home

ミステリの祭典

login
異次元の館の殺人
森江春策シリーズ

作家 芦辺拓
出版日2014年08月
平均点4.60点
書評数5人

No.5 5点 虫暮部
(2020/09/10 12:04登録)
 ――本を閉じたままの状態では、面白い話とつまらない話が同時に重なり合っていると考えざるを得ないわけです。本を開いて観察することによって全てが決定するのです。
 ――その刹那、両方の可能性がともに実現されるとは考えられませんか。この話が面白い世界と、つまらない世界に分岐することによってね。
 ――つまり量子力学的に考えれば、本書が傑作である世界も何処かに存在するのではないでしょうか。

No.4 4点 青い車
(2017/01/08 22:08登録)
 パラレルワールドで修正を繰り返す推理を楽しませる狙いでしょうが、正直なところあまり感心できません。
 つまるところ既視感のあるトリックを四つ並べただけで作者が考えるほど斬新とは思えない上に、気の利いたロジックも物語のコクもほとんどなく、費用対効果が薄い点で失敗しているとさえ言えるように思えます。
 唯一の見どころである総決算のような終盤での解決も、やや物足りないままで終わってしまいました。

No.3 5点 名探偵ジャパン
(2016/09/12 21:03登録)
もっと複雑怪奇なものを想像していたのですが、要は「ループもの」
正しい答えを見つけるまで謎解きが繰り返されるという分かりやすい構造で、安心したやら、拍子抜けしたやらでした。
その都度導き出される答えは、「針と糸」の物理的密室から、虚言、入れ替え、考え得る限りのパターンが出し尽くされます。最終的な真実は、それら全てが収斂したともいえる、本格の鬼、芦辺拓に相応しい決定版なのですが、事件全体が凝った構造であるが故にこぢんまりとした、若干肩すかし的な感があることは否めません。
ここまでやったなら、最後まで思い切ってアクロバティックに、異次元が関与しないと実行不可能な超常的トリックを真相にしてもよかった気もしますが。

関係ないですが、私は「ループもの」を読んだり観たりするたびに、「正解にならなかった世界はこのあとどうなるんだろう?」ということばかり気になってしまいます。
物語の視点はあくまで主人公(語り手)の主観のみのため、「不正解(失敗)」の世界は途端に主人公の目の前から消えてしまいます。が、それはあくまで主人公の主観であって、例えば、海外旅行から帰り、海外の異国が自分の目の前から消え失せたとしても、その異国が消滅してしまうわけもなく、自分という主観がなくなっただけで、異国とそこに住む人々の生活は続いています。当たり前ですが。
本作の語り手、菊園が推理に失敗した平行世界では、真犯人が完全犯罪を成し遂げて悠々と暮らしているのかな。などと思いに耽ってしまいます。

No.2 5点 kanamori
(2015/04/18 22:00登録)
地検の菊園綾子は殺人犯とされた先輩検事の冤罪を晴らすべく、宿敵の弁護士・森江春策とタッグを組み、事件関係者が集まった”悠聖館”で起きた密室殺人の謎解きに挑む。トリックを解明し犯人を指摘したその時、時空が歪み、綾子は並行世界へ飛ばされてしまう-------。

容疑者が集う館での密室殺人というベタな本格ミステリの設定に、パラレルワールドというSF設定をぶち込んだ意欲的な作品。
探偵役が、関係者一堂を前に謎解きを披露すると、登場人物や状況が微妙に異なる平行世界にトリップし、また最初から謎解きをやり直すという、見方によってはギャグのような展開が繰り返される。西澤保彦の「七回死んだ男」の”探偵役ヴァージョン”と言えなくもない。
各世界で微妙に状況が変化しているので、密室殺人のトリック解明も異なり、多重解決となっているが、どれも新味のないものばかりなのが残念だ。それらを収斂させた真相というのが作者の狙いというのは分かるが、凝ったわりにはそう面白いとは思えなかった。

No.1 4点 yoshi
(2014/09/05 12:37登録)
あとがきで作者は、この作品の構想を思いついた時、
「こういうのはまだ誰もやっていないとほくそ笑んだ」と書いている。
構想時にはそうだったのかも知れないが、
正直今やこうしたタイムループもの、パラレルワールドものは、
巷に溢れかえっていて陳腐に思われるくらいである。
多重解決のその一つ一つもあまりパっとしない残念な出来。

5レコード表示中です 書評