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ミステリの祭典

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青い車さんの登録情報
平均点:6.93点 書評数:483件

プロフィール| 書評

No.363 6点 ダブル・ダブル
エラリイ・クイーン
(2017/03/08 19:33登録)
 童謡殺人テーマを大きく捻ったことでユニークな事件の構図を作り上げているのですが、いかんせんストーリーに盛り上がりがなく、引き込まれ夢中になるだけの魅力が欠けています。個人的にハマれなかった『盤面の敵』ほどではないにしても、やや趣向・仕掛けが不発気味に終ってしまっているように感じます。ピークを過ぎたクイーンの変化を付けようという試行錯誤や意欲は買われるべきだと思いますが。


No.362 6点 九尾の猫
エラリイ・クイーン
(2017/03/08 19:24登録)
 これほど人により評価の分かれる有名作も数少ないのではないでしょうか。登場人物表だけで犯人が割れてしまうなどと言われることもあり、これを名作と考えるか凡作と考えるかは読者の好みや懐次第と言えます。そして、個人的には凡作とまでは行かなくても不満が残る作品と捉えています。口に入れたものがあまりに予想外な味だったら美味しくても不味いと感じてしまうように、クイーンに求めるのはこれではなかったんですよね。そもそも高度な理解力を要する作品を楽しむにはある程度の素養が必要で、僕にはそれがまだ欠けていたのもあるかもしれません。いつか再読した頃には面白いと思えるようになりたいものです。


No.361 8点 招かれざる客たちのビュッフェ
クリスチアナ・ブランド
(2017/03/08 19:04登録)
 本格推理の名手ブランドは、短編を書かせてもハイレベル且つ多彩なアイディアの持ち主であることが存分に味わえる作品集です。白眉は『婚姻飛翔』。仮に今の作家が書いたとしても通用するほど、練られたトリックが光る毒殺ものの名作です。有名な『ジェミニー・クリケット事件』の高密度さもマニアには堪らないものがあります(しかも最後の一撃が強烈)。若干気取ったような文体でスラスラとは読みづらいきらいのあるブランドですが、ひとつひとつがサクッと読めてその醍醐味が味わえるこういった作品集こそ初めての人に読んでほしいです。


No.360 7点 太陽黒点
山田風太郎
(2017/03/08 18:48登録)
 下手なことを書くと大きくネタバレしそうなのであまり多くは語りません。ただ、「そう来たか!」と唸ること請け合いのテクニカルな作品であることだけは自信を持って言えます。しかし、本格マニア受けしそうな『明治断頭台』よりあまり大作感がないこれがランキング上位に来たのは意外でした。


No.359 4点 密室殺人ゲーム王手飛車取り
歌野晶午
(2017/03/01 22:48登録)
 人物を徹底してゲームの駒にすることでこちらに不快感を抱かせないのはうまい手ですが、個々のアイディアは酷くないでしょうか?とりわけ最初のミッシングリンク当ては100頁以上読ませといてしょうもない謎々に付き合わせられただけとしか感じられませんでした。『生首に聞いてみる?』のトリックも個人的には許容できません。意外ならなんでもいいという訳ではないでしょう。机上の空論と割り切って見てもキレが悪く、単純にミステリーとして失格に終わっている愚作としか思えませんでした。


No.358 7点 シャーロック・ホームズ最後の挨拶
アーサー・コナン・ドイル
(2017/02/25 15:30登録)
 『赤毛連盟』や『まだらの紐』クラスの決定打がなく、これまでのみっつの短篇集より大きく見劣りするのは確かです。それでも、『ウィステリア荘』ではオーソドックスながらそこそこ楽しめ、『悪魔の足』ではホームズの人情が垣間見えるなど、全体を通してもさほど悪い出来とは思いません。第一短篇集の衝撃と比べるせいで不当に評価を落としているきらいはないでしょうか?あと、光文社版ではシドニー・パジェットによる挿絵も見ることができお得です。


No.357 7点 バスカヴィル家の犬
アーサー・コナン・ドイル
(2017/02/25 15:20登録)
 古き良きアドベンチャー小説とでも呼ぶべき趣があり、事件や謎の配置も鮮やかで読者サービス満点です。ワトスン単独による捜査が丹念に描かれている唯一の長篇であることも特別な意味を感じます。オチが弱いところ(犯人の情報が後出し)を除けば文句なしです。


No.356 7点 さらば愛しき女よ
レイモンド・チャンドラー
(2017/02/25 15:13登録)
 村上春樹訳による『さよなら、愛しい人』の題で読みました。てっきりマーロウの恋がテーマなのかと思っていたのですが、とんだ早とちりでした。『長いお別れ』よりかプロットがわかりやすく、ラストの展開も読み手を引きつけてくれます。推理小説を語るならチャンドラーくらい押さえてなきゃ、程度の気持ちで手を付けたのですが、単なる勉強のテキスト以上に充足感がありました。


No.355 8点 過ぎ行く風はみどり色
倉知淳
(2017/02/24 19:26登録)
 あるひとつの仕掛けが明らかになることで事件の謎が氷解するのがよく出来ています。かといって強引な力技感はなく、タイトルの爽やかさからの印象を裏切らない、軽やかに決まった秀作です。殺人が起こる割に不必要な陰惨さがなく、よけいなサイド・ストーリーをほとんど挟まずすっきりわかりやすいプロットになっている所も好ましいです。暖かみのある読後感も手伝って、まさに倉知淳の代表作に相応しいと言えます。


No.354 5点 ウインター殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2017/02/24 19:13登録)
 まだストーリーの肉付け前で、梗概のような状態のまま発表されたヴァン・ダインの最終作。トリックらしいトリックがなく、今の読者が満足できるレベルには残念ながら達していません。完成形でないために情景描写に浸れないのも寂しいです。これまで時として疎ましく思う場面もあったヴァンスの皮肉な薀蓄やセリフ回しがないのも、それはそれで味気なく感じました。せめて完全に出来上がるまで作者には頑張ってもらいたかった、と思うと心残りです。
 図書館で借りるなどしてヴァン・ダイン全作をコンプリートしましたが、有名な『僧正』『グリーン家』だけの作家ではないことがわかりました。『ベンスン』や『カナリヤ』などはファイロ・ヴァンスのキャラが楽しめ、『カブト虫』『ケンネル』『ガーデン』ではテクニックが冴え、『ドラゴン』『カシノ』『誘拐』でもそれぞれ他にはない趣向を凝らしています。傑作ぞろいではないにしても時間と興味がある人にはぜひ体験してほしい作品がそろっています。


No.353 4点 グレイシー・アレン殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2017/02/24 18:56登録)
 ヴァン・ダイン12長篇の中で一番の失敗作はこれだと思います。作風とミスマッチな人物がいるだけでなく、その人物を十分活かせず散漫な印象の話になってしまっているのが大きな減点要素です。完全に映画化目的で書いたということもあってか、作者の気合が感じられない、やっつけ仕事的な出来に終わってしまった感があります。


No.352 6点 誘拐殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2017/02/24 18:46登録)
 9作目の『ガーデン』までならともかく、この『誘拐』以降は大方の人から「駄作ばかり」と言われがちで、本作の発表当時の評判も散々だったとのことです。しかし、僕はそれほど酷い出来とは思わない、それどころか結構好きです。プロットは常套的といば常套的で、ヴァンス独特の推理も見られないなど難点は多いものの、作者の新たな路線を打ち出そうという苦心の跡である、誘拐殺人を扱ったユニークさは素直に面白いと言えます。とりわけ、ヒース部長が『ベンスン』の頃とは比べものにらないほど魅力的になっているのが感じられる銃撃戦のくだりがツボでした。というわけで、個人的には少なくともこの10作目までは読んで損はないと主張したいです。


No.351 9点 さむけ
ロス・マクドナルド
(2017/02/20 18:47登録)
 以前、ハメットのサム・スペードを散々腐したことがありましたが、むしろ個人的にはキャラが弱いとされるアーチャーの方がよほどクールに思えました。本作はとりわけハードボイルドが本格と融合した名作として高く評価したいです。
 なんといってもラスト数頁のおぞましさが凄まじく、犯人の正体とその異常性が剥き出しになる様にはゾクリとさせる魔力があります。原題は『THE CHILL』とシンプルで邦題も直訳といえばそうなんですが、『寒気』でなく『さむけ』なのもミソ、と考えるのは僕だけでしょうか?


No.350 7点 長いお別れ
レイモンド・チャンドラー
(2017/02/20 18:32登録)
 チャンドラーの表現方法は最初は苦手としていたのが正直なところです。本作も数年前読んだきりほったらかしでした。ところが今回、再読時に思いのほかその世界観・探偵フィリップ・マーロウの生き様にグイグイ引き込まれました。
 男女のロマンスを絡めた作品はいくつかあっても、「男と男の友情」をメインテーマとしたものは『長いお別れ』を除いて他に知りません。初読時にピンとこなかったマーロウの己の美学を貫く姿も、ホームズ、ポアロ、エラリーと一味違う魅力として今回はすんなり受け入れられました。
 あと、本作の大きな楽しみのひとつはマーロウの名台詞の多さ。「アルコールは恋愛のようなものだね」「ギムレットには早すぎる」「ぼくなんか新しいおもちゃをあてがわれた子供です」など、これがさらりと言える奴はなかなかいない、けど言えたらカッコいい、そんなものが目白押しです。
 ハードボイルドは英語で読んだ方がはるかに面白いとよく聞きます。自分の英語力では100パーセント楽しめないことだけが残念です。


No.349 5点 松谷警部と目黒の雨
平石貴樹
(2017/02/13 18:52登録)
 生真面目でかっちりした造りなんですが、突出したセールス・ポイントに欠ける印象で、たとえば「犯人は〇〇だから△△に気が付かなかった」というロジックには同じようなものを以前読んでしまっていたので、あまり引きつけられませんでした。この時代に都市を舞台にしたストレートな本格を書いてくれた心意気は買いたいのですが、もうひとつは目新しさが欲しかったですね。


No.348 6点 御手洗潔のメロディ
島田荘司
(2017/02/13 18:44登録)
 やっぱり島田荘司は長篇の方がいい、と思う反面、『SIVAD SELIM』のような非ミステリーに近い作品が案外面白かったりします。直球の本格と呼べるようなものは少なく、『IgE』がいちばん正統的で驚くと同時に感心させられます(単体で見たらむしろかなり変化球なんだけど)。御手洗&石岡ファンの方なら最高に面白いのでしょうが、このサイトの趣旨に則ったらこの点数かな。


No.347 7点 マジックミラー
有栖川有栖
(2017/02/13 18:34登録)
 なんとなく予測しやすい犯人ですが、意外な犯人よりも有栖川作品では珍しいハウダニット、それもどちらかと言えば派手になりにくいアリバイ・トリックで魅せる作品です。実現可能かどうかはともかくとして、あまり類を見ない方法による工作は種明かしされた瞬間の快感にたまらないものがありました。
 もうひとつの見どころは密室講義ならぬアリバイ講義のトリック分類と解説で、実に興味深く読めました。まあ、「あの作品にアリバイってそんなに重要だったっけ?」と作品名のネタバレを見ても思い出せなかったものもありましたが。


No.346 8点 宿命
東野圭吾
(2017/02/13 18:23登録)
 リーダビリティーの圧倒的な高さは今さら言及するまでもないことですが、それでありながらしっかりした内容が伴っていて、薄っぺらに終わらせないところが流石です。勇作や晃彦などの人物造形も魅力的で、トリックらしいトリックのない単純極まる犯行でありながら、背景のストーリーの厚みにはそれを補って余りあるものがあります。東野さんの初期の中でもかなり高ランクに位置する秀作といっていいのではないでしょうか。


No.345 7点 さよなら妖精
米澤穂信
(2017/02/13 18:10登録)
 ほろ苦い青春小説要素+ライトな推理小説要素の調和がいいですね。最初の方はもちろん、特に終盤の畳み掛ける推理と感動を残す結びが端正な文体で綴られていて、心地よさを感じる一作です。作者の将来性が垣間見える出来で、10年近く経って主要人物が再登場を果たしたあたりからも、特別な地位を占めています。


No.344 6点 御手洗潔のダンス
島田荘司
(2017/02/10 16:28登録)
 『山高帽のイカロス』のいかにも島田荘司らしい振り切れっぷりは無茶だとは思いつつもやはり面白いです。ただ、それ以上に『ある騎士の物語』のトリックと心暖まるオチのバランスの良さの方が個人的に好みでした。『舞踏病』は発端の謎がおまけのようなかたちで終わってしまっているのがやや残念。ラストに石岡による近況報告が読めるサービスが一番楽しめたかもしれません。

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