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ミステリの祭典

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青い車さんの登録情報
平均点:6.93点 書評数:483件

プロフィール| 書評

No.183 8点 貴婦人として死す
カーター・ディクスン
(2016/05/22 15:17登録)
 崖から飛び降り心中自殺したはずの男女は至近距離から射殺された死体となって発見された……。不可能犯罪に新たなヴァリエーションを加えた作者の発想力に脱帽。トリックも現場の特性を活用した切れ味抜群の出来です。終盤からの犯人指摘の演出までサスペンスに満ちた、隠れた名作といっていいのではないでしょうか。


No.182 5点 春期限定いちごタルト事件
米澤穂信
(2016/05/20 23:17登録)
 小鳩くん、小佐内さんのコンビに好感を持てるかどうかが評価の分かれ目になっているようですね。僕は正直なところ後者かもしれません。どこか高慢な感じがちょっと鼻につくのは確か。ただ、『For your eyes only』など、(成功しているかどうかは別として)人間の機微を描こうという姿勢は高く評価したいです。日常ミステリーとしての出来は『おいしいココアの作り方』が抜きん出ており、単純な答が盲点になる典型を示していると思います。


No.181 6点 インシテミル
米澤穂信
(2016/05/20 23:00登録)
 クローズド・サークルが嫌いなわけではないのですが、「殺し合いをさせるため」に用意されたあまりに人工的な設定には抵抗があります。そのためかスリリングなはずの展開にあからさまなわざとらしさを感じてしまい、あまり恐怖にのめり込むことができませんでした。この作者の文章や登場人物の掛け合いには個人的に好感を持っていたので、惜しい作品です。初の米澤穂信作品としてはあまりお薦めできません。まずは『さよなら妖精』か『折れた竜骨』あたりを読むべきと思います。
 とはいえ、『僧正殺人事件』『Yの悲劇』『犬神家の一族』『緑のカプセルの謎』など、数々の名作のタイトルを知り興味を持つきっかけになったという意味ではとても思い出深い作品でもあります。


No.180 6点 犬はどこだ
米澤穂信
(2016/05/20 22:45登録)
 どこか乾いていて、さながらハードボイルドのような文体が気に入りました。それでいて、ネット上のトラブルが事件の発端となっている現代的な要素があるのも面白いです。スカッとした爽快感はないものの何とも言えない余韻の残るラストも印象的。シリーズ化を期待したいのですが、現在のところこの一作だけで止まっているので続篇はもう書かれないのでしょうか?


No.179 8点 ガラスの村
エラリイ・クイーン
(2016/05/20 17:01登録)
 先日図書館で借りて読んだ読み残していたエラリー・クイーン。この作品の頃になると、クイーンはストレートな本格ミステリーから遠ざかりドラマに重きを置くようになり、好みの違いはあれど謎解きの純度が落ちているのは概ねどのファンから見ても意見が一致しているようです。僕は比較的初期のパズラーを愛好していたのでこれはしっくり来ないのでは、と思っていました。ですが、読み終わったら大満足。思わぬ大当たりでした。
 淡々と村やその住人、事件の発生、裁判が描かれるため中盤にかけては正直退屈でした。しかし、主人公ジョニー・シンの無実の男を救うため立ち上がるクライマックスには大袈裟でなく感動しました。クイーンを読んでこんな感情を覚えるとは。知的好奇心から事件に首を突っ込む最初期のエラリーや、『Zの悲劇』でのドルリー・レーンとはその点比べものにならないカッコよさです。
 それでいてもうひとつの見どころは意外にも高水準な謎解き(作者の手にかかればこんなものが推理の材料になるのか!)。考えてもみれば自明のことなのになかなか気付けない、絶妙な難易度です。犯人の犯行経緯やアリバイトリックまで実に緻密に考えられています。長々と書きましたが、ファンならマイナーだからといってけして外せない作品とお薦めします。


No.178 7点 爬虫類館の殺人
カーター・ディクスン
(2016/05/18 23:25登録)
 カーター・ディクスン(ジョン・ディクスン・カー)の生んだ数ある密室殺人の中でも、一際異彩を放つ設定です。それまでも『赤後家』の毒殺を用いた密室という特例はありましたが、今回はガス自殺に見せかけたテープの目張り密室。不可能犯罪の大家も同じようなものばかりでなく、様々なパターンの密室に挑んでいたんですね。
 労力の割にあっさり他殺と見破られるなど、効率的なネタとは言い難いですがアイディアの面白さは抜群。トリックも奇想でありながら、さり気ないヒントの提示で、論理的な解決に成功しています。強いて弱点を挙げるとすれば若い男女のロマンスの描き方がクリスティーなどと比べてぎこちないところでしょうか。
 大山誠一郎さんが短篇で同じ目張り密室殺人をフェル博士に推理させています。こちらも面白いのでオススメです。


No.177 9点 刺青殺人事件
高木彬光
(2016/05/18 00:27登録)
・なんとなく地の文章が野暮ったく洗練されていない
・事件と推理を描くことにのみ注力されているため、物語として見ると起伏がない
・常太郎が唐突に現れるという都合のいい展開も気になる
・神津恭介は確かに頭脳明晰だが、それに比較して警察や松下研三が愚かすぎる
・犯人が読んでいる途中から露骨に怪しい

 以上のように難点が多い作品で、特に筆致の泥臭さはいかにもデビュー作という感じがします。それでも高得点を付けたいのは、密室の扱いのユニークさに感動を覚えたため。物理トリックと心理トリックを絡ませてみせたテクニックには作者の情熱のようなものが伝わってきます。みっつの殺人すべてを、ちょっとした不自然さに着目することで論理的に読み解いていくのもヴォリューム感たっぷりで贅沢です。そして何より、エログロの強烈なイメージを与える刺青というモチーフがすばらしい。『人形はなぜ殺される』と双璧をなす傑作といって差し支えないと思います。


No.176 10点 占星術殺人事件
島田荘司
(2016/05/16 22:57登録)
 今までどういう訳か書評を後回しにしていた大家・島田荘司氏の名作。
 某推理漫画を先に読んでしまったため、実はメイン・トリックは読む前から知っていました。そのため、僕はおそらく本来の半分くらいしか楽しめなかったでしょう。ただ、それでも最高クラスの傑作であることは間違いありません。書きっぷりの違いで、ここまでトリックの輝きに差があるのかと驚かされました。『異邦の騎士』でもそうでしたが、特に手記のパートの書き方がうまく、グイグイ引き込まれました。細かく、血の通った描写があるからこそ、冷静に客観視したらかなりやりすぎで大掛かりなトリックに違和感を感じさせないのでしょう。デビュー作からその根幹はぶれてないことを端的に示しています。30年を経てもけして古びていない名作で、国産ミステリーを語るなら外せない最重要作です。


No.175 9点 悪魔が来りて笛を吹く
横溝正史
(2016/05/16 22:32登録)
 まったくの私事ですが、ここ最近は就職活動であまり本を読んでおらず、投稿が減っていました。先日、ようやくひとつ内定が頂けたのでまた少しずつ書評していくつもりです。お目汚しですが宜しくお願いします。
 スケジュールに余裕ができたこともあり、まずこの『悪魔が来りて笛を吹く』を再読しました。記憶を補いながらの二度目の読書も十分楽しめました。この作品の書評で、ミステリーとして見るべきものが少ない、もしくはアンフェアといったご意見もけっこうあるようです。でも『悪魔が来りて~』の評価すべき点はそういう些末なことではないと僕は言いたいです。消えた椿英輔子爵をめぐる謎、密室殺人、東京を離れての捜査など、ストーリーは金田一シリーズ中出色です。後半に行くほど加速度的にサスペンスが増していきます。風神・雷神、悪魔の紋章、レコードなど小道具の扱いもすばらしく、文句なし。
 ただし、トリックの一部にタブーともいえる要素があるのが唯一マイナス・ポイントです。しかし、それを差し引いても全体からみなぎる雰囲気の形成は見事の一言で、おぞましい真相、鮮烈な幕引きに至るまで横溝のテイストがふんだんに詰まった傑作と思います。


No.174 10点 死せる案山子の冒険
エラリイ・クイーン
(2016/05/11 16:05登録)
 『ナポレオンの剃刀の冒険』と同じく、このたび再読。初期長篇で利用したアイディアをアレンジして取り込んだもの、中期以降のドラマ性を重視したものなど色んなクイーンの顔を見ることができてお得です。おそらく大衆受けを狙ってのものであろう、秘書のニッキイとじゃれあうエラリーの姿も見られます。
 このラジオ・ドラマ集でもうひとつ強調したいのは、飯城勇三氏による解説の面白さです。一見推理ものとしてはさびしいエピソードの意外な伏線のうまさや見どころが確認でき、それだけでなく各エピソードの弱点に関しても愛のある意見が見られます。
以下、各話の感想です。

①『<生き残りクラブ>の冒険』 クリスティーに先を越されたため没になった長篇のプロットを本作で使った、という説があるそうです。このアイディアを活かすには、ストーリー作りのうまいクリスティーの方が確実に向いているので、短めにまとめたかたちで発表したのは正解と言えるかも。
②『死を招くマーチの冒険』 解説にもあるように、きわめて論理的なメッセージの解明はクイーン的。しかし、このテーマだとどうしても推理がちまちまとなってしまい、爆発力という点で物足りないのは仕方がないところです。
③『ダイヤを二倍にする男の冒険』 ミスディレクションにより謎が深まっている不可能状況ですが、考え方を変えると実にシンプルな事件です。犯人のよけいな小細工が、逆に自分を犯人に直結させてしまっている皮肉にも面白いものがあります。
④『黒衣の女の冒険』 オカルト風の謎でも、そこはエラリー・クイーン、見事論理的に解決しています。しかし、関係者の職業から安直にあるトリックを想像していたのですが、エラリーにまっさきに排除されて恥ずかしかった…。
⑤『忘れられた男たちの冒険』 証拠の意外性と、短いならではのキレの良さ。単純にミステリーとしてならいちばん好きかもしれません。提示がさり気ないだけでなく、ちゃんとフェアプレイも両立させています
⑥『死せる案山子の冒険』 ロジックは国名シリーズ的な一方、一族の悲劇を描いているところには中期っぽい雰囲気もあります。特に血を流したカカシやパイプからは『エジプト十字架の謎』が、ストーリーからは『九尾の猫』が想起できます。
⑦『姿を消した少女の冒険』 のちの誘拐ミステリーの雛型と言えそうなプロットです。現に、僕の好きなクイーン・ファンの新本格作家はこれをさらに発展させたような長篇を書いています。今となってはさして意外な犯人ではありませんが、解説を読むと意外にも緻密に組み立てられたストーリーであることに気付かされました。


No.173 10点 ナポレオンの剃刀の冒険
エラリイ・クイーン
(2016/05/06 23:51登録)
 以前図書館で借りて既に一回読んでいましたが、このたび再読。そして改めてその造りの見事さに驚かされました。よくできたミステリーは二回読んで真価がわかるものと思います。クイーン作品のほとんどがそうで、事実この本もその例に洩れませんでした。どのエピソードも制作されたのが約70年前とは信じられないほど質が高く、音声のみという縛りがあるにも関わらず謎解きの内容にはパズラー作りのセンスが行き渡っています。特に気に入っているのは『殺された蛾の冒険』です。
以下、各話の感想です。

①『ナポレオンの剃刀の冒険』 知識による手がかり、状況の不自然さ、宝石の隠し場所、といった複数のアイディアが盛り込まれ、かつミスディレクションも巧みな佳作です。
②『<暗雲>号の冒険』 冒頭の何気ない会話が解決に不可欠なヒントになっているのが面白いところ。ただし、多くの日本人は気付けないだろうとも思います。
③『悪を呼ぶ少年の冒険』 トリッキーな事件の構図が目を引きます。まずほとんどの人が騙されるでしょう。動機があまり釈然としないところを除けば文句なしです。
④『ショート氏とロング氏の冒険』 チェスタトンの『見えない人』をベースに、より巧妙なアレンジを加えた作品です。タイトルからまったく別の不可能トリックを想像させてしまうのも見事。
⑤『呪われた洞窟の冒険』 メインのトリックは小さい頃推理クイズで見たことがあり、さほど驚きはありません。しかし、再読でその緻密な伏線の数々に気付き、傑作であると評価を改めました。
⑥『殺された蛾の冒険』 何でもないような物証から、犯行時間や犯人の細工をすべて暴いて見せるエラリーの軽やかかつスマートな推理は国名シリーズを彷彿とさせます。
⑦『ブラック・シークレットの冒険』 ③と同様、意表を突く犯人です。しかし、本作の見どころは三つの犯罪に三人の犯人という特殊な事件、そして意外な整合性をもったダイイング・メッセージにあります。
⑧『三人マクリンの冒険』 最後に収められているのはキレの良い推理クイズ的作品です。短い分量で証拠の提示も堂々としているので、きっと解ける人もいるはずと思います。


No.172 6点 しらみつぶしの時計
法月綸太郎
(2016/05/02 00:49登録)
 『パズル崩壊』以来のノンシリーズ短篇集ですが、極度にエッジの利いた部分がなくなったことで、安心感と同時に若干の物足りなさも感じます。それでも全体的に考え抜かれた短篇が揃っており、充実の内容なのは確か。個人的ベストはやはり表題作の『しらみつぶしの時計』ですが、リドル・ストーリーを主題にした『使用中』交換殺人テーマをアレンジした『ダブル・プレイ』論理パズルとして秀逸な『盗まれた手紙』などどの作品にも何かしら見るべきものがあります。ただ、都筑道夫のパスティーシュ風(僕は本家を読んだことがありませんが)だという『四色問題』に関しては、説得力が弱い解決で純粋にミステリーとして一枚劣ると思います。


No.171 7点 パズル崩壊
法月綸太郎
(2016/05/02 00:33登録)
 まず最初の『重ねて二つ』のぶっ飛んだトリックに度肝を抜かれました。これは本当に法月さんが書いたのか?と思ったほどです。そこから意外な証拠が決め手になる『懐中電灯』三重密室という趣向を奇妙に描いた『黒のマリア』など、様々な方向から攻めてくる短篇集。綸太郎シリーズでは自重していた冒険をしている、という印象です。個人的に心に残ったのは非ミステリーの『トランスミッション』でしょうか。独特の文体で綴られる平凡な男の奇妙な体験は普段、本業では書けないところだと思います。「こんなのも思いつくのか」と感心しました。ボーナストラックとして執筆を断念した長篇の第一章を載せるのは、ファンには嬉しいサービスですが蛇足と思う人もいるかも。


No.170 8点 怪盗グリフィン、絶体絶命
法月綸太郎
(2016/04/30 18:51登録)
 ポップでユーモア溢れる雰囲気というかタッチがとてもステキ。主人公グリフィンの小粋な語り口も魅力的で、僕の目から見てまさに理想的なヒーロー像です。最初から最後まで一貫して飽きさせない展開であり、まるで海外作家が書いたかのような洗練も感じます。
 推理小説的にも、子供相手と手を抜いてないところが好感がもてます。小学生高学年くらいの子には難しいかもしれませんが、繰り返し読み込んで楽しめると捉えれば欠点ではないでしょう。この本がきっかけでミステリーにはまる子が出てくれることを願います。


No.169 8点 りら荘事件
鮎川哲也
(2016/04/27 23:20登録)
 大トリックこそないものの、いくつものアイディアを複合させたパズラー好きにはたまらない作品です。毒殺トリックやトランプ、ペンナイフ、数字のメモといった小道具を駆使した謎解きには職人芸を感じさせます。伏線の張り方も丁寧(橘の釣果など)で、難易度は高いものの読者にも十分推理可能。特にトランプのトリックはこちらに自然と先入観を持たせる効果があり秀逸です。ただし、探偵・星影龍三がどうしても好きになれないこと、山荘ものにしては警察の導入もあるため切迫感が乏しいこと、期待していたほどのインパクトある技が見られなかったことなど不満もあります。


No.168 7点 葬儀を終えて
アガサ・クリスティー
(2016/04/27 22:32登録)
 メイン・トリックとそれに伴うミスディレクションの巧みさはクリスティー作品中随一。わかってしまえば実にシンプルな話なのに、読んでいる間はそれを悟らせません。そういう意味では『ナイル』に近いところがある作品といえるかも。
 それにも関わらず7点に留めたのは、ロザムンド、スーザン、マイクル、グレゴリー、ジェームズといった主要人物を頭の中で整理するのに時間がかかり、なぜか作者の小説にしては珍しく読みづらさを感じる部分があったためです。


No.167 6点 妃は船を沈める
有栖川有栖
(2016/04/26 20:35登録)
 短めの長篇というより中篇ふたつというべき編成なので、謎解きのヴォリューム感はあまりありません。しかしそのふたつの謎解きはいずれもなかなかの水準に達していると思います。
 『猿の左手』はトリックは新しくないものの扱い方が非常にうまいです。そして、それ以上に『残酷な揺り籠』の謎解きにはロジックへの並々ならぬ拘りが感じられます。怪奇小説について論理性を突き詰めた考察を披露するのも面白いです。
 褒めてばかりいますが、妃沙子のキャラクターの描き方がもうひとつなのが難点で、小説としては6点が妥当だと思います。


No.166 4点 海のある奈良に死す
有栖川有栖
(2016/04/26 20:24登録)
 作者のファンですが、こればかりは容認できないかなあ。特に例のトリックは大問題だと思います。同じようなネタは刑事コロンボでもありました。でも、コロンボの場合は冒頭からトリックを明らかにし、それを解く過程を見せるというフォーマットであるからこそさほど違和感を覚えないのであって、このようなストレートな本格として書かれた小説だと最後いきなり突飛な解答が飛び出す構造になってしまい、読者は置いてけぼりを食らってしまいます。
 小説としても不出来な部類で、クリスティーの名作をもじったタイトルはそそられるのに展開は起伏に乏しく、「海のある奈良」である福井などを描いた旅情ミステリーにもなりきれていません。有栖川さんは当たれば大きい作家なのですが、この出来はとても残念。


No.165 6点 生首に聞いてみろ
法月綸太郎
(2016/04/09 22:41登録)
 確かに長い作品です。表面的な派手さや外連味が薄いために、退屈に感じる人が多いのも当然と言えます。しかし、僕は「無駄に」長いだけではないと主張したいです。
 少し注意深く読み返してみたらば、緻密な伏線が張り巡らされている、引き締まった本格作品であることに気付くはずです。そして、最後に浮かび上がる真相は一際輝き、分量に見合っただけの内容であると感じられます。『ふたたび赤い悪夢』で克服したかに見えた家族悲劇にふたたび立ち向かい、打ちのめされる綸太郎の姿には何か意味を感じてなりません。
 ただ、ファンとしては支持したい作品ではあるものの、事件が一件だけであること、首切り殺人というテーマの割にさらりと犯人が判明・逮捕される演出の淡白さなど、(おそらく意図的であると思いますが)スピード感と迫力が不足しているのは否めないので極端に高評価はしづらいかな、というのが正直なところです。


No.164 5点 ノックス・マシン
法月綸太郎
(2016/04/09 21:52登録)
 正統な本格ミステリーを書くことに神経が使われている印象だった『生首』や『キング』と対照的に、この短篇集はマニアの遊び心の極みとでもいえるような書きっぷりです。ミステリーとSF、両方好きな人にのみ100パーセント楽しめるという内容はちょっと難があります。クイーンやクリスティー好きにはたまらない部分もあるものの、正直やはり作者に求めたいのはストレートな謎解き小説なので、個人的には手放しには歓迎できない感じですね。
以下、各話の感想です。

①『ノックス・マシン』 有名なノックスの十戒をモチーフに、タイムマシンを絡めたSF小説を仕立てた奇想作品。気の利いたオチも決まっています。
②『引き立て役俱楽部の陰謀』 有名な名探偵の助手たちが勢ぞろいした非常に楽しい一篇です(僕はワトスン、ヘイスティングズ、ヴァン・ダインぐらいしか知りませんでしたが)。アガサの失踪事件を『アクロイド殺し』のフェア、アンフェア問題とリンクさせたアイディアもいいです。
③『バベルの牢獄』 これはかなりSF寄りに傾いた作品。難解なワードがあまりに続出するため、こればかりは正しい評価はできません。ただ、トリックは初めて体験したパターンでした。
④『論理蒸発 ノックス・マシン2』 クイーンの国名シリーズ『シャム双子の謎』の、「消えた読者への挑戦」をモチーフにした作品。本格好きにはしびれる題材ですが、③同様かなり難解なのでちゃんと楽しめた自信はありません。

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