home

ミステリの祭典

login
青い車さんの登録情報
平均点:6.93点 書評数:483件

プロフィール| 書評

No.123 8点 満潮に乗って
アガサ・クリスティー
(2016/02/22 22:42登録)
読み返してみると、事件のプロットがけっこう入り組んでいることに気づきました。派手さはないものの、大小のトリック、意図せぬ偶然が絡み、すべての真相を見破るのはかなり困難と思われます(アリバイトリックはさらりと描かれていますが、なかなか巧妙)。若い男女のロマンスはクリスティーが得意としたテーマで、何度となくやっていることなのですが、飽きずに読ませることに成功しています。今回はとりわけローリイの頼りなさ、優柔不断さが目立ちますが、僕は同性として現実の男ってこんなもんですよ、と言いたいです。爽快で微笑ましい結末も素晴らしい秀作。


No.122 10点 ABC殺人事件
アガサ・クリスティー
(2016/02/21 21:32登録)
 ちょっと高得点すぎるかもしれませんが、大好きな作品なので。リアリティはまるでない事件ではあるものの、だからこその魅力というか、なんでもアリの推理小説のロマンが詰まっています。スピーディーかつサスペンスに溢れた展開は現代でも模範となるものといっていいのでは?クリスティーにしては珍しいサイコ・キラーものですが、陰惨さはなく、あくまでもプロットに勢いをつける効果を果たしているのも素晴らしい。そして何よりもポアロの「フェアではない」という犯人への糾弾の言葉、爽快な結末は最高です。
 もうひとつ。この『ABC』には同じクリスティーに原型とでもいえる作品が存在するのは衆知のことです。つまり本作は下手すれば「焼き直し」「二番煎じ」と評されかねません。ただ、クリスティーは元ネタにさらにスケープゴートの用意というネタを加えることで完成度を高めています。見事な発展を遂げた名作です。


No.121 8点 二の悲劇
法月綸太郎
(2016/02/21 21:15登録)
一人称の『一の悲劇』と打って変わって、本作はあまり見られない「二」人称のパートが含まれています。男女の哀しきすれ違いが生み出したせつないラヴ・ストーリーであり、残念ながらあまり本格ミステリーらしい要素はありません。しかし、叙情的な描写にぐいぐい引き込まれ、そこそこの分量をあっという間に読めてしまいました。ハッピー・エンドとは程遠いのに美しい余韻を残すのも素晴らしいです。プロトタイプの中篇『トゥ・オブ・アス』も読みましたが、このストーリーを堪能するなら、やはりこの長さが必要だと思います。
それと、あとがきではかなり自虐的になっている法月さんですが、ファンとしてはもうちょっと自信を持ってくれと言いたくなりました。


No.120 8点 福家警部補の再訪
大倉崇裕
(2016/02/21 20:50登録)
全体的に前作より読み応えが増していると思います。コロンボが自分の従兄弟やカミさんの兄弟の話を持ち出すように、福家警部補には映画マニア、寄席演芸に詳しい、アニメ好きなど多趣味という特徴があります。また、刑事コロンボでお決まりだった、警察手帳を出すまで刑事と信じてもらえないくだりはそのままで、読む度ににやにやしてしまいます。今では謎解きを中心に据えた倒叙ミステリーに拘ったシリーズは希少なので、気になる方には読んで損はないと言いたいです。
以下、各話の感想ですが刑事コロンボのネタバレを含んでいます。

①『マックス号事件』 明らかに設定は『歌声の消えた海』のオマージュです。気の利いた手がかりがしっかりあり、決め手も秀逸。以前起きた事件が犯人の墓穴となる点は『悪の温室』っぽくもあります。
②『失われた灯』 人気脚本家らしい、芝居がかった筋書きの殺人計画。コロンボでも偽装誘拐殺人はありましたが、これは犯人自身が被害者を演じる点がポイントです。決め手は『黄金のバックル』の引用と思われます。
③『相棒』 作者のコメントによると、犯行方法は『忘れられたスター』の木に登ることから連想したものとのこと。情に訴えた解決は不満な人も多そうですが、たまにはこんなのがあってもいいと思います。
④『プロジェクト・ブルー』 文庫版扉のあらすじにもありましたが、フィギュアへの愛故に犯行を認めざるを得なかった、犯人の矜持が魅力的です。ドラマ版では犯行方法を始め大きな改変があったらしく残念。


No.119 7点 福家警部補の挨拶
大倉崇裕
(2016/02/21 19:02登録)
刑事コロンボの大ファンで有名な作者が生み出した女性刑事・福家警部補の、シリーズ第一短篇集。パラパラ読み返してみると、ところどころにコロンボの諸作品を想起させる手がかりやネタが散りばめられており、楽しい発見が多いです。どの犯人にも何らかの魅力があるのが素晴らしいです。
以下、各話の感想ですが刑事コロンボのネタバレも含まれています。注意してください。



①『最後の一冊』 本を愛する犯人の心理から必然的に生まれた決定的証拠が鮮やか。ひとつひとつの手がかりは小粒ですが、シリーズ第一作としてはよくまとまった良作です。
②『オッカムの剃刀』 口封じの第二の殺人という展開は『構想の死角』や『二枚のドガの絵』を想起させます。決め手は『逆転の構図』に近いパターンで、メガネやタバコなど緻密な推理の積み重ねも似ています。
③『愛情のシナリオ』 飼っていた小鳥がポイントとなるところは『黒のエチュード』のオマージュでしょうか。本作では決め手もその小鳥絡みのもので、電話の証拠は手堅いです。
④『月の雫』 酒蔵を守るための殺人、というテーマは『別れのワイン』のオマージュでしょうが、決め手は『祝砲の挽歌』に近いです。この犯人も魅力的。


No.118 9点 乱れからくり
泡坂妻夫
(2016/02/21 18:09登録)
泡坂流の独創的なアイディアが満載です。犯人の特殊な設定もさることながら、それを支える意外にロジカルな推理に驚かされます。この作品に限らず、あまりガチガチのパズラーのようには見えないのに、自然に伏線を張り巡らしてみせる手腕は作者ならではです。他にも複雑な迷路がちゃんと意味を持ってトリックのひとつになっているなど、見どころが多く『11枚のとらんぷ』と双璧をなす傑作長篇です。


No.117 8点 11枚のとらんぷ
泡坂妻夫
(2016/02/21 17:53登録)
真ん中に挿入されている掌篇それぞれのカード・マジックのタネがどれも秀逸です(特に相手がはめられたと気付かない心理トリックは出色)。そして、そのすべてがしっかり事件の鍵を握る伏線となっている無駄のなさもいいです。とぼけたようなユーモアから緩いタッチの作品かと思いきや、意外にも緊密な部分もあり、気が抜けません。作者の柔軟な発想によるトリックの創造力が味わえる傑作です。


No.116 8点 半落ち
横山秀夫
(2016/02/21 17:23登録)
読んでいる間は夢中になりました。本格系ばかりでなく、警察小説のジャンルも読んでおこうという気持ちで手にとったのですが、五人の人物の視点で描かれる骨太なドラマは重厚で大満足です。犯人も動機も最初から明かされ、「彼はなぜすぐ自首しなかったのか」をめぐる謎だけでここまで読ませるのは驚異的です。あとから思い返すと、暴力も厭わない志木刑事のキャラクターが好きになれなかったこと、最後唐突に真相が語られるところなど、粗がないこともないのですが是非他の横山作品も読みたいと思わされました。


No.115 8点 凶鳥の如き忌むもの
三津田信三
(2016/02/21 17:08登録)
トンデモ系の大トリックは賛否が分かれそうですが僕は支持します。人間消失の謎として、これまでになかったアイディアではないでしょうか。きっちり鳥坏島を活かしたトリックであるのもプラスに評価。それにこの現代に横溝正史の発展形のような、村や孤島を舞台にした本格ミステリーが読めるだけでありがたいです。犯人の意外性は控えめですが、やはり後半に行くほど加速する面白さは健在です。


No.114 9点 中途の家
エラリイ・クイーン
(2016/02/20 22:12登録)
散々言われていることではありますが、初期のクイーン作品より人物描写の深みがぐっと増しています。それに加え、中期以降薄れていったパズラーの魅力も損なわれることなく盛り込まれた、非常にバランスのいい作品。個人的に国名シリーズのAクラスの作品群に匹敵する傑作として推したいです。マッチ、コルク、ナイフといった何でもなさそうな物証から思わぬロジックで犯人の特性を導き出す推理は、最初期のたとえば『フランス白粉』『オランダ靴』を思わせます。特にマッチの本数から、当然付随すべきあるものの存在について考察する推理には感動を覚えました。タイトルがまえがきで触れられた『スウェーデン燐寸の謎』でもまったくおかしくないほど上質の本格推理小説であり、国名シリーズが気に入った、という人に是非お勧めしたいです。


No.113 8点 スイス時計の謎
有栖川有栖
(2016/02/20 21:18登録)
以下、各話の感想です。
①『あるYの悲劇』 他の人の評価はあまり芳しくないものの、僕はかなり好きです。ある誤認と特殊な形式のダイイング・メッセージとが相まって、意外な解決を見せてくれます。
②『女彫刻家の首』 首切りの理由が弱いことも不満ですが、それ以上に首をすげ替える必然性がぼやけたままなのがスッキリしません。これはやや落ちる出来かも。
③『シャイロックの密室』 専門知識がないのでこのトリックの実現性はわかりませんが、発想はなかなか悪くないです。しかし、タイトルにシャイロックと付けるメリットが見当たらないのは難です。
④『スイス時計の謎』 まず、現場の状況から容疑者を五人に絞り込み、そこからさらに腕時計というアイテムひとつから唯一無二の犯人を特定する、二段構えの推理が冴えわたっています。国名シリーズにあやかったタイトルに恥じない、まさにクイーン的な傑作。

何と言っても④の素晴らしさに尽きます。ワン・アイディアの短篇もいいですが、やっぱり有栖川さんが本領を発揮するのはこれくらいのヴォリュームの作品だと思います。あとはちょっと見劣りしますが、①もお気に入りです。


No.112 6点 レイトン・コートの謎
アントニイ・バークリー
(2016/02/20 15:48登録)
銃弾や書類など、ストレートなミステリーらしい手がかりは見られますが、密室の脱力ものの解決にはがっかりでした。しかし、そこはバークリー、ミステリーの骨格をしながらミステリーを皮肉ったものとして見れば傑作といえるでしょう。お粗末なトリックは言い換えれば非常に現実的なものでもあります。そして、当時としては斬新だったであろう犯人の設定と、探偵シェリンガムのモラルを疑う対処が何と言っても見どころです。


No.111 7点 ジャンピング・ジェニイ
アントニイ・バークリー
(2016/02/20 15:28登録)
今回は刑事コロンボや古畑任三郎みたいに、最初に誰が殺したのかを半分ばらした珍しい形式になっています。探偵が真相をねじ曲げたり、あわや犯人にされかけたりと、バークリーらしい一筋縄ではいかない展開は健在。そしてアンフェアぎりぎりの種明かしをする結末には愕然となりました。ただし、アンチ・ミステリーとして意義ある内容ではありますが、変格的な内容で素直に楽しめたかというと疑問が残るので極端な高評価は控えます。


No.110 8点 満願
米澤穂信
(2016/02/20 15:11登録)
警察官の救いようのない腐敗を描いた『夜警』。他人の絶望を前にした人の無力さを痛感する『死人宿』。歪んだ親子間の愛情に恐怖を覚える『柘榴』。信念が引き起こした殺人が意外な形で暴かれる『万灯』。一見無関係な点と点がおぞましい真相で結びつく『関守』。そして、ひとりの女性が守ろうとした物をめぐるホワイダニット『満願』。
いずれも高水準の短篇集です。米澤穂信の端正で読みやすい筆致が冴えた最高の作例で、このミス一位も納得のクオリティ。やはりベストは『満願』かな。次にお気に入りなのは『柘榴』か『関守』。


No.109 7点 マレー鉄道の謎
有栖川有栖
(2016/02/19 22:47登録)
異国情緒漂うストーリーがいいですね。そこを舞台に火村とアリスが活躍するだけでファンとしては嬉しくなります。内容は密室トリック一本勝負なのにそれなりのヴォリュームを面白く読ませてくれるのは、やはりプロットの完成度の高さが故でしょう。ダイナミックな目張り密室の種明かしも面白く、間違いなく作者の代表作に数えていいと思います。


No.108 4点 ペルシャ猫の謎
有栖川有栖
(2016/02/19 22:27登録)
以下、各話の感想です。
①『切り裂きジャックを待ちながら』 トリックらしいトリックはなく、動機もとって付けたような印象です。お世辞にも成功したとは言い難い出来だと思います。
②『わらう月』 トリックの着想自体はいいのですが、作者の短篇に悪い意味でありがちなストーリーの膨らみのなさが気になる作品です。
③『暗号を撒く男』 軽い推理クイズ的な謎を扱った作品。短いのであまり気にはなりませんが、薄味な印象。朝井小夜子とアリスの掛け合いを楽しむべきですかね。
④『赤い帽子』 警察の機関誌に載ったということもあってか、本格ミステリーというより警察小説に近いかも。ただし、そう捉えても森下刑事が活躍する以外にあまり特筆すべき点がありません。
⑤『悲劇的』 これは火村英生という男のキャラクターを示した掌篇として見るべき。個人的にこういうおまけが読めるのは嫌いではないのですが、不要という人も多いのはしょうがないところです。
⑥『ペルシャ猫の謎』 ミステリーのタブーを犯してしまった問題作で、優等生的な印象の有栖川さんらしからぬ作品です。トリックは麻耶雄嵩さんがメルカトル鮎に解かせているかのよう。
⑦『猫と雨と助教授と』 おまけで読めるボーナストラック。⑤と同様蛇足と捉える人もいるかもしれません。

全体的に不満が多い短篇集です。これまでは一冊に最低ひとつは秀作が収録されていたのですが、今回はどれも面白みを欠いています。本格ミステリーとはいえないようなものもあって頂けません。ファンとしては心苦しいですが採点は辛くなってしまいます。


No.107 5点 英国庭園の謎
有栖川有栖
(2016/02/19 21:52登録)
以下、各話の感想です。
①『雨天決行』 文筆業特有の知識をトリックに使ったのがユニークです。ただ、ワンアイディアに頼っていて深みに欠けるのも確か。
②『竜胆紅一の疑惑』 疑心暗鬼になった売れっ子作家の被害妄想、だったはずが意外な結末を見せてくれます。奇妙な動機の新たなヴァリエーションです。
③『三つの日付』 この短篇集のベストと思います。予期せぬ複数の錯誤によって成立したアリバイ・トリックのキレは抜群。もしもう一つか二つ捻りがあったならばもっと面白くなったかもしれません。
④『完璧な遺書』 発想は悪くないものの、説得力が弱い解決です。最後の犯人の独白のように火村がいじって捏造した、と逆襲されるのでは?
⑤『ジャバウォッキー』 言葉遊びを多用した謎解きはなかなか面白いです。ただし、これもやや小粒なのは否めません。
⑥『英国庭園の謎』 魅力的なタイトルの表題作なのですが、一番不満な出来かもしれません。現代のミステリーで暗号ものをやるには、よっぽど捻ったものにするか、プラスアルファの見せどころが必要と思います。これは100頁持たせるにはあまりに物足りないです。

キレのある短篇も見られますが、表題作の不満が強く高評価は付けにくいです。個人的ベストは③。それに②か⑤が続く感じです。


No.106 8点 囁く影
ジョン・ディクスン・カー
(2016/02/18 23:03登録)
塔の頂上というあまり見慣れない密室状況を扱っていますが、実に手堅い解決でカー中期の円熟味が感じられる内容です。全体として闇夜の暗い雰囲気の印象が強く、怪奇性も知的な謎解きを侵食しない程度に利いています。一部の登場人物の出現の仕方にご都合主義的なところもありますが、個人的には許容範囲です。また、比較的短めにまとまっているのも好感が持てます。


No.105 8点 緑のカプセルの謎
ジョン・ディクスン・カー
(2016/02/18 22:50登録)
 『皇帝のかぎ煙草入れ』と同様、あまりカー特有のケレン味がない作品です。しかし、大胆なトリックが巧妙な伏線と相まって意外な合理性をもっているという点では、最高にカーらしい作品とも言えるかもしれません。駄菓子屋のチョコに毒入りのものを混ぜたトリックはシンプルな手品的手法ですが、その犯人を示唆するロジックが気が利いています。そして何より、何人もの目の前で無理やり毒を飲ませる殺害トリックは十分フェアであると同時にインパクトも抜群です。総じてバランスのとれた傑作だと思います。


No.104 8点 犯罪ホロスコープⅡ 三人の女神の問題
法月綸太郎
(2016/02/18 21:30登録)
 より玄人受けする『ノックス・マシン』の陰に隠れてしまいましたが、実は2014年版本格ミステリベスト10で第5位だった短篇集。前半六作より謎解きが高密度で上質な短編がそろっています。個人的ベストは『錯乱のシランクス』。
以下、各話の感想です。
①『宿命の交わる城で』 作者お得意の交換殺人テーマをうまく料理しています。複雑な構図なので流し読みには向かない作品。
②『三人の女神の問題』 ケータイの通話履歴という現代的な手掛かりから、ロジカルな推理を展開してみせる手際がさすがです。ミステリーの21世紀における可能性が垣間見えた気がします。
③『オーキュロエの死』 緊密なプロットの構築度はこの連作中一番だと思います。最後に浮かび上がる犯人の切ない思惑が何とも言えない余韻を残します。
④『錯乱のシランクス』 ダイイング・メッセージの捻りっぷりに心酔しました。ただ、飛躍気味な部分もあるので気に入らない人もいるかもしれません。
⑤『ガニュメデスの骸』 殺人事件の犯人当ては完全におまけで、奇妙な誘拐事件の謎を中心に据えた異色作。非本格な内容ですが、この作品が入っていることでこの本のヴァラエティが広がっています。
⑥『引き裂かれた双魚』 不穏なストーリー運びに戸惑いましたが、全ての謎が解けた後の母親の狂気とやりきれない結末が印象的です。

483中の書評を表示しています 361 - 380