただし、動機の問題を始め推理の細部にこじつけ感があったのがどうしても気になるところがあり非常に残念です。あと一歩のところで傑作になり損ねてしまった印象。あの人物(直接言及はされてないけどたぶんそうですよね?)の再登場は嬉しかったです。


No.336 8点 狩人の悪夢
有栖川有栖
(2017/02/03 19:21登録)
 『鍵の掛かった男』以来の長篇は、火村英生という人物のクールさが光る力作でした。
 有栖川有栖は難しい道を自分で選んだ作家です。この2017年において、逃げも隠れもせず真っ向から古風なスタイルのパズラーを書く労力は並大抵ではないでしょうし、火村を論理だけを武器にした名探偵として活躍させるのもまた難しいはずです。しかし、それでもなお作者自身が好きな作品をずっと書き続けています。事実、今回もそのスタイルはまったくブレず、純粋な論理のみで犯人を落としています。死体の手首が切り取られていた謎の解明、二段構えの犯人の思惑の看破、そして詰めの消去法推理、すべてが冴えわたっています。
 総じて、今回も「いつもの有栖川有栖」を崩さないクオリティで、今年書く予定という国名シリーズ新作にも期待が高まります。ファンとしてはこの作風を限界まで貫いて欲しいものです。あと、余談ですが、最後の最後のプチ・サプライズも嬉しかったですね。


No.335 8点 甲賀忍法帖
山田風太郎
(2017/02/03 19:05登録)
 確かに上質なエンタメ小説ですねぇ。時代ものなんて文が硬くて読みづらいんじゃいないかと思ってましたが、全然そんなことありませんでした。とにかく先が気になり頁をめくる手が止まらなくなって、あっという間に読了できました。つい最近の作家が書いたと言われても不思議でないほど古びてないし、辛口なコメントも多い方々まで絶賛するのも頷けます。


No.334 5点 狐火の家
貴志祐介
(2017/01/23 23:49登録)
 丁寧な推理のプロセスとよく練られた構成がすばらしかった長篇の『硝子のハンマー』は好みでしたが、この短篇集はアイディアは良くても爆発力に欠けるものが多いように感じました。遊びの少ない文章も、今回は長所というより短所に見えてしまった感があります。強いてベストを挙げるならどう密室を作ったかよりも動機が鍵となる『盤端の迷宮』でしょうか。


No.333 9点 明治断頭台
山田風太郎
(2017/01/23 23:34登録)
 『甲賀忍法帖』など時代小説の作家と思っていた山田風太郎に、ここまで本格的な推理小説があったとは。いろいろ読み漁ってきて新鮮なトリックに渇望していた今、いくつもの工夫を凝らしたトリックを駆使している本作は非常に楽しく読めました。そのトリックも横溝の本陣を彷彿とさせる下駄、人力車などを使った日本ならではのものでいいテイストを出しています。
 どんでん返しも用意されていますが、この手法が下手な後続作品よりずっとハイレベルに炸裂している点も評価すべきだと思います。さらには、山縣有朋など歴史的重要人物の活躍があるのも大きな見どころで、贅沢さを増しています。


No.332 7点 完全恋愛
牧薩次
(2017/01/23 23:09登録)
 全体の仕掛けは巧妙で、『完全恋愛』のフレーズが最後に浮かび上がる快感にたまらないものがあります。一人の男の一生にわたるドラマの骨太さも魅力的でした。本格ミステリ大賞において高く買われたのはこの構成のうまさのためでしょう。一方で、地上最大の密室や究極の不在証明というわりにトリックが今ひとつ(特にアリバイは壮大は壮大だけどに肩透かし)なのも否めません。今の時代、純粋にハウダニットで楽しませるのがいかに難しいかを実感させられました。


No.331 6点 ダブル・ジョーカー
柳広司
(2017/01/22 18:54登録)
 前作に引き続き、推理ものとしても一定のレベルを維持したスパイ・ミステリーが揃っています。個人的なお気に入りは『柩』と『ブラックバード』で、特に前者は小説としての味わいが濃い秀作だと感じます。


No.330 6点 ジョーカー・ゲーム
柳広司
(2017/01/22 18:50登録)
 クールなD機関の活躍ぶりと抑制のきいた文体が好みで、全体を通してさほどトリッキーさはないものの余韻のいい『幽霊』が特に気に入っています。現代において、ここまでリアルさも含んだ本格的なスパイ・ミステリーを書いた作者の文章力は称賛されていいと思います。


No.329 7点 女王蜂
横溝正史
(2017/01/21 00:51登録)
 この前後に発表された作品に比べて一歩譲るのが定説ですが、それはあくまで『獄門島』や『悪魔の手毬唄』などの名作に比べての話です。本作単体で見れば、プロットのしっかりした佳作と十分いえる水準に達していると思います。絶世の美女が物語を華やかにすることに加え、時計室での撲殺など印象的なシーンもすくなくありあません。
 それでも他と見劣りするとされる原因は、たぶん「推理」小説としての内容の薄さにあるんだろうと思われます。『本陣~』の二重のトリック、『犬神家~』のすり替わりをめぐる推理などに当たる点があれば、傑作の評価を得てもおかしくなかったのではないでしょうか。


No.328 4点 第八の日
エラリイ・クイーン
(2017/01/21 00:23登録)
 エラリー・クイーンが後期に多く扱った宗教絡みの事件です。そこが面白いと取るかどうかが評価の分かれ目でしょうが、僕の主観ではクイーン本来の謎解きの楽しみを大きく減殺している夾雑物にも感じられ、却ってマイナス要因になってしまいました。好きな作家だからこその厳しめ採点です。


No.327 9点 開かせていただき光栄です
皆川博子
(2017/01/20 12:23登録)
 解説で有栖川有栖氏が惜しみない賛辞を送っているのも頷ける傑作だと思います。イギリスの風俗小説のようでもあり、少年たちの青春小説の面もあり、一個の読み物として最高に面白いです。初読時は「これは本格だろうか?」とも思いましたが、このたび再読して構成や記述など、よく考え抜かれて書かれていることに気付きました。再読、再々読に耐えうる点でも本格ミステリ大賞を受賞したのも納得です。


No.326 7点 怪しい店
有栖川有栖
(2017/01/20 12:13登録)
 2014年に刊行された、火村英生シリーズ短篇集。やはり安定した手堅い話が揃ってます。大きく外れた作品がないので、作者に興味を持った人が手軽に読むのに最適な一冊ではないでしょうか。
 以下、各話の感想です。
①『古物の魔』 相変わらずホワイの捻り方が上手。あくまで短編向きのネタだけど面白い。
②『燈火堂の奇禍』 殺人以外の事件を扱って目先を変えた作品。過去の作品の登場人物名が出てくるのもサービスもあり。
③『ショーウィンドウを砕く』 推理の内容は小ぢんまりしているが、犯人の心理は倒叙形式にマッチしていて読応えがある。
④『潮騒理髪店』 切なさを残す読後感が良くて「おいしい箸休め」的な一編。
⑤『怪しい店』 作者にしては珍しい意外な犯人を引っ張り出す終盤と、それをアンフェアに陥らせない書き方が印象的。


No.325 8点 ネジ式ザゼツキー
島田荘司
(2017/01/13 22:22登録)
 ロジックを第一に考えると、犯人のやったことは合理性を欠いていて無理筋なのは否めないのですが、島田荘司の醍醐味は別にあります。とにかく荒唐無稽なホラ話をリアルに語ってしまう剛腕ぶりだけで8点は堅いです。ひとつの童話をあの名曲にリンクさせたことに始まり、どんどんスケール感を増していく展開には興奮を覚えました。御手洗潔が初期と比べ大人しいキャラクターに落ち着いてしまっても、根幹はブレていないことがわかります。


No.324 4点 異次元の館の殺人
芦辺拓
(2017/01/08 22:08登録)
 パラレルワールドで修正を繰り返す推理を楽しませる狙いでしょうが、正直なところあまり感心できません。
 つまるところ既視感のあるトリックを四つ並べただけで作者が考えるほど斬新とは思えない上に、気の利いたロジックも物語のコクもほとんどなく、費用対効果が薄い点で失敗しているとさえ言えるように思えます。
 唯一の見どころである総決算のような終盤での解決も、やや物足りないままで終わってしまいました。

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