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ミステリの祭典

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パズル崩壊
法月綸太郎シリーズを含む短編集

作家 法月綸太郎
出版日1996年06月
平均点5.22点
書評数18人

No.18 6点 蟷螂の斧
(2017/09/15 13:05登録)
ホテルの部屋で切断された女性の上半身と男性の下半身が腰の部分でつなぎ合わされた惨殺死体が発見された。好みのサイコものか?と期待するも単純なパズルものでした。1992年から1995年に発表された短篇(パズル、オカルト風、パロディ、その他)です。パズルものの内容が、徐々にパズルものではなくなってゆく、さも崩壊していくような順に並んでいます。やはり白眉は「カット・アウト」ですね。「燃え尽きた残像」を改題したものですが、旧題の方がマッチしていると思います。ポロック氏の抽象画「カット・アウト」と原爆写真が謎に絡むところが印象的な作品。

No.17 7点 Tetchy
(2017/07/11 22:20登録)
パズルそしてロジックに傾倒する法月綸太郎氏の短編集だが題名はパズル崩壊。しかしこの短編集を指すにこれほど相応しい題名もないだろう。

各短編を読むとどこかいびつな印象を受ける。
例えば「重ねて二つ」はその動機と密室の必然性、そして犯人が警察の捜査中の現場に死体と共にいるなど、遺体の血液や死臭の問題など普通思いつくような不自然さを全く無視して、男女の遺体が上半身と下半身とで繋がれた死体が密室で見つかるという謎ありきで物語を創作したことが明確だ。次の「懐中電灯」は完全犯罪が切れた電池を手掛かりに瓦解するミステリでこれは実に端正なミステリであるのだが、その次の「黒いマリア」になると、亡くなった女性が葛城の許を訪れて解決した事件の再検証を求める、オカルトめいた設定になっているのだが、事件の内容とオカルト的設定がどうにも嚙み合っていない。これもカーの某作をモチーフにして強引に書いたような印象が否めない。

「トランスミッション」はどこか地に足が付かない浮遊感を覚えてしまう。そして「シャドウ・プレイ」はドッペルゲンガーをテーマにした自分の新作について友人に語っていくのだが、次第に虚実の境が曖昧になっていく。この辺からミステリとしての境界もぼやけてくる。

そして「ロス・マクドナルドは黄色い部屋の夢を見るか」ではパズラーの極北とも云える密室殺人が扱われているが、アーチャーシリーズやその他周辺の諸々を放り込んだそのパロディはその真相においてはもはやパロディどころかパズラーの域を超え、いや崩壊してしまっている。
かと思えば本書で最も長い「カット・アウト」には本来のロジックを重ねて法月氏独特の人の特異な心の真意を探るミステリが見事に表されている。

しかし問題なのは最後の短編「・・・・・・GALLONS OF RUBBING ALCOHOL FLOW THROUGH THE STRIP」だ。これはミステリではなく、法月綸太郎のある夜の出来事を綴った物語である。しかし本作こそ本書の題名を象徴しているようにも思える。

はてさてこれは悩める作者の世迷言か?それともミステリの可能性を拡げる前衛的ミステリ集なのか?もしくはパズラーへの惜別賦なのか?ともあれ奇書であることは間違いない。

現在の活躍ぶりと創作意欲の旺盛さから顧みると、本書は一旦法月綸太郎を崩壊させ、ロス・マクドナルドやチャンドラーなどの諸作をも換骨奪胎することで彼の本格ミステリを再構築させたのだ。つまり本書は現在の法月氏への通過儀礼だったのだ。今ではその独特のミステリ姿勢から出せば高評価のミステリを連発する法月氏だが、この世紀末の頃は悶々と悩んでいた彼の姿が、彼の心の道行が作品を通じて如実に浮かび上がってくる。これほど作者人生を自身の作品に映し出す作者も珍しい。一旦崩壊したパズルを見事再生した法月氏。つまり本書はその題名通り、本格ミステリの枠を突き抜けて迷走する法月氏が見られる、そんな若き日の法月氏の苦悩が読み取れる貴重な短編集だ。

こんな時代もあったんだね。

No.16 4点 take5
(2016/09/22 22:34登録)
点数が低いのは好みの問題です。
生首とかよりマニアックなのが多くて…
①は開始3分で分かるトリックで、②からどんどん一般的な推理入門から離れていく感じでした。
好きな方はめっちゃ好きなのではないでしょうか?

No.15 6点 名探偵ジャパン
(2016/07/31 17:10登録)
先に書いたものが私のNo.100の書評だと、投稿してから気付きました。
(よりによって「ノックス・マシン」が記念の100番かよ……何かレジェンド作品にするか、有栖川ものを解禁して書きたかった……)
失礼、心の声が漏れました。
しかしながら、次に書こうと思っていた作品が、同じ法月作品の「パズル崩壊」であり、しかもここに、復活した角川文庫版での解説で大森望が書いているように、「ノックス・マシン」の萌芽がすでに認められていたことを発見し、これは運命的なものだったのだと思いました。

収録作の、「重ねて二つ」「懐中電灯」「黒のマリア」までは、オーソドックスな(若干変化球ですが)本格が続きますが、四作目の「トランスミッション」から、まさにギアチェンジしたかの如く、本格ミステリに片足は残しながらも、もう片方の足はその場所から大きく離れていくのです。股裂き限界まで。
特に「ロス・マクド(以下略)」は、「ノックス・マシン」収録の問題作「バベルの牢獄」を想起させます。

しかし相変わらず法月は、展開に直接関係のない作中周辺の事柄まで、(恐らく稿量の許す限り)逐一本文に書き込んできます。(七作目の「カット・アウト」とか凄いよ)
「読者が読み飛ばしてしまうようなことでも、取材で得た情報を書き込むことで作品にリアリティが生まれる」と言ったのは作家の森村誠一ですが、確かに、「こういうことあった、ありえたかも」という問答無用のリアリティが「カット・アウト」にはあります。他の作品もかくの如し、です。
「法月先生、二十年前から変わってないんだなぁ」と、変に安心しました。

「パズル崩壊」とは、言い得て妙というか、取りようによっては自虐的な(法月のキャラクターらしい)タイトルです。
最後に収録された、「……GAL(以下略)」が、「構想中の長編の冒頭部分」というのも、他の作家がやったら「何だよ真面目にやれ」と言いたくもなりますが、法月なら、「んー、許す」となってしまいます。(しかもこのプロットは、大作「生首に聞いてみろ」に取り込まれ、消滅してしまったそうです)

「探偵綸太郎もの」の短編集のような、明るく快活で万人が楽しめる本格ミステリとは違う、「ブラック法月」の神髄をこの短編集に見ました。

私は「悩めるミステリ作家 法月綸太郎」というキャラクターが大好きですので、若干甘めな採点になってしまったかもしれませんが、皆さんは、まかり間違っても、「ねえ、何か面白いミステリない?」と訊かれたご友人に、本作をお勧めしてはいけません。

No.14 6点 まさむね
(2016/05/29 23:00登録)
 8作で構成されるノンシリーズの短編集。最終話のみ法月綸太郎センセが登場するのですが、これは書きかけ長編の第1編のみが掲載されているものであって、探偵役にすらなっていない(謎すら提起さていない)段階のもの。したがって、ノンシリーズの短編集と言って差し支えないでしょう。
 内容としては、思ったよりも崩れていなかったなぁ…という印象。確かに、読み進めていく順に変格度が増してくるのですが、骨格はしっかりしているので、むしろ、変化が楽しめたとも言えます。「トランスミッション」、「シャドウプレイ」辺りが好み。決して読みやすいとは言えないけれど、「カットアウト」も印象に残りそうかな。

No.13 7点 青い車
(2016/05/02 00:33登録)
 まず最初の『重ねて二つ』のぶっ飛んだトリックに度肝を抜かれました。これは本当に法月さんが書いたのか?と思ったほどです。そこから意外な証拠が決め手になる『懐中電灯』三重密室という趣向を奇妙に描いた『黒のマリア』など、様々な方向から攻めてくる短篇集。綸太郎シリーズでは自重していた冒険をしている、という印象です。個人的に心に残ったのは非ミステリーの『トランスミッション』でしょうか。独特の文体で綴られる平凡な男の奇妙な体験は普段、本業では書けないところだと思います。「こんなのも思いつくのか」と感心しました。ボーナストラックとして執筆を断念した長篇の第一章を載せるのは、ファンには嬉しいサービスですが蛇足と思う人もいるかも。

No.12 5点 虫暮部
(2015/07/22 14:30登録)
 音楽関係の無粋なネタバレを幾つか。タッカー、リード、モリスン、ケイルはいずれもザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(米バンド)のメンバー名。「トランスミッション」で“僕”が思わず言う“「ルー・リード?」”も同じひと。
 ニール・ヤングの未発表曲を歌うシーンがあるが、レコード店の試聴室から漏れ聴こえる「ヘルプレス」も彼のナンバー。
 「GALLONS OF RUBBING ALCOHOL FLOW THROUGH THE STRIP」はニルヴァーナ(米バンド)のアルバム『イン・ユーテロ』の最後にボーナス・トラックとして収録されているナンバー。原典に三点リーダは付いていない。
 巻末の JASRAC 出願済み表示で、ジョイ・ディヴィジョン(英バンド)の「TWENTY FOUR HOURS」なんて作中に出て来たっけと思ったが、巻頭の4行の詩(というか歌詞)がそれである。
 「SHADOWPLAY」の表記の仕方について、“acting out your own death”でひとかたまりの意味であって、行換えの位置が適切ではないと思う。

No.11 4点 斎藤警部
(2015/05/29 12:51登録)
おぞましい隠し場所トリックの巻頭作『重ねて二つ』は、ちょいとグッと来た。
後は憶えていない。。 薄味過ぎたか。

その昔、本の表題に惹かれて初めて手にした法月作品だったと記憶しております。

No.10 4点 simo10
(2010/10/31 22:08登録)
8つの短編で構成されています。

①「重ねて二つ」:必然性を無視して、トリックのためのトリックを意図して描いた様ですね。
②「懐中電灯」:倒叙ものです。詰め将棋で追い詰める刑事、最後に明される犯人のわずかなミス、潔く自白する犯人等々、古畑任三郎っぽい作品でした。
③「黒のマリア」:密室殺人ものです。結局彼女は真相を知らなかったんですね。
④「トランスミッション」:ミステリではないですが「世にも奇妙な物語」っぽくて面白かったです。
⑤「シャドウプレイ」:意味が解りません。前作の探偵「羽佐間彰」と関連があるんでしょうか?
⑥「ロスマクドナルドは…(略)」:ロスマクドナルドを知らない私に取っては苦痛でした。最後のどんでんらしき展開も完全スルーです。
⑦「カットアウト」:回りくどい文体が煩わしかったのですが、読み終わってから良い作品だと気がつきました。やはり法月氏のワイダニットは良いですね。
⑧「(略)」:探偵法月綸太郎が登場。しかし意味が解りませんでした。

個人的に気に入ったのは②④⑦ですかね。全体的にはタイトル通り、確かに「崩壊」している印象でした。

No.9 5点 E-BANKER
(2010/03/26 20:43登録)
ほぼ法月綸太郎が登場しない短編集。(ラストの1編のみ登場しますが・・・)
①「重ねて二つ」:①~③は葛城警部が探偵役。実際、「あそこ」に「あれ」を隠しても、どこかでバレるでしょう?
②「懐中電灯」:倒叙形式。本作では1番面白かった。この齟齬に気付くとは、警察も捨てたものじゃありません。
③「黒のマリア」:これは何ですかね? フジTVの「世にも奇妙な物語」に出てきそうな感じ。
④「トランスミッション」:なかなかいい味わい。
⑤「カットアウト」:氏得意の芸術論がベース。「ふーん」という感想しかありません。
他の3つは特に書くこともありません。
まぁ、本作は「本格」ではなく、ちょっと切り口を変えた作品群ということでいいんじゃないでしょうか。

No.8 4点 いけお
(2008/11/22 13:09登録)
法月作品の短編とは思えない。

No.7 4点 おしょわ
(2008/05/05 22:54登録)
法月氏の短編集と思えない出来です。

No.6 4点 なの
(2008/04/23 19:40登録)
パズルじゃなくて作者が崩壊してます。
長編の第1章のみってのは、流石に如何なもんでしょ?

No.5 3点 spam-musubi
(2008/01/25 09:30登録)
スッキリしない…

No.4 3点 SD
(2004/06/05 05:47登録)
自分自身の迷いを記述されている事が見苦しいし、そんなものを読みたくてこの本を手にとったわけでもない。

No.3 8点 由良小三郎
(2002/03/20 20:11登録)
何が崩壊したのか、法月さんも難しいことになってきてしまったなという感想です。ミステリに素朴でなくならざるを得ない時代の作品といいましょうか、そんなに深刻にならずに気楽にやってほしいものです。作品をつくる作者と、それを冷静に批評している作者が分裂していまっているのでしょうか。密室物(アンチ密室物?)の「黒のマリア」など前半の作品はかなり「あり」ですし、「カットアウト」なんかもいいんですが、僕らのような健全で(何が)素朴なミステリファンのためにもっと書いてほしいものです。

No.2 4点 BJL
(2001/05/25 21:13登録)
ひさびさの法月綸太郎と期待が大きかった分、がっかり。

No.1 10点 すー
(2001/04/01 21:32登録)
昔、読売テレビで深夜放送された「黒のマリア」は最高でした。

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